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第三章
49:アルバイトを募集しよう(1)
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魔石エンジンが火花を散らし、牧歌的な草原を駆ける。
ガタガタと車両に揺られる中、錬は満面の笑みを浮かべていた。
「大収穫だったな……!」
荷台に大量に積み上げられているのはイラクサの束である。
あれから荷車に魔石エンジンを搭載した軽トラックのような乗り物を作り、魔樹の森へ向かったのだが、まさしくそこはイラクサの宝庫だったのだ。
「森の入り口付近だけでも山ほど生えてたねぇ」
「時間をおけばまた生えてくるだろうし、これならしばらく困らないぞ」
錬とジエットが喜び勇んで王都の貧民街へ向かうと、パム達が唖然とした顔で出迎えた。
「あんちゃん、こりゃまたすげーな……。どっから採ってきたんだ?」
「魔樹の森だよ。これだけあれば糸が作り放題だな」
「いや作り放題ではあるけど、さすがに多くねーか……?」
「こんなの序の口だぞ。外周部だけでもたくさん生えてたから、毎日でもこの量を採って来られる」
「これが毎日って、どうすんだ? アタイらだけじゃ手に負えないぞ」
パムはジトッとした目でイラクサの束を見つめている。さすがに採りすぎたようだ。
「じゃあ人手を募集するか」
「あ、それならここの人達に募集をかけたらどうかな?」
ジエットが手を挙げてそんな事を言い出した。
「貧民街で募集するのか?」
「うん。ここにはお金に困ってろくにご飯が食べられない人達も大勢いると思うからね」
「その人達を雇うのか。まぁ、悪くはない手だな」
日々の食にさえありつけない人々に仕事をしてもらい、報酬を渡す。まさにウィンウィンの関係だ。
しかしそう思わない者もいた。
パム達だ。
「無理じゃない?」
「だよねー……」
「やめといた方がいいんじゃねーか……?」
口々に否定的な声が上がる。
反対しているというよりは、現実的じゃないと言っているようだ。
「どうしてだ?」
「だってあいつらが手伝うとは思えねーし」
「それはやってみないとわからないだろ」
「わかるんだよ。首輪付きのオマエらには無理だぜ」
「奴隷の首輪をしてるとだめなのか?」
パムはため息を漏らしてうなずく。
「貧民街の連中は基本的に他人を信用しねーのさ。皆騙され、奪われ、搾取された果てに何もかも失ってここに流れ着いた奴らだからな」
「なるほど……」
そういう事情であれば錬達はまず信用されないだろう。首輪付きは、主人の手先も同然なのだ。
「でも一人くらい応じてくれる人がいるかもしれない。今は人手が必要なんだ」
「……まぁ止めはしねーよ。おすすめもしねーけどな」
そんなこんなで始めた募集だが、パムの言う通り成果はかんばしくなかった。
「糸作りのお仕事、手伝ってくれませんか? もちろん報酬は支払います」
「……」
「イラクサから繊維を取り出す作業員を募集してます!」
「……」
錬やジエットの呼びかけに、しかし誰一人として返事をしない。
皆うさんくさそうな目をしながらそそくさと去って行くだけだ。
数十人に声をかけたところで、錬は一旦パム達のところへ戻った。
「無理だった……」
「だから言ったろ。アタイも何人か声をかけてみたけど、雇い主が首輪付きって話したら即回れ右だったぜ」
「パムちゃんも声かけしてくれたんだ。ありがとね」
「べ、別にオマエらのためじゃねーぞ! アタイらだけじゃあの量のイラクサを処理しきれねーから言っただけで……」
髪を指でくるくるするパム。なんともわかりやすい獣人娘である。
「平民街で募集すれば人は集まると思うが、どうする?」
「う~ん……」
ジエットはうなずかない。まだ諦めていないようだ。
