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第十五話
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第十五話
師匠が島に来てから三日が経った。
「よ‥‥しゃい!」
ザッパ~ン! と、大量の水しぶきを上げながら、自分が餌になりそうな巨大魚が宙を舞う。
「メェ! 昼ご飯が釣れたぞ!」
先程は本当に餌にされそうだったのだので、少し複雑な気分です。
師匠は自分の何倍もある巨大魚を、見事な剣裁きで三枚に下ろしていきます。
実はこの方、元聖女である。
私が十五才になった年、言い寄って来た酒に酔った教会の者を殴り飛ばし、破門となった。
それまでの放浪癖や、聖女らしからぬ「粗野」な言動も重なった上での処罰だったらしい。
私はその時、他ならぬ師匠の手によって魔獣の巣に放り込まれていたので、死に物狂いで戻って来た時には本当に驚いた。
「メェちゃんの師匠って、色々な意味で凄いわね」
「はい」
そして今はなんと、冒険者となって世界中を飛び回っているとか。
本人曰く、「天職」らしい。
「師匠、もう少し小さく切ってください」
「これくらい、食べるぞ?」
その細い身体のどこに入るのか‥‥やはり、メローナか?
「お前さんもだろ。な~?」
「問題無い」
シロさんの言葉は師匠には分からないはずだが、妙に気が合っているようです。
「では、昼はここで‥ん?」
つい師匠との修行の癖で掛けていた、気配探知に何か引っかかりました。
師匠やシロさん達も気付いたようで、皆が空を見上げていると、見た事のある竜が現れた。
テラスに向かっていたようだが、焚火の煙に気付いた竜が私達から少し離れた場所に降り立った。
「メルリア・カルフォード! 今日は土産を‥‥」
竜の背から降りたジル様が、ゴーグルを外しながらこちらに歩いて来て‥‥固まった。
「な‥‥な‥‥」
「よ~ぉ、ジル坊」
「何故このバ⁉」
ジル様の叫びは、師匠の手によって止められた。
師匠は私にも追えぬ速さでジル様に近付き、そのままの勢いでジル様の鳩尾へと拳をめり込ませた。
ジル様はそのままドサリ、と地面に崩れ落ちると、動かなく‥‥いや、駄目でしょう⁉
「ジ、ジル様!」
私は慌ててジル様の元へ行くと、治癒の魔法をジル様に掛けた。
「暫く見ない間に、耄碌しなたぁ。ジル坊」
普通の人なら上半身と下半身がさようならしている程だが、へこんだだけで治まっているのは十分鍛えている証拠だと思う。とは言え、完全に白目をむいているので暫く目を覚まさないだろう。
「おやおや。だらしないですよ、ジルフリート様」
突然背後から聞こえてきた声に、思わずビクリと身体が震えた。気配を全く感じなかった!
「ミカか。相変わらず気配の読みにくい奴だな」
「ご無沙汰しております、リリー・フローラ様」
地面に膝を付きながら上を見上げると、師匠と初老の男性が笑顔で挨拶を交わしています。
怖い。二人とも笑顔なのに、怖いです!
「あ、あの! ジル様を中へ‥‥」
「そこら辺に転がしておけばいいだろうに」
「駄目です」
師匠はジル様の事を知っている様子。ならば、彼が大国の元国王だというのも知っているはず。いや、まぁ、殴った時点で駄目ではあるのですが‥‥師匠ですし。
「転がしておいて何かあれば、師匠が咎められてしまいます」
私がそう言うと、師匠は一瞬だけ固まり私の頭をグシャグシャと撫で始めた。
「し、師匠?」
「ったく‥‥分かった。ここの主はメェだ。好きにしな」
おぉ、見事にボサボサになりました。
師匠は私の頭から手を離すと、フイッとそっぽを向いてしまいました。
「おやおやおや‥‥狂乱の聖女と呼ばれた貴女でも、その様な顔をされるとは」
ミカと呼ばれた執事服の男性からは師匠の顔が見えたらしい。
だが次の瞬間、師匠の右拳が今度は彼の方へ!
