推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

30.

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郁伽いくかが「洞窟みたいね」と思った。
それに、やや相応しい空間。
ゆうなれば。

鐘搗麗慈かねつきれいじと、八重嶌郁伽やえしまいくかの二人ともで進んでいる。
天井は低い。
急ぎでも、無理に這っていくという感じでもないが、多少は。
身を屈めないと、難しい。
楽ではないだろう。






明るいとも言えない空間。
天井の低い中を、秘仏も運ばれて通ったという。
何人くらいで、秘仏みたいなものを運べるだろう?
ここの通路を。
とか、郁伽いくかは細かいことを考えながら、身を低くして進む。

本堂裏の雑木林。
一方で、洞窟のような通路に、緑はない。
せいぜい、ただの暗い空間。

身を屈める必要があったのは、八重嶌郁伽やえしまいくかだろう。
鐘搗麗慈かねつきれいじは、そのままでも優に通れる感じだった。
だが彼も場の雰囲気に乗じてか、多少屈み気味で。

足元。
麗慈が更に、身を屈める。

チッと音。
方向。
少々、明かりが照る。

「お」

と郁伽。

「すっかり何も、照明がないわけじゃないんだね」

「そりゃあ、少しはありますよ。暗いと危ないんで」

と麗慈。

「ここは、ゆうなれば昔ながらの寺の道。そのままだろうなあ」

「あんまり手は入っていませんね。五分五分かな。少なくとも、デジタル化とかは、していないから」

と麗慈は苦笑。

郁伽。

「じゃあ、この場には監視カメラとかないの?」

「そうですね。そもそも、ここは関係者以外。立ち入り禁止です」

「いやあ。せっかく寺の感じなのに?」






悠々流れる、軽快なメロディと。
奔放さ。
薄暗い洞窟と。
這わなくてもいいくらいの、天井の低さ。
と?

麗慈。

「郁伽さんがいろいろ、歌を出してるっていうの。ぼく知らなかったですね。この期に及んで知りました」

「そりゃあね。有名な人とかには敵わないもの。せいぜいの認知度」

と郁伽。

一応、郁伽の活動について話になったので、歩き話しながら行くうちに。
八重嶌郁伽の、方々ほうぼう
自らのインディーズの話題。

メロディがいつの間にか、悠々と流れ出した。
麗慈のスマホから。
所謂ドライブ状態である。

なんとなく、慈満寺じみつじという場所に来てから。
無駄に、音に関する話が多い。
とか郁伽は思う。

梵鐘が鳴って?
別の音が前、鳴ったと。
それから、今のこのBGM。
午後に合う。

「なかなか上手いですね。歌」

「そりゃあ、一応練習しているからさ」

「どんなことするんです?」

「なんで、練習なんかに興味あるの?」

「発声練習は、ぼくにも必要ありますもん」

と麗慈。

郁伽。

「例えば、どういうふうに? やっぱり、お経読みたくなるとか?」

「そっちはあんまり。いろいろですよ。前提として、美声のほうがいいからね」






麗慈は、カードおたくだという。
そして、郁伽はオカルトマニア。
ただ一応、麗慈は慈満寺の関係者である。

ので、郁伽のマニア奔放ぶりにも。
優に、無理なく。
ついて来られるみたいで。

場所柄、こんな話題にもなる。

「結局、秘仏を運んだ人って、見たんじゃなかろうか」

「何をですか?」

「秘仏の姿ね。だって。人間が見ちゃいけないんでしょう。その」

「少なくとも」

と麗慈。

「ぼくは、見たことないですから。郁伽さんの優先する説に沿っているかな」

郁伽。

「他の人は見たり?」

「面倒だけど、見ないように。しているとは思いますけれど。ただ御開帳ごかいちょうって言ってもです。参拝のお客さんだって、難しい。まず本当の秘仏の姿は見せてもらえない」

