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二章 碧緑の宝剣(リゲル編)
16.異国の令嬢とのデート
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アントニスはともかく、俺たちはお腹はあまり空いていないので、食べ物以外の店を回ることにした。
街には元々ある店舗以外にも色々な屋台が立ち並ぶ。特に屋台はこの時期だけの商品ばかりでどれも見ていて飽きない。雑貨を扱う店も、ハンカチなどの布製品を扱う店やガラス細工の店、珍しい宝飾の店など様々だ。
「ガランサスでは白は禁忌のはずじゃ……?」
布製品を扱う店でスーは何かを見つけたようだ。よく見ると、それは白地にレースの付いたハンカチだった。
「嗚呼、これはスノードロップの刺繍がされているでしょう?」
「ええ」
「だからこの白は冬じゃなくてスノードロップの色なので春のハンカチなんです」
「詭弁だわ」
白に嫌な思い出のあるスーは思い切り苦い顔をした。
俺は思わず苦笑いをする。確かにスーからすればこじつけみたいな話だ。
「いえいえ、お嬢さん方、このハンカチの色と刺繍はガランサスの土産物では伝統的なものなんです」
俺たちの会話に割って入ったのは店のおじさんだった。
「昔からあるものってこと?」
「ええ。春のお祭りであるガランサスの由来は、春を告げるスノードロップからきてるのはご存知でしょう」
「ええ」
「スノードロップは春一番に咲く花。何故そうなったのかは知っていますか?」
「いいえ」
どうやらスーは雪とスノードロップの昔話を知らないらしい。俺はスーに代わっておじさんの質問に答えてやる。
「色のない雪に自分の色である白をあげたから。だから雪はスノードロップに感謝して、一番に咲かせてあげること約束したんですよね」
「そうです。このハンカチは、雪の白にスノードロップの刺繍をすることで、スノードロップと雪の友情を表し、冬が終わり春を迎えた雪解けを表しているんです。どうです?ㅤガランサスにぴったりでしょう?」
「スノードロップと雪の友情……」
スーはそう呟いてじっとハンカチを見つめた。
「はい。お友だちとお揃いで友情の証に買っていくお客さんも多いですよ」
おじさんはいい笑顔で答える。
なるほど。買わせるためのセールストークってやつだな。俺はまともに聞いて損したと思った。
でも、スーはそう思わなかったようだ。
「あ、あのね、アルキオーネ。思い出に……お揃いで……」
スーは俺の服の裾を引くと、顔を真っ赤にしてボソボソと呟く。
「欲しいんですね」
俺の言葉に顔を上げ、スーは大きく頷く。そんなキラキラした瞳を向けられたら断れるもんも断れない。勿論、そうは言っても断るつもりはなかったが。
俺はおじさんに頼んでハンカチを二枚買った。
「まいどあり」
おじさんの笑顔のいいこと。あのトークで毎年、幼気な少年少女たちから儲けているに違いない。
でも、スーの機嫌がいいからいいとしよう。
俺たちは暫く露店を見て回った。
その中でふとカラフルなキャンディ並ぶ店が目に留まる。鮮やかな色合いがとても綺麗で、俺はじっとキャンディを見つめた。
「どれか好きなものある?」
「え?」
「お礼に買うわ」
スーに腕を引かれ、俺はキャンディの店の前に立った。
看板には王都でも有名なキャンディの店の名前が書かれていた。どうやら店舗だけでなく、この時期限定で露店を出しているらしい。
俺は店員に勧められるまま、あれよあれよと言ううちにいくつものキャンディの試食をしていた。
「これ、すごい!」
そう言ってスーが指したのは鮮やかな緑色のキャンディだった。
俺も勧められるまま、その毒々しい緑のキャンディを口に放り込む。
「からっ!」
驚くほど辛いミントの味に思わず口を押さえる。
そういえば、昔、王都土産でお父様が買ってきた辛い飴も同じ味がしていた。涙が引っ込むからって泣いていると食べさせられていたことを思い出す。
「これ、ください」
スーはこの恐ろしく口に清涼感を与えるキャンディを気に入ったらしく、自分用に二瓶も購入した。
