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第三章
53:アナザー・ラッダイト(2)
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錬が姿を現すと、正門前は騒然とした。
織布工ギルドの職人達が敵意をあらわに睨みを利かせてくる中、錬は単身歩いていく。
「話を伺いに来ました、錬です。そちらの代表者の方は?」
そう水を向けると、ガタイの良い中年男性が前に歩み出た。
以前会った飲んだくれオヤジだ。
「織布工ギルドのギルド長をしているガンドだ」
「お久しぶりです。ジエットは頻繁に会ってるでしょうけど」
「あいさつはいい。おめぇが独りでに布を織る魔法具を作ったって聞いたぞ。事実か?」
「それについては実際にその目でご覧になった方がわかりやすいでしょう」
錬が合図すると、後ろからジエットとパムが自動織機を運んできた。
小型のオルガンくらいの装置だ。既に縦糸はセットされており、各部に魔石エンジンや付与魔法スイッチの基板が固定されている。
「なんだそいつぁ……?」
「自動織機です」
「ジドウ……何?」
「あなた方が独りでに布を織る魔法具と呼んでいるものですよ。こんな風に」
錬がスイッチを入れると、各部機構が音を立てて動き出した。糸巻き棒が縦糸の隙間を素早く往復し、布が自動で織られていく。
その様子を目にし、織布工ギルド員達は動揺を隠せないようだった。
「ほ、ほら見ろ! やっぱり作ってたんじゃねぇかっ!」
「それを使って今度は布を暴落させるってんだろう!?」
「そんな事されたらオレたちゃ生活できねぇ!」
「今すぐ魔法具の研究を中止しろォ!」
口々に声を上げる織布工ギルドの人々。魔獣の群れでも前にしたかのように、恐れおののき後ずさる。
錬は努めて冷静に、なだめるような口調で言った。
「まぁ落ち着いてください。あなた方に自動織機を見せたのは別に驚かせるためではないんです」
「じゃ、じゃあなんで見せたんだ!?」
彼らが落ち着きを取り戻すまでの数秒間、錬は沈黙を保ち、そしてゆっくりと口を開いた。
「状況をまとめると、俺達が自動織機で布を量産したら相場が下がり、織布工ギルドの仕事が成り立たなくなるので困っている――という事ですね?」
織布工達は一様にうなずく。
「でしたら交渉の余地があります。今ご覧に入れた自動織機を、無償で織布工ギルドに貸し出すのはどうでしょう?」
「何……?」
まるで予想もしない話だったのだろう。ギルド長は豆鉄砲を食らった鳩のような顔になった。
「それは、どういう事だ?」
「自動織機は織布工ギルドで使用していいという事です。貸し賃を取ったりしませんし、織った布はご自由に販売してくれて結構ですよ。分け前も当然不要です。メンテナンスのやり方も教えましょう。いかがですか?」
「……話がうますぎる。そんな事をしておめぇらに何の得が?」
「簡単です。俺達は糸を量産できるんですから」
いかに自動織機を持っていようと、糸がなければ布は織れない。自前で用意するにしても、人の手で糸を紡ぐのは時間もコストも非常に大きい。
それを解決するのが紡績機だ。
錬達の手に紡績機がある以上、自動織機を織布工ギルドに貸しても充分に利益が得られるのである。
「自動織機と紡績機は、両方あってこそ双方の価値が保たれる機械です。もちろん糸の価格を不当に吊り上げたりはしません。協力関係を壊すのは得策ではないですから」
「なるほど……だが、うぅむ……」
「疑問や不安があるならどうぞ言ってみてください」
「その……なんだ。おめぇの話をどこまで信用できる?」
「契約をかわしても構いませんよ。俺の今の主人は学園長ですから、厳密にはエスリ先生と契約する事になりますけど」
「学園長って、そりゃローズベル公爵家のか!?」
「はい」
織布工ギルド員達にまたも動揺が走った。
公爵家といえば、王家との血縁関係がある大貴族である。それが背後にあるとなれば信頼度は大きく上がる。
「いかがでしょう?」
「……」
ギルド長は腕組みしながら目をつむる。誰も何も言わない。沈黙が支配する中、木々のざわめきだけが鼓膜を震わせる。
彼らが即答しないのは、おそらく職人としての矜持のせいだろう。技術を磨いてきた彼らの年月を、こんなぽっと出の魔法具に否定されたくはないという。
そんな苦渋に満ちた空気を割いたのは、ギルド長のため息だった。
「時代が変わっちまったのかもしれねぇなぁ……」
頭をがりがりと掻き、ギルド長は顔を上げる。
「わかった。お前さんと契約しよう」
「ギルド長、本気ですかい!?」
「本気じゃなきゃこんな事言うかってんだ。おめぇらはこのボウズの話を聞いて思わなかったか? こいつらのケツに乗っかった方がお得だってよ」
「そりゃあまぁ……」
「今でさえ糸の流通量に、織る方が追い付いてねぇんだ。魔法具の力でそれを解決できるってんなら望むところじゃねぇか。オレたちゃギルド員の生活を守るためにここへ来たんだろ。チンケなプライドを守るためじゃねぇ」
そう言ってギルド長は手を差し出してくる。
