推測と繋ぎし黒は

貳方オロア

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  緑静けき鐘は鳴る【中】

40.どこぞの部屋を探しに

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受け取った紙片。

大月深記子おおつきみきこから、根耒生祈ねごろうぶきへ。
受け取ったのは生祈だ。
紙片はオリエンテーションに関するもの。
アルバイトの内容。その他。

アルバイト内容については、生祈が自ら割り当てられた部屋へ居た時に。
その部屋にあったマニュアルで、若干読んでいた。
今回の紙片には、オリエンテーション内容が、中心の文言で記載。

今朝、生祈に割り当てられたその部屋で。
朝比堂賀あさひどうがと生祈が話した時に。
その時にも、オリエンテーションに関する話は出た。
それは出たものの。

あくまでも、オリエンテーションに関しての時間配分。
その時間配分に関しては、朝比あさひは自身で前例を考えた上で話を展開していったに過ぎない。
紙片での実際の時間配分は、朝比のったそれと。
若干変わっていた。
長引くか、それとも食い込んでくるか。
という感じだった。

何に食い込むか。
朝比と合流するかもしれない、その時間に。

生祈は、一回十円のコピーを引き抜いた。
そして元のコピー原本も引き抜いて。
手早くたたんで仕舞しまう。
社務所。

「一部、 困っていたみたいだったけれど」

怒留湯ぬるゆさんが云っていたのは、そうか。
と生祈は思いつつ。
オリエンテーションの具体的な話等々などなどもきっと。
大広間での朝食の際に話題にのぼった、とか。
それで「困っていた」とか。

直接アルバイトの面々に、慈満寺じみつじの上の人としても話は出来た方がいいのだろう。
直接話す分の要約が、いま渡された紙片記載の文言だとして。






仕事内容に関するマニュアルのようなものには眼を、通した。
オリエンテーションでの若干の、時間の変更。
とはいえ朝比さんと合流をしなければ、いま自分で書いた非公式調査に関するメモを、コピーした意味がない。
それに。

ここの部屋ではない。
確かにパソコンや、デスクトップはある。
大月深記子氏によれば、アルバイトもこの機材に触れる機会があるということだった。
だとするとここではない。
朝比さんと今朝話していた裏の部屋についてだ。
とか生祈は思う。






その「裏の部屋」が、今の非公式調査において朝比の気になっている部屋、である。
だから社務所のこの部屋ではない。
と生祈は判断した。

あと開始まで二十分弱。
オリエンテーション。
参加する人の数は決して、少なくもない。

予め慈満寺会館で、待機していたような人。
例えば生祈のようなパターンは実際少ないだろうが。
恐らく。
つまり朝食の席でオリエンテーションの話を聞いた者も、多くはないということ。
そのぶん説明に、オリエンテーション内で更に時間が上乗せされるとすれば?

生祈は一旦社務所を出た。
合流か、オリエンテーションに居残るか。
いや……と生祈は考えた。
自分は昨日から今日にかけて、あまりにも寝ていない。

寝ないまま。
朝比さんの調査に巻き込まれているのに、途中から行動パターンを変える?

オリエンテーションだからな。
人数に誤魔化されるだろうし。
少なくないもの。
私以外にもアルバイトは居るのだ。
私が参加しなくてもアルバイトはやるのだ。
オリエンテーションもやるのだ。
ならば。
合流を優先しよう。






つまり、オリエンテーションを途中から「サボる」。
生祈が至った考えがそれだ。






賑やかになって来る益々の中を生祈は、きょろきょろ見回した。
先程の問題になっている。
かもしれない「裏の部屋」を。
今から探すとして。

朝比と共に、朝のうちに見た。
慈満寺会館の簡単な見取り図。
そこには各部屋の位置は、簡略化して描かれていた。

実際に部屋に入って見ても、社務所から、裏の部屋へ通じるドアか何かというのは、一見して見当たらない印象だった。
あの見取り図はまだ、私の部屋にあるだろうか?
それともあらかた片付いた、朝比さんの部屋だろうか?

紙片の見取り図だけなら、直接朝比さんが持って行ってしまった可能性もある。
しかも寺にはフロアガイドのような案内図はない。
字で、淡々と書かれたものが壁にあるだけ。

社務所から出て、生祈は建物内階段エリア周辺。
それ以外をぐるっと周り。
建物は中央に、一本大きな柱が渡っている。
その周りから、スペースが存在していく。

朝比の気になるらしい、裏の部屋。
社務所近くにあるのではと見取り図では。
多少判断がついたものの。
壁にある文字だけの案内によると、裏の部屋への案内はない様子。
なら外ではどうだろう?
案内はあるか?
ないか?






通知として見たところによる、その先は。
開けてみる。

「境内にいます」

と一言。
朝比からだった。
だから、生祈はやっぱり外へ出る。

境内にいると言っても。
生祈の近くでないことは、明らかで。
そして現に、やりとりはスマホと通知を介してだ。

「オリエンテーションなんですけれど」

「どうしました」

「どうにかこうにか、大月紺慈おおつきこんじさんからお話を聞く機会を得ました。それで、オリエンテーションはサボることにしました」

という文言に対する返信は、いまは来ない。

生祈は今日で、三回目くらいになるだろうか。
慈満寺会館を出たことに関して。
それとも二回目だろうか。
日光が出ていて、今が二回目。
早朝に一回。
外に出ているから今で三回目。
ただ、外で裏の部屋に関することはまだ。
出た回数の割に、何も掴んではいない。

朝比さんはやっぱり、境内のどこかとすれば。
今の慈満寺会館近くではなく。
亡くなった人の出た地下へ近いほう
つまり本堂の辺り。とか。
その辺に居るのかな?

ただオリエンテーションをサボるとすれば。
後々朝比さんと合流することにはなるだろう。
時間が長引く心配はない。サボるならばそうなる。

「朝比さんが片付けていたあとでしょうか、大月紺慈さんと岩撫いわなでさんが来ていまして」

「なるほど」

と一言。

「今は裏の部屋を探しています」

と書いてスマホを仕舞しまった。
たぶんまた一言、朝比からは

「なるほど」

と来るだろう。
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