129 / 214
「鳴」を取る一人
5.
しおりを挟む
テストの出来は、この日は中の下だった。
成績も、いつも大体中の下である。
塾の講師でもある空羽馬に、依杏は言われたことがあった。
もう少し偏差値を上げた方がいいと。
協力してもらったこともあるけれど、依杏の実力はやっぱり中の下。
良くて八割。
依杏はテストの前の日に、空羽馬と会っていた。
そしてマリウィルに来ている。
で、寧唯と郁伽と過ごしている。
依杏が空羽馬と付き合ったのは、二年ほど。
「慈満寺で人が死んだのは去年で二回。実際のキャンペーン実施回数と比べれば。さほど多くはないように思えるけれど、宝物殿への扉近くで、同じ場所で。怪死が二回もっていうのは決して多くはない。ということは、分かるわよね」
郁伽が言った。
「分かります」
依杏は我に返った。
郁伽は続ける。
「だから、今年四月に、慈満寺全体のセキュリティ強度を上げたらしいの。地下入口に防犯カメラを付けた。地下入口に入るためのIDカードが必要になった。セキュリティのことが一切書いていない、このパンフ」
「ちょっと古いのかもしれませんね」
寧唯は他人事のように言った。
中のチョコレートブラウニー。寧唯はほとんど食べてしまったようで。
郁伽はいきなり腰を上げた。
レジへ向かうようで。
「郁伽先輩、慈満寺に行くことには、かなり乗り気だね」
「そうね。でも、あたしはキャンペーン参加メインだから」
と、寧唯。
依杏は普段、あまり物事に対して熱意を持たない。
なんとなく、勉強は義務でやっている。選択の余地なし。
生きていること自体にも、極論するとあまり熱意がない。
ただ、慈満寺のことは面白いとも思った。
「抽選、三人枠で取ったんだよね」
「そう」
「じゃあ、行ってみようかなあ」
依杏は言った。
寧唯の表情が光る。
寧唯には、依杏は空羽馬と別れたことは言っていない。
この際言ってしまいたかったけれど、やめておいた。
で、依杏は慈満寺のキャンペーン参加と相成った。
郁伽は忙しそうである。
慈満寺の巫女のバイトも、あんなかなー。
と、依杏が思った時。
依杏と寧唯のテーブルの前を通り過ぎる、黒い衣に身を包んだ二人。鋭い眼。
ここマリウィルはファミリーレストランである。
黒い衣とは、あまりにも場違いだ。
寧唯も同じ感覚だったようで。
「なんでお坊さんがいるの」
依杏は言った。
寧唯。
「たぶん慈満寺の人だ。さっき言っていたでしょう。鐘搗紺慈とかいう」
「このタイミングで!?」
「出張葬儀とかかなあ、その帰りとか」
「なにそれ」
「知らないの? 要するにさ、仕事終わりでマリウィルに、ご飯食べに来てたってことよ。僧侶の派遣」
「なんだかあれ、取り巻きの人かなあ。鐘搗さんのほか」
「たぶんあれは鐘搗住職だね。その他は分からない。どうしよう、これ」
寧唯はパンフレットを見回した。
「完全に、睨まれていたけれど。私ら」
「それは分かるよ。ただ、お坊さんが何か、クレームっていうのはないんじゃない」
郁伽は今、レジに立っている。
いずれ、鐘搗と他の取り巻きのレジもするのかもしれない。
大変だなあと依杏は思いながら、空になったパフェのグラスを見つめた。
依杏と寧唯の座るテーブルの脇を、通る一人が居た。
と思いきや、寧唯の隣に腰掛けた。
さっきの二人は丸刈りだった。
ただ、座ったその人も頭を刈っていた。そして、肌が浅黒い。
彼はおもむろに一冊パンフレットを取って、捲り始める。
依杏と寧唯は固まった。
黒いスーツ。黒いネクタイ。
腕にウェアラブル。
葬儀のスタイル?
