次期勇者として育ててくれた家から絶縁されたのですが、勇者の替え玉として生きることにしました

黒井 へいほ

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第三章 エルフの里

18話 協力と疑い

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 エルフたちは、客人である2人を守りながら魔獣の迎撃を始める。
 だが、敵の数は多い。負けないにしても厳しい状況であり、必死に連絡を行う。

「敵襲! 魔お……魔族らしき者が出現! 援護に来てくれ!」

 魔王と言わなかったのは、そんなはずがないと否定したかったからだろう。
 しかし、要請に答える者はいない。通信が回復していないようだ。

「魔力を練る! 私を守れ!」

 隊長格の言葉を受け、全員が隊長格を囲う。
 強い魔法を使うには、多くの魔力を練らなければならない。その時間を稼いでもらう必要があった。

 すでに温存などを考えてられる状況ではない。
 マーシーは自身に使える最大の支援魔法を全員に掛ける。
 同じくローランも、敢えて弱い魔法を使うことなどせず、魔獣の鱗を突き破れる威力で魔法を放っていた。

「ローラン! マーシー! 力を隠していたのか!」

 エルフの1人の言葉に、ローランが答える。

「長より余計なことをするなと言われていたため、力を温存していました。今は全力です」

 隠すと温存では意味合いが大きく変わってくる。だが、それを問い質している余裕もないため、エルフたちも仕方なくその言葉を受け入れた。

 しかし、いくらか倒しても魔獣たちの数は減らない。むしろ増えている。
 不可思議な状況下で戦い続けていると、隊長格のエルフが、練っていた魔力を、魔法に転じさせて放った。
 少し先に現れたのは細い竜巻。狙いは魔獣ではなく、その上。宙に浮いている魔族らしきものだった。

 周囲を巻き込まないことを考え、威力は落とさず範囲を絞った竜巻。それだけで、隊長格のエルフの実力が窺える。
 とはいえ、まるで影響を受けないわけではない。複数の魔獣が吹き飛ばされている。
 だが、ローランたちに影響はほとんど無い。マーシーの張った結界魔法により、その影響を軽減していたからである。
 教会の関係者は攻撃魔法より守護魔法を得意としている。まだマーシーの実力は低いが、それでも受ける影響を強風ほどに抑えていた。

「無理だって無理だって! もう維持できないから!」

 マーシーが弱音を吐く中、竜巻を駆使している隊長格のエルフ以外の3人は魔力を練る。
 例え仕留められていなかったとしても、無傷ではいられない。その隙を突こうという考えだった。

 少しずつ竜巻は細くなり、まるで何もなかったかのように消え去る。
 砂埃の中、いまだ健在なを捉え、2人のエルフが魔法を放つ。

 黒い影ではなく、光る影だ。

 そこへ違和感を覚えたローランだけが、魔法を撃つタイミングが遅れる。
 エルフたちの放った魔法は、光る影に直撃し、そして消えた。
 砂埃が晴れると、そこには巨大な炎の球体を向けている魔族らしき者の姿。2人の魔法はこの炎の球体に遮られていた。

 防がれたということは、実力に大きな差があることを示している。
 魔法の技術も、魔力の密度も。全てが劣っているからこそ、炎の球体は2人の魔法を受けても揺らぎすらしなかったのだ。

 ローランは両手を擦り合わせた後、大きく広げて大量の泡を出現させる。
 同時に、空から炎の球体が降り落とされ、轟音に包まれた。


 また周囲は砂埃に包まれたが、薄っすらと見える光景を見て満足したのか、魔族らしき者は姿をくらました。
 ケホッと声がする。どうにか立ち上がったのはローランだった。
 その背で守られていたマーシーもゴホゴホと咳をする。

「なんなのさ、あいつ! 無茶苦茶じゃん!」
「それには同意だが、とりあえず治療を頼む」

 吹き飛ばされたエルフたちの傷は、2人よりも重い。直前で、2人を守るべく前に立ったからだ。
 しかし、全員が生き延びられた。
 運が良かったなと、ローランは口の中に入り込んだ土を唾と一緒に吐き出した。


 これだけの音を響かせれば、連絡が通じなくとも助けは寄って来る。
 姿を見せたエルフたちは、治療を施されていた仲間を担ぎ、ローランたちに詰め寄った。

「お前たちが連れ込んだのか!」

 瞳に怒りを滲ませているエルフへ、ローランは首を横に振る。

「この状況を見てくれ。一緒に戦っていた」
「我々はその光景を見ていない!」

 ローランはそう言われることを予期していたのだろう。ただ、両手を前に出す。

「3人が起きれば事情は分かる。そして、それまでは拘束されても仕方ないこともな」

 マーシーはなにか言いたそうにしていたが、諦めたように息を吐き、同じように両手を前に出す。
 エルフたちも何かを感じ取ってはいただろう。だが、万が一を考えなければならない状況であり、少し躊躇いながらも2人の手に枷を嵌めた。
 里まで連行されている間も抵抗することはなく、大人しく従い、言われるがままに木の牢へと入って行った。
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