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第三章
54:懺悔《ざんげ》
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一騒動の後は授業どころではなく、結局午後の授業は休講になった。
開け放った木窓から夕陽が差す中、錬はジエットと一緒に自由研究会で自動織機の微調整をしている。
そんな中、不意にパムがつぶやいた。
「……織布工ギルドのアイツらにも生活があるんだな」
「そりゃあるさ。仕事をして金を得て、それで食べ物を買ったり服を買ったりする。食べ物や服を売った店だって、それで金を得て、その金を生きるためにまた使う。そうやって経済は回ってるんだ」
「だけど、それをアタイは……」
パムは何かを決意した様子で立ち上がった。
「どこに行くの?」
「服屋に行く」
「服屋って……まさかゴーン商会の?」
「そうだ。アタイは服屋で売ってる衣類をたくさん盗んできた。でもそれは、本当はやっちゃいけない事なんだ」
「それはそうだが、背に腹は代えられない状況だったんだろ?」
「……たしかに、盗まなきゃアタイらは全員飢え死にしてた。ゴーン商会から一緒に逃げてきた仲間を死なせないために盗んだ。でも、だからって服屋のおっちゃんを飢えさせてもいい事にはならねー」
「だから謝りに行くのか?」
パムはうなずいた。
「今のアタイは盗みをしなくても生きていける。盗んだ分には足らないけど、金もある程度は蓄えた。だったら償いをするのが筋ってもんだ」
「……そうだな」
反省の気持ちがあるなら、それはパムにとって良い事だ。共に進むと決めた以上、錬には彼女の手助けをする責任がある。
「だったら明日、一緒に謝りに行こう。足りない分は俺達が出してやる」
「いや、盗んだのはアタイだ。オマエらに金を出させるわけにはいかねぇ」
「あくまで立て替えるだけだよ。差額は今後の報酬から少しずつ天引きさせてもらう。それならいいだろ?」
「え、でも……いいのか?」
「君にはこれからも一緒にいてもらいたいからな」
そう言った途端、パムが赤面した。
猫耳を力なく伏せ、隠れていたらしい尻尾が服の中で暴れている。
「……レンって人たらしなところあるよね」
ジエットが仏頂面でジト目を向けてくる。
「そんな事はないと思うけど」
「あるよ。ま、そういうところがいいんだけどさ」
そう言ってジエットは苦笑するのだった。
***
副商会長の男がやって来たのは、ドルエスト=ゴーン男爵が商会長室で来客をもてなしていた時だった。
「男爵様! 雇った生徒からの報告が上がって参りました!」
「おい、来客中だぞ!? ノックくらいしろ!」
「も、申し訳ございません!」
報告書を手にする彼は顔を真っ青にしている。どうやら良くない内容のようだ。
「まぁいいではないか。まずは彼の報告を聞こう」
にこやかに言ったのは王太子であるハーヴィンである。
市場の混乱を受けて、現在商会が置かれた状況を視察しに来たのだ。
「は……。副商会長、報告の内容は?」
「えぇと……どこから話せばよろしいのやら……」
「いいからさっさと言わんか!」
「は、はい! じゅ、順を追って説明しますと、織布工ギルドの連中が魔法学園へ抗議しに行き、そこでレンと直接対話をしたとの事です」
「なるほど。それでどうなった?」
「そこで布を織る魔法具と思しき物を見せ、これを織布工ギルドに無償提供する事で和解したと……」
「はぁっ!?」
身を乗り出した拍子にテーブルに置いていたグラスが落ち、地面で割れて弾ける。
「魔法具を無償提供だと!? なぜそんな事になる!?」
「わ、わかりません!」
「奴らが手を組んだという事か!?」
「そのようです!」
「これでは奴らに市場のシェアを奪い取られてしまうではないか! 一体どこのバカが織布工ギルドをけしかけたのだ!?」
「男爵様でございます!!」
「ぬぐうううッ!!」
髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱し、ゴーン男爵は血走った目で副商会長を睨み付ける。
「すでに倉庫は在庫で溢れ返っているのだぞぉ……! このままでは破産だ……何か方法はないか!? 貴様も考えろ! これ以上の損失を出さない方法を……!!」
「そ、そう言われましても――むっ!?」
突然副商会長が報告書を覗き込んだ。
「どうした? 何か名案が浮かんだのか!?」
「いえ……報告書の最後に、我が商会の商品ばかりを狙っていた盗賊について書かれておりましたので……」
「今そんなものどうでもよいわ!」
「ぐへぇっ!?」
副商会長の襟首をひっつかんでブンブンと振り回す。
そんな中、床に落ちた報告書をハーヴィンが拾い上げた。
「この盗賊とやらだが、どうやらレンと魔法具を共同開発していたようだね」
「なんですと……?」
ゴーン男爵はピタリと手を止めた。
「報告書には何と書かれているのです?」
「紡績機や自動織機を作るのに、盗賊が知恵を貸したそうだ。商会の逃亡奴隷と書かれているから、その経験を活かしたのだろう。そして今では盗みを働いた事を悔い、損害を出した店に明日謝罪をしに行くらしい」
「そうなのですか……。ですがそれがわかったとてどうしようも……」
だがハーヴィンは鷹揚に笑った。
「基本的に窃盗罪は、犯行現場を押さえなければ処罰が難しい。後日捕らえたところで証拠がなければ罪に問えないからね。しかし謝罪に行くという事は、つまりその盗賊は罪を認めたという事。そして被害にあった店主は証言者となるのではないかね?」
「!」
その悪魔的な思考を理解し、ゴーン男爵は震え上がった。柔和な彼の笑顔が、今はおぞましく歪んですら見える。
「副商会長。すぐに衛兵隊へ通報し、謝罪の現場で盗賊を取り押さえよ。それを口実にレンとやらを蹴落としてやろうではないか」
ゴーン男爵はすぐさま行動に移す。
そんな中、ふとハーヴィンの楽しげなつぶやきが耳に届いた。
「――さて、どう出るかな? 青木君。ジエッタニア」
開け放った木窓から夕陽が差す中、錬はジエットと一緒に自由研究会で自動織機の微調整をしている。
そんな中、不意にパムがつぶやいた。
「……織布工ギルドのアイツらにも生活があるんだな」
「そりゃあるさ。仕事をして金を得て、それで食べ物を買ったり服を買ったりする。食べ物や服を売った店だって、それで金を得て、その金を生きるためにまた使う。そうやって経済は回ってるんだ」
「だけど、それをアタイは……」
パムは何かを決意した様子で立ち上がった。
「どこに行くの?」
「服屋に行く」
「服屋って……まさかゴーン商会の?」
「そうだ。アタイは服屋で売ってる衣類をたくさん盗んできた。でもそれは、本当はやっちゃいけない事なんだ」
「それはそうだが、背に腹は代えられない状況だったんだろ?」
「……たしかに、盗まなきゃアタイらは全員飢え死にしてた。ゴーン商会から一緒に逃げてきた仲間を死なせないために盗んだ。でも、だからって服屋のおっちゃんを飢えさせてもいい事にはならねー」
「だから謝りに行くのか?」
パムはうなずいた。
「今のアタイは盗みをしなくても生きていける。盗んだ分には足らないけど、金もある程度は蓄えた。だったら償いをするのが筋ってもんだ」
「……そうだな」
反省の気持ちがあるなら、それはパムにとって良い事だ。共に進むと決めた以上、錬には彼女の手助けをする責任がある。
「だったら明日、一緒に謝りに行こう。足りない分は俺達が出してやる」
「いや、盗んだのはアタイだ。オマエらに金を出させるわけにはいかねぇ」
「あくまで立て替えるだけだよ。差額は今後の報酬から少しずつ天引きさせてもらう。それならいいだろ?」
「え、でも……いいのか?」
「君にはこれからも一緒にいてもらいたいからな」
そう言った途端、パムが赤面した。
猫耳を力なく伏せ、隠れていたらしい尻尾が服の中で暴れている。
