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「鳴」を取る一人
52.
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桶結千鉄。
刑事。
そして、釆原凰介は記者である。
桶結は、なんで記者が居るんだと、いいたげの表情。
「たまたまですよ」
「偶然なのか」
「ええ」
睨み合いではないような、あるいは睨み合いかもしれないような。
釆原が名刺を渡した後の、桶結の表情の硬直加減。
そして、なんとなくの居心地の悪さ。
訊きこみと言っても、そう。
釆原さんの方が、慈満寺に居る人々に「訊きこみ」という名の情報収集をしたいのだから、なおさらである。
と、杵屋依杏は勝手に思って、しばらく彼らの顔を交互に見ていた。
遺体の状況。
関係者である数登珊牙が、場に居るということで。
少し緩和があった。
桶結は写真を取り出して、釆原へ見せている。
依杏と鐘搗麗慈の二人には、見えない。
おもての面。
と、なんとなくの緊迫感が一気に、変わった。
というのも、場の流れが変わった。
何故か。
「あなたたち。私に嘘をついていたでしょう」
やって来たのは、鐘搗深記子だった。
今更ながら、釆原や依杏が彼女を、数登から眼を逸らさせるという目的で、
「数登は地下に居ます」
なんて嘘をついたことが、バレたのである。
当然の成り行き。
やって来たというより、脚を踏み鳴らして乗り込んで来たという印象が強い。
ついでに、部屋には麗慈が居たのだから、猶の事。
ましてや。
数登珊牙本人は、寝そべっている。
「どういう状況なのかしら。これは」
刑事VS記者というより、慈満寺関係者のほうが存在が大きくなってしまった、部屋。
桶結。
「どうか、なされたんですか」
と言うも、言葉が深記子へ。火に油を注ぎ。
というか今の状況と場では、慈満寺で死体が出たということもあるので。
混乱の度が強いのも手伝って、怒りに燃えた女性というのは、手が付けられなくなる。
とか。
鐘搗深記子は、まさしくそんなタイプだった。
最終的に、深記子は麗慈を引っ立てて、嫌がる我が子の手を無理矢理に引き。結局、部屋を出て行った。
依杏はがっくり来た。
鐘搗深記子が、美人で清楚な印象というのが第一印象だったから。
嫌がる息子の手を引いて、引っ立てて行く姿というのは、依杏の眼には猶の事。
痛々しく映った。
たぶん、麗慈くんはこっぴどくというのは、眼に見えている。
こんな状況で、慈満寺でのアルバイト。
果たして、私は無事に。上手くいくかしら……。
なんとなくだが、深記子の激高ぶりに。
依杏は、自分の「よく家に居ない」親のことを、照らし合わせてしまった。
それで、余計に麗慈を不憫に思った。
外はまだ明るい。
だが時刻的には夜だ。
依杏は、お腹がすいてきている。
彼女は昼から、何も食べていない。
食べなくても彼女は平気ではある。しかし、依杏は。お腹がすくのは気になっていた。
慈満寺の地下で発見された遺体には、あまり外傷がなかったと。
なかったと言っても、過言ではないらしい。
一部気になった点としては、脚の裏の部分だったそう。
直接の死因になるかどうかは、現時点では不明。
桶結は淡々と、そのことを説明していく。
一部は釆原凰介が、情報として予め持っていたものと同じ。復唱。
慈満寺は一応、敷地内の気温が低い。
敷地だけでなく寺というその造り自体が、建物の構造上、夏は涼しく冬は寒い。という。
桶結の話でも、鐘搗麗慈の話と同じく。
地下で出た遺体は、いま本堂へ置いてあるということ。
彼は、早く遺体を検死へ回したい様子。
「すみません」
と、もう一人。
鐘搗深記子ではない。
端からその様子を見ていたという、岩撫衛舜。
というか彼は、深記子が部屋へ入って来た辺りから、ずっと居たのだそうで。
「気配が全く、しなかったんですが」
と釆原が苦笑する。
「私も気付かなかった」
と桶結。
「酷いなあ。でもまあ、深記子さんの様子じゃあねえ」
確かに。
激高ぶりが目立っていたので、細かいことに気が回らなかったのは、和室に居た全員がそうである。
数登はどうだったか。
相変わらず、寝そべったままである。
岩撫は和室へ。
手にした盆に、湯呑五つ。
そしてちゃぶ台の上の、カラの湯呑は盆へ移動。
岩撫が淹れてきたと思われる分は、少し冷めている。
ちゃぶ台へ、冷めた方が移動する。
怒鳴って部屋から、鐘搗深記子が出て行くまで。
岩撫としては、廊下からすでに様子を目撃していたらしい。
そのまま、和室へ入るタイミングを逸したので、突っ立っていた。
という。背が高い。
依杏としては、そんな印象を受けた。
「ええっと、確か本堂前で気絶されたのが」
岩撫は尋ねた。
「あなた」
「あ、あの私。杵屋依杏と言います。なんだかお世話になったみたいです、か?」
依杏はペコリと頭を下げた。
「いえいえ、あの際。何がどうとかいう場合じゃ、ありませんでした。倒れたんだもの。さて」
岩撫は言う。
「先程のは一体」
ここぞとばかりに言う。
「地下の扉の件なんです」
釆原が言った。
「確か岩撫さんも円山さんらと同じく、セキュリティへ携わっているという話でしたがね」
「え。私のこと知っておられる? 話、というと……」
岩撫は眼をぱちくり。
「あなたも、まさか刑事さん?」
釆原へ尋ねた。
「いえ。違いますよ」
と桶結。
岩撫は、びっくりした様子で。
