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緑静けき鐘は鳴る【上】
28.通路
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大月麗慈は本堂裏に付いている、小さな鉄扉を示した。
「調査」のために次は、鉄扉の向こうへ行くのだと。
道羅友葉と麗慈は、慈満寺の本堂裏に居た。
鉄扉を開けて、いま二人は暗い空間に入っている。
麗慈は手元のスイッチを点けた。
通路両側の照明が光を空間に与える。
その空間は、何も暗くて見えない状態から、視認が出来るようになる。
なんだか眼の錯覚のようだ。
通路が浮き上がっているように、友葉には見えた。
照明ははじめ小さく弱く点灯した。
そこから徐々に光を押し広げ、白く淡い光が空間全体に光を与えていく。
今は白い色が煌々と照る空間になった。
「よし、行こう~。ついてきてね~」
麗慈は慣れた様子で言った。
「オーケー」
友葉も、自分の眼をこすりこすり言った。
麗慈と友葉は歩き出す。
麗慈が先頭で、友葉はその後ろに付いてゆっくり歩を進めた。
歩くというよりも身を屈めながら、少しずつ進むという感じだった。
鉄扉は小さかった。
それ故に、通路全体も「空間が広い」とは言い難い。
前後と歩幅と自分の体の屈め具合に注意しながら、友葉と麗慈は歩を進めていく。
私たちの居た場所は本堂裏だった。
裏からこの裏道を通って祈祷を行う本堂の、表ではなくそのまた裏側へ出る、というわけ。
だから実は結構、通路は複雑に入り組んでいるのかもしれない。
というか入り組まないと表の本堂へ繋がらない、か。
そう友葉は思った。
「なんかかける?」
「何をかけるの? そのかけるってどういう意味なの」
「友葉ちゃんだったら何が好き?」
「あ、そのかけるって音楽のことか」
「そうそう。ただ歩いているだけだと大変だもの」
「ドライブみたいにするのね」
「うんまあ。それに結構身を屈めているから大変だし」
「だな。ならあたしの持ち歌かけて。『チェスコ』とか『ダフニス』とか知っている?」
「何それ知らない。ぼく持ってない」
友葉はがっくり項垂れた。
「いや、うん。分かった。あたしの曲なんだ。なんか機会あったら聴いてみて」
「うん分かった」
「なんか他にあるかな」
「今ねえトレーディングカードおたくの間で、ちょっとずつ流行っているユニットがあるよ。その曲ならぼく持っているよ」
「何ていうユニットなの?」
「トパーズ&ネリス」
「そんなユニットは初めて聞いたな」
麗慈が今度はがっくりする番だった。
「あんまり落ち込まないでよ」
「いやいいんだ。トレーディングカードおたく内のニッチ枠だし」
「ふうん。お互いにニッチ枠仲間ってことかあ」
「友葉ちゃんなら気に入るんじゃないかなあ」
「合いそう?」
「ちょっとかけるから聴いてみてよ」
で、そのトパーズ&ネリスの最新シングルだとかいう、『Ace&Jam』をかけながら道を進む。
確かに、麗慈くんの言った通りだ。
なかなか、音の選び方がいいなあ。
あれかな歌唱の方のコンプレッサーのかけ方が、上手いのかも。
とか友葉はいろいろ考えつつ。
それから別のことも考えつつ。
朝比堂賀さん。
葬儀屋である彼は、九十九社から現在慈満寺へ派遣されている。
麗慈くんとは友達ということで、堂賀さんは麗慈くんにもいろいろ頼み事をしていたらしい。
今ここにいないのは、私たちと一緒にさっきまで本堂裏に居たけれど、「用事が出来た」と。
それで移動をしてしまったためだ。
堂賀さんは今日、調査のために無許可で。
鐘楼にある梵鐘をぶっ叩いて鳴らした。
調査というのは、慈満寺で過去二人の人が亡くなった、という件についての調査である。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」っていう噂が、うちの「廃墟研究会」でも広まって桃ノ染全体でかなり有名だ。
