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第十六話
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第十六話
「それで? 何しに来た?」
「師匠」
師匠は豪快な物言いをする人ではあるが、ここまで不機嫌さを表に出すのは珍しい。
「ん? あぁ、いいんだよ。こいつはそうだな‥‥さしずめ、メェの兄弟子ってとこか」
「兄、弟子‥‥師匠、私以外にも弟子がいたのですか」
「昔の話だ。しかも、こいつはメェと違って途中で逃げ出した根性無しさ」
大国の国王を根性無しって。私だって何度も逃げそうになりました。その度に先回りした師匠に見つかって、連れ戻されただけですが‥‥。
「まさか‥‥メルリア様はフローラ様の修行を終えられたのですか⁉」
ジル様を床に降ろしかけていたミカさんが、慌ててこちらに詰め寄って来た。
いや、今「ゴン!」って音がしましたが、大丈夫でしょうか?
「メェ。あれ、持ってるか?」
「はい。勿論です」
私は服の襟ぐりから首に下げた細い鎖を引っ張り出し、師匠に見せた。
その鎖には小さな宝石の埋め込まれた、細い円筒状の飾りがついている。
鎖も飾りも、修行を終えた証だと師匠がくださった物だ。
「‥‥なるほど」
一瞬かなり驚いた顔をしたミカさんだが、次の瞬間には青くなり、そして悲哀に満ちた瞳で私を見た。
この反応を見るに、修行の内容はある程度知っているようです。
兄弟子‥‥なんとも不思議な感じです。
胸に広がるこれは何でしょうか。
師匠を師匠と呼ぶのは(ジル様は「バ」と言いかけていましたが)私だけだと思っていた。
この気持ちは‥‥仲間意識!
あの苦行を! 私以外にも! 味わった人がいる!
思わずジル様の方を見ると、ピヨさんがジル様の後頭部を突いていました。
「この! また来たわね!」
「本当に来たんだな」
「「わ~い! おじちゃんだ~」」
見ようによっては、ほのぼのとしていそうですね。
「そ・れ・で?」
不機嫌さを隠そうともしない師匠に、ミカさんは恭しくお辞儀をすると、懐から小さな袋を取り出した。
そして、さらにその袋から次から次へと物を取り出して並べていった。
中身は見えないが大きな箱、服に本、花束やお菓子の箱等々‥‥凄い量です。
「先日は我が主が大変お世話になりました。本日はそのお礼と、改めてご挨拶に参った所存にございます」
「お礼と言われましても、お茶を出しただけで‥‥」
「いいえ。メルリア様のお茶が無ければ、我が主は寒さに震えていたかもしれません」
スイッと近寄られ、顔が近いです! 笑顔なのに、圧が凄い!
「あ、あの」
「竜も羽を休める場所がなく、海を越える力が残っていなかったかもしれません」
「そ、それは、私は何も」
ジル様が乗って来た竜は、テラスでのんびりしていただけです。
「受け取っていただかなければ、この老い先短い爺は‥‥爺は‥‥」
ミカさんがハンカチを取り出し、涙を拭い‥‥。
「わ、わかりました。その、受け取らせていただきます」
「そうですか、そうですか」
ミカさんがやっと離れてくれましたが、「ぶふっ」と師匠が笑い出しました。
「メェ、ちょろすぎだろ! まぁ、貰えるもんは貰っておきな」
師匠は洋服を摘まみ上げると、ふふっと笑った。
「上質だが、過美じゃない。選んだのは‥‥まぁ、誰でもいいか。そこのバカなら、布と石でごってごてに飾ったお貴族様のドレスを選びそうだからな」
師匠が摘まみ上げている服は、軽装ではあるがドレスではない。平民の町娘と言うより、商家の娘と言った感じだ。
ありがたいとは思うが、私はどちらかと言うと師匠に頂いた服の方が動きやすくて好きです。極小の布と紐だけのアレ以外は、ですが。