「ただ声をかけるんじゃなくて、ご飯を提供すればやろうって気になる人も出てくれるんじゃないかな」
「炊き出しでもして募集するのか?」
「うん。皆お腹が減ってるからピリピリするんだよ。満腹になれば私達の話を聞いてもいいって思うんじゃない?」
「ふむ……胃袋に訴えかけるわけか」
実際それでパム達は協力してくれるようになったのだ。可能性はあるかもしれない。
しかしもっと簡単な方法がある中で、なぜという疑問も生じる。
「普通に平民街で募集した方が金がかからないと思うけど、貧民街にこだわる理由があるのか?」
「もちろん。心情の面でも、利害の面でもね」
「どんな利害がある?」
「貧民街の人達を味方に付ければ、今後私達にとって大きな後ろ盾になり得るからだよ。錬の魔石銃があればね」
「……なるほど。魔力なしでも魔法が使える技術を持つ俺達だからこそ、か」
ここヴァールハイト王国において、能力の大小はあれど平民以上は皆魔法使いである。
それに対して貧民街の者達は魔力を持たないか、あっても平均未満の落伍者が大多数を占める。
だがそんな貧民達でも、魔石銃を持てば魔法使いと互角以上に渡り合えるのだ。
「あとは心情だけど、これもレンならわかるんじゃない?」
「そりゃまぁ……俺達だって底辺の生活を強いられてきたしな」
貧民達と錬の違いは、這い上がれるだけの知識を持っていたかどうかの一点だけだ。もしそれがなければ錬は今も鉱山奴隷をしていたか、あるいは骸を晒していたに違いない。
苦境の中にいる彼らを助けられるものなら助けたいという気持ちは錬にだってある。そしてそれはジエットも同じなのだ。
「……わかった。じゃあまずは大鍋と食材と薪を買って来よう。集まった人達全員に行き渡るよう多めにな」
「うん!」
「アタイらは?」
「もちろん君らの分も用意するぞ」
「そ、そうじゃねーよ! いや食べて良いなら食べるけど! じゃなくて手伝う事はあるかって言ってんだよ!」
「はは……悪い悪い。じゃあパム達は貧民街の人達に炊き出しがある事を伝えてもらえるか?」
「それくらいお安いご用だぜ!」
ガタガタと車両に揺られる中、錬は満面の笑みを浮かべていた。
「大収穫だったな……!」
荷台に大量に積み上げられているのはイラクサの束である。
あれから荷車に魔石エンジンを搭載した軽トラックのような乗り物を作り、魔樹の森へ向かったのだが、まさしくそこはイラクサの宝庫だったのだ。
「森の入り口付近だけでも山ほど生えてたねぇ」
「時間をおけばまた生えてくるだろうし、これならしばらく困らないぞ」
錬とジエットが喜び勇んで王都の貧民街へ向かうと、パム達が唖然とした顔で出迎えた。
「あんちゃん、こりゃまたすげーな……。どっから採ってきたんだ?」
「魔樹の森だよ。これだけあれば糸が作り放題だな」
「いや作り放題ではあるけど、さすがに多くねーか……?」
「こんなの序の口だぞ。外周部だけでもたくさん生えてたから、毎日でもこの量を採って来られる」
「これが毎日って、どうすんだ? アタイらだけじゃ手に負えないぞ」
パムはジトッとした目でイラクサの束を見つめている。さすがに採りすぎたようだ。
「じゃあ人手を募集するか」
「あ、それならここの人達に募集をかけたらどうかな?」
ジエットが手を挙げてそんな事を言い出した。
「貧民街で募集するのか?」
「うん。ここにはお金に困ってろくにご飯が食べられない人達も大勢いると思うからね」
「その人達を雇うのか。まぁ、悪くはない手だな」
日々の食にさえありつけない人々に仕事をしてもらい、報酬を渡す。まさにウィンウィンの関係だ。
しかしそう思わない者もいた。
パム達だ。
「無理じゃない?」
「だよねー……」
「やめといた方がいいんじゃねーか……?」
口々に否定的な声が上がる。
反対しているというよりは、現実的じゃないと言っているようだ。
