勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか?

黒井 へいほ

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第二章

5-6 会議では役に立たない平兵士

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 翌朝。目を覚ました俺は、二人を起こさぬように気を付けて部屋を出た。
 先日、アグラに教えてもらった場所へ向かい、まずは軽く走る。程よく体が温まったところで素振りを始めた。

 凡人たる自分が、いきなり強くなることはないだろう。だが日々の鍛錬は、薄皮一枚でも自分を前に進ませてくれている。もし進めていなかったとしても、下がるようなことはない。鍛錬とはそういうものだと信じていた。
 これ以上強くなるために、これ以上弱くならないために、鍛錬を欠かすことはできない。暑くなり、上着を脱いで鍛錬を続けた。

「あなた、強くなっていますね」
「……曲者!」

 持っていた剣を投擲し、さらに別の剣をマジックバッグから引き抜く。距離を詰めて剣を振り下ろしたが、容易く投げた剣で受け止められた。

「なんだ、ベーヴェか」
「明らかに姿を確認してから剣を投げましたよね!?」
「ソンナコトアルワケナイダロ」

 俺は剣を鞘へ納めてから鞄へ戻し、ベーヴェに返してもらった剣で素振りを再開した。
 しかし、俺が強くなっているだって? そんなことあるはずがない。目に見えて強くなるなんていうのは、子供や天才にだけ起り得ることだ。俺には絶対にあり得ない。
 だが岩に腰かけながら見ているベーヴェは、また同じことを口にした。

「あなた、強くなっていますね」
「世辞はやめろ、気持ち悪い」
「私があなたに媚びを売ってなんの意味があるんですか?」
「……まぁ、そうだな」

 納得できる理由ではあったが、やはり強くなったというのは釈然としない。
 俺は素振りをしたまま、少し癪に思いながらもベーヴェへ聞いた。

「お前が実力者だったことは分かっている。今現在でも、俺より遥かに強いのもだ。……そんなお前だから、微々たる変化に気付けたのか?」

 そうですよ、と言われると思っていた。だがベーヴェは肩を竦めた。

「もしそうだとしたら、別に言いませんよ。特に意味を感じませんからね。私が聞いた理由は、なぜ目に見えて強くなっているのか。そのわけが知りたかったからです」
「目に見えて……?」

 少し考えた後、一つ思い至ることがあった。

「エルが体を取り戻したことで、俺にも変化が起きているのか?」
「それは私も考えたんですけどね。でも、それだけでは説明がつかないなぁと」
「……どういうことだ?」

 剣から槍に変え素振りを続ける。

「確かに姉上と魂が混じり合っている以上、影響は出るでしょう。しかし、それ以上に強くなっています。戦力が増えるのは喜ばしい限りですが、よく分からない理由で強くなるのは嫌ですね」
「確かに、戦力として当てにできるか分からないものな」
「あ、そこは元々当てにしていませんから」

 この野郎……! と思いつつ、考え直す。他に理由は無いかと必死になったが、なにも思いつくことはなかった。

「死にかけたことや、戦闘経験を積んだことですかね。うーん、しっくりこない。そんな理由で身体能力が上がるのなら、最前線にいるニンゲンの兵士は最強になっていますよ」
「同感だ。強くなるというのは、そんなに簡単なことではない」

 ベーヴェと意見が合うのは気に食わないが、事実なのだから仕方がない。彼の言う通りだと同意するしかなかった。
 そして、理由の分からない強さは信用がおけない。突然手に入れたものなんて、いつ失われるか分からないからだ。

 気に入らないな、と思う。もし誰かが俺に力を与えたのだとしたら、そんなものはすぐに消してほしい。力を得ることと、力を与えられることは違う。
 気分が悪いまま、朝の鍛錬を終えることになるのだった。


 朝食が済んだ後、全員が集まり、今後の会議が始まった。

「左目を除いた頭部、両手両足、そして心臓。これを取り戻すことが課題だ。片っ端から潰していくしかないと思っているが、良い案があるものはいるか?」
「はい、姉上」
「……」
「あ、姉上!」
「……まぁ、一応聞いておくか。どうした、愚弟」
「このひどい扱い!」

 拳を握り、震えながら俯いているベーヴェ。待遇の悪さに怒り心頭といったところか。
 そう思っていたのだが、全然違った。
 ベーヴェはパッと両手を開き、恍惚とした表情で言う。

「昔を思い出しますな!」
「さっさと意見を述べろ」
「ハッ!」

 やっぱり愚弟だな。俺と勇者様は呆れた顔で肩を竦めた。
 立ち上がったベーヴェは、壁に貼り付けられている地図の前に立ち、いくつかの場所にしるしをつけた。

「この地点に姉上の体を保持している魔貴族がおります。他国と戦っている最中ですので、後方から襲うのが良いでしょう」
「さすが魔族だな……やり方が汚い」
「確かに、とてつもなく汚いけど最善の方法よ」
「あなたたち――」
「待て、二人とも!」

