島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第二十一話

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第二十一話


「ク―たんってのは、あ~、この世界樹の精霊だ」
「なんと」

シロさん曰く、世界樹には精霊が宿っているとの事。しかも、全ての精霊の長、つまりは精霊の王と言う事になるらしい。

「そのような方の下に勝手に住み着いてしまいました‥‥」
「いや、あいつはそんな事は気にしないと‥‥思う」
「そうなのですか? 器の大きい方なのですね」

ピヨさんと双子も知っているようですが、皆さん何とも言えない顔をしています。

「まぁ、ある意味、そうとも言えるか?」

珍しく歯切れの悪い言い方です。
トウドウさんの本に書いてあった鍋を倉庫から持ち出し、台所へとやって来た。
先ずは、レイルーンの泉の水を鍋に入れる。

「シロさんは世界樹の精霊にお会いした事があるのですね」
「ああ」
「その‥‥トウドウさんと‥‥」

言葉を交わせるようになってから、気にはなっていました。ですが、何となく、聞いてはいけないような気がして‥‥。

「ん? あぁ、言ってなかったか。アキとは友人だった」

あっさりと帰って来た言葉に、少し驚いた。
クリュの葉を鍋に加え、火に掛ける。

「アキと出会ったのは、この島の森だった。気持ちよくうたた寝をしていたら、突然降って来た」
「降っ?」
「樹の上から「にゃんこ~‼︎;」と叫びながらな」

ここに来た時に見た伝言からも感じていましたが、トウドウさんは随分と行動的な性格だったようです。

「ふふ」
「それからは、なんとなく一緒に過ごすようになった。あいつ、料理が上手かったから。いや、別に食べ物に釣られたわけではないぞ? 異世界の食べ物というのに興味があっただけだ」

それは結局「釣られた」と言う事では? と思いましたが、口には出しませんでした。
鍋の底からぷくぷくと小さな気泡が浮かび上がってくる。
匙で鍋の中を一混ぜすると、クリュの葉が少しずつ溶けていった。

「アキの最後を看取ったのは、俺とフレクルール‥世界樹の精霊であり、まぁ、ク―たんだな」

私は何も言えず、再生の実の皮を手でむいていく。こんな時、掛ける言葉を持たぬ自分の何ともどかしい事か。
そんな私の気持ちを察してか、シロさんが私の肩の上へと飛び乗った。不思議と重さは感じないが、その柔らかさと温かさが心地良い。

「こら、暗い顔をするな」

私の表情は相変わらず動きませんが、何故かシロさん達には分かってしまうようです。
口を開きかけた時、右頬に柔らかい肉球が!

「ふむまふぇん」

シロさんがプニプニと頬を押すから、言葉が変な風になってしまいました。

「亡くす悲しみは、思い出の花で埋めればいい。どうやったって、胸にぽっかりと穴は開く。近ければ近い程、穴は大きい。だからその穴に、思い出という花を一つずつ入れていく。そこに少しの涙があれば、穴はやがて花畑になる‥‥ってのが、アキの言葉だ」
「素敵な方ですね」
「そこだけ、はな。あいつは‥‥脱いだ服はそこらに放っておくし、普段運動の「う」の字もしないくせに突然木登りを始めて落ちるし、釣りをすれば自分が餌になりかける!」

途中までは良い話だったのに。ですが、きっとその一つ一つが「花」なのでしょう。
私もいつか、シロさん達の心の中で、小さな花畑になれるでしょうか。
シロさんの思い出話(愚痴?)は、私が再生の実をすりおろすまで続いた。

「‥‥何の話だったか」
「ク―たんです」
「あぁ、そうだった。フレクルールは上にいる」

すりおろした再生の実を布で包み、ギュっと絞ると薄い紅色の汁が滲み出てきた。
そのしぼり汁を鍋に加えて一煮たちさせ、火からおろす。

「上、ですか」
「樹の精霊は本来樹の中にいるものだが‥‥まぁ、ちょっと変わっているというか‥‥とにかく、会えば分かる」

汁が冷めたら、小さな針が付いた筒に移し、蓋を閉めて完成。本には「刺して押す」とだけ書かれていた。少しだけ筒の蓋を押してみると、針の先から薬が一滴落ちた。
ふむ、なんとなく「刺して押す」の意味が分かった気がします。

