エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

文字の大きさ
20 / 105
第二章

20:買い物

しおりを挟む
「監視……ですか?」

 人気のない廊下の隅で、ノーラは言った。

 目の前にはカインツ=シャルドレイテの他、三人のワンド達がいる。休み時間に突然呼び出されたのだ。

「亜人奴隷二人の動向を我々に教えるだけだ。難しい事はなかろう?」

「で、でも……何のためにですか……?」

「貴様が知る必要はない」

 冷たくあしらわれてノーラはうつむく。

 カインツらの考えはわからないが、ロクでもない理由なのは容易に想像がつく。情報を流せば、錬やジエットが何らかの不利益を被る可能性が非常に高い。

「あのっ……カインツ様!」

「なんだ」

 憎悪の目を向けられ、思わずたじろぐ。言おうとしていた言葉も喉の奥に引っ込んでしまった。

 ノーラは過去に一度、カインツに逆らった事がある。平民が貴族に逆らえばどうなるか身をもって知っているのだ。

(こんな事して欲しくない……あたしもやりたくない……けど……)

 拒絶すればこの先、王都で生きていくのは難しくなる。それが嫌ならやるしかない。

 胸の空気を絞り出すようにして、ノーラは力なくうなずいた。

「わかり……ました……」



 ***



 放課後、ジエットやノーラと共に錬は街中へ繰り出した。

 王都というだけあって活気があり、行き交う人々や竜車と何度もすれ違う。素朴な綿の服を着た者がもっとも多く、次にボロを着た獣人奴隷をちらほらと見かける。

「貴族はあんまりいないんだな」

「……王都の外周は平民街ですからね」

 震える声でノーラが答える。そこには不安や怯えといった負の感情が錬の目からも見て取れた。

「ノーラさん、大丈夫か?」

「な、何がですか……?」

「いや、なんか落ち着きなさそうだし。ひょっとしてまだ試験の事を気にしてたりする?」

「あ……えっと……そ、そうですね。家に帰ったらお母さんに怒られるかもしれませんし」

 慌てて取り繕ったようにしか見えなかったが、それきり暗い顔が消え失せたので追求するタイミングを逸してしまった。

(……まぁいいか。言いたくなれば教えてくれるだろう)

 それ以上追求するのはやめ、錬は話題を変える事にした。

「さっきの話だけど、貴族はどこに住んでるんだ?」

「王都にいる貴族なら、あっちの貴族街ですね」

 ノーラが指差す先には、堅固な城壁で囲まれた城があった。平民街も外壁で守られているが、それよりも頑丈そうだ。

「貴族街には以前行った事がありますけど、服や装飾品のお店が多かったです。それに対して平民街では食べ物と雑貨のお店が多いですね」

「需要を反映してるわけか」

「その需要、すごくわかる」

 屋台で売られている焼いた果実を見ながらよだれを垂らすジエットである。

「……買わないぞ?」

「あ~……」

 石畳が敷き詰められた大通りを歩き、左右に立ち並ぶ屋台や商店を物色する。

 すると、焼きが施された木製看板に白い塗料で人のような形のマークが描かれている事に気が付いた。

「服を売ってる店の看板が皆同じだけど、系列店なのか?」

「いえ、あれはゴーン商会の商品を取り扱うための許可証のようなものです」

「ゴーン商会?」

「王都最大手の服飾店です。安価を売りにしているからおすすめですよ」

「へぇ、安いのは助かるな。このシャツなんかいいじゃないか。値段は……銀貨三枚!?」

「安いでしょう?」

 平然とノーラに言われ、錬は苦渋に顔を歪めた。

「う、うーん……これで安いのか?」

「ゴーン商会以外だと大銀貨数枚からですし、かなり安いと思いますよ」

「そういうものなのか……」

 高度な機械などなさそうなこの世界において、糸を紡ぐのも布を織るのもすべて手作業となる。ならばこのくらいの値段で当たり前なのかもしれない。

「古着で良かったらもう少し安いものもありますけど。これなんてどうです?」

 ノーラは継ぎ接ぎだらけのシャツを見せてくる。値札は銀貨二枚と書かれていた。

「着替えは諦めよう……。金がいくらあっても足りない」

 そんな世知辛い世の中に錬が打ちのめされていた時、ジエットが隣の雑貨店から駆け寄ってきた。

「レン、銅の針金が売ってたよ!」

「どれどれ……一巻き大銅貨三枚!? 意外と安いな! 二巻きもらおう!」

「鉄釘も見つけたよ! 一本鉄貨二枚だって!」

「ほんとか!? これでいちいち手作りしなくて済むな! 百本買おう!」

「こっちは魔石があるよ!」

「おお! 小さいのは小銀貨一枚からか! よし、五つ買うぞ!」

「服よりそっちの方が盛り上がるんですね」

 ノーラの生暖かい眼差しを受けながら、錬とジエットは雑貨店で大はしゃぎするのだった。





「いやぁ、買った買った」

 雑貨店で買った麦藁のバッグを下げ、錬は学園を目指して歩いていく。

 バッグの中身は魔石や銅線に鉄釘の他、ナイフに金槌にノコギリといった工具、それから木のコップやスプーンなどの雑貨がぎっしり詰め込まれている。しめて銀貨二枚相当の買い物だ。これだけあればしばらく困らないだろう。

 そんな中、ふと半獣少女の姿が見えない事に気付いた。

「あれ? ジエットはどこ行った?」

「そういえば……」

 二人できょろきょろと辺りを探す。するとノーラが通りの端を指差した。

「あそこです。さっき通った屋台の前にいます」

「何やってんだ、まったく……」

 安堵の息をついて、錬はジエットのところまで歩いていく。 

「ちゃんと付いて来ないとだめだろ。迷子になるぞ」

「おなかへったぁ……」

 肉汁が滴る焼き串の前で腹の虫を鳴かせている。よほど食べたいのだろう。

 その気持ちは錬もわからないではなかった。

 味付けは塩と香草のみだが、一口ステーキかというほど分厚い肉が串に五つも刺さっているし、炭火焼きの香りも胃袋に訴えかけてくる。

「しょうがない奴だな……。おっちゃん、これいくら?」

「一本銅貨四枚だよ」

(えぇっと、小銅貨二枚百円の安い芋計算でいくと……肉串一本千円!? たっけぇ……!)

 見た目通りの値段に食欲が引っ込んでしまった。

「舌がとろけるうまさだよ。買うかい?」

「いえ、やめときます。ジエット、いくぞ」

「うぅぅ……」

 ジエットは名残惜しそうに屋台の前にかじりつく。熊獣人の腕力でがっちりつかんでいるため、錬がいくら引っ張ってもまったく動かない。

「寮で夕食が出るだろ。それまで我慢だ!」

「匂いだけ! 買わなくていいから匂いだけ!」

「か、買わねぇならあっち行ってくんねぇかな……?」

 店主のおじさんは口元をひくつかせながら苦笑いしている。

 その様子を見ていたノーラが、錬の肩を指でつついた。

「あの……川魚の塩焼き串なら安いお店がありますよ」

「……いくら?」

「一本小銅貨一枚です」

「ぜひお願いします!」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...