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第百二十七話 ヒナのムズムズ
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第百二十七話 ヒナのムズムズ
「春最後の収穫が終わって、夏に向けての種まきも終わったぁ!」
正直、この季節替えの時が一番忙しい。
一仕事終えて、縁側で休憩している時だった。
「ん?」
何か、背中がムズッとする様な感じがした。この感じ、最近どこかで‥‥。
「ヒナ様」
突然現れたセバス。彼の神出鬼没さには少し慣れて来たが、わざわざ背後から声を掛けて来るから、存外良い性格をしている。
「ヴァン・グリード様がこちらに向かって来ております」
「‥‥‥?」
「花見の時に、魔法様といらした方です」
「ああ!」
いたね、そう言えば! そうそう、あのムズッとする感じ!
「迎撃しますか?」
「何故⁉」
突然物騒な事吐いた!
「リシュナ様から、警戒するようにと言付かっておりますので」
「警戒だよね?」
「はい」
「それで何故迎撃」
「なんとなく」
「なんとなくで撃ち落とすのは止めようね⁉」
しかし、セバス曰く魔王は一緒じゃないらしい。
千里眼で見てみると、ブラックペガサスに乗ったヴァン独りでこちらに飛んで来ていた。
念の為に猫達には家の中で待機してもらい、エスト、セバス、私でお出迎えする事になった。
「突然の訪問、お許しください」
地面に降り立つと、綺麗にお辞儀したヴァン。
「お久しぶり! ベルがいないみたいだけど、どうしたの?」
魔王を「ベル」と親し気に呼んだのも、砕けた口調にしたのもわざとだ。
「本日は、個人的にお願いに参りました」
「お願い?」
エストとセバスも警戒しているなぁ。
「もしかして、気に入った野菜とかあった?」
「ええ。とても‥‥とても気に入りました。まぁ、野菜ではありませんが‥‥ね!」
ヴァンの背後から何かが飛んで来た。エストは飛び退き、私もセバスを抱えて避けた。
「ククッ‥‥避けられてしまいましたか」
って、尻尾⁉ 蛇の尻尾⁉
「獣人だったんだ」
「まぁ、魔族の国に住んでいますからねぇ」
「でも、今まで生えてなかったよね? もしかして、私と同じ?」
始祖の血が濃いと、姿を獣寄りにも人寄りにも出来るらしい。ワイズがそうだった。
おっと、また尻尾が来たので避けとこう。
「いいえ。逆ではないかと。あの方は母親と言うより、祖母かその前の方がラミアだったのでしょう」
ラミアって言うと、ゲーム等にも出て来るアレか。上半身は女の人で、下半身が蛇の。
「感情が高ぶると、特徴が出るタイプの様ですね。なので、ヒナ様と同じだなんて事は天地がひっくり返った上にジローが食欲不振になってもあり得ません」
「よっと‥‥そこまで言うかい」
例えが微妙な気がするが、かなり嫌そうな顔のセバス。
「おい! 悠長に喋ってる場合か! どうする⁉」
エストに怒られた。
「そんじゃ、ちょっと待っててね」
セバスを玄関前に降ろし、安全確保。
地面を蹴ってジャンプ! アイテムポーチから霜よけカバーの骨組みパーツを一つ取り出し、ヴァンの尻尾目掛けて投げた。骨組みパーツは「U」の形になっているので、そのまま尻尾を挟み込んで地面に刺さった。
「くっ!」
結構食い込んだみたいで、尻尾が動かせなくなったようだ。
冬に買っておいて良かった。
着地したそのまま走りだし、ヴァンの肩を掴んで地面に押し倒した。
「さて、と。どうしてこんな事をしたのか、説明してもらおうかな」
「ふっ‥‥」
不利になったはずのヴァンがニヤリと笑った瞬間、首元でカシャンと音がした。何だ?