それで、鐘楼で梵鐘を鳴らしていた堂賀さん。
私は彼が重量級かもしれないということが分かったけれど、そんなことはまず、さておく。
打ち鳴らす必要があったからこそ、堂賀さんは楼鍾に上がって梵鐘を鳴らした。
それは慈満寺側の許可なしにである。
何故か。
何故なら梵鐘とは「別の音」が鳴るかどうかを確かめるためだった。
麗慈くんの話によれば、恋愛成就キャンペーンの付属特典として梵鐘が鳴らされている間に。
今から向かう本堂裏の部屋にて変な音が、鳴ったのを聴いた。
ということだった。
だから梵鐘が鳴れば、その別の音も一緒に鳴るのかどうか、確かめるために堂賀さんは無許可で鳴らした。
ということらしい。
ちなみに麗慈くんは口外していないけれど、あたしとしては大月住職なら何か思っているかもしれない、と思ったりする。
大月住職と堂賀さんは昨年十月の「美野川嵐道を偲ぶ会」にて、堂賀さんが酒騒動を起こして大月住職が憤慨したとかいう話だったので。
で。
その梵鐘と「別の音」に関しては、慈満寺の地下で人が亡くなった件と関連があるのかどうかは定かではない。
だが定かではないからこそ、調べる必要を感じたのだろう。
堂賀さんが、だ。
たぶん「別の音」に関する話は、陳ノ内さんたちは知らないはずだ。
根耒と沢田も含めて。
先程もし、堂賀さんが陳ノ内さんへ電話で、その「別の音」の話をしていて。
調査のために梵鐘を鳴らしてみてどんなだったかっていうのを、説明していたとすれば。
陳ノ内さんたちも知っていると思う。
「あのさ、ちょっと訊いていい?」
「なあに~」
「なんかこう人に見せちゃいけないんでしょう秘仏って」
「そう言われてはいるよね。だから布で覆っているし結界も張っている。よ。慈満寺の職員でも見たことないって」
「でさ、じゃあその状態で御開帳ってどういうこと」
突然通路の角度が変わって小さな階段に辿り着いた。
それを上る。
堂賀さんは一体どこに用事があって移動をしたのだろうなあ。
私と麗慈くんもまあこうして、通路をずんずん進んでいるわけだけれども。
友葉の予想では、慈満寺で人が亡くなった件について。
先程話に出た「秘仏」が一枚噛んでいるのではないか、というオカルト的要素も含みつつ予想している。
友葉なりに調査したところによれば「秘仏」は、力が強い。
寺という場所に、そんなご利益を求めてやって来る参拝客は、少なくない。
慈満寺の宝物殿には友葉自身「宝物」だと思っている、所謂出土品の類や金銀黄金その他諸々沢山所蔵されている。
そういう情報も含みつつ。
ただ、そうした物の裏には「曰く付き」があることも少なくない。
それゆえに、宝物を求めて人が死んだ。
とか、そんな線も彼女自身捨てきれない。
何しろ彼女はオカルトに眼がない「廃墟研究会」の部長をやっている。
桃ノ染高校で活動する小さい部活だ。
友葉の思考の中にあった、陳ノ内、根耒、沢田という名前。
根耒生祈と沢田彩舞音、それから陳ノ内惇公のことだ。
三人も朝比に協力しているという点で、慈満寺に来ているというのは同じである。
違うのは今現在、友葉と麗慈とは別の場所に居るという点で。
「さあ着いた。一緒に来て欲しいって言ったのはこの部屋なんだ」
麗慈は壁の方へ向かって、手元を探った。
照明が灯る。
全体が真っ白になった。
「うわあ眼が、おかしくなりそう。いきなり真っ白!」
友葉は思わずか手で顔を覆った。
「しばらくすると慣れてくるから大丈夫だよ」
「うんそうね」
「でね、さっきの話だけれど秘仏自体を一般公開するわけじゃないんだよ。だから見て、布被ってこの部屋に置いてあるのはそういう理由なのさ」
布を被った秘仏が眼の前に立っている。
「布を被っていれば結界になるのかな」
「ぼくは、その辺よく分かんない。ただ寺っていう場所単位で見ても、一応寺全体に結界は張っているらしいけれど……。うちのパパとか僧侶の専門分野でしょうなあ」
「そうなあ」
友葉は言った。
