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最終章 因縁に蹴りをつけること
27話 勇者にしてあげた
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三日もすれば、手を抜かず鍛錬を続けているローランたちに好感を持ち、話しかけて来る者も増えていた。
そんな中には、こうしたほうがいい、あぁしたほうがいいと、自分の経験を語る少々お節介な者もいたが、ローランはそういった話を全て真面目に聞いていた。
勝手に意見を述べ合い、対立し始めた者たちを追い払った後、アリーヌは言う。
「話を聞くのも大事だけれど、流すのも大事だって分かってる?」
「全部が全部使える話だとは思っていないさ。だが、そこには使える情報も混ざっている。聞くことで疑似的な経験を積むのも悪いことではないはずだ」
「それはそう! ……そうなんだけど!」
ローランの言っていることは間違っていない。だが、必要な情報の取捨選択ができているかは分からない。
どうすれば良いかアリーヌが頭を悩ませていると、マーシーが言った。
「別に覚えておく必要は無いと思うんだよね」
「なぜだ?」
「大事なことって、自然と覚えてるものだからさ。聞くだけ聞いておけば、後は必要なときに思い出したりするもんだよ」
印象深い出来事は勝手に思い出されることがある。例え思い出せなかったとしても、また覚えていけばいい。聖女として活動していたときに自分がやっていたことを、マーシーは伝えていた。
どちらかと言えば完璧主義なローランに、この言葉は響くところがあった。渋い顔をしながら数度頷く。
「マーシーの言う通りだ。全てを一回で成功させようとしても無理がある。肝に銘じておこう」
仲の良い2人のやり取りを見て、アリーヌは恐る恐る手を上げる。
「あの、わたしもそういう感じのことを言いたかったんだけど」
「分かっているとも。2人には感謝している」
「本当に……?」
蔑ろにされているとまでは思っていないが、感謝にされているのか疑問を思うところがあったのだろう。アリーヌは少しへこみながら、真意を問い質そうとする。
何度目か分からないその問いかけに、ローランは小さく息を吐いた。
「分かった、正直に言おう。君は教え方が下手だ。マーシーの伝え方のほうが分かりやすい」
「へ、下手」
肩を落とすアリーヌへ、ローランは続けて言う。
「だが、それは短所ではない。君の長所だ」
「慰めてくれなくてもいいからさ……」
「慰めているつもりなどはない。君の直感的な伝え方は、俺やマーシーには足りていないものだ。2人がそれぞれに違う伝え方をしてくれるからこそ、俺はそこから様々なことを学び取れているし、考えることができている。だから、君はそのままでいい。足りないものを補い合うのが仲間だろ?」
ローランの素直な言葉を受け、アリーヌは感動した素振りを見せていた。
3人は正しく仲間として絆を深めている。それには、ローランがしがらみから抜け出し、本来の自分を取り戻していっているからでもある。
だが、それはまだ脆いものだということが、すぐに明るみとなった。
「そんなに笑顔を見せている姿を見たのは初めてですよ」
話しかけて来た相手はニヤニヤと笑っており、ローランを太らせたような容姿をしていた。
ここが戦場だということを理解していないような身綺麗な格好に、高価な装飾品を身に付けている、悪い意味で誰もがイメージする貴族らしい青年。
彼の名前は、ルウ・ル・クローゼー。現在のクローゼー家の後継ぎであり、ローランの一歳下の実弟だ。
今や、互いの立場は大きく違う。それを理解しているローランは、すぐに片膝を着いた。
「お久しぶりです、ルウ・ル・クローゼー様。ご参戦なされていることを知らず、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「やめてくださいよ、兄上。クローゼー家を私に任せ、次期勇者として旅立った兄を尊敬こそすれ、見下すようなことはありません」
ルウの語ったことはまるで話が違う。ローランはクローゼー家を絶縁された。弟に後を任せたこともない。次期勇者として旅立ったつもりもない。
だからこれは、ローランの名が売れ始めたことを知り、また利用価値が出たと判断したクローゼー家が、都合よく話を改ざんしているということに他ならなかった。
地面を見つめながら、ローランは拳を強く握る。怒りを決して表には出さないように努めていた。
後ろ手にローランは手を動かす。巻き込みたくない。離れていろ、と。
その意が伝わり、2人は少し距離を取る。ローランの傍に残り、この愚かな弟へ罵声を浴びせたい気持ちを押し殺したのは、彼が怒りを抑えていたことに気づいていたからだった。
周囲の目が集まる中、ローランがいまだ片膝を着いていることに気をよくしているルウは、ケタケタと笑いながら言う。
「ローラン・ル・クローゼー! 次期勇者よ! あなたは当家の誇りです! クローゼー家はこれまで通り、あなたに全面的な支援を続けます! ご安心ください!」
辛いこともあった。それを乗り越えられたのは、ローラン自身の力であり、それを支えてくれた仲間のお陰であり、パラネスたちの協力があったからこそだ。何一つ支援などしてくれていない、クローゼー家の功績などはない。
だが、この場に居る者の多くは勘違いしてしまった。
クローゼー家は次期勇者の全面的な支援を行っている。これまでのローラン・ル・クローゼーの旅は、救って来た人々は、クローゼー家の援助があってこそのものだったと。
それでもローランはなにも言い返さなかった。
ルウの浅薄な演説が終わると、ローランは立ち上がり、笑顔を作って頭を下げる。この場へ居ること事態が苦痛だった。
