エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

57:主人の権利の使い方

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 広々として乗り心地の良い竜車に乗り、錬達はゴーン商会を目指す。

 商会の建物は平民街の端っこにあるらしい。ゴーン男爵いわく、土地代を安く抑えるためだそうだ。

 そのゴーン男爵は向かいの席で腕を組んだまま沈黙しており、錬の隣では嗚咽を漏らしているパムの頭をジエットが撫でている。

 先ほどまでの王女然とした姿はなく、普段通りの表情に戻っていた。

「ジエット、オマエ王女様だったのか……?」

「まぁ、一応ね。驚いた?」

 それを聞いて、パムはまたも目を潤ませ始めた。

 半獣のジエットが王女である事を隠す理由は、暗殺などの危険を避けるためだ。パムもそれは理解できたのだろう。

「ジエット……ごめんよぅ……」

「いいんだよ。よしよし」

 胸に顔を埋めるパムを、ジエットは優しく抱き締める。

(まるで姉妹みたいだな)

 そんな錬の視線に気付き、ジエットは聖母のように微笑んだ。

「レンも来たいの?」

「いや……そういう目で見てたわけじゃないんだが……」

「鉱山では離れなかったのに?」

「あれは忘れてくれ……!」

 ごまかすように錬は窓へ顔を向ける。

 そんな中ゴーン男爵と目が合い、少しだけ彼の気まずさがわかった気がしたのだった。





 ゴーン商会の工房は、一目でわかるほどに粗末な建物だった。

 木造の掘っ立て小屋を少し大きくしただけの工房に、数百人からなる獣人奴隷の子ども達を詰め込んで作業させている。

 皆食事をあまりとっていないのかガリガリで、着ている物も擦り切れてボロボロの布を巻いただけだ。逃げられないよう足枷がはめられており、手足は痛々しいほど傷だらけだった。

「オマエら無事か!?」

 パムが走り出すと、奴隷達が一斉に顔を上げた。

「パム……? 連れ戻されたの?」

「違うっての! アタイはオマエらを助けに来たんだ!」

 そんなパムの後ろから、ゴーン男爵がしかめっ面で歩み出る。

「だ、男爵様……!?」

「貴様ら、作業はもういい。全員手を止めて集まれ」

 慌てて集まる奴隷達。貧民街で見たパムの仲間と同様、ここにいるのも多種多様な獣人達である。

「男爵様、これは一体……?」

「こやつの言った通りだ。今日から貴様らの新たな主人は、このレンという少年になる……」

 ゴーン男爵に手を向けられ、衆目が錬に集まる。

「新たなご主人さま……? という事は、アタシ達は売られたんですか?」

「そうだ」

 犬獣人の少女が錬を見上げてくる。

 新たな主人がどういう人物かわからず、不安なのだろう。他の奴隷達も小刻みに震えていた。

「で、では新しいご主人さま……アタシ達は何をすればいいんでしょうか……?」

「そうだな。じゃあ主人として、君達に最初の命令を下す」

 ゴクリ、と奴隷達が息を呑む。

 そんな彼らの足元へ小さな鍵を放り、錬は高らかに告げた。

「全員この場で首輪を外せ。そして自由を謳歌しろ! それが主人である俺からの、最初で最後の命令だ」

「!?」

 奴隷達が瞠目する。

 何を言われたのか一瞬理解できなかったらしく、互いに顔を見合わせている。

「自由を……って……そんな事言われてもアタシ達、どうすれば……?」

「安心してくれ。君達の生きる術はある。貧民街で俺達が運営している紡績関連の仕事を手伝ってもいいし、織布工ギルドに斡旋してもいい。それ以外の道も可能な限りサポートしよう」

「ご主人さまは、アタシ達を買ったんじゃないんですか……?」

「買ったとも。そして奴隷に関する全権は、主人である俺が握っている。だったらこの場で全員解放したっていいはずだろう?」

 驚きの余り言葉を失う犬獣人の少女。彼女の頭を優しく撫で、錬は笑顔で言う。

「すべての奴隷を解放し、奴隷制度を廃止する。それが俺とジエットの目標だ。君達はその第一号となる。好きな事をし、好きなように生きて、後に続く解放奴隷達のお手本になってくれ」

