推測と仮眠と

六弥太オロア

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  途上、ヤシと先

21.

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ライブに行くか、なんていう話になった。
杵屋依杏きねやいあは元々、あまりライブに行くたちではない。

八重嶌郁伽やえしまいくかが、黒田零乃くろだれのから貰った、とかいうメダルの話ありき。
アメリカだの海の話になりきで、ライブについてを言い出したのは郁伽から。

依杏同様、郁伽も零乃からの流れやはなしから、多少なりとも影響は受けたことになるのだろう。






九十九つくも社では普通に日中が過ぎ、大きい葬儀の仕事もあったが。
依杏と郁伽はもっぱら、事務所仕事だった。

大きい案件というのは、九十九社の重鎮がメインになって片付ける。

有名人じゃなくとも、事業で成功して会社を大きくした人だったりとか。
あるいは、信心深くて死後の世界は、ちゃんと見送りを付けてやらねばならないとか。

そういう依頼人いらいにんの口から、大きい案件が出る。






事務所仕事を任されている間にやったのは、その案件では花の手配など。
数登珊牙は、ってからようやく連絡を寄越したものの、依杏はその来た連絡をよく見ていなかった。

内容については文面のやりとりでは、ないほうがいいだろうし。とか。
というのは、連絡は文面で寄越されたからである。


しかし文面じゃない方が、いいと依杏は思ったとして。
時差。時間。一日の進み具合的には、時間が、というか一日プラスでっているのは、今のここ。

数登たちが居るフロリダが夜であれば、こちらには太陽が空にある状態。
少なくとも、晴天であれば。






十月の花の手配というので、あまり華美なものは控えておく。
季節感。

そうやって時間は過ぎ、一応よく見ていなかったからと、依杏はせめて来た連絡を開くだけでもしようと、したのだが。
所々挙動が変。デバイスである。

それも無理ないのかもしれない。

というのは九十九社にあるデバイス、およびデスクトップは総じて新しいものとは決して、言えないためである。

ただ自社サーバーにはセキュリティ面等、相当気をつかっているとかいないとかで、顧客管理となると特にそうなるのだが。

デバイス単位でも変化が必要なのは間違いなく。

「ライブ、誰のライブですか?」

依杏はようやく、座った郁伽に尋ねる。

「例えば、何かバーチャルアイドルとか?」

と言いつつ、依杏はバーチャルアイドルについて無知に近かった。
あくまでバーチャルアイドルについての今の知識は、数登が発つ理由になったユーオロテ繋がり、というだけで。

「さっき、珊牙さんがさんからの通知が来てまして。内容あまりよく見ていないんですが、たぶんユーオロテに関することで何か分かったとか、そんなような内容かと」

「今は見ないの?」

「うーん……なんか立ち上がりが悪くてですね」

「そう」

郁伽は椅子に深く掛け直す。

「ライブとか言い出したのが突然だったからね、あたしも。少なくとも絢月咲あがさに関しては、あんたお腹いっぱいでしょう」

「お腹いっぱいっていうか」

依杏は苦笑した。

「そもそも絢月咲さんのお仕事方面から突っ込んだ話って、あんまり出ないじゃないですか」

「そうね。確かに。いずれにしてもまあ、今の時期ですぐ取れるライブとかは、あるかどうかも難しいかもしれないが」

「じゃあどんな想定で、誰のがいいと思って言ったんです?」

「珊牙さんからのメールの、立ち上がりはまだ?」

検索ブラウザは、立ち上がったがメールの方はまだだ。
郁伽もデバイスをオンにする。

依杏は一旦席を立った。
お茶を淹れる目的である。






「立ち上がったみたいだけれど、確かに接続は悪いかもしれないね」

と郁伽。
依杏のデバイスを見て言う。

依杏はお茶をれながら肯く。

接続が悪いのもまた、ライブとかそういうイベントと、相性が悪い感じがいなめない。

「何か気になる情報とか、書いてあります?」

「一応、ユーオロテの立ったとされる現場の舞台を見に行った、とかなんとからしいけれど。あとなんか別の人のライブとかも、そこであるらしい。とある人からの情報だって。珊牙さんが泊っている先の人とか、なんとか」