「まぁそんなわけだ。その契約、ぜひかわそう。今更やっぱなしなんて言わねぇよな?」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
錬が握手を交わすと、ギルド長はその強面をほんの少し和らげた。
織布工ギルドの職人達が敵意をあらわに睨みを利かせてくる中、錬は単身歩いていく。
「話を伺いに来ました、錬です。そちらの代表者の方は?」
そう水を向けると、ガタイの良い中年男性が前に歩み出た。
以前会った飲んだくれオヤジだ。
「織布工ギルドのギルド長をしているガンドだ」
「お久しぶりです。ジエットは頻繁に会ってるでしょうけど」
「あいさつはいい。おめぇが独りでに布を織る魔法具を作ったって聞いたぞ。事実か?」
「それについては実際にその目でご覧になった方がわかりやすいでしょう」
錬が合図すると、後ろからジエットとパムが自動織機を運んできた。
小型のオルガンくらいの装置だ。既に縦糸はセットされており、各部に魔石エンジンや付与魔法スイッチの基板が固定されている。
「なんだそいつぁ……?」
「自動織機です」
「ジドウ……何?」
「あなた方が独りでに布を織る魔法具と呼んでいるものですよ。こんな風に」
錬がスイッチを入れると、各部機構が音を立てて動き出した。糸巻き棒が縦糸の隙間を素早く往復し、布が自動で織られていく。
その様子を目にし、織布工ギルド員達は動揺を隠せないようだった。
「ほ、ほら見ろ! やっぱり作ってたんじゃねぇかっ!」
「それを使って今度は布を暴落させるってんだろう!?」
「そんな事されたらオレたちゃ生活できねぇ!」
「今すぐ魔法具の研究を中止しろォ!」
口々に声を上げる織布工ギルドの人々。魔獣の群れでも前にしたかのように、恐れおののき後ずさる。
錬は努めて冷静に、なだめるような口調で言った。
「まぁ落ち着いてください。あなた方に自動織機を見せたのは別に驚かせるためではないんです」
「じゃ、じゃあなんで見せたんだ!?」
彼らが落ち着きを取り戻すまでの数秒間、錬は沈黙を保ち、そしてゆっくりと口を開いた。
「状況をまとめると、俺達が自動織機で布を量産したら相場が下がり、織布工ギルドの仕事が成り立たなくなるので困っている――という事ですね?」
織布工達は一様にうなずく。
「でしたら交渉の余地があります。今ご覧に入れた自動織機を、無償で織布工ギルドに貸し出すのはどうでしょう?」
「何……?」
まるで予想もしない話だったのだろう。ギルド長は豆鉄砲を食らった鳩のような顔になった。
「それは、どういう事だ?」
「自動織機は織布工ギルドで使用していいという事です。貸し賃を取ったりしませんし、織った布はご自由に販売してくれて結構ですよ。分け前も当然不要です。メンテナンスのやり方も教えましょう。いかがですか?」
「……話がうますぎる。そんな事をしておめぇらに何の得が?」
「簡単です。俺達は糸を量産できるんですから」
いかに自動織機を持っていようと、糸がなければ布は織れない。自前で用意するにしても、人の手で糸を紡ぐのは時間もコストも非常に大きい。
それを解決するのが紡績機だ。
錬達の手に紡績機がある以上、自動織機を織布工ギルドに貸しても充分に利益が得られるのである。
「自動織機と紡績機は、両方あってこそ双方の価値が保たれる機械です。もちろん糸の価格を不当に吊り上げたりはしません。協力関係を壊すのは得策ではないですから」
「なるほど……だが、うぅむ……」
「疑問や不安があるならどうぞ言ってみてください」
「その……なんだ。おめぇの話をどこまで信用できる?」
「契約をかわしても構いませんよ。俺の今の主人は学園長ですから、厳密にはエスリ先生と契約する事になりますけど」
「学園長って、そりゃローズベル公爵家のか!?」
「はい」
織布工ギルド員達にまたも動揺が走った。
公爵家といえば、王家との血縁関係がある大貴族である。それが背後にあるとなれば信頼度は大きく上がる。
「いかがでしょう?」
「……」
ギルド長は腕組みしながら目をつむる。誰も何も言わない。沈黙が支配する中、木々のざわめきだけが鼓膜を震わせる。
彼らが即答しないのは、おそらく職人としての矜持のせいだろう。技術を磨いてきた彼らの年月を、こんなぽっと出の魔法具に否定されたくはないという。
そんな苦渋に満ちた空気を割いたのは、ギルド長のため息だった。
「時代が変わっちまったのかもしれねぇなぁ……」
頭をがりがりと掻き、ギルド長は顔を上げる。
「わかった。お前さんと契約しよう」
「ギルド長、本気ですかい!?」
「本気じゃなきゃこんな事言うかってんだ。おめぇらはこのボウズの話を聞いて思わなかったか? こいつらのケツに乗っかった方がお得だってよ」
「そりゃあまぁ……」
「今でさえ糸の流通量に、織る方が追い付いてねぇんだ。魔法具の力でそれを解決できるってんなら望むところじゃねぇか。オレたちゃギルド員の生活を守るためにここへ来たんだろ。チンケなプライドを守るためじゃねぇ」
そう言ってギルド長は手を差し出してくる。
「まぁそんなわけだ。その契約、ぜひかわそう。今更やっぱなしなんて言わねぇよな?」
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