「どうしてだ?」
「だってあいつらが手伝うとは思えねーし」
「それはやってみないとわからないだろ」
「わかるんだよ。首輪付きのオマエらには無理だぜ」
「奴隷の首輪をしてるとだめなのか?」
パムはため息を漏らしてうなずく。
「貧民街の連中は基本的に他人を信用しねーのさ。皆騙され、奪われ、搾取された果てに何もかも失ってここに流れ着いた奴らだからな」
「なるほど……」
そういう事情であれば錬達はまず信用されないだろう。首輪付きは、主人の手先も同然なのだ。
「でも一人くらい応じてくれる人がいるかもしれない。今は人手が必要なんだ」
「……まぁ止めはしねーよ。おすすめもしねーけどな」
そんなこんなで始めた募集だが、パムの言う通り成果はかんばしくなかった。
「糸作りのお仕事、手伝ってくれませんか? もちろん報酬は支払います」
「……」
「イラクサから繊維を取り出す作業員を募集してます!」
「……」
錬やジエットの呼びかけに、しかし誰一人として返事をしない。
皆うさんくさそうな目をしながらそそくさと去って行くだけだ。
数十人に声をかけたところで、錬は一旦パム達のところへ戻った。
「無理だった……」
「だから言ったろ。アタイも何人か声をかけてみたけど、雇い主が首輪付きって話したら即回れ右だったぜ」
「パムちゃんも声かけしてくれたんだ。ありがとね」
「べ、別にオマエらのためじゃねーぞ! アタイらだけじゃあの量のイラクサを処理しきれねーから言っただけで……」
髪を指でくるくるするパム。なんともわかりやすい獣人娘である。
「平民街で募集すれば人は集まると思うが、どうする?」
「う~ん……」
ジエットはうなずかない。まだ諦めていないようだ。
「ただ声をかけるんじゃなくて、ご飯を提供すればやろうって気になる人も出てくれるんじゃないかな」
「炊き出しでもして募集するのか?」
「うん。皆お腹が減ってるからピリピリするんだよ。満腹になれば私達の話を聞いてもいいって思うんじゃない?」
「ふむ……胃袋に訴えかけるわけか」
実際それでパム達は協力してくれるようになったのだ。可能性はあるかもしれない。
しかしもっと簡単な方法がある中で、なぜという疑問も生じる。
「普通に平民街で募集した方が金がかからないと思うけど、貧民街にこだわる理由があるのか?」
「もちろん。心情の面でも、利害の面でもね」
「どんな利害がある?」
「貧民街の人達を味方に付ければ、今後私達にとって大きな後ろ盾になり得るからだよ。錬の魔石銃があればね」
「……なるほど。魔力なしでも魔法が使える技術を持つ俺達だからこそ、か」
ここヴァールハイト王国において、能力の大小はあれど平民以上は皆魔法使いである。
それに対して貧民街の者達は魔力を持たないか、あっても平均未満の落伍者が大多数を占める。
だがそんな貧民達でも、魔石銃を持てば魔法使いと互角以上に渡り合えるのだ。
「あとは心情だけど、これもレンならわかるんじゃない?」
「そりゃまぁ……俺達だって底辺の生活を強いられてきたしな」
貧民達と錬の違いは、這い上がれるだけの知識を持っていたかどうかの一点だけだ。もしそれがなければ錬は今も鉱山奴隷をしていたか、あるいは骸を晒していたに違いない。
苦境の中にいる彼らを助けられるものなら助けたいという気持ちは錬にだってある。そしてそれはジエットも同じなのだ。
「……わかった。じゃあまずは大鍋と食材と薪を買って来よう。集まった人達全員に行き渡るよう多めにな」
「うん!」
「アタイらは?」
「もちろん君らの分も用意するぞ」
「そ、そうじゃねーよ! いや食べて良いなら食べるけど! じゃなくて手伝う事はあるかって言ってんだよ!」
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