さらにそれだけにとどまらず、スーはよほど気に入ったようで俺の分まで買ってくれた。正直、お礼ではなく、罰ゲームだと思ったが、ヘタレが故、断ることも出来なかった。俺は己のヘタレさ加減を呪う羽目になった。
「もっと周りましょ!」
さて、それからのスーのアクセルは全開だった。
昨日食べたジェラートをもう一度食べに行ったり、ドーナツを食べたり、お土産物屋を見たり、俺たちは存分に街歩きを満喫した。
満喫したのは良いものの、あまりにもたくさん歩いたので、スーも俺も少し疲れてしまった。俺たちは休憩がてら、昨日、辿り着いた眺めの良い小さな広場に行こうということになって、護衛たちを連れて広場に向かった。
広場に着くと、ベンチに座り、ぼーっと王都の喧騒を眺める。音楽が聞こえ、踊っている人たちが遠くに見えた。
「たくさん遊びましたね」
俺は満足げにため息を漏らし、そう言った。
「ええ、ほんと。たくさん遊んで楽しかった。ありがとう、アルキオーネ」
スーはくるりと振り返るとキラキラとした笑顔を向けてくる。
可愛い。本当にこの子、天使の生まれ変わりか何かじゃないのか。
俺の顔は自然と笑顔になる。
「ありがとうはこちらの方です。お付き合いくださり本当に嬉しく思います。ありがとう、スー」
その言葉にスーは頷く。
心地良い風に吹かれ、スーのピンクブロンドが靡いた。髪からは甘く爽やかな花の香りがした。
「あ、そういえばお花……」
俺はふとポケットに手をやった。
ポケットからハンカチを取り出す。そして、ハンカチに挟んだ花をそっと取り出した。
「嗚呼、交換する約束だものね」
スーもポケットに入っていた花を取り出した。無造作にポケットに放り込んだのだろう。手のひらの上にはくしゃくしゃの花が乗っていた。
「あ……」
スーは真っ赤な顔をして慌てて手のひらを閉じた。
俺はそれを見て思わず噴き出す。
「ふふふ……くしゃくしゃですね」
「いや、だって……」
スーは横に頭を振る。
「いいですからください」
俺はくすくすと笑いながらそれを受け取る。淡い紫の花びらが数枚に、白い花。白い花は雛菊だろうか。
「ごめんなさい」
「いえ、スーって意外と大雑把なんですね」
「よく言われます……」
「意外な一面が知れてわたくしは嬉しかったですよ。では、こちらも。手を貸してください」
俺は赤いアネモネの花びらやスミレ、黄色のチューリップの花びらを差し出されたスーの手のひらに一枚一枚丁寧に乗せる。
「綺麗」
スーははにかみながら笑う。俺も笑顔を返した。
(さて、この花はどうしよう。押し花にでもしようか。使用人の誰かやり方を知っているかな?)
俺はハンカチに花を載せながらそんなことを考える。
「お嬢様、そろそろ……」
ルネが急にスーに声を掛けた。その手には謎の包みがあった。
「あ、ずっと忘れていたわ!」
スーはそう言ってルネから包みをひったくるようにして奪う。
「昨日の帽子とコートよ。昨日はありがとう」
スーはそう言って、俺に包みを渡してくれた。スーの瞳の色によく似た淡い紫の包みだ。
包みをそっと覗く。
そこには昨日落としたはずの帽子が入っていた。探したときは見つからなかったのに。きっと、あの後探してくれたのだろう。
「ありがとうございます。帽子、見つけてくださったんですね」
俺は健気なスーの行動に胸がいっぱいになる。
「だって、ルネのせいで失くしたものだもの」
「見つからないと思っていたもので……」
「双子の男の子が手伝ってくれてね、すぐに見つかったわ。ね、ルネ」
「ええ」
「ルネもありがとうございます」
俺の言葉にルネは小さく頷く。
「恐れ入ります」
ルネの表情筋は死んでいるのか、顔色一つ変えずに答える。
「この包みはあとで洗ってお返ししますね」
「いえ、返さなくて結構よ。実は私たち、明日、国に帰ることになっているの。だから、思い出にあなたが持っていてくれないかしら」
スーは微笑む。
「国に帰る?」
「ええ。寂しいけどね」
スーの国はどれだけ遠く離れているのだろう。俺には分からない。だって、スーの国がどこかも知らないのだから。
