エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

55:贖罪と断罪

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 織布工ギルドと和解した翌日の朝。

 真夏の蒸し暑い陽射しの中、錬は平民街の服屋へとやってきた。

「お……怒られねーかなぁ?」

 そう震えながらつぶやくのは、フードを目深に被った猫獣人のパムだ。その後ろにジエットも続く。

「そりゃ怒られるだろう。大事なのはその後だ」

「その後って……?」

「大丈夫だよ。ちゃんと損害額に慰謝料も付けて誠心誠意謝れば、きっと許してもらえるよ」

「そういう事だ。じゃあ行くぞ」

 錬が扉を開けると、店主は笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃい! おう、ボウズに熊の嬢ちゃんじゃないか。やっと来てくれたんだな」

「お久しぶりです。あれから変わりありませんか?」

「おうよ。お前らが服を取り返してくれたおかげで、あれ以来一度も商品を盗まれる事がなくなってなぁ!」

「それはよかったです。ところでその件で少しお話があるのですが、今大丈夫ですか?」

「あん? 構わねぇが、どうした?」

「込み入った話になると思うので、できれば落ち着けるところで」

 店主は不思議そうに首を捻っていたが、快く了承してくれた。

「すまねぇ、来客だ! 店番頼む!」

 そう言って奥さんらしき女性と入れ替わり、店主は店の外で手招きするのだった。





 会話は店のすぐ前でする事になった。

 木陰に置かれた丸いすに腰掛け、テーブルを挟んで向かい合う。

「すまねぇな。家ん中はまだ娘が寝てっから、静かにしねぇと家内にどやされちまうんだよ」

「娘さんがいたんですね」

「そうなんだよ。昨晩も魔力なしの大賢者様の話を聞かせろってうるさくってなぁ」

「魔力なしの大賢者?」

「知らねぇのかい? こないだのスタンピードで大活躍した英雄様らしい。魔力がないのに魔法を使って王都を救ったってもっぱらの噂だぜ」

「はは……」

 どう考えても錬の事である。

 表彰こそされなかったが、知っている人はそれなりにいる。人の口に戸は立てられないとはこの事だ。

「それで? 話ってのはなんだい?」

「実はですね――」

 錬が事情を話すと店主は一転、険しい面持ちでパムを睨んだ。

「つまりそいつが盗人って事か」

「……ごめんなさい」

 パムは消え入りそうな声でうつむいている。顔は青ざめ、小さく縮こまっていた。

「で? そいつを連れてきたって事は、衛兵に突き出しても構わねぇのか?」

「それは一旦待ってください」

 肩を震わせるパムに代わり、錬は店主を手で制す。

「彼女はこれまでに犯した罪を反省していて、盗んだ商品を弁償したいと言っています」

「おいおい、冗談言っちゃいけねぇよ。服が一着いくらだと思ってる?」

「新品なら銀貨三枚くらいからですね」

「そうだ! それを十着以上盗まれたんだぞ? どうやって払うってんだ!?」

「お金なら心配ありません。俺が建て替えさせてもらいますので」

 錬が硬貨をテーブルに置くと、店主は目を丸くした。

「盗んだ衣類の代金と、盗まれた事に対する慰謝料です。謝罪までの期間が空いた事も加味して、小金貨三枚を用意しました」

「……この金、どうしたんだ?」

「稼ぎました」

「稼いだって……奴隷が一体どうやって?」

「あれから色々ありまして、糸を量産する技術を開発したんです」

「糸を……?」

 店主は納得したように唸る。

「なるほど、だから最近やたら値下がりしてたのか」

「そういう事ですね」

「パムちゃんは今私達のところで糸を作るお仕事を手伝ってくれているんです。弁償金はひとまずこちらで建て替えておき、報酬から少しずつ返済してもらうつもりです。どうかこれで和解してはいただけませんか?」

「ふぅむ……」

 眉間にシワを刻み、店主はしばし目を瞑って腕を組む。

 それから、深いため息を漏らした。

「おう、盗人野郎。パムとか言ったな」

「……はい」

「オレには五歳になる娘がいてな。商品を一度にたくさん盗まれちまったせいで、ロクに飯を食わせてやれない日もあった。そのつらさ、お前にわかるか?」

「……わかります」

 パムとて幼い仲間達に食事を与えてやれない日もあったのだ。それは我が事のように理解できるだろう。

「服を一着盗まれたら、三着は売らねぇと赤字になる。十着盗まれりゃその十倍だ。店の経営は傾いたし、眠れない日も多かった。盗人には今でも怒りしか湧いてこねぇ。お前にこの気持ち、わかるか?」