 再び奴隷達は大きく目を見張った。

 錬の言葉を噛み締めるように、各々が小さく復唱している。

「じゃ、じゃあ……パン屋さんをやってもいいんですか……?」

「いいぞ。君がやりたいならな」

「私、お花屋さんがしたい!」

「ボクは薬草屋がいい!」

「オレ、ハンターになりたかったんだ!」

 口々になりたい職業ややりたい事を挙げ、盛り上がる奴隷達。彼らの足元に、鍵の外れた首輪が次々と投げ捨てられていく。

 満面の笑みを浮かべる者。涙を流して喜ぶ者。仲間と抱き合う者。反応も様々だ。

 パムもその中へ混じって、感涙にむせび泣いている。

 そんな希望に満ちた彼らを見て、ゴーン男爵が渋面を作った。

「……これで満足か?」

「ええ。契約成立ですね」

 錬が手を差し出すと、嫌そうにしつつも握り返してくる。

「それじゃお達者で。今度からはもっとマシな商売をやってくださいよ?」

「ぐぬぬ……」

 ゴーン男爵は悔しげに歯を食いしばり、力なくなだれた。

 ふと横を向けば、ジエットまでもが目を潤ませている。王女であろうがなかろうが、涙もろいのは変わらないらしい。

「これで……いいんだよね」

「ああ。でもまだゴールは遠いんだ。毎回泣いてたらそのうち涙が枯れ果てるぞ?」

「いいよ、それでも」

 ジエットは涙を拭い、強気の笑みを浮かべて見せた。

「枯れるくらい泣いたなら、奴隷がいない世界を作れたって事だもんね」





 その後、解放した獣人の子ども達はひとまず貧民街で生活してもらう事となった。

 毎日炊き出しをしているし、パム達もいる。何より錬が雇って以降、貧民同士で仲間意識が高まったのか、相互扶助の仕組みがいつの間にかできていた。

 元紡糸ギルド員達も衣類の調達を主導しており、ボロ服を着ている者も徐々に減ってきている。

 彼らならば、この新たな住民達も受け入れてくれるだろう。

「あんちゃん、ジエット、ありがとな! オマエらに助けてもらった礼はいつか必ずするぜ!」

「期待せず待ってるよ」

 傾きかけた陽射しの中でパム達を見送った後、錬はジエットに向き直った。

「それで、これからどうする? 王女である事を明かした以上、今までと同じにはいかないぞ」

「そうだね……。一旦学園に戻ってエスリ先生に報告した方がいいかな?」

「――いえ、ジエッタニア様。あなた様にはこれから王宮へ向かっていただきます」

 割って入るように告げたのは、金の刺繍が入った紅のローブを着る若い男である。

 彼は糸のように目を細め、胸に手を当てて一礼する。その背後には豪華な装飾が施された竜車が一台あった。

「王宮に……?」

「はい。王族を名乗った以上、暫定的にあなた様は王女として扱われますが、皆の前でそれを証明をしていただかなくてはなりません。これからすぐに向かいますのでご準備を」

「……その前にまず、あなたは?」

 錬は魔石銃を手に、ジエットを守るようにして立つ。

 すると男は両手を軽く上げてにこやかに笑った。

「申し遅れました。私は宮廷魔法使いのリックと言います。織布工ギルドによる抗議の一件の後、ジエッタニア様の身を危ぶまれたエスリ様より要請がありまして、私が派遣されましたところ、王女殿下がいるとの報せを受けて急遽お迎えに上がった次第です」

「エスリ先生が……?」

「ええ。あなた方がゴーン商会に狙われている事はエスリ様も気付いておられたようですね」

 リックと名乗る彼は初めて見る顔だが、学園長の指示で動く人間なら信用していいだろう。

 錬は魔石銃から手を離し、ジエットと顔を見合わせた。

「そういうわけでございますので、ジエッタニア様。王宮までご同行願います」

「それなら俺も連れて行ってください」

「あなたも?」

「はい。俺はジエットの――ジエッタニア姫の護衛です。彼女と離れては守る事ができないので」

「レン……」

 頬を染めて嬉しそうに安堵するジエット。

 やはり王女と明かした事への不安はあるのだろう。王宮へ行くとなればなおさらだ。

「私からもお願いします。レンも一緒に連れて行ってください」

「……同行させたいのは山々ですが、さすがに奴隷を連れて行くのはおやめした方が。王宮側の心証を悪くされる恐れもありますよ?」

「構いません」

 ジエットは胸を張り、自慢するようにして告げた。

「レンは私が最も信頼する――大賢者様ですから」
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