「では、あなたが刑事さん」
「ええ」
桶結は、岩撫へ手帳を開いて見せた。
刑事。
そして、釆原凰介は記者である。
桶結は、なんで記者が居るんだと、いいたげの表情。
「たまたまですよ」
「偶然なのか」
「ええ」
睨み合いではないような、あるいは睨み合いかもしれないような。
釆原が名刺を渡した後の、桶結の表情の硬直加減。
そして、なんとなくの居心地の悪さ。
訊きこみと言っても、そう。
釆原さんの方が、慈満寺に居る人々に「訊きこみ」という名の情報収集をしたいのだから、なおさらである。
と、杵屋依杏は勝手に思って、しばらく彼らの顔を交互に見ていた。
遺体の状況。
関係者である数登珊牙が、場に居るということで。
少し緩和があった。
桶結は写真を取り出して、釆原へ見せている。
依杏と鐘搗麗慈の二人には、見えない。
おもての面。
と、なんとなくの緊迫感が一気に、変わった。
というのも、場の流れが変わった。
何故か。
「あなたたち。私に嘘をついていたでしょう」
やって来たのは、鐘搗深記子だった。
今更ながら、釆原や依杏が彼女を、数登から眼を逸らさせるという目的で、
「数登は地下に居ます」
なんて嘘をついたことが、バレたのである。
当然の成り行き。
やって来たというより、脚を踏み鳴らして乗り込んで来たという印象が強い。
ついでに、部屋には麗慈が居たのだから、猶の事。
ましてや。
数登珊牙本人は、寝そべっている。
「どういう状況なのかしら。これは」
刑事VS記者というより、慈満寺関係者のほうが存在が大きくなってしまった、部屋。
桶結。
「どうか、なされたんですか」
と言うも、言葉が深記子へ。火に油を注ぎ。
というか今の状況と場では、慈満寺で死体が出たということもあるので。
混乱の度が強いのも手伝って、怒りに燃えた女性というのは、手が付けられなくなる。
とか。
鐘搗深記子は、まさしくそんなタイプだった。
最終的に、深記子は麗慈を引っ立てて、嫌がる我が子の手を無理矢理に引き。結局、部屋を出て行った。
依杏はがっくり来た。
鐘搗深記子が、美人で清楚な印象というのが第一印象だったから。
嫌がる息子の手を引いて、引っ立てて行く姿というのは、依杏の眼には猶の事。
痛々しく映った。
たぶん、麗慈くんはこっぴどくというのは、眼に見えている。
こんな状況で、慈満寺でのアルバイト。
果たして、私は無事に。上手くいくかしら……。
なんとなくだが、深記子の激高ぶりに。
依杏は、自分の「よく家に居ない」親のことを、照らし合わせてしまった。
それで、余計に麗慈を不憫に思った。
外はまだ明るい。
だが時刻的には夜だ。
依杏は、お腹がすいてきている。
彼女は昼から、何も食べていない。
食べなくても彼女は平気ではある。しかし、依杏は。お腹がすくのは気になっていた。
慈満寺の地下で発見された遺体には、あまり外傷がなかったと。
なかったと言っても、過言ではないらしい。
一部気になった点としては、脚の裏の部分だったそう。
直接の死因になるかどうかは、現時点では不明。
桶結は淡々と、そのことを説明していく。
一部は釆原凰介が、情報として予め持っていたものと同じ。復唱。
慈満寺は一応、敷地内の気温が低い。
敷地だけでなく寺というその造り自体が、建物の構造上、夏は涼しく冬は寒い。という。
桶結の話でも、鐘搗麗慈の話と同じく。
地下で出た遺体は、いま本堂へ置いてあるということ。
彼は、早く遺体を検死へ回したい様子。
「すみません」
と、もう一人。
鐘搗深記子ではない。
端からその様子を見ていたという、岩撫衛舜。
というか彼は、深記子が部屋へ入って来た辺りから、ずっと居たのだそうで。
「気配が全く、しなかったんですが」
と釆原が苦笑する。
「私も気付かなかった」
と桶結。
「酷いなあ。でもまあ、深記子さんの様子じゃあねえ」
確かに。
激高ぶりが目立っていたので、細かいことに気が回らなかったのは、和室に居た全員がそうである。
数登はどうだったか。
相変わらず、寝そべったままである。
岩撫は和室へ。
手にした盆に、湯呑五つ。
そしてちゃぶ台の上の、カラの湯呑は盆へ移動。
岩撫が淹れてきたと思われる分は、少し冷めている。
ちゃぶ台へ、冷めた方が移動する。
怒鳴って部屋から、鐘搗深記子が出て行くまで。
岩撫としては、廊下からすでに様子を目撃していたらしい。
そのまま、和室へ入るタイミングを逸したので、突っ立っていた。
という。背が高い。
依杏としては、そんな印象を受けた。
「ええっと、確か本堂前で気絶されたのが」
岩撫は尋ねた。
「あなた」
「あ、あの私。杵屋依杏と言います。なんだかお世話になったみたいです、か?」
依杏はペコリと頭を下げた。
「いえいえ、あの際。何がどうとかいう場合じゃ、ありませんでした。倒れたんだもの。さて」
岩撫は言う。
「先程のは一体」
ここぞとばかりに言う。
「地下の扉の件なんです」
釆原が言った。
「確か岩撫さんも円山さんらと同じく、セキュリティへ携わっているという話でしたがね」
「え。私のこと知っておられる? 話、というと……」
岩撫は眼をぱちくり。
「あなたも、まさか刑事さん?」
釆原へ尋ねた。
「いえ。違いますよ」
と桶結。
岩撫は、びっくりした様子で。
「では、あなたが刑事さん」
「ええ」
桶結は、岩撫へ手帳を開いて見せた。
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