エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第二章

26:魔樹の森

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 薬草学の採集実習当日の朝。

 学園前で引率の先生達の声を聞きながら、ノーラは暗澹たる面持ちで佇んでいた。

 理由は、ワンドの生徒達である。

『――貴様は手はず通り奴らを森の奥へ誘い込め。後はこちらでやる』

 今朝登校するなり呼び出され、そう言われたのだ。

「いよいよ出発だな」

「いっぱい核石を拾って来ようね、ノーラちゃん!」

 そばにいる錬とジエットが声をかけてくる。

「そ、そうですね。いっぱい拾いましょう……」

 取り繕うように返事をしたが、罪悪感と焦燥感で笑顔が固くなる。

(どうしよう……どうすれば……)

 考えている間に、魔法学園前に五台の竜車が到着した。

 竜車は二種類あり、きらびやかな装飾が施された三台と、無骨で装飾のないものが二台となっている。これからそれぞれの竜車に引率の教師一人と生徒が乗り、魔樹の森を目指すのだ。

 ノーラ達は後者に乗るらしい。

「でかいな。バスみたいだ」

「バス……?」

「あぁいや、何でもない」

 錬の言う事に首を傾げつつも、ノーラは車両へ乗り込む。中には長椅子が向かい合うように配置され、引率のノルマン先生も含めた十一名が座った。

「椅子が固いな……」

「エスリ先生の竜車の方が乗り心地が良かったね」

「しょうがないですよ、これはクラブ用ですから」

 ワンド用の竜車には意匠が施されたクッションが敷かれ、ゆったりとくつろぎながら談笑する様子が窺える。

「こんなところでまで差を付けるなよな……まったく」

「あ、動き出したよ! 錬、見て見て!」

「わかったわかった。押すんじゃない」

 照れたようにそっぽを向く錬に、ジエットは嬉しそうにくっついている。これだけで二人の関係性が見えるというものだ。

(本当にこの二人を裏切るの……?)

 晴れやかな空を見上げ、しかしノーラの心は重く沈んでいった。





 そうして竜車に揺られる事、小一時間。

 王都を出て川を超え、草原の道をゆくと深い森が見えてきた。

「そろそろ魔樹の森に着きますね」

 魔樹というだけあって、生えている木々はどれもおどろおどろしくひん曲がっている。

 竜車は森の入口付近で停車し、皆ぞろぞろと降りていった。

「これより薬草学の採集実習を始める。制限時間は二時間、風魔法による呼子笛を鳴らすまでとする。似た毒草や毒キノコ、植物に擬態した魔獣もいるから気を付けなさい。それと大型の魔獣に襲われる危険があるので森の奥へは絶対行かないように」

 ノルマン先生が皆に注意事項を話したのち、採集開始となった。

 採集の課題は、魔法薬の材料となる植物やきのこなど十種類のうち最低三種類見つける事だ。配られた紙には採取対象の絵と説明が記されている。

「クェーリの葉、アドライアの根、カシアの実、グーマッシュ……さっぱりわからん。これ何に使うものなんだ?」

「煎じて飲む事で魔法の発動を助けたり、粉にして振りまいて魔法を阻害したりなど、様々な魔法薬の材料になるんです。特に月の光を浴びたグーマッシュというきのこは食べると魔力を回復する効能があるんですよ」

「魔力回復ねぇ……。それって魔力なしが食べたらどうなる?」

「……どうもならないですね」

 実際に魔力を持たない者が食べたらどうなるかの検証は過去に行われた記録がある。

 結果は何も起きなかった、だ。

 それもそうだろう。グーマッシュを食べて魔力を持てるのなら、魔力なしがここまで迫害されるような事態にはならなかったはずである。

「ま、まぁでもほら、課題ですし……」

「しかし絵だけじゃどうにもなぁ。ちなみにこれって課題をクリアできないとどうなる?」

「それは……成績が下がるんじゃないかと……」

「よし、魔獣を探そう」

「探そ~!」

 紙を鞄に突っ込んで歩き出す錬とジエットである。

「い、いいんですか……?」

「いいのいいの。良い成績で卒業する事が目的じゃないから。それより魔獣探しの方が重要だ」

「魔獣、どこにいるのかな? とりあえず地面でも掘ってみる?」

 ジエットが腕まくりし、鞄からシャベルを取り出す。そして湿った土を二掘り三掘りすると、その下からウニョウニョした生き物が姿を現した。

「うひゃあ……! でっかい芋虫が出てきたっ!?」

 土気色をした芋虫だ。四つに分かれた口で土を掘り、再び地面へ潜ろうとしている。

「あぁ、砂蟲ですね」

「これが砂蟲……!? めちゃくちゃいっぱいいるぞ!?」

「森の周辺は砂蟲のテリトリーですからね」

「つまり、この辺一帯の地面の下には砂蟲がいっぱいなのか……?」

「おそらくは」

「うへぇ……」

 ドン引きする錬。

 さすがに一匹一匹が人差し指くらいある芋虫が大量にいるとなると、無害だとしても生理的嫌悪感が勝ってしまうのだろう。

「すごいすごい! 少し掘っただけでウジャウジャ出てくるよ!?」

 対するジエットは嬉々として土を掘っている。錬は信じられないものを見るような目を彼女に向けていた。

「なぁ……さっきから地面を掘り返しまくってるけど、その芋虫をどうするつもりだ……?」

「持って帰るんじゃないの?」

「冗談だろ……? それに触るのは勘弁願いたいんだが」

「え~、可愛いと思うけどなぁ」

 相反する二人の反応に、ノーラは苦笑した。

「砂蟲の核石は小さいので、無理に捕まえる事はないですよ。それより大物を狙った方がいいです」

「大物って、例えばどんなの?」

「森の浅いところにいる魔獣だと、そうですね。森ネズミや岩猪、小竜、アドライアの花弁に擬態した大花蜘蛛などでしょうか。小竜の成体は胴体だけでなく尻尾にも核石がありますよ」

「核石が二個あるの?」

「はい。切り離した時に逃げるための囮に使うみたいです。尻尾を再生するのは小竜にとって大変らしいですが、殺されるよりはマシという事でしょう」

「なるほど、トカゲの尻尾切りか」

 錬は納得したようにうなずく。

「一匹で二個手に入るとなると、狙い目は小竜か。特徴はわかるか?」

「それなら絵の写しがあるのでどうぞ」

 ノーラは鞄に入れていたファイルから一枚抜き、錬に手渡す。

 背中に岩がいくつもくっついたようなトカゲだ。成体の大きさは四つん這いになった人間くらいある。

「小竜、結構大きいんだね。しかも肉食……」

 ジエットが周囲を警戒しながらつぶやく。

「小さいとはいえ竜ですからね。でも草原にはあまり出て来ないので、捕まえるなら少しだけ森に入った方がいいです」

「たしかに。こんなところにでかいトカゲがいるとは思えないな」

「それじゃすぐに行こう。時間もあんまりないし」

「そうだな。ノーラさん頼めるか?」

 言われて心臓が一瞬跳ねた。

 すべてはカインツ達の目論み通りに動いている。その事がノーラの胸を締め上げてくる。だがやらないわけにはいかない。

 揺れる気持ちを奮い立たせ、ノーラはうなずいた。

「……わかりました。案内しますね」
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