手や頬には古傷だろうか、それが目立っていた。
成績も、いつも大体中の下である。
塾の講師でもある空羽馬に、依杏は言われたことがあった。
もう少し偏差値を上げた方がいいと。
協力してもらったこともあるけれど、依杏の実力はやっぱり中の下。
良くて八割。
依杏はテストの前の日に、空羽馬と会っていた。
そしてマリウィルに来ている。
で、寧唯と郁伽と過ごしている。
依杏が空羽馬と付き合ったのは、二年ほど。
「慈満寺で人が死んだのは去年で二回。実際のキャンペーン実施回数と比べれば。さほど多くはないように思えるけれど、宝物殿への扉近くで、同じ場所で。怪死が二回もっていうのは決して多くはない。ということは、分かるわよね」
郁伽が言った。
「分かります」
依杏は我に返った。
郁伽は続ける。
「だから、今年四月に、慈満寺全体のセキュリティ強度を上げたらしいの。地下入口に防犯カメラを付けた。地下入口に入るためのIDカードが必要になった。セキュリティのことが一切書いていない、このパンフ」
「ちょっと古いのかもしれませんね」
寧唯は他人事のように言った。
中のチョコレートブラウニー。寧唯はほとんど食べてしまったようで。
郁伽はいきなり腰を上げた。
レジへ向かうようで。
「郁伽先輩、慈満寺に行くことには、かなり乗り気だね」
「そうね。でも、あたしはキャンペーン参加メインだから」
と、寧唯。
依杏は普段、あまり物事に対して熱意を持たない。
なんとなく、勉強は義務でやっている。選択の余地なし。
生きていること自体にも、極論するとあまり熱意がない。
ただ、慈満寺のことは面白いとも思った。
「抽選、三人枠で取ったんだよね」
「そう」
「じゃあ、行ってみようかなあ」
依杏は言った。
寧唯の表情が光る。
寧唯には、依杏は空羽馬と別れたことは言っていない。
この際言ってしまいたかったけれど、やめておいた。
で、依杏は慈満寺のキャンペーン参加と相成った。
郁伽は忙しそうである。
慈満寺の巫女のバイトも、あんなかなー。
と、依杏が思った時。
依杏と寧唯のテーブルの前を通り過ぎる、黒い衣に身を包んだ二人。鋭い眼。
ここマリウィルはファミリーレストランである。
黒い衣とは、あまりにも場違いだ。
寧唯も同じ感覚だったようで。
「なんでお坊さんがいるの」
依杏は言った。
寧唯。
「たぶん慈満寺の人だ。さっき言っていたでしょう。鐘搗紺慈とかいう」
「このタイミングで!?」
「出張葬儀とかかなあ、その帰りとか」
「なにそれ」
「知らないの? 要するにさ、仕事終わりでマリウィルに、ご飯食べに来てたってことよ。僧侶の派遣」
「なんだかあれ、取り巻きの人かなあ。鐘搗さんのほか」
「たぶんあれは鐘搗住職だね。その他は分からない。どうしよう、これ」
寧唯はパンフレットを見回した。
「完全に、睨まれていたけれど。私ら」
「それは分かるよ。ただ、お坊さんが何か、クレームっていうのはないんじゃない」
郁伽は今、レジに立っている。
いずれ、鐘搗と他の取り巻きのレジもするのかもしれない。
大変だなあと依杏は思いながら、空になったパフェのグラスを見つめた。
依杏と寧唯の座るテーブルの脇を、通る一人が居た。
と思いきや、寧唯の隣に腰掛けた。
さっきの二人は丸刈りだった。
ただ、座ったその人も頭を刈っていた。そして、肌が浅黒い。
彼はおもむろに一冊パンフレットを取って、捲り始める。
依杏と寧唯は固まった。
黒いスーツ。黒いネクタイ。
腕にウェアラブル。
葬儀のスタイル?
手や頬には古傷だろうか、それが目立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる