島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第二十四話

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第二十四話


「「ん?」」
「ピヨ(何それ!)」
「ニャフ(ブフッ)」

ピヨさんは歓喜。シロさんは噴き出した声が聞こえてきました。
これは、れっきとした、師匠直伝の技なのです!
若干の羞恥心を捨て去り、両腕をゆっくりとゆらし始める。
ゆらゆらと上下に揺らすと、黒い獅子の赤い瞳が、少しだけ動いた。
ヒュッと一瞬早く動けば、耳がピクリと動く。
ファサファサと両手を動かし、強弱をつける。すると、黒い獅子の尻がゆっくりと上がり、尾がゆらゆらと揺れ始めた。これは、ネコ科の動物が狩りをする時に見せる仕草である。
そして、勢いよく両腕を開いたと同時に、黒い獅子が飛び掛かって来た。

「「危ない!」」

クアルツさんと執事さんの声が聞こえてきたが、安心してほしい。
迫る鋭い爪。次の瞬間、獲物を抱え込み、ゴロゴロと床を転がる黒い獅子。

「あぁ、何と言う事を‥‥」
「いや、急いでメルリア様をお助けせねば!」

膝から崩れ落ちる執事さんと、突撃でもするつもりなのか、足に力を込めるクアルツさん。

「あれは、私ではありません」
「「メルリア様⁉」」

床から立ち上がり、少し乱れた裾を直す。

「で、では‥あれは‥‥」

執事さんが黒い獅子の方を向くと、黒い獅子は床に転がりながら抱え込んだ物を後ろ足で蹴っていた。楽しそうに。時折ガブリと噛み付きながら。

「‥‥ん? 魚?」
「はい。魔獣捕獲用の網に使われる糸で織った布で作った、身代わり抱き枕、マグロくんです」

黒い獅子が一心不乱に蹴りを入れているのは、大きな魚の形をした綿入り抱き枕。

「「マグロ‥‥くん」」

シロさん達の様に魔法で拘束する事もできますが、今回の目的は発散させる事。

「その‥‥作ったのが十年程前なので、見栄えはあまり良くありませんが‥‥」

師匠から舞を伝授された時に作った物だ。大きすぎる目に、不揃いの鱗模様。師匠からは「なんか‥‥呪われそう」というお言葉をいただきました。
要は、爪や牙に強く、破れなければ良いのです。見た目は重視していません!
つい一瞬前までゴロゴロかみかみケリケリしていた黒い獅子が、スンとした顔でこちらを振り向いた。どうやら飽きたようです。流石、猫。

「浄化」

そう唱えると、黒い獅子のモヤが少し消え、毛先が元の色である金色に変わった。だが、まだまだ満足していない様子。

「ならば、これで」

城の柱程ありそうな太さの筒状爪とぎ、転がすとチリチリと音が鳴る玉、等々。広い部屋の半分が埋まる程の猫用(通常の猫用よりも五倍は大きい)玩具をポーチから取り出して置いた。
そして、待つこと一時間。遊び疲れ、お腹丸出しで床に寝転ぶ獅子に『浄化』をかけると、黒い獅子が完全に金の獅子へと戻った。

「う‥‥ん‥‥ん?」

獅子はむくりと起き上がり、キョトンとした顔で周りを見渡すと、自分の身体のあちこちを確認。フルフルと小さく震え始めた。

「あの、どこか具合でも‥‥」

なるべく観察していましたが、まだ完全に狂化する前だった為、暴れたりして出来た様な怪我等は見当たらなかった。出した玩具も、怪我をするような物は無かったはず。
それとも、見落とした怪我の要因があったのだろうか? やはり、動物の物を作るのは難しい。私はただの人である。鋭い爪も牙も無い。自分で検証するにも限界が‥‥そこまで考えた所で、突然襲って来た衝撃を受け止める為に我に返った。
金色の塊が頭から突っ込んで来たので数歩後ろに下がったものの、吹っ飛ばされずに済んで良かった。
危うく、そのまま投げ飛ばすところでした。見た目は金の獅子だが、大国の国王ですからね。

「感謝する、聖女殿!」

まぁ、綺麗な歯並び。とても鋭く、尖った歯が迫る。

「いえ、私はもう聖女ではな」
「では、我が国で聖女として認定を」
「謹んで、辞退させていただきます」

グイグイと眼前に迫る、黒く湿った大きな鼻。なんとか押し戻そうとしますが、流石と言うか、押しが強い。元気になり過ぎ。

「ちょ、あの、クアルツさん!」

助けてもらおうと、クアルツさんと執事さんの方に顔を向けると、「あ、駄目だこれ」と心がスンとなった。二人は涙を流しながら膝を付き、私達の方へと祈りを捧げている。
このままでは、あの島に帰してもらえなくなってしまう! と、ふと、「帰る」という言葉に気が付いた。
生まれた場所であるフレス王国の屋敷や、偶に寝るだけの教会にあった部屋。そのどちらも、「帰る」と思った事は無かった。

「ちちうえ!」

叫び声が聞こえた方を見ると、部屋の扉が開けられ、小さな獅子の子供がいた。

「シュワルツナー!」

ひしっと抱き合う、獅子と子獅子。
関係ないが、シュワルツナーってなんだか犬っぽい名前だな。

「お父様!」

次に部屋へ飛び込んで来たのは、女性だった。抱き合う獅子と子獅子に更に抱き着く女性には、獅子の耳と尻尾が付いている。親子、ですよね、多分。
そして、お姫様から一足遅れて青年が部屋へと入って来た。ご丁寧に、「チッ」と舌打ち付きである。
青年は不機嫌さを隠そうともせず、ガリガリと自分の頭を掻いている。

「あ~、姫様。お父上も治ったみたいですし? これで、心置きなく俺と結婚できますねぇ」

おぉ、私よりも空気の読めない人がいました。感動の場面に水をさしてはいけないと思い、シロさんとピヨさんと共に気配を消して壁際にいたと言うのに。

「貴方の様な方と、結婚なんていたしません!」

目に涙を溜めたお姫様が、キッと青年を睨んだ。

「そんな事言って、いいんですかねぇ。俺は、勇者ですよぉ? 魔物とかぁ、魔王とか? 俺の力が必要なんじゃぁないですかぁ?」

下卑た笑みを浮かべる青年の目線の先には、立派に実ったメローナが二つ‥‥。とても分かりやすい。
お姫様は一瞬唇を噛むと、完全に俯いてしまった。

「魔物はともかく、今代の魔王になってからは何も問題は無かったはずです」
「は?」
「今代の魔王は平和主義であり、趣味はお忍びでの各国食べ歩き。人間が亡んだら美味しい物が食べられなくなるとか」
「はぁ? お前、魔族の手下かぁ?」

なんとも頭の‥‥いえ、素行の悪そうな勇者です。
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