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一章 真紅の王冠(レグルス編)
19.誘拐の真相(後編)
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「実際に生まれた子どもの髪は金ではなく、前王妃様の髪に似た黒に近い茶髪だったそうです。そして、前王妃様の護衛騎士には黒髪の方もいたそうです」
「それだけで……ただ自分の髪の色と似た子どもが生まれただけ?」
「ええ、それだけで十分だったんです。前王妃様の祖父に当たる方は若い頃奔放な方で庶子も沢山いたそうで、前王妃様の家門は後継者問題でとても苦労されたようですよ」
呪いの言葉を吐いた女の予言通り、黒に近い髪の色の子供が生まれた。たったそれだけのことだった。それでも、十分だった。
ただの妄言が限りなく真実に近い何かになった瞬間だった。
「姉は『あの日は部屋を出入りする者が多く、慌ただしい様子だった』と言っていました。そのとき、姉は出産予定日よりも出産が早くなったせいで慌ただしいのだとばかり思っていました。しかし、その後、本当に前王妃様は亡くなってしまった。前王妃様は難産の末、子どもと一緒に亡くなったのだと周囲から言われ、姉もそうだとずっと思っていたのです」
「わたしも父上から難産で弟と一緒に亡くなったと聞いた」
レグルスの言葉にテオも頷く。
「ええ。ですが、予定の出産の時期からずれたせいで国王陛下はそのとき出産には立ち会えなかったはずです。実際にどのような状況で亡くなったのかご存知ありません」
テオの言葉にレグルスは何も言えずに黙り込んでしまう。
勿論、俺も周りの騎士や兵士も何も言えずにじっとテオの言葉を待った。
「姉が前王妃殺しに気付いたのは随分後のことでした。姉の定期検診をしていた医師が前王妃様から生まれた子が濃い茶色の髪だったこと、お産は順調に進んでいたはずが前王妃様が亡くなったことを漏らしたのです。その後、その医師は自殺しました。その医者は前王妃様の遠縁の者でした」
テオは視線を少し落とし、俯くと静かに息を吐いた。
「姉は自分のしたことを悟りました。自分の言葉で前王妃様を怪しんだ者が生まれた子どもの髪を見て、本当に不義の子だと思った者が証拠である子どもを殺したのだと。それを拒んだ前王妃様まで殺してしまったのだと。あの日、順調なはずのお産で人の出入りが多かったのは、部外者ーー本当に不義の子が生まれるのかどうか気になった前王妃様の生家の者が数人の紛れ込んでいたせいだろうと姉は思いました」
小さな呪いは消えず、人を介す間に悪意を溜め込み、届いてはならぬ者に届いてしまった。そうやって大きな悪意になった呪いはレグルスの実母を殺してしまったのだと、テオは言う。
「そんなの嘘だ。だって、母上は嫉妬なんて……いつも優しくて」
レグルスは譫言のように呟く。
もう既にテオから聞いた内容で、とっくに知っているはずなのにやはり信じることが出来ないらしい。
俺はデネボラのことを全く知らない。
でも、レグルスの言う母上のことは知っている。レグルスの母上は優しいだけではない。必要とあれば厳しい言葉も掛けて、いつもレグルスを導いてくれる人だと言う。レグルスの言葉を信じるなら、とても強い人なのだろう。
「姉は本当に恐ろしいことをしたと悔いていました。心の底から悔いていたからこそ、貴方に人一倍愛を注ぎ、力になろうとしたんです」
テオの言葉からも、デネボラはあの姿に似合わず真面目な性格をしているように思えた。
強くて真面目で、普段から自分というものを理性で動かすことができると思っている人。だからこそ、自分を追い詰めて、追い詰められて感情を制御できなかったとき、どうしようもなくなって呪ってしまったのかもしれない。
俺にはデネボラを責めることが出来ないと思った。
「それなのに、この男はそれに付け込んで姉を脅したのです。この男は卑怯者です。『王子の母上を殺したのはお前だろう。黙っていてほしければ協力しろ。少し外に出てもらって助け出すふりをするだけだ。王子には危害を加えない』と言って脅してきました。僕は反対しました。罪を重ねてほしくなかったから。しかし、姉は寧ろ罪を重ねることで断罪してほしかったのでしょう。この男に協力したのです」
テオが言い終わる頃には、辺りは静かになった。誰も何も言えずにレグルスを見つめた。
レグルスだけが真っ白な顔をしてテオをずっと見ていた。
静寂を破ったのは、勿論あの男だった。
「違うんだ! 全部あの女の妄想だ! あの女にみんな騙されている!」
アクアオーラは叫ぶ。先程自白したばかりだと言うのに、往生際の悪いやつだ。
「いえ、少なくとも、デネボラ様が妊娠できないことと、王子の母君の生家では当時の当主が王子の母君が亡くなったすぐあとに自殺していることは確認しております。そこから、推測されることは……もう分かりますよね?」
ランブロスは冷たく突き放すように言った。
「くそ、くそ、くそ!」
もう打つ手がないと思ったのか、アクアオーラは叫びながら、地面を何度も蹴りつけた。その姿はいっそ哀れだ。
「俺もついでに話をしてもいいですか?」