「へえ」

「トリー・エーカねえ」

「誰ですか?」

「その人みたいなライブがこっちでもあれば、いいけれどねえ」

郁伽は自身のデバイスへ戻って、ガチャガチャやり出した。

トリー・エーカって誰だ?
と思う依杏。

湯呑を口へ運んだ郁伽。

依杏。

「あんまり有名じゃない人ですよね。こっちだと」

「確かにね。ユーオロテよりは有名でない。って珊牙さんも書いているけれど。彼のチケットの取得率は割とやさしめにしてあるとか、なんとかみたいね」

検索で得た情報のようで。

「人気な人だと、取得率とかいう問題じゃなくなりますからね」

「あんた、よく分かっているじゃないか」

「その辺は、まあ」

依杏も座る。
ちょっと郁伽の位置が接近気味なので、画面を自分側に。

画面は確かに立ち上がっている。
その文面も読める。


しかし、今の立ち上がりの状態では、何かを予約するというのは不利な状態には変わりなく。
たぶん一回画面は立ち上がっているから、何か書いて返信するくらいであれば、それは出来るだろう。

うん。
とか思って依杏も、ガチャガチャやり出す。

「易しめですか」

「そう」

「で、誰のライブに行くんですか? 珊牙さんはそのトリーとかいう人のことを、ちょっと聞き出して、あとはユーオロテのことは、あんまり聞き出せなかったみたいな感じに書いていますね」

「零乃のことは何か書いている?」

「何も。今は、一旦本拠地に戻る車の中だって」

「ふうん。あっちは夜だものね。現場ってことはカジノ?」

「たぶん」

「そういえば零乃はグループも、やっていたんだっけ。あれ……なんかこっちも繋がりにくいな」

画面を見ると、接続保留の状態がぐるぐる回っている模様。

「そっちもですか」

「そうなのよ。あんた何かした?」

依杏は少々ムッとする。

「いや、私は何もしていないですけれど。先日から顕著だとは思いますがね」

「あ、繋がった。何か前後で、どっか変な所にアクセスしたとかじゃないの? でさ。零乃のグループの一人で、何回か入れ替わった後に入ったメンバーが、ソロをやるって書いているよ。チャリティー。これなら参加しやすいんじゃない?」

郁伽側の画面に、検索によるアバウトな情報が出ている。

「チケットを取るのが易しめになるってことですか? トリーさんみたいに」

「たぶんね」

「いつですか?」

尋ねながら依杏は、数登への返信を打とうと試みる。
挙動は、今のところまずまず。

依杏。

「どっちのデバイスから、予約取れそうですかね」

「それも悩ましい所か」

「予約取る前に、なんか見てもらったほうがいいんですかね。デバイス自体」

「そろそろねえ。あんまり点検とかしてもらったことないし」

「それもそう」

気になる記述があった。
なになに「吐いたあと」?

誰かしら酒に酔ったから?
カジノなら、ありそうなことではあるけれど……

「ライブに間に合わないかもね。一応あたしのほうで取ってみるから」

「そういえば思い出したんですけれど、あんまり九十九社のデバイスではやらないようにしていたんですが……」

「何?」

「個人的な通販の買い物とかです。そのあとくらいか、挙動がなあと」

「一応業務用だからな」

「分かっています」

にしても「吐いた痕」か……。
全体的には収穫は今のところなさそう。

海外アーティストで誰かいないかなあ、ライブ近日にある人。
とか依杏は思って別のタブを開きつつ。

チャリティーだとあまり、ソフトリーアズとかカジノとはかけ離れ過ぎている。
なんの参考にもならなそう。

ついでに点検はやっぱり依頼したほうがいいだろう。
送信。

といっても、数登も収穫がなかったことに対して、依杏と郁伽側で何かあったかと言えば、当然何もない。

いて言うなら

「その吐いたっていうのは、やっぱり場所柄とかですかね。カジノの駐車場らしい」

とか。
しかしまあ、わざとらしくもある。
そしてデバイスは繋がりにくい。
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