「そうなんだ。じゃあ、どうするわけ?」

「本物は裏のこの場で待機して、参拝の人たちには替わりを見せるんです」

と麗慈。

「一応、替わりの後ろに本物を置いておけば、普通御利益は変わらないっていう。たぶん慈満寺内の、上の人の解釈だと思うけれど。ぼくはよく知らないんで」

「さすがに、そこは寺っぽい解釈なのね。オカルトマニアでも難しい」

と郁伽は苦笑。

「それで、秘仏は今。奥の部屋にあるとっていた?」

「正解。結界とかもあるらしいです。いずれにしろ、本物も結界も、眼には見えないっていう設定?」

「へえ~」






通路の色が変わって来た。
ように、郁伽には見えてくる。
要するに。
電球の量が増えた、ということなのだろう。

鉄扉を開けて、すぐは暗かった。
だが、やはり眼が慣れて。
照明も少々増えてくる。
脚を運ばせて。

八重嶌郁伽やえしまいくか

「結界って、どんな感じなの?」

「それこそ、更に。眼に見えないやつですね」

と、鐘搗麗慈かねつきれいじ

「ぼくは、よくわからないです。そのへん、オカルトマニアのほうが俄然有利なのでは?」

「御開帳に詳しい人に聞いたほうが、無理がないし。確実じゃないの」

と郁伽。

麗慈。

「御開帳すら、よく知らないんですが」

「どうやって、結界が方々引いてあるかって。わかるんだろうね」

「一応。見えないように。布でも覆ってありますから。秘仏」

それだけの状態?
とか郁伽は思ったり。

脚が一歩。
向かうところ。
気が付いて。
差し掛かっているのは、階段。

鉄扉の前にあった、小さい階段と。
やや、同じような形のもの。






布が掛かった秘仏。
あった。
部屋の真ん中、ちょうど中央に。

洞窟から一転、辿り着いた場所。
何もない部屋。

空間が、全体的に真っ白。

神秘的というのなら、相応しいのかもしれない。

身を屈めて通って来たのとも、一転。
部屋の色からして、距離感の判断が難しく。掴みづらかったが。
おそらく、優にある。
天井までの距離。

郁伽はようやく、ここですっかり。
サッと身を伸ばした感じ。

「ここに。運ばれて来た秘仏がある」

と郁伽。

「じゃあ、替えというのはどこだろう?」

麗慈。

「丁度、ここの部屋の向こう。本堂の中と繋がっているので、そっちのほうに。替えのやつを置くって感じですね」

「置くって言ってるけど。直接仏像を丸ごと、全部置くんじゃあないでしょう」

「そうですよ。一応、祠みたいなのに安置されますから」

「なるほど」

ここで、郁伽はふと。
杝寧唯の云っていたであろう「恋愛成就キャンペーン」のことを思い出した。

「キャンペーンのメインていうのは、本堂じゃなかったっけ?」

「そっちは祈祷の話です。ぼくと珊牙さんがさんがメインにしたいのは、あくまでも変な音ですから」

「祈祷やってても、音が聴こえたの?」

「そう。そういうことです。なんで今回の場合、前より準備してみています」

「例えば?」

「録音機材とか。前より更に、導入済みです」






宙に浮かぶ、一つ一つ。
スクリーンは再び。
真っ白い空間に、青い色は映える。

「さっき、向こうの。本堂裏で地下入口の制御って云っていたけれど」

と郁伽。

「言いましたよ」

麗慈はスマホと、四角いような、透明なような。
とにかく仮想表示を、交互に見い見い言う。

「あなたがメインの制御担当じゃあ、ないんでしょう」

「そうです。さっき『無断で制御していた』って言ったでしょう」

「じゃあ、本当の制御とか場所担当、人が居るのね」

「そうです。うちの寺の僧侶で。円山まるやまっていう」

と麗慈。

「地下入口で何か面倒事があったら、一番気にするのは円山さんだと思います」

「今、周囲が忙しいから。場合によっては、気にしないんじゃない?」

「たぶん、ぼくの『無断の制御』とかも、勘づいてるというか。気付いているかもしれない。いや、気付かれている可能性が50%」

「パーセンテージ、やたら低いのね」

「まあ、ぼくもそこそこだったら。やれますから」

浮かんだ仮想表示の画面。
麗慈が操作するのを見ていて、ふと郁伽もなんとなく。
少し触ってみる。

ポップアップ表示が出て、フォルダの表示だろう。
更に、なんとなく触る。

「入口の制御をしたってこと?」

「制御って言うと。言い過ぎですかね。正確には、見張っていたというほうが。語弊が少なかったり」

「優先して、入口を閉じたとか?」

「そこまでは、ぼくのアクセス権では無理です」

「出来るんじゃないの?」

「それやったら、本当に円山さんに捕まります。って。あ」

と麗慈は、ようやく郁伽の手元に気付いた様子。

「ちょっと! そこ勝手に開けないでくださいよ」

「なんで」

「いや、いろいろ保存してた場所とかやつとか……! あああ」

と、麗慈。
   
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