エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

58:王宮へ

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 ふわふわのクッションが敷かれた竜車に揺られ、錬とジエットは王宮を目指していた。

 往来する人々の間を行き、夕暮れに染まる城壁を抜けて貴族街へ入る。

「王宮に行くのは二度目だな」

「私もだよ。前にいたのは七年前だけどね」

 それを聞いて、御者台で手綱を握るリックが笑った。

「奇遇ですね。実は僕も二度目なんですよ」

「リックさんも?」

「ええ。僕は平民出身でしてね。昨年試験を受けてようやく宮廷魔法使いになった新米なんです」

「そうだったんですか」

「ちなみにエスリ様とは魔法学園で先輩後輩の関係でした。あの方はワンドでしたが、出自で差別せずに私のような者にも親しくしてくださったんですよ」

「エスリ先生らしいですね」

「ええ、まったく。だからこそ今回の話も率先して受けようと思ったのですが、まさかこんな事になるとは予想外でした」

 リックは楽しげに話す。

 そんな弛緩した空気の中、不意に竜車の荷台がモゾモゾと動き出した。

「ぶはぁっ」

「な、なんだ!?」

 掛けられた布のカバーが突然立ち上がり、中から猫獣人の少女が顔を出す。

「パムちゃん!?」

「付いて来てやったぜ!」

 勝ち誇った笑みを浮かべ、パムは錬とジエットの間に割り込んでくる。

「お、おい……なんでパムが荷台にいたんだ?」

「オマエらがいきなり知らない奴に連れて行かれたからだ。何かあったら金が返せなくなるだろ?」

「そりゃそうだけど……。リックさん、パムを連れて行っても大丈夫なんですか?」

「う~ん……」

 リックは困ったように頬をポリポリと掻いた。

「あまり良くはありませんが、王女殿下の付き人という事にすればまぁ……。今更エスリ様の奴隷が一人や二人増えたところで変わりませんしね」

「エスリ先生の奴隷?」

 言われてパムを見ると、いつの間にか首輪をしていた。

 ローズベル家の焼き印とエスリの名が刻まれた奴隷の証だ。

「お前それ、ジエットのじゃ……?」

「しぃー! しぃー!」

「?」

 小声でのやりとりはリックには届かなかったようだ。既にパムは奴隷の身から解放されているが、面倒な事になるからこのままの方がいいかもしれない。





 そうこうしているうちに、王宮へと辿り着いた。表彰式で見た王城とはまた別の建物へ連れて行かれる。

「こちらがジエッタニア様にお過ごしになっていただく離れの塔でございます」

「これからお父様に会うんじゃないんですか?」

「なにぶん急な事ですから。色々準備があるのですよ」

 塔内の螺旋階段を登りながら、リックは苦笑する。

「今のところあなた様の事は暫定的に王女殿下として扱われておりますが、さすがに本物かどうかわからない段階で陛下の御前に立つ事は許されておりません。今後の流れとしましては、明日の朝、大聖堂にて王女殿下である事を陛下とその臣下達、そして大司教様の前で証明していただく事になりますかと」

「証明の方法はこちらで選べるんですか?」

「他の手立てがあるなら構いませんが、遺言書がございますよ?」

「遺言書?」

「ええ。今は亡きランドール第一王子殿下が陛下へ遺されたものです。もしもジエッタニア姫が再び現れた場合、その真偽の確認には王家の魔法具を用いて欲しい、と」

「お兄様が……」

 ランドール第一王子はジエットに王家の魔法具であるアラマタールの杖の機能とその使い方を教えた人物だ。

 彼はいつかジエットが王城へ戻った時、自分がいない状況までをも想定していたのだろう。

(生きてればさぞ名君になっただろうに……)

 顔も見た事がない第一王子に思いを馳せ、錬はその冥福を祈った。

 やがて螺旋階段の頂上へ辿り着き、リックが扉を開く。

 そこは石造りの壁で覆われた部屋だった。王立魔法学園の学生寮よりも広いが、物が少ない。

「造りは立派ですが、ずいぶん殺風景な部屋ですね。窓もないし」

「それはそうです。ここは高貴な御方を幽閉する場所として使われている建物ですから」

 言われて錬はギョッとする。

 ジエットが真の王族である事が証明されるまでは逃さないという意味を言外に含んでいるのだろう。

(……まぁ大丈夫だろうが、用心するに越した事はないな)

「レン! ベッドがふかふかだよ!」

「うおっ、すっげー! 体が沈んでいくぞ!?」

 ジエットもパムもはしゃぎ回り、置いてある家具を弄くり倒している。

「レン君……一応言っておきますが、一緒に寝たりしないでくださいね?」

「しませんよ……!」

 護衛する都合上は一緒の部屋にいないといけないが、錬もそこまで節操なしではない。

「お食事をお持ち致しました」

 給仕のメイドがカートを押して入って来た。

 ふわふわの白いパンと焼いた手羽先、濃厚なソースがかかった焼き魚などが銀の皿に盛られ、お盆に載って運ばれてくる。

「ほわぁぁぁ~!!」

 ジエットとパムが目をかっぴらいてよだれを垂らしている。

「こ、これ食べていいの!?」

「どうぞお召し上がりくださいな。ジエッタニア様」

 給仕係のメイドが笑顔で答える。

「アタイも食べていいのか!?」

「あなたはこっち」

 差し出されたのは、カチカチの黒いパンと茹でただけの根菜が雑に盛られた粗末な木皿だった。錬の分もあるようだ。

「……これがアタイのごはん?」

「奴隷が王女殿下と同じ物を食べられるはずがないではないですか。ジエッタニア様のお食事が済むまで手を付けてはなりませんよ」

「いいよいいよ。一緒に食べようね、パムちゃん」

「いいのか!?」

「うん! その黒パンちょっとちょうだい。私のお肉を分けたげるから」

「おう!」

「ジエッタニア様!?」

 パムと仲良く座るジエットを目にして、メイドはひどく狼狽する。

 王女と奴隷が食事を共にするなど本来あり得ない事だが、それをどう咎めていいのかわからないのだろう。

「ほら、レンもおいでよ! おいしそうだよ!」

「お、お待ちくださいジエッタニア様……!?」

 既存のルールなどクソ喰らえと言わんばかりにジエットは満面の笑みで手招きしてくる。

(……考え過ぎも良くはないか)

 弛緩した空気を感じながら、錬も釣られて笑みがこぼれるのだった。
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