「……レンって人たらしなところあるよね」
ジエットが仏頂面でジト目を向けてくる。
「そんな事はないと思うけど」
「あるよ。ま、そういうところがいいんだけどさ」
そう言ってジエットは苦笑するのだった。
***
副商会長の男がやって来たのは、ドルエスト=ゴーン男爵が商会長室で来客をもてなしていた時だった。
「男爵様! 雇った生徒からの報告が上がって参りました!」
「おい、来客中だぞ!? ノックくらいしろ!」
「も、申し訳ございません!」
報告書を手にする彼は顔を真っ青にしている。どうやら良くない内容のようだ。
「まぁいいではないか。まずは彼の報告を聞こう」
にこやかに言ったのは王太子であるハーヴィンである。
市場の混乱を受けて、現在商会が置かれた状況を視察しに来たのだ。
「は……。副商会長、報告の内容は?」
「えぇと……どこから話せばよろしいのやら……」
「いいからさっさと言わんか!」
「は、はい! じゅ、順を追って説明しますと、織布工ギルドの連中が魔法学園へ抗議しに行き、そこでレンと直接対話をしたとの事です」
「なるほど。それでどうなった?」
「そこで布を織る魔法具と思しき物を見せ、これを織布工ギルドに無償提供する事で和解したと……」
「はぁっ!?」
身を乗り出した拍子にテーブルに置いていたグラスが落ち、地面で割れて弾ける。
「魔法具を無償提供だと!? なぜそんな事になる!?」
「わ、わかりません!」
「奴らが手を組んだという事か!?」
「そのようです!」
「これでは奴らに市場のシェアを奪い取られてしまうではないか! 一体どこのバカが織布工ギルドをけしかけたのだ!?」
「男爵様でございます!!」
「ぬぐうううッ!!」
髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱し、ゴーン男爵は血走った目で副商会長を睨み付ける。
「すでに倉庫は在庫で溢れ返っているのだぞぉ……! このままでは破産だ……何か方法はないか!? 貴様も考えろ! これ以上の損失を出さない方法を……!!」
「そ、そう言われましても――むっ!?」
突然副商会長が報告書を覗き込んだ。
「どうした? 何か名案が浮かんだのか!?」
「いえ……報告書の最後に、我が商会の商品ばかりを狙っていた盗賊について書かれておりましたので……」
「今そんなものどうでもよいわ!」
「ぐへぇっ!?」
副商会長の襟首をひっつかんでブンブンと振り回す。
そんな中、床に落ちた報告書をハーヴィンが拾い上げた。
「この盗賊とやらだが、どうやらレンと魔法具を共同開発していたようだね」
「なんですと……?」
ゴーン男爵はピタリと手を止めた。
「報告書には何と書かれているのです?」
「紡績機や自動織機を作るのに、盗賊が知恵を貸したそうだ。商会の逃亡奴隷と書かれているから、その経験を活かしたのだろう。そして今では盗みを働いた事を悔い、損害を出した店に明日謝罪をしに行くらしい」
「そうなのですか……。ですがそれがわかったとてどうしようも……」
だがハーヴィンは鷹揚に笑った。
「基本的に窃盗罪は、犯行現場を押さえなければ処罰が難しい。後日捕らえたところで証拠がなければ罪に問えないからね。しかし謝罪に行くという事は、つまりその盗賊は罪を認めたという事。そして被害にあった店主は証言者となるのではないかね?」
「!」
その悪魔的な思考を理解し、ゴーン男爵は震え上がった。柔和な彼の笑顔が、今はおぞましく歪んですら見える。
「副商会長。すぐに衛兵隊へ通報し、謝罪の現場で盗賊を取り押さえよ。それを口実にレンとやらを蹴落としてやろうではないか」
ゴーン男爵はすぐさま行動に移す。
そんな中、ふとハーヴィンの楽しげなつぶやきが耳に届いた。
「――さて、どう出るかな? 青木君。ジエッタニア」
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