「分かりました。では、行きましょう」

シロさんと外へとやって来ました。上を見上げると、一番近い枝はまあまあ遠い。
上に登る階段や梯子等は無いらしく、トウドウさんはシロさんに乗せてもらって上がったそうです。

「メェは」
「問題ありません」

床板を割らぬように足に力を入れ、蹴る!

「は⁉︎」

驚いた様なシロさんの声が遠くなり、問題無く最初の枝へと着地した。
一呼吸おいて、私を追いかけてきたシロさんも枝へとやって来た。

「まったく‥‥どんな鍛え方をしたら‥‥」

シロさんが何やらブツブツと言っていますが、先は長いのです。
枝から枝へと飛び移り、どんどんと地面が遠ざかっていく。

「上の方へと来ると、葉の変色が増えますね。枝も少し脆くなっています」

足元の枝は太く、私が乗ったくらいではしなりもしませんが、着地した瞬間に表皮が少し崩れてしまいました。
いいえ、これは私の修行が足りないのかもしれません。師匠だったら、着地の音さえしないでしょう。この島に来た後も鍛錬は怠っていないつもりでしたが‥‥っと、そんな事よりも今は薬ですね。

「ん?」

頂上付近にまで来ると、一本の枝の上に家の様な物が見えてきた。しかも、その家の開いた窓辺に、一人の男性の姿が見えた。
男性は、師匠が夜着として着ていた「ユカタ」に似た衣類をかなり着崩して着ており、右手に持った棒の先に口をつけると、ふぅと白い煙を口から吐いた。
家の建っている枝に到着すると、男性と目が合った。年齢は、五十代から六十代といったところだろうか。

「あぁ?」
「久しいな、ク―たん」
「‥‥俺をその名で呼ぶんじゃねぇ、白玉団子」

おぉぅ。
低く響く、男性の声。そして、鋭い眼光。
そう言えば去年、裏通りで腹部を刺されたと言う男性に治癒魔法を掛けた事があった。後日、多額の寄付金と抱えきれない程に大きな花束が教会へと届けられたが‥‥。

「おい」
「あ、はい」
「お前、何者だ?」

ふむ、何者か、ですか。
聖女ではなくなりましたし、それと同時に貴族からも籍は抜かれています。

「‥‥無職の一平民、です?」

言葉にすると駄目な人のようだが、事実である。

「あ?」
「‥‥お薬を届けにまいりました」

もしかしたら、自分は駄目な大人なのでは? とほんの少し血の気が引きましたが、肩書など、今更です。

「おい、白玉」

おぅ、流された。

「俺の名はシロだ」
「シロ? シロも白玉も大して変わらんだろうが。こいつ、何だ?」
「元聖女で、アキの後を継いだメェだ」
「メルリアと申します」

挨拶をすると、じっと見つめられてしまいました。
緑色の長い髪を一つで束ね、少し下がった目尻は濃い茶色だ。

「元聖女? こいつ‥‥人か?」

失礼な。

「保有魔力がそこらの精霊くらいある上に、ここまでぶっ飛んで来たぞ」
「まぁ、一応な」

シロさんも、酷いです。
魔力量が多いのも、少しだけ体力が多いのも、師匠の修行のおかげです。

「頑張りました」
「頑張ってどうにかなる程度じゃねぇだろ」
「では、物凄く頑張りました」
「‥‥」

今、「こいつ馬鹿じゃね?」と声が聞こえた気がする。と言うか、顔がそう言っている。

「何でもいい。さっさと帰れ」
「薬を」
「いらん」

サラッと拒否されてしまいました。さてはて、どうしたものか。
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