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第二十二話
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第二十二話
トウドウさんの本には、薬を拒んだと言う事は書いていなかった。
「世界の崩壊が掛かっている以上、帰れと言われて、はいそうですかと言うわけにはいきません。理由をお聞かせ願います」
「世界の崩壊、ね」
ク―たんさんは鼻で笑った後、右の口角だけを上げ、歪んだ笑顔を向けた。
「そんなもんは、知ったこっちゃない」
「はい?」
「芽吹いた草が花を咲かせ散る様に、世界とて終わりがある。それが自然の摂理であり、理だ」
彼の言う事も、一理ある。だが、それに頷くわけにはいかない。
「貴方の仰る事も分かります。ですが、その理に抗う術がある事も、また事実です」
「世界が崩壊する頃には、お前は生きて」
「あ、それはもういいです」
何度も聞いたその質問を、思わず止めてしまいました。
「世界の崩壊が百年後だろうと千年後だろうと、関係ありません。それを止める事が今できるのならば、私は私の出来る事をするだけです」
「‥‥‥世界の誰も、お前に感謝なんぞしない」
「必要ありません」
ク―たんさんの目をじっと見つめると、彼は深いため息を一つ吐き、プイっと顔を逸らした。
「諦めろ。メェは、頑固さならアキより硬いぞ」
「うるさい、毛玉」
「だいたい、世界の理どうのと大層な事言っているが、ただ注射が嫌いなだけだろう」
「なっ⁉ おれは別に、注射が怖いなんて言ってない!」
「俺も言っていない。嫌いなだけだと言ったんだ」
「っ‥‥だいたい、お前は昔から」
「お前こそ」
ふむ‥‥ん?
何やらシロさんとク―たんさんの喧嘩が始まってしまいました。
「いい年した爺が、注射が怖いとか‥‥情けない」
「はぁ~⁉」
「あの!」
話が進まないので、とりあえず止めに入りました。ピタリと動きを止める二人。
「薬は‥‥」
「はぁ‥‥分かった。受ければ良いんだろう!」
ク―たんさんは諦めた様にため息を吐くと、自身の左袖をまくり上げた。
少しの間の後、腕を見ながら動かない私に、ク―たんさんの眉間に皺が寄せられた。
「さっさとやれ」
「申し訳ありません。注射というのは初めてなので、どこに‥‥」
「そんなもん、どこでもいいだろう。人の身体とは作りが違うのだから、適当に」
「いえ、どこが一番痛くないかと考えていました」
関節部分は勿論だが、手首から先も痛いだろう。やはり、肩に近い方が良いか?
「では、まいります」
肩の少し下に決めてプスッと刺すと、ク―たんさんは少しだけ身体を震わせた。
ゆっくりと筒の蓋を押して、中の薬を全て出す。そして、痛くないようにと願いながら、そっと注射を抜いた。
「ふぅ‥‥終わりました。ん? やはり、痛かったですか?」
自分も緊張していたのか、小さく息を抜いてク―たんさんの顔を見上げた。すると、彼の肩は小さく震え、目尻には少し涙が‥‥。泣く程痛かったのか。
「も、申し訳ございません」
少し声が上ずってしまった。慌てて注射を指した場所に治癒魔法を掛けた。
「いや‥‥そんなに痛くは、なかった」
そう言いながら、袖を元に戻すク―たんさん。
今度は注射をする前に、痛み止めの薬草を塗れば‥‥まったく、今更思い出すなど、私はどうにも抜けている。この島に来てから、気を張る事も殆どなくなり、緩んでいる自覚はあった。このままでは、いけない!
