転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
20 / 83
一章 真紅の王冠(レグルス編)

18.誘拐の真相(前編)

しおりを挟む
 ***

 実は、俺たちはお説教を受けるより前、更に言うと、パーティ会場に姿を見せるよりずっと前に、直接、デネボラに会いに行っていた。

 普通、誘拐の実行犯と誘拐されたはずの人質が一緒に自分に会いに来たらどうする?

 普通は自分の犯行がバレてしまうことを恐れて、俺たちを殺そうとするなり、逃げようとするなり、何かするはず。なのに、デネボラはそうしようとしなかった。
 デネボラは妙に冷静で、「嗚呼、寝返ったのね。まあ、仕方ないことかしら」なんて言ってくる。デネボラが普通じゃない可能性もあったが、それにしたってちょっと他人事すぎる発言だ。

 王子の誘拐だぞ。バレたら自分が処刑されるかもしれない。もう少し取り乱すとか何かあるだろう。観念するのが早すぎる。

 そこで俺は確信した。デネボラは黒幕じゃないと。

 そこで散々、黒幕のことを聞き出そうとしたが、デネボラは頑として言わなかった。
 流石にそこまで来ると、黒幕なんていないのかと思いかけたときだった。デネボラは「から弟であるテオの命は助けてほしい」と言ってきた。

 そこで俺は疑問に思った。デネボラは本当に妊娠してるのだろうか。普通に考えたら、そんなに大事な子どもがお腹にいたら、何がなんでも守ろうとするはずだ。

 で、考えたわけ、妊娠してないとしたら、今の状況はやっぱりおかしいって。だって、デネボラにはレグルスを誘拐して殺そうとするメリットが全くないんだから。
 上手くいっていた今までの生活を捨ててまでレグルスを誘拐する必要ない。他に何か、例えば恨みがあってだとしても、この態度はあっさりしすぎている。
 やっぱり、デネボラ以外に黒幕がいて、ソイツに脅されてとしか考えられない。

 そして、もしかしたら、あのゲーム内で語られたレグルスのトラウマというのも真実ではなく、やはり誰かによって造られたものなんじゃないかと思ったんだ。
 その誰かが「デネボラが妊娠している。だから、王子を誘拐して殺そうとしていた」とレグルスに吹き込んだ。だから、レグルスはトラウマを抱えてしまった。
 吹き込んだ相手はおそらくデネボラを消したくてしょうがない人物ーーつまり黒幕だ。

 やはり、どう考えても他に黒幕がいた方がしっくりとくる。

 でも、デネボラ、全く話してくれないわけ。
 仕方ないから、リゲルに事情を話して、サクっとテオを捕まえてきてもらって脅されてそうなネタを吐かせた。
 吐かせたのはよいものの、やっぱりアントニスやテオの証言だけでは証拠としては不十分で、アクアオーラのヤツを捕まえられそうもなかった。
 だから、こんな大掛かりな計画を立てて、皆に演技してもらったんだ。

 ***

 テオは覚悟を決めたような顔をした。
「姉がこの男に脅されていた理由……それは、姉が王子の実母を殺したからです」

 ざわっと兵士たちが動揺したような声を上げる。

「テオ様、もう少し正確に話してくださらない?」
 俺は動揺をかき消すように努めて冷静に声を掛けた。
 言い方が不味い。ここを聞くだけではデネボラは完全に悪い奴になってしまう。

「はい。では、もう少し正確に言わせていただきます。王子の実母が死んだ原因を作ったのは姉ということです。実際に殺したのは、王子の実母の生家の者でしょう」
「違う! 殺したのは王妃だろう! 自分より先に二人目の子を妊娠したから、嫉妬して殺したんだよ!」
 アクアオーラは叫ぶ。

「……やっぱり、勘違いされていたんですね」
 俺は冷ややかにアクアオーラに向かって言った。

「勘違い? いいや、私ははっきりと聴いたんだ! あの女が『自分が殺した』と言っていたのを。だから、私はそれを使って脅し……た」
「問うに落ちず、語るに落ちるというやつですね」
 リゲルは、口を押さえて震えるアクアオーラを愉快そうに眺めながら呟く。