布を被った秘仏の周りをぐるりと一周。
ちょうど部屋の中心にあたる場所へ置かれてある。
のかもしれない。
照明も含めて部屋全体が白いために、自分の立っている位置もなんだかよく分からなくなる。
友葉はそう思った。
一周したら、眼が回りそうだ。
で、体勢を立て直すためにかぶりを振り振り。
落ち着いた。
「裏の部屋なのよね、ここ」
友葉は眼をぱちくり。
「そう。裏の部屋はここで本堂は表。すぐ壁の向こうが表の本堂で祈祷なんかをやるスペースだったり。あ、言っている間にキャンペーンの時間が近くなってきたよ」
麗慈はスマホを操作しながら言った。
「何も御開帳って言ったってね。一般公開するのは秘仏じゃなくたっていいのさ」
「いいの?」
「うん。表の本堂では布被った秘仏さんじゃない仏像が公開される」
「代理ってことか」
「そう。たぶん秘仏さんの結界もその分強力だよ。表の仏像と繋げてあるみたい」
あまり踏み込んでもちんぷんかんぷんだな。
「所謂オカルトの領域か」
「そうそう。あんまり考えない方がいい」
「うん。で、その御開帳に関しては理解したと思う。そんで出現しているこの青い画面みたいなのもやっぱりオカルト?」
「ち、違うよこれは! 地下の見張りのためなんだから」
友葉は麗慈のスマホから飛び出した、宙に浮かぶ青いスクリーンを何個か見ている。
浮かぶというより、なんか出ている。
オカルトっていうよりSFかな。
「地下入口とIDロック盤のことだけれど」
「うん」
「堂賀さんが梵鐘を鳴らす時にぼく、地下入口に参拝客が来ないかどうか見張る必要があったって。言ったでしょう。それで地下入口のIDロック盤と監視カメラにアクセスしていた。セキュリティ開発担当は円山さんなの。だから何か変なアクセスを探知したりとかすると、一番最初に気付くのは彼なんだ」
「円山さんって誰なの」
「うちのセキュリティ担当の僧侶!」
麗慈は頭を掻き掻き、指でスマホやスクリーンをつついて操作をしている。
「地下入口のセキュリティ開発担当ってことよね。さっきの話の流れから言えば」
友葉も青いスクリーンを指で弾く。
と言っても麗慈くんの話はやっぱりちんぷんかんぷんだ。
「あ、何か出た。あれ、音声ファイルだって」
「ああ、だから! いじらないでって言っているのに!」
麗慈はムキになって言った。
「じゃあこのファイルは開けないから大丈夫」
「開けないじゃなくて開かないの。そこはぼくしっかりやるんだ」
友葉は苦笑した。
麗慈くんが今スマホを操作しているのは、地下入口の見張りのためだろう。
調査中のいま人の出入りがないか、堂賀さんと慈満寺の調査を続けるために。
でもそれなら、麗慈くんはいずれにしてもセキュリティにアクセス出来るということだ。
円山さんに探知されるか否かはさておき、麗慈くんならIDロック盤で地下入口をロックして、参拝客を押し留めることも出来るのでは。
「ねえ、堂賀さんも言っていたけれど、地下に人が入らないようにしたいんならさ、入口自体を閉じちゃえば? 麗慈くんならそのくらい、アクセス操作も出来るのじゃない」
麗慈はかぶりを振った。
「入口開閉に関しては開発者側じゃないとね。それに、地下入口を閉鎖しようっていう話はもう円山さんとママの間で言っていた。陳ノ内さんと友葉ちゃんの友達たちも居たみたい」
「居たみたいって。何だか見て来たように云うのね」
麗慈は顔を赤らめた。
「あのね、さっき開いた友葉ちゃんの手元の音声ファイルあるでしょう! 監視カメラと地下入口のIDロック盤へアクセスする時に、音声もダウンロードする仕組みにしたの。だから友葉ちゃんの出したその音声ファイルは、そのファイルなわけ。つまり音声で誰が地下入口に来ていたかっていうのを判別出来る仕組みを搭載した。ぼくのシステムにね」
「大問題じゃないか」
「そうかもね。堂賀さんの調査がない時はやれない仕組みにしている。通常時は動かない。よほどの時じゃないと。だからぼくでも操作が難しいの。ただ、それくらい地下は気を付けた方がいいなって思う。実際に人が亡くなっているからさ」