「へ?」
「この時を、待っていました」
「ヒナ!」
「ヒナ様!」
ヴァンは自分の親指を噛んで傷付けると、血が溢れ出したその親指を私の首元の何かに押し当てた。
ヒナの首にはめられた物。エストとセバスはその正体を瞬時に理解した。
それは『隷属の首輪』だった。人族が発明した魔道具であり、獣人を強制的に従属させる為の物。
ヴァンが行った事は、血液と魔力を用いて「主人」を登録する行為だった。
「貴様!」
「ヒナ様!」
「ふ‥‥ふふふふふ‥‥あははははは! こんな簡単に手に入るとは! さぁ、私を起こしなさい、ヒナ」
ピクリ、とヒナの身体が揺れた。そして、ヴァンをゆっくりと起こし、自ら打ち込んだパーツを地面から引き抜いてヴァンを自由にした。
ヒナの瞳は虚ろで、エストとセバスの声は聞こえていない様だった。
「お、おい‥‥」
ヴァンは元の姿に戻ると、服の砂を掃い、身なりを整えた。
「お前達の大切なバケモノは、私の僕となりました。ふふ、あはははは!」
「くっ‥‥この」
走りだそうとしたエストを止めたのは、セバスだった。
「何故だ⁉」
「今は、駄目です」
「はは! 懸命な判断ですねぇ。一応説明しておきますが、これは従属の首輪です。私の命令には絶対服従。逆らえば、全身に激痛が走ります。最悪、死に至る。試しに、お前達を攻撃させてみましょうか?」
そんな命令をされれば、ヒナは必ず逆らう。そうなれば、全身に激痛が走り苦しむ。
例え精神まで支配されていたとしても、命令を遂行すれば、自我を取り戻した時に苦しむ事になる。それは身体的な激痛の何倍にもなるだろう。
「今は、堪えてください」
エストの腕を掴むセバスの手が、怒りに震える。
苦虫を噛み潰した様に顔を歪めたエストは、自分が持っていた大剣を地面に突き刺した。
「ふふ‥‥安心してください。今は何もしませんよ。私は寛大ですから、このままこの島に住む事も許して差し上げましょう」
ヴァンが指笛を吹くと、ブラックペガサスがヴァンのヒナの傍へとやってきた。
「乗りなさい」
ヴァンが命令すると、ヒナは何も言わずにヴァンを抱き上げ、ブラックペガサスの背に乗った。
「ああ‥‥くれぐれも、追いかけて来るなんて下手な事は考えないように。そちらには血の気の多そうな馬鹿が揃っているようですからねぇ。それと、あの女王様にもよろしくお伝えください。この化け物を随分と可愛がっているようでしたからね。では」
言いたい事は言ったとばかりにヴァンは空へと舞い上がり、そのまま去って行った。
エストの握りしめられた手から血が流れ、ポタリと地面に染みを作った。
「全員に招集を掛けます」
そう言ったセバスの手は震え、表情からは普段の柔らかさが消えていた。
「春最後の収穫が終わって、夏に向けての種まきも終わったぁ!」
正直、この季節替えの時が一番忙しい。
一仕事終えて、縁側で休憩している時だった。
「ん?」
何か、背中がムズッとする様な感じがした。この感じ、最近どこかで‥‥。
「ヒナ様」
突然現れたセバス。彼の神出鬼没さには少し慣れて来たが、わざわざ背後から声を掛けて来るから、存外良い性格をしている。
「ヴァン・グリード様がこちらに向かって来ております」
「‥‥‥?」
「花見の時に、魔法様といらした方です」
「ああ!」
いたね、そう言えば! そうそう、あのムズッとする感じ!
「迎撃しますか?」
「何故⁉」
突然物騒な事吐いた!
「リシュナ様から、警戒するようにと言付かっておりますので」
「警戒だよね?」
「はい」
「それで何故迎撃」
「なんとなく」
「なんとなくで撃ち落とすのは止めようね⁉」
しかし、セバス曰く魔王は一緒じゃないらしい。
千里眼で見てみると、ブラックペガサスに乗ったヴァン独りでこちらに飛んで来ていた。
念の為に猫達には家の中で待機してもらい、エスト、セバス、私でお出迎えする事になった。
「突然の訪問、お許しください」
地面に降り立つと、綺麗にお辞儀したヴァン。
「お久しぶり! ベルがいないみたいだけど、どうしたの?」
魔王を「ベル」と親し気に呼んだのも、砕けた口調にしたのもわざとだ。
「本日は、個人的にお願いに参りました」
「お願い?」
エストとセバスも警戒しているなぁ。
「もしかして、気に入った野菜とかあった?」
「ええ。とても‥‥とても気に入りました。まぁ、野菜ではありませんが‥‥ね!」