「う‥‥ん?」
ジル様が目を覚ましたようです。
「頭がチクチクする‥‥」
おっと、それはピヨさんですね! 急いでジル様の頭に治癒魔法を掛けた。
「あ、あぁ。ありがとう」
「元気そうだなぁ、ジル坊」
「うっ‥‥ご無沙汰しております、師匠」
ジル様はビクッと身体を震わせると、恐る恐る師匠の方を向いた。
「本当にねぇ」
おぉ、師匠の後ろに炎が見えるようだ。
ジル様は大きな身体を縮こませ、まるで怒られる前の子供のように小刻みに震えている。
師匠がここまで怒るのを見たのは、初めてだ。
段々ジル様が可哀想になってきたので、急いで師匠の好きなお茶を入れ、皆に出した。
お茶を一口飲んだ師匠の炎が、心なしか小さくなったような気がします。
「‥‥まぁ、いい。これ以上元弟子に文句を言っても、楽しくない」
予想以上の効果があったようです。よかった‥‥。
「メェ、あの菓子まだあったよな? この茶に会うと思うんだけどなぁ」
あの菓子とは、昨日作った「くっきー」という物の事だろう。甘い物が食べたいと言う師匠に、トウドウさんの本に載っていた物を作った。師匠はかなり気に入ったようでしたが‥。
「師匠、甘い物の食べ過ぎは良くありませんよ」
「今日はまだ食べてないから、大丈夫だろ」
「夜中につまみ食いしてましたよね? それに、もうすぐお昼ご飯ですよ」
気に入りすぎて、少し心配です。心配なのですが、ブーブー言いながらも少し嬉しそうな師匠の顔を見てしまうと、どうにも「絶対に駄目」とは言えなくなってしまう。
「‥‥一枚だけなら」
「えぇ~! せめて、二枚!」
「‥‥しょうがないですね」
「やった!」
うぅ、我ながら弱い。
「「凄い‥‥」」
声のした方を見ると、ジル様とミカさんが驚いた顔で私を見ていました。
「あの師匠を‥‥」
「いやはや、長生きをすると珍しいものが見れますねぇ」
ジル様とミカさんから、何かキラキラとした視線を感じる。
最近の師匠はなんと言うか、餌付けされた野良猫(いや、魔獣か)のように丸くなったから、驚いたのかもしれない。
それはそうと、ピヨさん。そろそろジル様の頭を突くのを止めてあげてください。
「それで? 何しに来た?」
「師匠」
師匠は豪快な物言いをする人ではあるが、ここまで不機嫌さを表に出すのは珍しい。
「ん? あぁ、いいんだよ。こいつはそうだな‥‥さしずめ、メェの兄弟子ってとこか」
「兄、弟子‥‥師匠、私以外にも弟子がいたのですか」
「昔の話だ。しかも、こいつはメェと違って途中で逃げ出した根性無しさ」
大国の国王を根性無しって。私だって何度も逃げそうになりました。その度に先回りした師匠に見つかって、連れ戻されただけですが‥‥。
「まさか‥‥メルリア様はフローラ様の修行を終えられたのですか⁉」
ジル様を床に降ろしかけていたミカさんが、慌ててこちらに詰め寄って来た。
いや、今「ゴン!」って音がしましたが、大丈夫でしょうか?
「メェ。あれ、持ってるか?」
「はい。勿論です」
私は服の襟ぐりから首に下げた細い鎖を引っ張り出し、師匠に見せた。
その鎖には小さな宝石の埋め込まれた、細い円筒状の飾りがついている。
鎖も飾りも、修行を終えた証だと師匠がくださった物だ。
「‥‥なるほど」
一瞬かなり驚いた顔をしたミカさんだが、次の瞬間には青くなり、そして悲哀に満ちた瞳で私を見た。
この反応を見るに、修行の内容はある程度知っているようです。
兄弟子‥‥なんとも不思議な感じです。
胸に広がるこれは何でしょうか。
師匠を師匠と呼ぶのは(ジル様は「バ」と言いかけていましたが)私だけだと思っていた。
この気持ちは‥‥仲間意識!
あの苦行を! 私以外にも! 味わった人がいる!