友葉は考え込んだ。
青いスクリーンを見つめる。
「調査」のために次は、鉄扉の向こうへ行くのだと。
道羅友葉と麗慈は、慈満寺の本堂裏に居た。
鉄扉を開けて、いま二人は暗い空間に入っている。
麗慈は手元のスイッチを点けた。
通路両側の照明が光を空間に与える。
その空間は、何も暗くて見えない状態から、視認が出来るようになる。
なんだか眼の錯覚のようだ。
通路が浮き上がっているように、友葉には見えた。
照明ははじめ小さく弱く点灯した。
そこから徐々に光を押し広げ、白く淡い光が空間全体に光を与えていく。
今は白い色が煌々と照る空間になった。
「よし、行こう~。ついてきてね~」
麗慈は慣れた様子で言った。
「オーケー」
友葉も、自分の眼をこすりこすり言った。
麗慈と友葉は歩き出す。
麗慈が先頭で、友葉はその後ろに付いてゆっくり歩を進めた。
歩くというよりも身を屈めながら、少しずつ進むという感じだった。
鉄扉は小さかった。
それ故に、通路全体も「空間が広い」とは言い難い。
前後と歩幅と自分の体の屈め具合に注意しながら、友葉と麗慈は歩を進めていく。
私たちの居た場所は本堂裏だった。
裏からこの裏道を通って祈祷を行う本堂の、表ではなくそのまた裏側へ出る、というわけ。
だから実は結構、通路は複雑に入り組んでいるのかもしれない。
というか入り組まないと表の本堂へ繋がらない、か。
そう友葉は思った。
「なんかかける?」
「何をかけるの? そのかけるってどういう意味なの」
「友葉ちゃんだったら何が好き?」
「あ、そのかけるって音楽のことか」
「そうそう。ただ歩いているだけだと大変だもの」
「ドライブみたいにするのね」
「うんまあ。それに結構身を屈めているから大変だし」
「だな。ならあたしの持ち歌かけて。『チェスコ』とか『ダフニス』とか知っている?」
「何それ知らない。ぼく持ってない」
友葉はがっくり項垂れた。
「いや、うん。分かった。あたしの曲なんだ。なんか機会あったら聴いてみて」
「うん分かった」
「なんか他にあるかな」
「今ねえトレーディングカードおたくの間で、ちょっとずつ流行っているユニットがあるよ。その曲ならぼく持っているよ」
「何ていうユニットなの?」
「トパーズ&ネリス」
「そんなユニットは初めて聞いたな」
麗慈が今度はがっくりする番だった。
「あんまり落ち込まないでよ」
「いやいいんだ。トレーディングカードおたく内のニッチ枠だし」
「ふうん。お互いにニッチ枠仲間ってことかあ」
「友葉ちゃんなら気に入るんじゃないかなあ」
「合いそう?」
「ちょっとかけるから聴いてみてよ」
で、そのトパーズ&ネリスの最新シングルだとかいう、『Ace&Jam』をかけながら道を進む。
確かに、麗慈くんの言った通りだ。
なかなか、音の選び方がいいなあ。
あれかな歌唱の方のコンプレッサーのかけ方が、上手いのかも。
とか友葉はいろいろ考えつつ。
それから別のことも考えつつ。
朝比堂賀さん。
葬儀屋である彼は、九十九社から現在慈満寺へ派遣されている。
麗慈くんとは友達ということで、堂賀さんは麗慈くんにもいろいろ頼み事をしていたらしい。
今ここにいないのは、私たちと一緒にさっきまで本堂裏に居たけれど、「用事が出来た」と。
それで移動をしてしまったためだ。
堂賀さんは今日、調査のために無許可で。
鐘楼にある梵鐘をぶっ叩いて鳴らした。
調査というのは、慈満寺で過去二人の人が亡くなった、という件についての調査である。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」っていう噂が、うちの「廃墟研究会」でも広まって桃ノ染全体でかなり有名だ。
それで、鐘楼で梵鐘を鳴らしていた堂賀さん。
私は彼が重量級かもしれないということが分かったけれど、そんなことはまず、さておく。
打ち鳴らす必要があったからこそ、堂賀さんは楼鍾に上がって梵鐘を鳴らした。