俺は急に突き放されたような気分になる。
「そうだったんですね」
俺はその事実にただ驚いてそう呟いた。
忘れていたがスーは他の国の貴族のご令嬢。遅かれ早かれ帰国するのは分かっていたはずだった。帰国の時期を聞かなかったのは俺なのに、いじけてこんな気持ちになるのは馬鹿げている。
俺は頭を振って笑顔をつくった。
「大事にしますね」
そう言って包みを抱きしめた。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ありがとう」
スーはそう言って俺を抱きしめる。
「ねえ、アルキオーネ?」
スーが耳元で囁く。吐息が耳朶をくすぐる。
「ええ」
俺はくすぐったいのを我慢してじっとスーの言葉を待った。
「また、来年もガランサスに来るわ。そのとき、会えるかしら?」
「貴女がそれを望むなら」
スーは俺から体を離すと、小指を差し出した。
「じゃあ、約束よ。来年の今日、ここに来てね」
この世界でも指切りげんまんというものはあるようだ。俺は懐かしい気持ちになりながらスーの小指に自分の小指を絡めた。
「ええ」
「絶対、忘れないで」
「勿論」
スーの瞳は真剣だった。
懇願するような、縋るような瞳に胸がやたらと騒めく。
「ありがとう、アルキオーネ。私を見つけてくれて」
スーは破顔した。桜の花が咲いたように綺麗で、俺は思わず見とれてしまう。時が止まったようにずっとスーの笑顔が網膜に焼き付いて離れない。
「待ち合わせ、どうする?」
「え?ㅤええ、あ、時間……時間は今回のようにパレードの前がいいでしょうか?」
「そうね。またパレードを見ましょう」
「お花の交換もしましょうか。わたくし、次に貰うお花はくしゃくしゃじゃない方がいいです」
俺はいたずらっぽく笑った。
「もう、意地悪ね!」
スーはそう叫んでから笑った。
この時間がずっと続けばいいのに。俺はそう思わずにはいられなかった。
街には元々ある店舗以外にも色々な屋台が立ち並ぶ。特に屋台はこの時期だけの商品ばかりでどれも見ていて飽きない。雑貨を扱う店も、ハンカチなどの布製品を扱う店やガラス細工の店、珍しい宝飾の店など様々だ。
「ガランサスでは白は禁忌のはずじゃ……?」
布製品を扱う店でスーは何かを見つけたようだ。よく見ると、それは白地にレースの付いたハンカチだった。
「嗚呼、これはスノードロップの刺繍がされているでしょう?」
「ええ」
「だからこの白は冬じゃなくてスノードロップの色なので春のハンカチなんです」
「詭弁だわ」
白に嫌な思い出のあるスーは思い切り苦い顔をした。
俺は思わず苦笑いをする。確かにスーからすればこじつけみたいな話だ。
「いえいえ、お嬢さん方、このハンカチの色と刺繍はガランサスの土産物では伝統的なものなんです」
俺たちの会話に割って入ったのは店のおじさんだった。
「昔からあるものってこと?」
「ええ。春のお祭りであるガランサスの由来は、春を告げるスノードロップからきてるのはご存知でしょう」
「ええ」
「スノードロップは春一番に咲く花。何故そうなったのかは知っていますか?」
「いいえ」
どうやらスーは雪とスノードロップの昔話を知らないらしい。俺はスーに代わっておじさんの質問に答えてやる。
「色のない雪に自分の色である白をあげたから。だから雪はスノードロップに感謝して、一番に咲かせてあげること約束したんですよね」
「そうです。このハンカチは、雪の白にスノードロップの刺繍をすることで、スノードロップと雪の友情を表し、冬が終わり春を迎えた雪解けを表しているんです。どうです?ㅤガランサスにぴったりでしょう?」
「スノードロップと雪の友情……」
スーはそう呟いてじっとハンカチを見つめた。
「はい。お友だちとお揃いで友情の証に買っていくお客さんも多いですよ」
おじさんはいい笑顔で答える。
なるほど。買わせるためのセールストークってやつだな。俺はまともに聞いて損したと思った。
でも、スーはそう思わなかったようだ。
「あ、あのね、アルキオーネ。思い出に……お揃いで……」
スーは俺の服の裾を引くと、顔を真っ赤にしてボソボソと呟く。
「欲しいんですね」
