エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第二章

34:大砂蟲(1)

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 闇に沈む魔樹の森に地響きが轟く。

 薙ぎ倒される木々を前に、錬は粟立つ思いだった。

 しかしなぜか大砂蟲は、近くにいる錬を無視して走っている仲間に狙いを定めている。

(動かなければ襲って来ない……視覚はないみたいだな)

 試しに足元の石を拾って反対側へ投げると、大砂蟲は落ちた方を向いた。

(なるほど……そういう事か)

 大砂蟲の優先順位はこうだ。

 土魔法、それ以外の魔法、足音などの振動。

 この三つの特性を利用し、王都まで逃げ切らねばならない。

(やってやるよ……!)

 錬はデコイを手に走り出す。その足音に反応し、大砂蟲が向きを変えた。

「鬼さんこちらってか!」

 走りながらデコイを投げる。きらめく軌跡を追いかけ、大砂蟲は地面ごと食らい付いた。

(残り七つ!)

 森の出口まではそう遠くない。しかし足場が悪い上に大砂蟲のせいで揺れ動くため、速く走るのは困難を極める。

 あっという間に距離を詰められ、デコイを投げて気を逸らす。

(残り六つ!)

 岩や巨木を盾に逃走するが、そんなもの大砂蟲にとって障害たり得ないらしい。

 阻むものすべてを押し潰すようにして大砂蟲が追走してくる。

「はぁっ……はぁっ……でかいくせに速いな!」

 デコイを握り締め、逃げながら錬は使うタイミングを見計らう。

 そんな中、すぐ横に小川を発見した。傾斜があるせいでその流れは急である。

(これだ……!)

 錬は太い木の枝を拾い、ポーチから取り出した銅線でデコイに括りつける。

「これでも追いかけてろッ!」

 思い切り川へ目掛けてぶん投げると、デコイは水面に浮かんで流されていく。

 砂蟲もまたそれを追い、激しく水柱を上げた。

(残り五つ!)

 思いのほか消耗したが、時間は充分に稼げたはずだ。

 そうして森を抜けると、皆すでに車上で待機していた。

「レンさんこっちです!」

「早く乗れ! さっさとしろ!」

 開かれていたドアを通り、ノーラとカインツに引っ張られるようにして車内へ駆け込む。御者台にはジエットが座り、今まさに出発せんとしていた。

「レン! 待ってたよ!」

「出してくれ!」

「わかってる! 行くよ!」

 ジエットは思い切り始動レバーを倒す。

 だが自動車は動かない。何度もレバーを切り替えるが、火花が散るだけで始動しない。

「あ、あれ? なんでっ!?」

「貴様、何をしている!? 早く走らせろ!!」

「魔石エンジンが動かないんだよ!!」

「見せてみろ!」

 錬は御者台へ向かい、ジエットと入れ替わる。

 レバーを切り替えてみたが、たしかに動かないようだ。

「こっちは俺がやる! ジエット、デコイを持っててくれ!」

「う、うん!」

 ポーチごと五つのデコイを渡し、錬はハンドル下部にある魔石エンジンの外板を開く。

 配線はおかしくない。大金貨一枚相当の大粒魔石と繋がっているし、機構も目立った損傷は見当たらない。

 そうしている間にも揺れが大きくなり、木々がへし折られる音が遠くで響く。

 魔石エンジンは回らずとも、先ほど火花が散ったため火炎石回路が動いたという事。おそらくそれに反応し、大砂蟲が迫っているのだろう。

(どこだ……! どこがおかしい!?)

 焦る気持ちを必死に抑え、錬は星型魔石エンジンを調べる。

 そんな中、ふと鉱山で初めて魔石と火炎石の反応を実験していた時の事を思い出した。

 色差の特に大きい二つの魔石と火炎石で回路を構成した時、火炎石が赤熱した事があった。その後に作った魔石エンジンでは特に問題にならなかったが、今回使っている魔石はこれまでと保有する魔力量が大きく違う。

 まさかと思いながら魔石エンジンの内部を確認すると、火炎石の一つが煤だらけになっていた。どうやら銅線が焼き切れてしまったらしい。

(これが原因か……!)

 急いで破損部を補修し、熱を逃がすため外板を開けたままレバーを倒す。

 すると今度こそ魔石エンジンは咆哮し、車輪が回り始めた。

「よしっ!!」

「来たよ……っ!!」

 おそらく付近で獲物を探していたのだろう。魔石エンジンが始動するなり木々を割って大砂蟲が姿を現した。

「行くぞ! 皆振り落とされるなよっ!?」

 自動車が火花を散らして草原を駆ける。大砂蟲はそれを猛然と追跡し始めた。

 竜車に匹敵する速度で走る自動車だが、平地での大砂蟲は恐るべき速さで距離を詰めてくる。

「お、追い付かれます!」

「レン、デコイを使ってもいい!?」

「任せる! 使ったら残りの数を教えてくれ!」

「わかった! えーいっ!!」

 ジエットはデコイを起動し、半獣人の腕力で遠投した。

 月夜に輝く魔法の軌跡を追いかけ、大砂蟲の進路が一時的に逸れる。

「残り四つ!」

 幾ばくかの距離が空き、皆が安堵の息をついた。

 だが大砂蟲は草原の大地ごとデコイを丸呑みし、再び車の背後を付け狙う。

「下等生物のくせになぜあれほどの速度を出せるんだ!?」

「おそらく巨体だからでしょう」

 青ざめる男子生徒の叫びに、ノーラが答えた。

「砂蟲は蠕動運動ぜんどううんどうで移動しているのですが、体の大きさに比例して移動幅が大きくなるのではないかと」

「そ、そんな理屈はどうでもいい! とにかくあれをどうにかしてくれ!」」

「どうにかって言ったって……」

 ジエットが魔石銃で応戦しながらつぶやく。

 炎の円輪が大砂蟲の体を焼き焦がすが、しかし再生能力のせいで傷はすぐさま修復されていく。

「いくら撃ってもぜんぜん効かないんだけど!」

「化け物め……ならば僕の本気を見せてやる」

 カインツが金の短杖を構え、大砂蟲を睨み付けた。

 そして一呼吸の後、壮絶な笑みを浮かべて告げる。

「塵と化せ――エルト・ラ・バルセタ・オーラ・フロギス・ウィンダーレ!!」

 月夜の闇に光が満ちた。

 凄まじい熱波が錬の背にまで届き、車体が一瞬宙を跳ぶ。

 振り向くと、激しい爆炎と竜巻が巻き起こっていた。大砂蟲の体は焼け焦げ、上半分が吹き飛ばされている。

「カインツ君、今の何!?」

「二属性魔法だ」

「二属性魔法……そんなのあるんだ」

「魔法学園の卒業生でも使える者はそうそういない高等魔法だぞ。その目で見られた幸運に感謝するんだな」

「誰でも使えるものじゃないって事?」

「その通り。膨大な魔力量は元より、使用する杖も金以上の導魔性がないと発動すらせん。あれを食らえばさすがに――」

 不意にカインツの言葉が途切れた。

 立ち込める白煙の中から、大砂蟲が現れたのだ。

「……どうやら相手の方が上手みたいだな」

 顔を引きつらせながら、錬はハンドルを握り締めた。
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