「次は、優しくします」
「それは何か言い方が違う気が‥‥おい、白玉」
ク―たんさんが左手でシロさんの首根っこを掴み上げ、私に背を向けてしまわれました。
後遺症の様なものは無さそうで、安心です。
「おい、あれ素なのか? 真顔だったが」
「そうだ」
「一瞬、乙女になりかけ‥‥いや、何でもない」
「瘴気に飲まれかけた俺を、一発で浄化した猛者だからな」
「おいおい、そりゃとんでもねぇな。それに、表情が微塵も動かんし」
「慣れると分かるようになる。そして、分かると‥‥いいぞ。こう‥‥キュンと」
「ほぉ‥‥」
二人がコソコソと話をしている間、メルリアは痛み止めの薬草作りに思いをはせていた。
使える葉の在庫、この島で見つけられる薬草の種類等、流れていく思考のままにしていると、突然ビクリと身体を震わせた。そして、ある一方を見つめた後、立ち上がると頭を下げた。
「申し訳ございませんが、本日はこれで失礼させていただきます」
「「ん?」」
内緒話に花を咲かせていた二人が、何事かと振り向いた瞬間、メルリアは綺麗にお辞儀するとそのまま飛び降りた。
「「は‥はぁ⁉」」
慌てた様な声が上から聞こえましたが、問題ありません。
風を切る轟音が耳に響く中、風魔法を使い落下速度を緩めていく。そして、ふわりとテラスに着地成功した。
「あら、メェちゃん?」
少し乱れた髪を手で直していると、ピヨさんが私の肩にとまった。
「お薬、もう終わったの?」
「はい。次は痛くしないとお約束してきました」
「は? まぁ、いいわ。ん? あの毛玉は? 一緒に行ったわよね?」
「あ‥‥来客に慌てて、置いて来てしまいました」
「あら、メェちゃんは悪く無いわよ! おいて行かれる毛玉が悪いの。って、来客?」
「はい」
空を見つめても、まだ小さな姿しか見えませんが。
「またジルって奴?」
「いいえ、気配が違います」
少し待つと、やがて大きく広げられた翼の形が見えてきた。
「あれは‥‥ガルーセア王国の‥大鷲」
翼を持つ騎獣の中で一番の大型。翼を広げた大きさはリットランド王国の竜よりも大きく、鋭い爪は岩をも砕く。空中戦だけであれば、ガルーセアが世界の覇者となっていたと言われている程だ。
「ふん! 私の方が、美しいわ」
私の肩の上で、白くふわふわな胸を張るピヨさん。
「ふふ、そうですね」
今はこの大きさですが、ピヨさんの本来の姿はかなり巨大だ。そして、大きくなったピヨさんの胸は、どこまでも埋まって包まれる‥‥なんとも心地よい。
「メェ!」
「あ、シロさん。置いて来てしまい、申し訳ありません」
上からシロさんが下りてきました。
「それはいいが、飛び降りるのは止めてくれ‥心臓に悪い」
「そう、ですか? 急いでいたもので、つい」
「つい、で世界樹から飛び降りるな‥‥」
一番早い方法だったのですが、今度からは枝を使った方が良さそうです。
トウドウさんの本には、薬を拒んだと言う事は書いていなかった。
「世界の崩壊が掛かっている以上、帰れと言われて、はいそうですかと言うわけにはいきません。理由をお聞かせ願います」
「世界の崩壊、ね」
ク―たんさんは鼻で笑った後、右の口角だけを上げ、歪んだ笑顔を向けた。
「そんなもんは、知ったこっちゃない」
「はい?」
「芽吹いた草が花を咲かせ散る様に、世界とて終わりがある。それが自然の摂理であり、理だ」
彼の言う事も、一理ある。だが、それに頷くわけにはいかない。
「貴方の仰る事も分かります。ですが、その理に抗う術がある事も、また事実です」
「世界が崩壊する頃には、お前は生きて」
「あ、それはもういいです」
何度も聞いたその質問を、思わず止めてしまいました。
「世界の崩壊が百年後だろうと千年後だろうと、関係ありません。それを止める事が今できるのならば、私は私の出来る事をするだけです」
「‥‥‥世界の誰も、お前に感謝なんぞしない」
「必要ありません」
ク―たんさんの目をじっと見つめると、彼は深いため息を一つ吐き、プイっと顔を逸らした。
「諦めろ。メェは、頑固さならアキより硬いぞ」
「うるさい、毛玉」
「だいたい、世界の理どうのと大層な事言っているが、ただ注射が嫌いなだけだろう」
「なっ⁉ おれは別に、注射が怖いなんて言ってない!」
「俺も言っていない。嫌いなだけだと言ったんだ」
「っ‥‥だいたい、お前は昔から」
「お前こそ」
ふむ‥‥ん?
何やらシロさんとク―たんさんの喧嘩が始まってしまいました。
「いい年した爺が、注射が怖いとか‥‥情けない」
「はぁ~⁉」
「あの!」
話が進まないので、とりあえず止めに入りました。ピタリと動きを止める二人。
「薬は‥‥」
「はぁ‥‥分かった。受ければ良いんだろう!」
ク―たんさんは諦めた様にため息を吐くと、自身の左袖をまくり上げた。
少しの間の後、腕を見ながら動かない私に、ク―たんさんの眉間に皺が寄せられた。
「さっさとやれ」
「申し訳ありません。注射というのは初めてなので、どこに‥‥」
「そんなもん、どこでもいいだろう。人の身体とは作りが違うのだから、適当に」
「いえ、どこが一番痛くないかと考えていました」
関節部分は勿論だが、手首から先も痛いだろう。やはり、肩に近い方が良いか?