 黙ってうなずくパム。

「オレぁまだお前を許してねぇ。謝罪はしたが、この弁償金はお前の金じゃねぇからだ」

「はい……」

「だから全力で働いて、ボウズと熊の嬢ちゃんにきっちり金を返せ。途中で逃げたら今度こそ衛兵に突き出してやる。わかったか?」

「はい……。ごめ……な……さい……」

 パムは涙をこらえるようにはなをすすり、頭を下げる。

 その姿を見て、店主の表情が和らいだ。

「だったらいい。ま、がんばりな。猫の嬢ちゃん」

「いえいえ、彼女にがんばる機会はもうありません」

 突然男の声が聞こえたかと思うと、革鎧を来た兵士達が周囲を取り囲んできた。

「ヴァールハイト王国衛兵隊だ!」

「捕縛対象を確認しました! 猫獣人です!」

「確保しろ!」

「な、何すんだ!?」

「このっ、暴れるなクソガキ!」

 パムは椅子から引き倒され、後ろ手に組み伏せられる。

 猫獣人は熊獣人と違って腕力はそこまででもないのか、衛兵二人にたやすく押さえ込まれてしまった。

「何なんですかあなた達!?」

 ジエットが助けに動くも、しかし他の衛兵達がガードするように立ちはだかる。

 何事かと通行人が立ち止まる中、彼らの背後から一人の人物が姿を現した。

 小太りの体躯に豪華な服を着てハットを被る中年男性。

「ドルエスト=ゴーン男爵……」

「久方ぶりだな、亜人奴隷のレンよ」

 勝ち誇った笑みで錬を見下してくる。

 そこに店主が割って入った。

「だ、男爵様。これは一体何事でしょうか?」

「なに、うちの逃亡奴隷が悪事を働いていると通報があってな。捕らえにきたのだよ」

「逃亡奴隷……?」

 店主の視線がパムへ向けられる。

「左様。ずいぶんと長く逃げ回っておったようだが、ようやく見つける事ができた。感謝するぞ店主よ」

「捕らえにきたという事は、その娘はまた奴隷に戻されるので?」

 男爵は首を横に振った。

「こやつは盗みを働いた罪人だ。この場で首をはねてやる」

「こ、この場で……!?」

「何か問題でも?」

 口元を歪めて笑うゴーン男爵。

 家の前で斬首など問題あるに決まっている。だが店主は嫌そうな表情を浮かべながらも、拒否する事ができないようだ。

「喜べ、これで貴様の店も今後は被害がなくなるぞ?」

「それは……ありがたい事なのですが、しかしその娘とはうちの損害額を弁償する事で先ほど和解しまして……」

「和解? この盗人がそんな約束を守るわけないだろう。私の顔に泥を塗った亜人など処刑する他あるまい」

「お待ちください!」

 ジエットが声を張り上げた。

「パムちゃんはたしかに盗みを働きました。でもそれは生きるためであり、生活が安定した今は過去の行いを悔いているのです。問答無用で処刑にするのは不当と考えます!」

「奴隷風情が知った口を……」

 フンと鼻息を荒らげるゴーン男爵。

「理由はどうあれ盗みを働いたなら、罰を与えるのは至極当然の事。それとも、庇い立てする事情でもあるのかね? 例えばそう――貴様らも共犯だったとか」

 ギラリ、と衛兵達の敵意が錬とジエットへ向けられた。

「ち、違う! そいつらは関係ねぇ! 盗みはアタイ独りでやったんだ!」

「ほう? 仲間を庇うとは殊勝な事だ。しかし疑いがある以上は取り調べが必要。そうは思わんかね?」

 下卑た目で錬とジエットを見るゴーン男爵。この分ではどんな取り調べが行われるかわかったものではない。

「くそっ……離せ! そいつらは無関係って言ってんだろ!?」

「やれやれ、小うるさい家畜だ」

 ゴーン男爵は腰の剣を抜き放った。研ぎ澄まされた刃が閃き、パムの首筋に添えられる。

 その途端、パムの双眸そうぼうから涙が溢れ出した。蚊の鳴くような声で錬とジエットに対する謝罪の言葉を繰り返し、体を震わせる。

 もはや一刻の猶予もない。何もしなければパムは死ぬ。

(どうする……?)

 錬は魔石銃を握り締め、いつでも撃てるようトリガーに指をかける。

 だが衛兵を名乗る相手を撃てば、こちらの身も危うくなる。撃つなら相応の正当性がなければ――

「今更奴隷が何を言おうと状況は変わらん。残念だったな」

「……奴隷でない者が言えば、状況は変わるのですか?」

 ジエットは冷たい眼差しをゴーン男爵へ向ける。

 それを見て、錬は彼女がこれから何をするのか理解した。

「なんだ? 自分は奴隷ではないとでも言いたいのかね?」

「仰る通りです。ドルエスト=ゴーン男爵様」

 ジエットはローズベル公爵家の刻印が入った首輪を外す。

 そして大勢の観衆が見守る中、透き通るような声で言い放った。

「私の名はジエッタニア=リィン=ヴァールハイト。この国の第七王女です!」
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