推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

28.

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さくさくと鳴る、参道の砂。

急いていない。
順々に、来るゆく参拝客。
人々。

スマホにて触れた会話。
数登珊牙すとうさんがは「急ぎ」と。

釆原凰介うねはらおうすけ

「急いでいるって、要するに。勘付かれたとか?」

倉の前も通り。
頭上に屋根。樋と向こう、流れて続いて。
依杏いあはふと、足元へがいった。

「何をです?」

電話向こうは、数登の声。

釆原も続く。

「勝手に梵鐘ぼんしょうを鳴らしただろう。それを、慈満寺のやつらに勘付かれたか。それも困るんだろう」

「ええ。騒がれますと、僕も困るのですが。支障が出ない限りは、大丈夫ですね」






合流対象が変わった。
ひとつふたつ。
景色も変わる。

午後。
行く場所は、本堂で変わらない。
ただ、釆原うねはらが持つファイルを渡す相手。
目指すは、郁伽いくか麗慈れいじへ。
ということに。

今。
遠ざかっているであろう。
本堂の裏から離れているだろう、数登珊牙すとうさんが
会えると思ったその瞬間に、その対象が変わる形で。

あまり、電話の向こうから。
ひとり焦るような、息せき切っているような感じも、見受け取れないものの。

スピーカーにして対応しているのも、あるから?
依杏いあと釆原、行きながら。
歩数がかさむ。

「釆原さんが、数登さんに渡したい物より。あなたの行く場所のほうが、急ぎなんですか?」

数登。

「ええ。梵鐘ぼんしょうよりもね。すみませんが」

依杏。

「そうですか……。数登さんは一人で行くというか。物事の順番なくして、いて調査している感じが」

「そんなことは。本堂の裏へ行っていただくことに、やはり変わりはありません。郁伽さんと麗慈に、伝言は伝えてあります」

と、ふいに電話の向こう。
数登は、苦笑している様子。






歩きながら。
数登珊牙へ。
鐘搗紺慈かねつきこんじと、遭遇したことを話す。
宝物殿の扉のことも、話す。
そのどちらも数登珊牙から、クリアなニュアンスでは返答が来なかった。

ただ、普通ではない件。
数登が勝手に、梵鐘を鳴らした件について。
彼としても、「数登だった」と判断されたくない様子で。

釆原。

「いずれにしろ、時間の問題で。珊牙さんがだとバレると思うけれど。何か困ること、ある」

慈満寺じみつじへの派遣について、少しくらいは。今の流れに、影響が出るかもしれません。以前瀬戸宇治せとうじドームでも、同様に騒がれたために。こうして慈満寺へ」

「ドームでの騒ぎのほうが、妙にでかかった気がする」

「強いて言ってみても。僕は同じくらいだと思いますが」

「そうかなあ」






ようやく距離が詰まって来た。
本堂へ近くになり。
景色。
ふと見ると、さすがに人の背も多くなってくる。

時間帯的にも。

「そろそろ、キャンペーンは開始の前後じゃないかな。それまで、こちらへ戻って来るのか?」

と釆原が、数登へ尋ねる。

「現時点では、未定かと。なるべく行こうとは、思っています」

「今どこなんだ」

「僕ですか? 山門前へ。向かっている」

「それじゃ合流するとか云ってた本堂と、真逆だろう」

地下ではなく、寺の入口?
ふと依杏は思った。

スマホとその向こう側へ、会話は途切れていない。
歩きながら、つないだまま。

「気になるのは、地下のほうだと思いません? そっちはほんとに真逆です」

と依杏も尋ねてみる。






「梵鐘が鳴っても、人が死んでいない」。
一点目。
宝物殿が、ひらけない理由は?
二点目。
地下入口での騒ぎと、不正アクセス。
三点目。

向こうへ尋ねたいことも、多かった。

依杏。

「慈満寺全体で、なにか問題があるとか……」

「あなたのほうで、何か。わかったことは」

と数登。

「いや、何もわかってないんです」

しゅんとなりつつ。
依杏。

「山門のほうになら、見るべき有力な資料でもあるだろう。とかですか?」

「人が亡くなった件、今なら御存知ごぞんじですよね」

「ええと……」






本堂の裏へ、行けそうな周辺。
そこまで、たどり着いた。

垂れ幕が掛かっている。
参道を向こうから、辿って来たときよりも。
色が鮮明に、依杏いあの眼へ映る。

どれも彩度の高い、鮮やかな原色。
本堂自体も、朱塗り。
明るい文字。

石作りを上へ上がったり、下がったり。
ひとつふたつ。
賽銭、願掛け。
カラン、カランと風に鳴る鈴も。
手を合わせる人も。

本堂に入って行く人々。
参拝らしい光景が、見てとれる。

「人が死んだのも、地下ので起こったこと。もっと言えば、私たちのいるエリアで。起こったことですよね」

杵屋依杏きねやいあ

「私がきたいのは、釆原さんの持ってきた資料より。向こうへ手堅いものがあるんですかね、ってことなんですけれど……」

「では。僕のほうから一つ。不正アクセスの件は、お答えしておきましょうか。その他はまた」

「え」

参拝の人々。
その間をぬって進む、依杏と釆原。

見るまに増して来た木々。
雑木林。
本堂裏へ回れば、より鬱蒼としていそうで。

「不正アクセスね。慈満寺内部からのアクセスじゃないかっていう話で、向こうで。円山梅内ばいないが騒いでいたが」

と釆原。

慈満寺じみつじ内部なら、むしろ安全だとかどうとか。慈満寺の人々が疑うものは、こっちでは違う対象になるとか」

「データが消された可能性があるとか、でも。数登さんそもそも、梵鐘のこともあったし。地下に居ませんでしたよね」

わきから依杏。

「ええ。その時は本堂裏だったと思いますがね。不正アクセスの件は、麗慈れいじが犯人です」

犯人?
の一瞬。

「なんで」

と釆原。

「地下入口は、僕らで見張っておく必要があったからです。それで、麗慈にその役を。買って出てもらいました」

買って出てもらう?
瞬間でツッコミどころが満載だが、とりあえず置いておく。

依杏。

「じゃあ、今。地下じゃなくて、あなたが向こうの山門側に行っているのは。なんで……」

と言いかけて。
依杏はハッとして気付く。

「あれ?」

釆原。

「どうしたの。足がつらいんだろう」

「いえ。そうじゃなくて」

と依杏。

寧唯ねいが、居ないんですけれど」
  
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