俺の言葉に顔を上げ、スーは大きく頷く。そんなキラキラした瞳を向けられたら断れるもんも断れない。勿論、そうは言っても断るつもりはなかったが。
俺はおじさんに頼んでハンカチを二枚買った。
「まいどあり」
おじさんの笑顔のいいこと。あのトークで毎年、幼気な少年少女たちから儲けているに違いない。
でも、スーの機嫌がいいからいいとしよう。
俺たちは暫く露店を見て回った。
その中でふとカラフルなキャンディ並ぶ店が目に留まる。鮮やかな色合いがとても綺麗で、俺はじっとキャンディを見つめた。
「どれか好きなものある?」
「え?」
「お礼に買うわ」
スーに腕を引かれ、俺はキャンディの店の前に立った。
看板には王都でも有名なキャンディの店の名前が書かれていた。どうやら店舗だけでなく、この時期限定で露店を出しているらしい。
俺は店員に勧められるまま、あれよあれよと言ううちにいくつものキャンディの試食をしていた。
「これ、すごい!」
そう言ってスーが指したのは鮮やかな緑色のキャンディだった。
俺も勧められるまま、その毒々しい緑のキャンディを口に放り込む。
「からっ!」
驚くほど辛いミントの味に思わず口を押さえる。
そういえば、昔、王都土産でお父様が買ってきた辛い飴も同じ味がしていた。涙が引っ込むからって泣いていると食べさせられていたことを思い出す。
「これ、ください」
スーはこの恐ろしく口に清涼感を与えるキャンディを気に入ったらしく、自分用に二瓶も購入した。
さらにそれだけにとどまらず、スーはよほど気に入ったようで俺の分まで買ってくれた。正直、お礼ではなく、罰ゲームだと思ったが、ヘタレが故、断ることも出来なかった。俺は己のヘタレさ加減を呪う羽目になった。
「もっと周りましょ!」
さて、それからのスーのアクセルは全開だった。
昨日食べたジェラートをもう一度食べに行ったり、ドーナツを食べたり、お土産物屋を見たり、俺たちは存分に街歩きを満喫した。
満喫したのは良いものの、あまりにもたくさん歩いたので、スーも俺も少し疲れてしまった。俺たちは休憩がてら、昨日、辿り着いた眺めの良い小さな広場に行こうということになって、護衛たちを連れて広場に向かった。
広場に着くと、ベンチに座り、ぼーっと王都の喧騒を眺める。音楽が聞こえ、踊っている人たちが遠くに見えた。
「たくさん遊びましたね」
俺は満足げにため息を漏らし、そう言った。
「ええ、ほんと。たくさん遊んで楽しかった。ありがとう、アルキオーネ」
スーはくるりと振り返るとキラキラとした笑顔を向けてくる。
可愛い。本当にこの子、天使の生まれ変わりか何かじゃないのか。
俺の顔は自然と笑顔になる。
「ありがとうはこちらの方です。お付き合いくださり本当に嬉しく思います。ありがとう、スー」
その言葉にスーは頷く。
心地良い風に吹かれ、スーのピンクブロンドが靡いた。髪からは甘く爽やかな花の香りがした。
「あ、そういえばお花……」
俺はふとポケットに手をやった。
ポケットからハンカチを取り出す。そして、ハンカチに挟んだ花をそっと取り出した。
「嗚呼、交換する約束だものね」
スーもポケットに入っていた花を取り出した。無造作にポケットに放り込んだのだろう。手のひらの上にはくしゃくしゃの花が乗っていた。
「あ……」
スーは真っ赤な顔をして慌てて手のひらを閉じた。
俺はそれを見て思わず噴き出す。
「ふふふ……くしゃくしゃですね」
「いや、だって……」
スーは横に頭を振る。
「いいですからください」
俺はくすくすと笑いながらそれを受け取る。淡い紫の花びらが数枚に、白い花。白い花は雛菊だろうか。
「ごめんなさい」
「いえ、スーって意外と大雑把なんですね」
「よく言われます……」
「意外な一面が知れてわたくしは嬉しかったですよ。では、こちらも。手を貸してください」
俺は赤いアネモネの花びらやスミレ、黄色のチューリップの花びらを差し出されたスーの手のひらに一枚一枚丁寧に乗せる。
「綺麗」
スーははにかみながら笑う。俺も笑顔を返した。
(さて、この花はどうしよう。押し花にでもしようか。使用人の誰かやり方を知っているかな?)
