転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

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四章 深緑の髪飾り(領地編)

2.三通の手紙

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 結局、婚約破棄をするのに一番いい方法なんて見つかる訳もなく、時間だけが過ぎていった。
 もう考えていても無駄なように思う。

(あーあ、魔術の本でも読んでた方が有意義な時間だったな……)

 俺はお行儀悪く首の後ろで手を組み、椅子を傾けてゆらゆらと揺らした。

 扉の向こうからノックの音がした。
 油断も隙もあったもんじゃない。俺は慌てて椅子に腰掛け直し、スカートを整える。

「どうぞ」
「お嬢様、お手紙をお持ちしました」

 封筒を持って現れたのはメリーナだった。

 俺はすぐに手紙を受け取って差出人を確認した。
 手紙は三通。差出人はレグルス、リゲル、ミモザだった。

 領地に移ってからは、レグルスは今まで通り週二、三回ペース、リゲルは週一回、ミモザは返事を送るとすぐに手紙をくれる。ほかには、今日は届いていないようだがミラも週一回ほど手紙を送ってくれる。

 手紙が届けば勿論嬉しいが、会えないことにもどかしさも感じる。

(前世だったらもっと気軽にやり取りができたんだけどな。)

 この世界にはビデオ電話も、メールも、メッセージアプリもない。音声電話のような魔法もなくはないらしいがあまり一般的ではない。だから、こうして手紙のみでやりとりするしかない。
 手紙のみだとやり取りもなかなか頻繁にという訳にもいかない。

(じゃあ、前世チートで電話を作るとかすぐに文字情報を送るシステムをつくるとかそういう技術もコネもないんだよな。)

 全くもって残念すぎる転生である。

「お嬢様、なんだか顔色が良くないですけど……」
「嗚呼、手紙が届くと皆と暫く会っていないことを実感してしまうんですよね」
「王都では毎日のように皆さんと会ってましたものね」
「ええ。皆と今度会えるのはレグルスの誕生日パーティでしょう? こう会えない時間が長いと寂しくなってしまいますね」

 俺の言葉にメリーナは頷く。

「きっと皆様も同じ気持ちでしょうね」
「そうだといいんですけど……」

 俺は一通だけ手に取ると手紙を眺めた。
 レグルスから送られた封筒ははいかにも高級そうな紙で出来ていて触り心地がしっとりとしている。封蝋にはしっかりとレグルスしか使えない紋章が刻まれていた。

「さ、お嬢様、手紙と一緒にお茶はいかがです? 先日、殿下から手紙と一緒にいただいた薔薇茶ですよ」

 じっとりとした気持ちを吹き飛ばすようにメリーナは微笑む。

「いただきましょう」

 俺の言葉に嬉しそうにメリーナはティータイムの支度を始める。

「あら、お菓子が……」
「忘れ物ですか?」
「申し訳ございません。用意したはずのお茶菓子がなくて」
「薔薇茶だけで結構ですよ?」
「いえ、薔薇茶に合わせたものを用意したので……持ってきます!」

 別にお菓子なんてなくても構わないのに、メリーナはそう告げると、止める間もなく部屋から出ていってしまう。

 残された俺は仕方なく、注がれたお茶を口に運んだ。

 さて、俺はレグルスからの手紙を開く。
 代わり映えのしない真っ白な高級便箋に、今回はレグルス自身の話ではなく、デネボラの様子が綴られていた。

 どうやらデネボラはまだ体調が悪く、時折傷が痛むので部屋から出ることができない状態らしい。あの艶やかな金の髪は艶を失い、ふっくらとした健康的な美貌はやつれ、幽霊のように儚くなっていて、見るからに痛々しい様子だという。
 貧血が酷く、体調が悪い日になるとベッドで体を起こすのもやっとのようで、レグルスもとても心を痛めていることが文面からも読み取れた。
 レグルス誘拐事件から随分日も経つというのに、まだ体が癒えないというのはもしかすると他に何か別の病気を患っているのかもしれない。

「レグルスが心配だな……」

 勿論、デネボラの身体も心配だが、それ以上にレグルスのことが心配になる。変に自分のせいだと思い込んでいないといいのだが。
 今度、お見舞いも兼ねて王宮を訪ねられるかレグルスやお父様に相談しておこう。

 次に、俺はリゲルの手紙を広げた。

 こちらは、どうやらミモザの様子がおかしいらしい。
 いつも手紙を書いているし、物憂げな表情をして窓を見ながらため息を吐くことが増えたという。
 時々、「離れたところにいるから駆除できない。悪い虫をどうやって駆除しようか」なんて独り言を呟いている。もしかしたら、ミモザは病気か何かなのかもしれないという内容だった。

「嗚呼、なるほどね……」

 俺は手紙を読みながら頷いた。

 ミモザのそれはきっと恋の病という病気だ。だから、心配しなくても大丈夫だろう。
 しかし、その恋の相手がアルファルドだということがリゲルにバレたらまずいかもしれない。
 リゲルとアルファルドは仲が良くない。バレたら絶対反対されるだろう。

(よし、俺は知らないふりをして「ミモザ様が心配ですね」とか適当な手紙を出しとくか……)

 人の恋路を邪魔する奴は犬に食われて死ぬがいいとか聞いたがことある。よほどの覚悟のない奴が邪魔していいわけがない。

 そもそも友人としては、ミモザとアルファルドがくっつくのは賛成派だ。俺が言うのもなんだけど、リゲルは過保護気味だし、妹離れのいいチャンスだろう。
 俺の恋愛偏差値の低さでは恋のキューピットは無理だが、リゲルがミモザたちの仲を邪魔しないように一肌脱いだってバチは当たらないはずだ。適当に誤魔化しておいてあげよう。

 俺はリゲルの手紙をそっと閉じた。

(よし、最後はミモザだな。)

 ミモザからの手紙からは石鹸のような清潔感のある香りがした。
 封筒をひらくと、白い便箋が出てくる。男どもの素っ気ない便箋と違い、ミモザの便箋は淡いミントグリーンのラインが引かれており、余白には四葉のクローバーと白い花の絵が描かれていた。
 貰っただけでテンションが上がる。いかにも女の子の使いそうな便箋だ。

(ちょっとキモい自覚はあるけど、こういういかにもな清楚っぽいものが好きなんだよな。)

 俺は便箋に目を落とした。

「お嬢様!」

 突然、メリーナの声がした。さっき出ていったばかりだというのに何の用だろう。

 俺は慌てて手紙をテーブルの上に置く。

「メリーナ? どうかしまし、た?」

 開けるよう促す間もなく、いきなり扉が開く。
 そこには、深緑の髪に翡翠のような柔らかい緑色の瞳の少女が大きく両手を広げて立っていて、その後ろには困った顔をしたメリーナがいた。

「ミモザ様?」

 俺はミモザの名前を呼ぶが、ミモザは無言でつかつかと音を立てて、俺の前まで歩いてくる。こころなしかミモザの足音はいつもよりも大きい。
 そして、これまた大きな音を立て、テーブルを叩いた。

「お姉様! 私、今日からここに泊ります!」
「は?」
「絶対、絶対、ぜーったい、帰りませんから!」

 顔を上げ、こちらを見つめるミモザの目は完全に座っていた。

(嗚呼、神様、これは物足りないと思った俺へのプレゼントですか?)

 俺は意味が分からずただ頭を抱えた。
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