流石にそれは! と思い止めようと立ち上がりかけ、バシッ! と言う音で私が固まった。
師匠の右拳は、真っ白な手袋をはめたミカさんの左手に包まれる様にして止められていました。
「この爺はほんっと、昔からムカつく!」
「ふふふ」
あの師匠が、あしらわれた⁉
目の前で起こった事が信じられずに呆然としていると、ミカさんは師匠の手を離したそのまま、私の方へと左手を差し出してきた。
そして、止めようと伸ばした私の右手を取り、立ち上がるように促してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。女性の手を取るのは、紳士の栄誉にございます」
紳士とは‥‥。
「私はミカリス・コールと申します。ジルフリート様の筆頭執事を務めさせていただいております」
「メルリアと申します」
頭の先からつま先まで、洗礼された立ち居振る舞いに思わず見惚れてしまった。
「メェ、騙されるな。こいつはリットランドの悪魔だ」
「え⁉」
「悪魔だなんて、人聞きの悪い。私は国王陛下をお支えするのが務めにございます」
「はいはい。メェ、私は先に戻るよ。そこに転がってる馬鹿は、ミカに運ばせればいい」
何が何だか‥‥。悪魔だなんて、目の前のミカさんとはまるで正反対の言葉のような気がします。
ジル様は体格も大きく、ミカさんの一回り以上に大きい。そんな彼に運ばせるなど、無理だ。
「やれやれ。この老体に鞭を打つとは。いつまでも手の焼ける坊ちゃんですねぇ」
ミカさんはぽつりとぼやくと、軽々とジル様を担ぎ上げてしまった。
「⁉」
「メルリア様」
「ひゃい!」
思わず変な声が出てしまった。
「お願い、できますか?」
「は、はい!」
なんだか、とんでもない集まりになりそうで怖いです!
師匠が島に来てから三日が経った。
「よ‥‥しゃい!」
ザッパ~ン! と、大量の水しぶきを上げながら、自分が餌になりそうな巨大魚が宙を舞う。
「メェ! 昼ご飯が釣れたぞ!」
先程は本当に餌にされそうだったのだので、少し複雑な気分です。
師匠は自分の何倍もある巨大魚を、見事な剣裁きで三枚に下ろしていきます。
実はこの方、元聖女である。
私が十五才になった年、言い寄って来た酒に酔った教会の者を殴り飛ばし、破門となった。
それまでの放浪癖や、聖女らしからぬ「粗野」な言動も重なった上での処罰だったらしい。
私はその時、他ならぬ師匠の手によって魔獣の巣に放り込まれていたので、死に物狂いで戻って来た時には本当に驚いた。
「メェちゃんの師匠って、色々な意味で凄いわね」
「はい」
そして今はなんと、冒険者となって世界中を飛び回っているとか。
本人曰く、「天職」らしい。
「師匠、もう少し小さく切ってください」
「これくらい、食べるぞ?」
その細い身体のどこに入るのか‥‥やはり、メローナか?