「では、まいります」
肩の少し下に決めてプスッと刺すと、ク―たんさんは少しだけ身体を震わせた。
ゆっくりと筒の蓋を押して、中の薬を全て出す。そして、痛くないようにと願いながら、そっと注射を抜いた。
「ふぅ‥‥終わりました。ん? やはり、痛かったですか?」
自分も緊張していたのか、小さく息を抜いてク―たんさんの顔を見上げた。すると、彼の肩は小さく震え、目尻には少し涙が‥‥。泣く程痛かったのか。
「も、申し訳ございません」
少し声が上ずってしまった。慌てて注射を指した場所に治癒魔法を掛けた。
「いや‥‥そんなに痛くは、なかった」
そう言いながら、袖を元に戻すク―たんさん。
今度は注射をする前に、痛み止めの薬草を塗れば‥‥まったく、今更思い出すなど、私はどうにも抜けている。この島に来てから、気を張る事も殆どなくなり、緩んでいる自覚はあった。このままでは、いけない!
「次は、優しくします」
「それは何か言い方が違う気が‥‥おい、白玉」
ク―たんさんが左手でシロさんの首根っこを掴み上げ、私に背を向けてしまわれました。
後遺症の様なものは無さそうで、安心です。
「おい、あれ素なのか? 真顔だったが」
「そうだ」
「一瞬、乙女になりかけ‥‥いや、何でもない」
「瘴気に飲まれかけた俺を、一発で浄化した猛者だからな」
「おいおい、そりゃとんでもねぇな。それに、表情が微塵も動かんし」
「慣れると分かるようになる。そして、分かると‥‥いいぞ。こう‥‥キュンと」
「ほぉ‥‥」
二人がコソコソと話をしている間、メルリアは痛み止めの薬草作りに思いをはせていた。
使える葉の在庫、この島で見つけられる薬草の種類等、流れていく思考のままにしていると、突然ビクリと身体を震わせた。そして、ある一方を見つめた後、立ち上がると頭を下げた。
「申し訳ございませんが、本日はこれで失礼させていただきます」
「「ん?」」
内緒話に花を咲かせていた二人が、何事かと振り向いた瞬間、メルリアは綺麗にお辞儀するとそのまま飛び降りた。
「「は‥はぁ⁉」」
慌てた様な声が上から聞こえましたが、問題ありません。
風を切る轟音が耳に響く中、風魔法を使い落下速度を緩めていく。そして、ふわりとテラスに着地成功した。
「あら、メェちゃん?」
少し乱れた髪を手で直していると、ピヨさんが私の肩にとまった。
「お薬、もう終わったの?」
「はい。次は痛くしないとお約束してきました」
「は? まぁ、いいわ。ん? あの毛玉は? 一緒に行ったわよね?」
「あ‥‥来客に慌てて、置いて来てしまいました」
「あら、メェちゃんは悪く無いわよ! おいて行かれる毛玉が悪いの。って、来客?」
「はい」
空を見つめても、まだ小さな姿しか見えませんが。
「またジルって奴?」
「いいえ、気配が違います」
少し待つと、やがて大きく広げられた翼の形が見えてきた。
「あれは‥‥ガルーセア王国の‥大鷲」
翼を持つ騎獣の中で一番の大型。翼を広げた大きさはリットランド王国の竜よりも大きく、鋭い爪は岩をも砕く。空中戦だけであれば、ガルーセアが世界の覇者となっていたと言われている程だ。
「ふん! 私の方が、美しいわ」
私の肩の上で、白くふわふわな胸を張るピヨさん。
「ふふ、そうですね」
今はこの大きさですが、ピヨさんの本来の姿はかなり巨大だ。そして、大きくなったピヨさんの胸は、どこまでも埋まって包まれる‥‥なんとも心地よい。
「メェ!」
「あ、シロさん。置いて来てしまい、申し訳ありません」
上からシロさんが下りてきました。
「それはいいが、飛び降りるのは止めてくれ‥心臓に悪い」
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