リゲルは楽しそうにアクアオーラに向かった。年相応の少年のような笑顔。しかし、その顔には悪意が滲んでいるように見えた。
「なんだ! 言ってみろ!」
ヤケクソのようにアクアオーラは答えた。
「それだけで……ただ自分の髪の色と似た子どもが生まれただけ?」
「ええ、それだけで十分だったんです。前王妃様の祖父に当たる方は若い頃奔放な方で庶子も沢山いたそうで、前王妃様の家門は後継者問題でとても苦労されたようですよ」
呪いの言葉を吐いた女の予言通り、黒に近い髪の色の子供が生まれた。たったそれだけのことだった。それでも、十分だった。
ただの妄言が限りなく真実に近い何かになった瞬間だった。
「姉は『あの日は部屋を出入りする者が多く、慌ただしい様子だった』と言っていました。そのとき、姉は出産予定日よりも出産が早くなったせいで慌ただしいのだとばかり思っていました。しかし、その後、本当に前王妃様は亡くなってしまった。前王妃様は難産の末、子どもと一緒に亡くなったのだと周囲から言われ、姉もそうだとずっと思っていたのです」
「わたしも父上から難産で弟と一緒に亡くなったと聞いた」
レグルスの言葉にテオも頷く。
「ええ。ですが、予定の出産の時期からずれたせいで国王陛下はそのとき出産には立ち会えなかったはずです。実際にどのような状況で亡くなったのかご存知ありません」
テオの言葉にレグルスは何も言えずに黙り込んでしまう。
勿論、俺も周りの騎士や兵士も何も言えずにじっとテオの言葉を待った。
「姉が前王妃殺しに気付いたのは随分後のことでした。姉の定期検診をしていた医師が前王妃様から生まれた子が濃い茶色の髪だったこと、お産は順調に進んでいたはずが前王妃様が亡くなったことを漏らしたのです。その後、その医師は自殺しました。その医者は前王妃様の遠縁の者でした」
テオは視線を少し落とし、俯くと静かに息を吐いた。
「姉は自分のしたことを悟りました。自分の言葉で前王妃様を怪しんだ者が生まれた子どもの髪を見て、本当に不義の子だと思った者が証拠である子どもを殺したのだと。それを拒んだ前王妃様まで殺してしまったのだと。あの日、順調なはずのお産で人の出入りが多かったのは、部外者ーー本当に不義の子が生まれるのかどうか気になった前王妃様の生家の者が数人の紛れ込んでいたせいだろうと姉は思いました」
小さな呪いは消えず、人を介す間に悪意を溜め込み、届いてはならぬ者に届いてしまった。そうやって大きな悪意になった呪いはレグルスの実母を殺してしまったのだと、テオは言う。
「そんなの嘘だ。だって、母上は嫉妬なんて……いつも優しくて」
レグルスは譫言のように呟く。
もう既にテオから聞いた内容で、とっくに知っているはずなのにやはり信じることが出来ないらしい。
俺はデネボラのことを全く知らない。
でも、レグルスの言う母上のことは知っている。レグルスの母上は優しいだけではない。必要とあれば厳しい言葉も掛けて、いつもレグルスを導いてくれる人だと言う。レグルスの言葉を信じるなら、とても強い人なのだろう。
「姉は本当に恐ろしいことをしたと悔いていました。心の底から悔いていたからこそ、貴方に人一倍愛を注ぎ、力になろうとしたんです」
テオの言葉からも、デネボラはあの姿に似合わず真面目な性格をしているように思えた。
強くて真面目で、普段から自分というものを理性で動かすことができると思っている人。だからこそ、自分を追い詰めて、追い詰められて感情を制御できなかったとき、どうしようもなくなって呪ってしまったのかもしれない。
俺にはデネボラを責めることが出来ないと思った。
「それなのに、この男はそれに付け込んで姉を脅したのです。この男は卑怯者です。『王子の母上を殺したのはお前だろう。黙っていてほしければ協力しろ。少し外に出てもらって助け出すふりをするだけだ。王子には危害を加えない』と言って脅してきました。僕は反対しました。罪を重ねてほしくなかったから。しかし、姉は寧ろ罪を重ねることで断罪してほしかったのでしょう。この男に協力したのです」
テオが言い終わる頃には、辺りは静かになった。誰も何も言えずにレグルスを見つめた。
レグルスだけが真っ白な顔をしてテオをずっと見ていた。
静寂を破ったのは、勿論あの男だった。
「違うんだ! 全部あの女の妄想だ! あの女にみんな騙されている!」
アクアオーラは叫ぶ。先程自白したばかりだと言うのに、往生際の悪いやつだ。
「いえ、少なくとも、デネボラ様が妊娠できないことと、王子の母君の生家では当時の当主が王子の母君が亡くなったすぐあとに自殺していることは確認しております。そこから、推測されることは……もう分かりますよね?」
ランブロスは冷たく突き放すように言った。
「くそ、くそ、くそ!」
もう打つ手がないと思ったのか、アクアオーラは叫びながら、地面を何度も蹴りつけた。その姿はいっそ哀れだ。
「俺もついでに話をしてもいいですか?」
リゲルは楽しそうにアクアオーラに向かった。年相応の少年のような笑顔。しかし、その顔には悪意が滲んでいるように見えた。
「なんだ! 言ってみろ!」
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