「お前さんもだろ。な~?」
「問題無い」
シロさんの言葉は師匠には分からないはずだが、妙に気が合っているようです。
「では、昼はここで‥ん?」
つい師匠との修行の癖で掛けていた、気配探知に何か引っかかりました。
師匠やシロさん達も気付いたようで、皆が空を見上げていると、見た事のある竜が現れた。
テラスに向かっていたようだが、焚火の煙に気付いた竜が私達から少し離れた場所に降り立った。
「メルリア・カルフォード! 今日は土産を‥‥」
竜の背から降りたジル様が、ゴーグルを外しながらこちらに歩いて来て‥‥固まった。
「な‥‥な‥‥」
「よ~ぉ、ジル坊」
「何故このバ⁉」
ジル様の叫びは、師匠の手によって止められた。
師匠は私にも追えぬ速さでジル様に近付き、そのままの勢いでジル様の鳩尾へと拳をめり込ませた。
ジル様はそのままドサリ、と地面に崩れ落ちると、動かなく‥‥いや、駄目でしょう⁉
「ジ、ジル様!」
私は慌ててジル様の元へ行くと、治癒の魔法をジル様に掛けた。
「暫く見ない間に、耄碌しなたぁ。ジル坊」
普通の人なら上半身と下半身がさようならしている程だが、へこんだだけで治まっているのは十分鍛えている証拠だと思う。とは言え、完全に白目をむいているので暫く目を覚まさないだろう。
「おやおや。だらしないですよ、ジルフリート様」
突然背後から聞こえてきた声に、思わずビクリと身体が震えた。気配を全く感じなかった!
「ミカか。相変わらず気配の読みにくい奴だな」
「ご無沙汰しております、リリー・フローラ様」
地面に膝を付きながら上を見上げると、師匠と初老の男性が笑顔で挨拶を交わしています。
怖い。二人とも笑顔なのに、怖いです!
「あ、あの! ジル様を中へ‥‥」
「そこら辺に転がしておけばいいだろうに」
「駄目です」
師匠はジル様の事を知っている様子。ならば、彼が大国の元国王だというのも知っているはず。いや、まぁ、殴った時点で駄目ではあるのですが‥‥師匠ですし。
「転がしておいて何かあれば、師匠が咎められてしまいます」
私がそう言うと、師匠は一瞬だけ固まり私の頭をグシャグシャと撫で始めた。
「し、師匠?」
「ったく‥‥分かった。ここの主はメェだ。好きにしな」
おぉ、見事にボサボサになりました。
師匠は私の頭から手を離すと、フイッとそっぽを向いてしまいました。
「おやおやおや‥‥狂乱の聖女と呼ばれた貴女でも、その様な顔をされるとは」
ミカと呼ばれた執事服の男性からは師匠の顔が見えたらしい。
だが次の瞬間、師匠の右拳が今度は彼の方へ!
流石にそれは! と思い止めようと立ち上がりかけ、バシッ! と言う音で私が固まった。
師匠の右拳は、真っ白な手袋をはめたミカさんの左手に包まれる様にして止められていました。
「この爺はほんっと、昔からムカつく!」
「ふふふ」
あの師匠が、あしらわれた⁉
目の前で起こった事が信じられずに呆然としていると、ミカさんは師匠の手を離したそのまま、私の方へと左手を差し出してきた。
そして、止めようと伸ばした私の右手を取り、立ち上がるように促してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。女性の手を取るのは、紳士の栄誉にございます」
紳士とは‥‥。
「私はミカリス・コールと申します。ジルフリート様の筆頭執事を務めさせていただいております」
「メルリアと申します」
頭の先からつま先まで、洗礼された立ち居振る舞いに思わず見惚れてしまった。
「メェ、騙されるな。こいつはリットランドの悪魔だ」
「え⁉」
「悪魔だなんて、人聞きの悪い。私は国王陛下をお支えするのが務めにございます」
「はいはい。メェ、私は先に戻るよ。そこに転がってる馬鹿は、ミカに運ばせればいい」
何が何だか‥‥。悪魔だなんて、目の前のミカさんとはまるで正反対の言葉のような気がします。
ジル様は体格も大きく、ミカさんの一回り以上に大きい。そんな彼に運ばせるなど、無理だ。
「やれやれ。この老体に鞭を打つとは。いつまでも手の焼ける坊ちゃんですねぇ」
ミカさんはぽつりとぼやくと、軽々とジル様を担ぎ上げてしまった。
「⁉」
「メルリア様」
「ひゃい!」
思わず変な声が出てしまった。
「お願い、できますか?」
「は、はい!」
なんだか、とんでもない集まりになりそうで怖いです!
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