 強い口調で割って入ったアグラに、ベーヴェは味方を得たと笑みを浮かべる。
 しかし、そんなことはなかった。

「魔族が汚いわけではない。ベーヴェが汚いのだ。私とエルは、どちらかと言えば正面から戦うタイプだからな。実力が違うのだよ」
「私が弱いみたいに話さないでもらえます?」
「……そうだな。ベーヴェは弱くない。だが、汚い男だ」
「もっとひどくなりましたね!?」

 ベーヴェは汚い男、ということで話はまとまった。
 本題に戻ろう。エルが一つ咳払いをした。

「とりあえず、一人でいる者。対策を練りやすい者。条件を絞れば、自ずと倒す順番も決まるであろう」

 やりやすいやつから倒し、エルの戦力を増す。特に異論もなく頷いていたが、アグラだけは違った。我関せずという顔で、どうでも良さそうにしていた。
 それに対し、エルやベーヴェはなにも言わない。少し気になったので聞こうかと思ったら、先に勇者様が口を開いていた。

「アグラさんはすごく強い人なのよね? それなら、アグラさんが戦いやすい相手を――」
「アグラは来んぞ」
「え?」

 勇者様は答えたエルを見た後、アグラへ目を向ける。彼女は無言のまま、肯定するように肩を竦めた。

「ど、どうして? 仲間なのよね?」

 至極当然な疑問に対し、アグラは短く答えた。

「内戦となるからだ」

 ……同族を殺せば、戦いが始まるのは当然だ。エルは死んだと思われているため問題がなく、俺と勇者様もいるはずのない存在。この三人だけならば、露呈したとしても誤魔化せるということだろうか。

「そちらのお二人は、バレたとしても問題ありませんからね。アグラに裏で手を回してもらい、居場所を騙して時間を稼ぎます」
「でも、エルとベーヴェさんは、そうはいかないでしょ?」
「姉上は子供の姿ですからね。まだ見られても気付かれません。……私は、オルベリアを殺したような状況を作らねば、手を貸すのは難しいですね。なにせ、ここは暗黒大陸ですから。魔族の目はいくらでもあります」

 つまり、相手をうまく一人だけ誘き出しでもしない限り、自分たち三人で魔貴族を打倒しなければならない、ということだ。
 かなり難しそうだと思いつつ、未知の戦力である人に期待をすべく、目を向けた。

「いや、力が戻っているといっても、吾だけで魔貴族を倒すことはできん。ラックスとミサキの力を足しても、八割無理だな」
「……それはかなり厳し――」
「二割もあるのか。それならいけそうだな」

 想像よりも良い状況だと分かり、これならばどうにかなるかもしれないと思う。二割もあれば、十人中二人は生き残れる。勝率は悪くない。
 しかし、勇者様は笑顔で言った。

「ラックスさん」
「はい!」
「大人しく座っていてね」
「え? 座っていますよ? ですが分かりました!」

 もう一度座り直す。勇者様は満足げに頷いていた。

「さて、話を戻しましょう。わたしたちがいきなり強くなれるわけではない。ならば戦うに適した状況を作りつつ、他にも手を打つべきね」
「同感だが、なにか手があるのか? ミサキの言い方からして思いついているようだが……」

 勇者様は眼鏡をクイッと押し上げた。

「ふふん、よく分かったわね。我に秘策あり、よ!」
「さすがは勇者様!」
「まだなにも言っていないからね? ラックスさんは、もう少し座っていてね?」
「え、はい。分かりました!」

 すでに座っているのだが、なぜ座ることを強調するのだろう。もしかして隠語かなにかで、コッソリ伝えようとしているのだろうか?

「違うぞ。黙って話を聞いていろ、ということだ」
「そうなのか。分かった」
「エル!? ハッキリ言わないであげてよ!」

 まぁ俺は利口なほうではないので、話だけ聞いておけば良い。指示などは二人が出してくれる、ということだ。
 ……いや、でも勇者様に自分で考えることも大事で、それが欠けていると怒られたな。
 自分でできることも考えようと、机の下で拳を握る。目が合ったエルはニヤニヤと笑っていた。

「はー、それじゃあ、わたしの考えを述べるわね」
「うむ」
「――ヘクトル様に協力を申し出て、挟撃しましょう」

 状況も整えられる可能性が高く、戦力も増やせる。
 隙の無い完璧な作戦だと、俺は感心していた。さすがは勇者様!
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