ヴァンの背後から何かが飛んで来た。エストは飛び退き、私もセバスを抱えて避けた。
「ククッ‥‥避けられてしまいましたか」
って、尻尾⁉ 蛇の尻尾⁉
「獣人だったんだ」
「まぁ、魔族の国に住んでいますからねぇ」
「でも、今まで生えてなかったよね? もしかして、私と同じ?」
始祖の血が濃いと、姿を獣寄りにも人寄りにも出来るらしい。ワイズがそうだった。
おっと、また尻尾が来たので避けとこう。
「いいえ。逆ではないかと。あの方は母親と言うより、祖母かその前の方がラミアだったのでしょう」
ラミアって言うと、ゲーム等にも出て来るアレか。上半身は女の人で、下半身が蛇の。
「感情が高ぶると、特徴が出るタイプの様ですね。なので、ヒナ様と同じだなんて事は天地がひっくり返った上にジローが食欲不振になってもあり得ません」
「よっと‥‥そこまで言うかい」
例えが微妙な気がするが、かなり嫌そうな顔のセバス。
「おい! 悠長に喋ってる場合か! どうする⁉」
エストに怒られた。
「そんじゃ、ちょっと待っててね」
セバスを玄関前に降ろし、安全確保。
地面を蹴ってジャンプ! アイテムポーチから霜よけカバーの骨組みパーツを一つ取り出し、ヴァンの尻尾目掛けて投げた。骨組みパーツは「U」の形になっているので、そのまま尻尾を挟み込んで地面に刺さった。
「くっ!」
結構食い込んだみたいで、尻尾が動かせなくなったようだ。
冬に買っておいて良かった。
着地したそのまま走りだし、ヴァンの肩を掴んで地面に押し倒した。
「さて、と。どうしてこんな事をしたのか、説明してもらおうかな」
「ふっ‥‥」
不利になったはずのヴァンがニヤリと笑った瞬間、首元でカシャンと音がした。何だ?
「へ?」
「この時を、待っていました」
「ヒナ!」
「ヒナ様!」
ヴァンは自分の親指を噛んで傷付けると、血が溢れ出したその親指を私の首元の何かに押し当てた。
ヒナの首にはめられた物。エストとセバスはその正体を瞬時に理解した。
それは『隷属の首輪』だった。人族が発明した魔道具であり、獣人を強制的に従属させる為の物。
ヴァンが行った事は、血液と魔力を用いて「主人」を登録する行為だった。
「貴様!」
「ヒナ様!」
「ふ‥‥ふふふふふ‥‥あははははは! こんな簡単に手に入るとは! さぁ、私を起こしなさい、ヒナ」
ピクリ、とヒナの身体が揺れた。そして、ヴァンをゆっくりと起こし、自ら打ち込んだパーツを地面から引き抜いてヴァンを自由にした。
ヒナの瞳は虚ろで、エストとセバスの声は聞こえていない様だった。
「お、おい‥‥」
ヴァンは元の姿に戻ると、服の砂を掃い、身なりを整えた。
「お前達の大切なバケモノは、私の僕となりました。ふふ、あはははは!」
「くっ‥‥この」
走りだそうとしたエストを止めたのは、セバスだった。
「何故だ⁉」
「今は、駄目です」
「はは! 懸命な判断ですねぇ。一応説明しておきますが、これは従属の首輪です。私の命令には絶対服従。逆らえば、全身に激痛が走ります。最悪、死に至る。試しに、お前達を攻撃させてみましょうか?」
そんな命令をされれば、ヒナは必ず逆らう。そうなれば、全身に激痛が走り苦しむ。
例え精神まで支配されていたとしても、命令を遂行すれば、自我を取り戻した時に苦しむ事になる。それは身体的な激痛の何倍にもなるだろう。
「今は、堪えてください」
エストの腕を掴むセバスの手が、怒りに震える。
苦虫を噛み潰した様に顔を歪めたエストは、自分が持っていた大剣を地面に突き刺した。
「ふふ‥‥安心してください。今は何もしませんよ。私は寛大ですから、このままこの島に住む事も許して差し上げましょう」
ヴァンが指笛を吹くと、ブラックペガサスがヴァンのヒナの傍へとやってきた。
「乗りなさい」
ヴァンが命令すると、ヒナは何も言わずにヴァンを抱き上げ、ブラックペガサスの背に乗った。
「ああ‥‥くれぐれも、追いかけて来るなんて下手な事は考えないように。そちらには血の気の多そうな馬鹿が揃っているようですからねぇ。それと、あの女王様にもよろしくお伝えください。この化け物を随分と可愛がっているようでしたからね。では」
言いたい事は言ったとばかりにヴァンは空へと舞い上がり、そのまま去って行った。
エストの握りしめられた手から血が流れ、ポタリと地面に染みを作った。
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