だが機嫌の良さそうなルウは、離れようとするローランへ近づき、耳元で囁いた。
「せっかく勇者にしてあげたんですから、これからも頑張ってくださいよ、兄上」
一瞬だけ、ローランの顔から笑みが消える。
だがすぐに顔には作り笑いが戻り、速足でその場から離れて行った。
そんな中には、こうしたほうがいい、あぁしたほうがいいと、自分の経験を語る少々お節介な者もいたが、ローランはそういった話を全て真面目に聞いていた。
勝手に意見を述べ合い、対立し始めた者たちを追い払った後、アリーヌは言う。
「話を聞くのも大事だけれど、流すのも大事だって分かってる?」
「全部が全部使える話だとは思っていないさ。だが、そこには使える情報も混ざっている。聞くことで疑似的な経験を積むのも悪いことではないはずだ」
「それはそう! ……そうなんだけど!」
ローランの言っていることは間違っていない。だが、必要な情報の取捨選択ができているかは分からない。
どうすれば良いかアリーヌが頭を悩ませていると、マーシーが言った。
「別に覚えておく必要は無いと思うんだよね」
「なぜだ?」
「大事なことって、自然と覚えてるものだからさ。聞くだけ聞いておけば、後は必要なときに思い出したりするもんだよ」
印象深い出来事は勝手に思い出されることがある。例え思い出せなかったとしても、また覚えていけばいい。聖女として活動していたときに自分がやっていたことを、マーシーは伝えていた。
どちらかと言えば完璧主義なローランに、この言葉は響くところがあった。渋い顔をしながら数度頷く。
「マーシーの言う通りだ。全てを一回で成功させようとしても無理がある。肝に銘じておこう」
仲の良い2人のやり取りを見て、アリーヌは恐る恐る手を上げる。
「あの、わたしもそういう感じのことを言いたかったんだけど」
「分かっているとも。2人には感謝している」
「本当に……?」
蔑ろにされているとまでは思っていないが、感謝にされているのか疑問を思うところがあったのだろう。アリーヌは少しへこみながら、真意を問い質そうとする。
何度目か分からないその問いかけに、ローランは小さく息を吐いた。
「分かった、正直に言おう。君は教え方が下手だ。マーシーの伝え方のほうが分かりやすい」
「へ、下手」
肩を落とすアリーヌへ、ローランは続けて言う。
「だが、それは短所ではない。君の長所だ」
「慰めてくれなくてもいいからさ……」
「慰めているつもりなどはない。君の直感的な伝え方は、俺やマーシーには足りていないものだ。2人がそれぞれに違う伝え方をしてくれるからこそ、俺はそこから様々なことを学び取れているし、考えることができている。だから、君はそのままでいい。足りないものを補い合うのが仲間だろ?」
ローランの素直な言葉を受け、アリーヌは感動した素振りを見せていた。
3人は正しく仲間として絆を深めている。それには、ローランがしがらみから抜け出し、本来の自分を取り戻していっているからでもある。
だが、それはまだ脆いものだということが、すぐに明るみとなった。
「そんなに笑顔を見せている姿を見たのは初めてですよ」
話しかけて来た相手はニヤニヤと笑っており、ローランを太らせたような容姿をしていた。
ここが戦場だということを理解していないような身綺麗な格好に、高価な装飾品を身に付けている、悪い意味で誰もがイメージする貴族らしい青年。
彼の名前は、ルウ・ル・クローゼー。現在のクローゼー家の後継ぎであり、ローランの一歳下の実弟だ。
今や、互いの立場は大きく違う。それを理解しているローランは、すぐに片膝を着いた。
「お久しぶりです、ルウ・ル・クローゼー様。ご参戦なされていることを知らず、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「やめてくださいよ、兄上。クローゼー家を私に任せ、次期勇者として旅立った兄を尊敬こそすれ、見下すようなことはありません」
ルウの語ったことはまるで話が違う。ローランはクローゼー家を絶縁された。弟に後を任せたこともない。次期勇者として旅立ったつもりもない。
だからこれは、ローランの名が売れ始めたことを知り、また利用価値が出たと判断したクローゼー家が、都合よく話を改ざんしているということに他ならなかった。
地面を見つめながら、ローランは拳を強く握る。怒りを決して表には出さないように努めていた。
後ろ手にローランは手を動かす。巻き込みたくない。離れていろ、と。
その意が伝わり、2人は少し距離を取る。ローランの傍に残り、この愚かな弟へ罵声を浴びせたい気持ちを押し殺したのは、彼が怒りを抑えていたことに気づいていたからだった。
周囲の目が集まる中、ローランがいまだ片膝を着いていることに気をよくしているルウは、ケタケタと笑いながら言う。
「ローラン・ル・クローゼー! 次期勇者よ! あなたは当家の誇りです! クローゼー家はこれまで通り、あなたに全面的な支援を続けます! ご安心ください!」
辛いこともあった。それを乗り越えられたのは、ローラン自身の力であり、それを支えてくれた仲間のお陰であり、パラネスたちの協力があったからこそだ。何一つ支援などしてくれていない、クローゼー家の功績などはない。
だが、この場に居る者の多くは勘違いしてしまった。
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それでもローランはなにも言い返さなかった。
ルウの浅薄な演説が終わると、ローランは立ち上がり、笑顔を作って頭を下げる。この場へ居ること事態が苦痛だった。
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