それは慈満寺側の許可なしにである。
何故か。
何故なら梵鐘とは「別の音」が鳴るかどうかを確かめるためだった。
麗慈くんの話によれば、恋愛成就キャンペーンの付属特典として梵鐘が鳴らされている間に。
今から向かう本堂裏の部屋にて変な音が、鳴ったのを聴いた。
ということだった。
だから梵鐘が鳴れば、その別の音も一緒に鳴るのかどうか、確かめるために堂賀さんは無許可で鳴らした。
ということらしい。
ちなみに麗慈くんは口外していないけれど、あたしとしては大月住職なら何か思っているかもしれない、と思ったりする。
大月住職と堂賀さんは昨年十月の「美野川嵐道を偲ぶ会」にて、堂賀さんが酒騒動を起こして大月住職が憤慨したとかいう話だったので。
で。
その梵鐘と「別の音」に関しては、慈満寺の地下で人が亡くなった件と関連があるのかどうかは定かではない。
だが定かではないからこそ、調べる必要を感じたのだろう。
堂賀さんが、だ。
たぶん「別の音」に関する話は、陳ノ内さんたちは知らないはずだ。
根耒と沢田も含めて。
先程もし、堂賀さんが陳ノ内さんへ電話で、その「別の音」の話をしていて。
調査のために梵鐘を鳴らしてみてどんなだったかっていうのを、説明していたとすれば。
陳ノ内さんたちも知っていると思う。
「あのさ、ちょっと訊いていい?」
「なあに~」
「なんかこう人に見せちゃいけないんでしょう秘仏って」
「そう言われてはいるよね。だから布で覆っているし結界も張っている。よ。慈満寺の職員でも見たことないって」
「でさ、じゃあその状態で御開帳ってどういうこと」
突然通路の角度が変わって小さな階段に辿り着いた。
それを上る。
堂賀さんは一体どこに用事があって移動をしたのだろうなあ。
私と麗慈くんもまあこうして、通路をずんずん進んでいるわけだけれども。
友葉の予想では、慈満寺で人が亡くなった件について。
先程話に出た「秘仏」が一枚噛んでいるのではないか、というオカルト的要素も含みつつ予想している。
友葉なりに調査したところによれば「秘仏」は、力が強い。
寺という場所に、そんなご利益を求めてやって来る参拝客は、少なくない。
慈満寺の宝物殿には友葉自身「宝物」だと思っている、所謂出土品の類や金銀黄金その他諸々沢山所蔵されている。
そういう情報も含みつつ。
ただ、そうした物の裏には「曰く付き」があることも少なくない。
それゆえに、宝物を求めて人が死んだ。
とか、そんな線も彼女自身捨てきれない。
何しろ彼女はオカルトに眼がない「廃墟研究会」の部長をやっている。
桃ノ染高校で活動する小さい部活だ。
友葉の思考の中にあった、陳ノ内、根耒、沢田という名前。
根耒生祈と沢田彩舞音、それから陳ノ内惇公のことだ。
三人も朝比に協力しているという点で、慈満寺に来ているというのは同じである。
違うのは今現在、友葉と麗慈とは別の場所に居るという点で。
「さあ着いた。一緒に来て欲しいって言ったのはこの部屋なんだ」
麗慈は壁の方へ向かって、手元を探った。
照明が灯る。
全体が真っ白になった。
「うわあ眼が、おかしくなりそう。いきなり真っ白!」
友葉は思わずか手で顔を覆った。
「しばらくすると慣れてくるから大丈夫だよ」
「うんそうね」
「でね、さっきの話だけれど秘仏自体を一般公開するわけじゃないんだよ。だから見て、布被ってこの部屋に置いてあるのはそういう理由なのさ」
布を被った秘仏が眼の前に立っている。
「布を被っていれば結界になるのかな」
「ぼくは、その辺よく分かんない。ただ寺っていう場所単位で見ても、一応寺全体に結界は張っているらしいけれど……。うちのパパとか僧侶の専門分野でしょうなあ」
「そうなあ」
友葉は言った。
布を被った秘仏の周りをぐるりと一周。
ちょうど部屋の中心にあたる場所へ置かれてある。
のかもしれない。
照明も含めて部屋全体が白いために、自分の立っている位置もなんだかよく分からなくなる。
友葉はそう思った。