俺はハンカチに花を載せながらそんなことを考える。
「お嬢様、そろそろ……」
ルネが急にスーに声を掛けた。その手には謎の包みがあった。
「あ、ずっと忘れていたわ!」
スーはそう言ってルネから包みをひったくるようにして奪う。
「昨日の帽子とコートよ。昨日はありがとう」
スーはそう言って、俺に包みを渡してくれた。スーの瞳の色によく似た淡い紫の包みだ。
包みをそっと覗く。
そこには昨日落としたはずの帽子が入っていた。探したときは見つからなかったのに。きっと、あの後探してくれたのだろう。
「ありがとうございます。帽子、見つけてくださったんですね」
俺は健気なスーの行動に胸がいっぱいになる。
「だって、ルネのせいで失くしたものだもの」
「見つからないと思っていたもので……」
「双子の男の子が手伝ってくれてね、すぐに見つかったわ。ね、ルネ」
「ええ」
「ルネもありがとうございます」
俺の言葉にルネは小さく頷く。
「恐れ入ります」
ルネの表情筋は死んでいるのか、顔色一つ変えずに答える。
「この包みはあとで洗ってお返ししますね」
「いえ、返さなくて結構よ。実は私たち、明日、国に帰ることになっているの。だから、思い出にあなたが持っていてくれないかしら」
スーは微笑む。
「国に帰る?」
「ええ。寂しいけどね」
スーの国はどれだけ遠く離れているのだろう。俺には分からない。だって、スーの国がどこかも知らないのだから。
俺は急に突き放されたような気分になる。
「そうだったんですね」
俺はその事実にただ驚いてそう呟いた。
忘れていたがスーは他の国の貴族のご令嬢。遅かれ早かれ帰国するのは分かっていたはずだった。帰国の時期を聞かなかったのは俺なのに、いじけてこんな気持ちになるのは馬鹿げている。
俺は頭を振って笑顔をつくった。
「大事にしますね」
そう言って包みを抱きしめた。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ありがとう」
スーはそう言って俺を抱きしめる。
「ねえ、アルキオーネ?」
スーが耳元で囁く。吐息が耳朶をくすぐる。
「ええ」
俺はくすぐったいのを我慢してじっとスーの言葉を待った。
「また、来年もガランサスに来るわ。そのとき、会えるかしら?」
「貴女がそれを望むなら」
スーは俺から体を離すと、小指を差し出した。
「じゃあ、約束よ。来年の今日、ここに来てね」
この世界でも指切りげんまんというものはあるようだ。俺は懐かしい気持ちになりながらスーの小指に自分の小指を絡めた。
「ええ」
「絶対、忘れないで」
「勿論」
スーの瞳は真剣だった。
懇願するような、縋るような瞳に胸がやたらと騒めく。
「ありがとう、アルキオーネ。私を見つけてくれて」
スーは破顔した。桜の花が咲いたように綺麗で、俺は思わず見とれてしまう。時が止まったようにずっとスーの笑顔が網膜に焼き付いて離れない。
「待ち合わせ、どうする?」
「え?ㅤええ、あ、時間……時間は今回のようにパレードの前がいいでしょうか?」
「そうね。またパレードを見ましょう」
「お花の交換もしましょうか。わたくし、次に貰うお花はくしゃくしゃじゃない方がいいです」
俺はいたずらっぽく笑った。
「もう、意地悪ね!」
スーはそう叫んでから笑った。
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