思わずジル様の方を見ると、ピヨさんがジル様の後頭部を突いていました。
「この! また来たわね!」
「本当に来たんだな」
「「わ~い! おじちゃんだ~」」
見ようによっては、ほのぼのとしていそうですね。
「そ・れ・で?」
不機嫌さを隠そうともしない師匠に、ミカさんは恭しくお辞儀をすると、懐から小さな袋を取り出した。
そして、さらにその袋から次から次へと物を取り出して並べていった。
中身は見えないが大きな箱、服に本、花束やお菓子の箱等々‥‥凄い量です。
「先日は我が主が大変お世話になりました。本日はそのお礼と、改めてご挨拶に参った所存にございます」
「お礼と言われましても、お茶を出しただけで‥‥」
「いいえ。メルリア様のお茶が無ければ、我が主は寒さに震えていたかもしれません」
スイッと近寄られ、顔が近いです! 笑顔なのに、圧が凄い!
「あ、あの」
「竜も羽を休める場所がなく、海を越える力が残っていなかったかもしれません」
「そ、それは、私は何も」
ジル様が乗って来た竜は、テラスでのんびりしていただけです。
「受け取っていただかなければ、この老い先短い爺は‥‥爺は‥‥」
ミカさんがハンカチを取り出し、涙を拭い‥‥。
「わ、わかりました。その、受け取らせていただきます」
「そうですか、そうですか」
ミカさんがやっと離れてくれましたが、「ぶふっ」と師匠が笑い出しました。
「メェ、ちょろすぎだろ! まぁ、貰えるもんは貰っておきな」
師匠は洋服を摘まみ上げると、ふふっと笑った。
「上質だが、過美じゃない。選んだのは‥‥まぁ、誰でもいいか。そこのバカなら、布と石でごってごてに飾ったお貴族様のドレスを選びそうだからな」
師匠が摘まみ上げている服は、軽装ではあるがドレスではない。平民の町娘と言うより、商家の娘と言った感じだ。
ありがたいとは思うが、私はどちらかと言うと師匠に頂いた服の方が動きやすくて好きです。極小の布と紐だけのアレ以外は、ですが。
「う‥‥ん?」
ジル様が目を覚ましたようです。
「頭がチクチクする‥‥」
おっと、それはピヨさんですね! 急いでジル様の頭に治癒魔法を掛けた。
「あ、あぁ。ありがとう」
「元気そうだなぁ、ジル坊」
「うっ‥‥ご無沙汰しております、師匠」
ジル様はビクッと身体を震わせると、恐る恐る師匠の方を向いた。
「本当にねぇ」
おぉ、師匠の後ろに炎が見えるようだ。
ジル様は大きな身体を縮こませ、まるで怒られる前の子供のように小刻みに震えている。
師匠がここまで怒るのを見たのは、初めてだ。
段々ジル様が可哀想になってきたので、急いで師匠の好きなお茶を入れ、皆に出した。
お茶を一口飲んだ師匠の炎が、心なしか小さくなったような気がします。
「‥‥まぁ、いい。これ以上元弟子に文句を言っても、楽しくない」
予想以上の効果があったようです。よかった‥‥。
「メェ、あの菓子まだあったよな? この茶に会うと思うんだけどなぁ」
あの菓子とは、昨日作った「くっきー」という物の事だろう。甘い物が食べたいと言う師匠に、トウドウさんの本に載っていた物を作った。師匠はかなり気に入ったようでしたが‥。
「師匠、甘い物の食べ過ぎは良くありませんよ」
「今日はまだ食べてないから、大丈夫だろ」
「夜中につまみ食いしてましたよね? それに、もうすぐお昼ご飯ですよ」
気に入りすぎて、少し心配です。心配なのですが、ブーブー言いながらも少し嬉しそうな師匠の顔を見てしまうと、どうにも「絶対に駄目」とは言えなくなってしまう。
「‥‥一枚だけなら」
「えぇ~! せめて、二枚!」
「‥‥しょうがないですね」
「やった!」
うぅ、我ながら弱い。
「「凄い‥‥」」
声のした方を見ると、ジル様とミカさんが驚いた顔で私を見ていました。
「あの師匠を‥‥」
「いやはや、長生きをすると珍しいものが見れますねぇ」
ジル様とミカさんから、何かキラキラとした視線を感じる。
最近の師匠はなんと言うか、餌付けされた野良猫(いや、魔獣か)のように丸くなったから、驚いたのかもしれない。
それはそうと、ピヨさん。そろそろジル様の頭を突くのを止めてあげてください。
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