一周したら、眼が回りそうだ。
で、体勢を立て直すためにかぶりを振り振り。
落ち着いた。
「裏の部屋なのよね、ここ」
友葉は眼をぱちくり。
「そう。裏の部屋はここで本堂は表。すぐ壁の向こうが表の本堂で祈祷なんかをやるスペースだったり。あ、言っている間にキャンペーンの時間が近くなってきたよ」
麗慈はスマホを操作しながら言った。
「何も御開帳って言ったってね。一般公開するのは秘仏じゃなくたっていいのさ」
「いいの?」
「うん。表の本堂では布被った秘仏さんじゃない仏像が公開される」
「代理ってことか」
「そう。たぶん秘仏さんの結界もその分強力だよ。表の仏像と繋げてあるみたい」
あまり踏み込んでもちんぷんかんぷんだな。
「所謂オカルトの領域か」
「そうそう。あんまり考えない方がいい」
「うん。で、その御開帳に関しては理解したと思う。そんで出現しているこの青い画面みたいなのもやっぱりオカルト?」
「ち、違うよこれは! 地下の見張りのためなんだから」
友葉は麗慈のスマホから飛び出した、宙に浮かぶ青いスクリーンを何個か見ている。
浮かぶというより、なんか出ている。
オカルトっていうよりSFかな。
「地下入口とIDロック盤のことだけれど」
「うん」
「堂賀さんが梵鐘を鳴らす時にぼく、地下入口に参拝客が来ないかどうか見張る必要があったって。言ったでしょう。それで地下入口のIDロック盤と監視カメラにアクセスしていた。セキュリティ開発担当は円山さんなの。だから何か変なアクセスを探知したりとかすると、一番最初に気付くのは彼なんだ」
「円山さんって誰なの」
「うちのセキュリティ担当の僧侶!」
麗慈は頭を掻き掻き、指でスマホやスクリーンをつついて操作をしている。
「地下入口のセキュリティ開発担当ってことよね。さっきの話の流れから言えば」
友葉も青いスクリーンを指で弾く。
と言っても麗慈くんの話はやっぱりちんぷんかんぷんだ。
「あ、何か出た。あれ、音声ファイルだって」
「ああ、だから! いじらないでって言っているのに!」
麗慈はムキになって言った。
「じゃあこのファイルは開けないから大丈夫」
「開けないじゃなくて開かないの。そこはぼくしっかりやるんだ」
友葉は苦笑した。
麗慈くんが今スマホを操作しているのは、地下入口の見張りのためだろう。
調査中のいま人の出入りがないか、堂賀さんと慈満寺の調査を続けるために。
でもそれなら、麗慈くんはいずれにしてもセキュリティにアクセス出来るということだ。
円山さんに探知されるか否かはさておき、麗慈くんならIDロック盤で地下入口をロックして、参拝客を押し留めることも出来るのでは。
「ねえ、堂賀さんも言っていたけれど、地下に人が入らないようにしたいんならさ、入口自体を閉じちゃえば? 麗慈くんならそのくらい、アクセス操作も出来るのじゃない」
麗慈はかぶりを振った。
「入口開閉に関しては開発者側じゃないとね。それに、地下入口を閉鎖しようっていう話はもう円山さんとママの間で言っていた。陳ノ内さんと友葉ちゃんの友達たちも居たみたい」
「居たみたいって。何だか見て来たように云うのね」
麗慈は顔を赤らめた。
「あのね、さっき開いた友葉ちゃんの手元の音声ファイルあるでしょう! 監視カメラと地下入口のIDロック盤へアクセスする時に、音声もダウンロードする仕組みにしたの。だから友葉ちゃんの出したその音声ファイルは、そのファイルなわけ。つまり音声で誰が地下入口に来ていたかっていうのを判別出来る仕組みを搭載した。ぼくのシステムにね」
「大問題じゃないか」
「そうかもね。堂賀さんの調査がない時はやれない仕組みにしている。通常時は動かない。よほどの時じゃないと。だからぼくでも操作が難しいの。ただ、それくらい地下は気を付けた方がいいなって思う。実際に人が亡くなっているからさ」
友葉は考え込んだ。
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