 はっきりと脅したと口にしたアクアオーラは、もう落ちたも同然だった。

 それでも、まだ王族殺しというデネボラへの疑惑は拭えていない。騎士や兵士たちは何が真実か分からず混乱しているように見えた。

「本当に殺したとデネボラ王妃殿下が仰ったんですか?」
「そうだ」
「本人にとってはそれが真実で、そう思っていたのかもしれません。でも、事実はどうでしょう?」
 そう言いながら、俺はチラリとレグルスの顔を見る。レグルスの表情には何も浮かんでいない。

 きっと俺は残酷なことをしている。レグルスにとって、知らない方が良かった過去を暴いているのかもしれない。
 でも、周囲に真実を知らなければ、可哀想なデネボラは黒幕にされて処刑されてしまうのだ。

「姉はそんなことで前王妃様を殺すことはありません。だって、初めから自分以外がーー前王妃様が御子を産むことは決まっていたんです」
 テオはキッパリと告げた。

「決まっていた?」
「ええ、姉は妊娠できません。そういう身体なんです。だから、王妃にはなれなかった」
「だったらなおのこと!」
 アクアオーラは身を乗り出し、叫ぶ。

「黙れ! お前に何が分かる!」
 テオの目には殺意が宿っていた。

「姉は小さな子どものころから王妃になるよう教育をされてきた。それこそ遊びたい盛りのころからずっと。でも、姉は何処か楽しそうだった。当時婚約者だった国王陛下のことをとても愛し合っていたから。沢山勉強をして立派な王妃になるんだって言っていたんだ。そんな姉を国王陛下は大事にしてくれていました。二人は幸せそうだった。それなのに、子どもが産めないことが見つかって……」
「それなら、恨んだはずだろう。自分が受け取れるはずの地位も、名誉も、権力も、婚約者も、全て失ったんだ!」

「やっぱり、何も分かってない。権力しか頭のないお前にはきっと分からないんでしょう」
 テオは憐れむようにアクアオーラを見下ろす。殺意混じりの冷えた視線にアクアオーラは思わず目を背ける。

「子どもが産めなくてもいいから伴侶に――王妃になって欲しいと国王陛下は仰ったんです。それを断ったのは姉でした。姉は自分の代わりに前王妃様を王妃に推薦しました。そして、十分な教育の時間のなかった前王妃様を補佐するため、自分は側妃として二人を支えることを望み、そばに居続けた」

 ここで話が終われば、美しい物語だっただろう。レグルスも苦しむことはないはずだった。でも、現実は物語ではない。終わることなく、続いていくのだ。

「勿論、愛する人の子どもであるレグルス殿下のことも深く慈しんでいました。でも、姉はそこまで強くなかったんです。国王陛下を愛していた分、生まれてきた子どもが愛しい分、どうしても自分の手に入れられなかったものを突きつけられ、嫉妬してしまう自分に苦しんだ。苦しんで嘆いて恨んで、それでも厭うことができず、姉の心はズタズタになってしまいました。そんな中、前王妃様が第二子を懐妊しました」
「だから、殺してしまった?」

 テオはゆっくりと首を振った。
「いいえ。姉はただ呪ってしまっただけです。『あの腹に宿っているのは不義の子だ。生まれたときに見るがいい。髪は黒く、きっと王には似ていない』と言って」

 レグルスは苦虫を噛みつぶしたような表情でテオを見つめていた。

「幸いなことにこの呪いを聞いていた人はほとんどいませんでした。聞いていた人ですら、嫉妬深い側室が正室に向かって嫉妬紛れに言った世迷言を信じることもなかったでしょう。傍目から見れば、陛下は前王妃様を愛しているように見えたし、前王妃様だって陛下を愛していているように見えた。姉の呪いは誰にも届かず、ただ消えていくはずでした」

 それはほんの少しの悪意だった。そんなものでも、人は死ぬのだとテオは言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...