エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

52:アナザー・ラッダイト(1)

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「布の価格が暴落するだぁ?」

 織布工ギルドの室内に、ギルド長の声が響いた。

 隣の小屋から機織りの音が鳴る中、ギルド員の男が手振りを交えて話す。

「ええ。なんでも王立魔法学園のレンとかいう奴隷が悪巧みしてるって話ですぜ」

「王立魔法学園のレンってぇと、前に糸を売りに来たボウズか」

 彼の糸は品質が安定しており、安価で大量に持ってきてくれる。最近は羊毛や綿まで安価に取り扱うようになり、大いに助けられている。

 だが布価格が暴落するとなれば話は別だ。

「なんでそんな事になる?」

「聞いた話じゃ、そのレンってガキが大量に布を織ってるとか」

「なにバカな事言ってやがる。奴隷の一人や二人が布を織ったところでどうなるってんだ」

「いやそれが、最近貧民街の連中を集めてるみたいなんです。もう百人くらい雇ったとか」

「それが事実だとして、機織り機もなしでどうやって布を織る? 素人の手織りじゃ何人集まろうと、質も早さもオレ達にゃ敵わねぇだろうが」

 こんな与太話に付き合う時間はない。糸が市場に溢れ返る今はまさに織布工にとって稼ぎ時。一枚でも多く布を織らなければならないのだ。

「でもよギルド長、そいつぁ噂の賢者サマらしいですぜ!」

 ピクリ、とギルド長の足が止まった。

「……スタンピードから王都を守ったって奴か?」

「それっす! その魔力なしの大賢者!」

 ――魔力なしの大賢者。

 最近まことしやかに囁かれるようになった人物だ。

 何でもその大賢者は、いにしえの魔法具を作り出す力を持っており、先のスタンピードにおいて魔獣の群れから王都を守り抜いたのだという。

 王宮の発表ではシャルドレイテ侯爵家の息子と平民の娘が二人で戦った事になっているが、実際にはそこにもう一人加わっていたともっぱらの噂なのだ。

「あのレンとかいう奴隷はどうやってか糸を量産して、安く大量に売りさばいてるのはギルド長もご存知でしょ? それが実は糸を紡ぐ魔法具によるもので、今度は布を独りでに織る魔法具を作ってるってぇ話ですよ!」

「たしかにそいつが事実ならまずいな……」

 普段なら一笑に付すような荒唐無稽な話だが、実際レンとやらは糸を大量に安売りしているし、そのせいで糸の相場は大暴落している。

 もはや織る方の手が足りず、麻糸だけでなく羊毛や高級品である綿までもが軒並み半額以下にまで落ち込んでいるのだ。

 もしも今、布の価格が大暴落すれば織布工ギルドは終わりだ。大勢の職人達が路頭に迷う事になる。

 現に紡糸ギルドはゴーン商会の台頭で崩壊し、半数近くのメンバーが転職に失敗して貧民街に堕ちる羽目になったらしい。

 魔力なしの大賢者が実際に王都を守ったなら感謝すべき人物だが、自分達の生活の術が奪われるとなれば話は違う。

(ギルド長として、こいつらを路頭に迷わせるわけにゃいかねぇ。だったらやるべき事は一つじゃねぇか)

「……わかった。てめぇら魔法学園に抗議しに行くぞ!」

「オオオォ――!!」



 ***



 昼休みに錬が自動織機の組み立てをしていると、ノーラが駆け込んで来た。

「レンさん、! 大変です!」

「どうしたんだ?」

「窓の外を見てください!」

 言われて錬は木窓を開ける。そこにはおよそ百名からなる男達が正門前で棒や板切れを掲げていた。

「魔法具の研究をやめろーッ!」

「やめろーッ!」

「布価格の暴落を許すなーッ!」

「許すなーッ!」

 野太いシュプレヒコールが上がる。

 数人の教師達が制止しているが、まったく取り合う様子はない。

「あいつら何者なんだ……?」

「彼らは織布工ギルドの人達よ」

 ドアの向こうから学園長のエスリが姿を現した。ノーラが連れてきたようだ。

「エスリ先生。織布工ギルドがなんで正門前で叫んでるんです?」

「どうやらレンを出せと要求しているみたいね」

「俺を……?」

「ええ。魔法具の研究をやめさせるために魔法学園へ抗議をしに来たらしいわ。一体何をやらかしたの?」

 やらかすも何も、相手が織布工ギルドならば理由など一つしかない。

「自動織機を開発したのが原因でしょうね……」

「ジドウショッキ、とは?」

「布を全自動で織る魔法具です。糸をセットしてスイッチを押せば、後は勝手に布が出来上がるんですよ」

「それはまた……」

 呆れたのか感心したのか、エスリは苦笑していた。

「要するに、彼らは商業的に競合するレンを排除しに来たというわけね?」

「ええ。どこから情報が漏れたのかはわかりませんが」

「……なるほどね」

 何かを納得したようにエスリは独りごちる。それから窓の外へ目を向けた。

「それで、どうするのかしら? あなたが当魔法学園に在籍している以上、こちらで追い払う事もできるけれど」

 言って腰に差した短杖をポンと叩く。

 相手は百名からなるギルドだが、学園長の魔力と権力をもってすれば、彼らを力尽くでねじ伏せる事も可能なのだろう。

 だが、それはあまり得策とは言えない。

「……いえ、彼らのところへ行きます」

「大丈夫なの?」

 ジエットが心配そうに言った。パムもはらはらとしている。

 今は抗議という形で済んでいるが、彼らも平民である以上は魔力持ち。もし暴動にでもなれば今後大きな被害が予想される。前世においても、機械破壊運動ラッダイト運動として歴史にその名が刻まれたほどだ。

 ラッダイト運動――高効率な産業機械が発明された事で仕事を奪われた労働者達が怒り狂い、職を失う原因となった機械類を破壊して回った、産業革命における象徴的出来事である。

 手が付けられなくなる前にその芽を摘んでおかなくてはならない。

「俺が対話を拒否すれば、かえって火に油を注ぐ事になりかねません。幸い織布工ギルドなら面識のある人もいますし、まずは話を聞いてみたいと思います」

「……そう」

 エスリは肩をすくめた。

「あなたがそう決めたのであれば構わないわ。ただ、無茶はしないようにね」

「善処します。ジエット、一緒に来てくれるか?」

「もちろん!」

「ア、アタイも行くぞ!」

「パムも?」

「アタイだって関係者なんだ。いざとなったらオマエを担いで逃げるくらいできる!」

 パムは力強く握った拳を見せつけてくる。

 たしかに獣人の身体能力は侮れない。いざという時は頼りになるだろう。

「……わかった。じゃあ三人で行くとして、準備をしていこう」

「準備って、武装か?」

「違う」

 錬は首を横に振り、今しがた弄っていた装置に手を乗せた。

「自動織機の試作機を持っていく」
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