エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

59:王女の証

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 翌朝、錬は陽が昇りきらないうちから目が覚めた。

 予定では今日が王女である証明をする日である。

(何もないならよし。でも何かあっても対処できるようにしないとな)

 錬は腰の魔石銃や、材料や工具の入った革のポーチ、それからお金の入った袋を確認する。

 スタンピードで弾切れを起こして以来、錬は魔石銃を二丁持ち歩くようにしている。ジエットの魔石銃も預かっているので手元にあるのは三丁だ。これならいざという時にも対応できるだろう。

 そうして身支度を整えていると、メイドが数人やってきた。

「ジエッタニア様、起床のお時間でございます」

「は~い……」

 ボサボサ髪のままジエットが起き上がってくる。パムもジエットのベッドで目をこすっているが、メイド達は諦めた様子で何も言わない事にしたようだ。

「まずはお召し物を替えましょう。ジエッタニア様、どうぞこちらへ」

 部屋の隅に純白のカーテンが張られ、ジエットがメイドに連れて行かれる。

「わひゃっ!? どこさわって……っ」

「普通にお召し物を替えているだけでございます」

「じ、自分で脱ぐから! そんなとこさわらないで!」

「もうっ、抵抗しないでくださいまし!」

 カーテンの向こうで繰り広げられるやり取りを耳にして、パムはぼそりとつぶやく。

「……なんか、エロいな」

「パムの頭の中がな」

 そんなこんなで着替えが終わり、カーテンがめくられる。

 姿を現したのは、金の刺繍とリボンがあしらわれたドレスを身にまとうジエットだった。

「ど、どうかな……?」

 もじもじと照れながらドレスの裾をいじり、目を泳がせている。

「おおー! 本物の王女様みたいだな!」

「一応本物なんだけどね!?」

 それから、上目遣いで錬を見てきた。

「やっぱりこういうヒラヒラしたのは似合わないよね?」

 自信なさげに苦笑いしているが、しかし外見だけは儚げな印象のあるジエットにはピッタリな衣装である。

「俺は似合ってると思うぞ」

「あ……ありがと」

 赤面してうつむくジエット。

 そんな彼女を遮るように、メイドが服を突き出してくる。

「さ、次はあなた達の番よ」

「俺達も着替えるんですか?」

「当たり前でしょう。王立魔法学園の制服は正装だからいいけれど、髪がボサボサでは台無しです。それに猫獣人のあなたが着ている服は何なの? そんな小汚い恰好では失笑を買いますよ」

「あんちゃんがプレゼントしてくれた服を悪く言うな!」

「いや、それ間に合わせの安物だから……」

「フーッ!」

 唸り声を上げるパムに、けれどメイドは目を吊り上げて袖まくりした。

「いいから脱ぎなさい! ほら、早く!」

「ふぎゃっ!?」

 突然素っ裸にひん剥かれてしゃがみ込むパム。

 貧民街に住む元逃亡奴隷なだけあって、下着もろくに着けていないようである。

「あ、あんちゃん見るな!」

「はいはい! 向こう行ってます!」

 錬は慌てて背を向け、部屋の外へ飛び出した。





 パムが着せられたのは侍女の着る服だった。

 ジエットのドレスと比べると地味そのものだが、それでも王宮をうろついても違和感がないくらいには質の良い衣装である。

「これ布が多いぞ。作るのにどんだけ手間暇かかってんだ?」

「服を着た感想がそれって、もはや職業病だな……」

 その後は朝食を皆で食べ、錬達は宮廷魔法使いのリックに連れられて王女である証明を行う式典の場所へ向かう事となった。

「会場はこちらでございます」

 リックに案内されたのは教会のような立派な建物だった。式典はこの大聖堂で行われるらしい。

 大聖堂は高台の上に建てられているようで、バルコニーの向こうからは人々のざわめきが聞こえてくる。

 近付いて階下を覗くと、ざっと数百人はいるであろう大勢の人々がすでに待ち構えており、中央にある噴水前には王が座る豪華な椅子が置かれていた。

「お父様も見に来られるんですね」

「もちろんです。王女殿下は血の繋がった子ですから、生きていたとわかればきっとお喜びになるでしょう」

「……そうですね」

 浮かない顔でジエットはうつむく。

 王が自分の生存を喜んでいるとは思えないからなのだろう。

「心配するな。俺が付いてる」

 錬が手を握ると、ジエットはほんの少し気持ちが上向いたのか頬を染めて笑顔を見せた。

 大聖堂の中は、荘厳の一言が相応しい景観だった。

 壁一面を覆う大きなステンドグラスの前に主祭壇が置かれ、棘の生えた金属製の白い円輪がシンボルとして飾られている。

 その前で老いた大司教と司祭達が出迎えてくれた。

「大聖堂へようこそお越しくださいました。ジエッタニア様」

 そう言って恭しくひざまづき、華美な装飾が施された長方形の箱を差し出してくる。

「これは……」

「王家が所蔵する秘宝。天をも従えると言われる神杖『アラマタールの杖』にございます」

 司祭達の手で箱の蓋が開けられる。中には眩く輝く白銀の杖が収められていた。

 複雑な模様が刻み込まれたその杖は芸術的なほどに美しく、先端には深紅の宝玉が埋め込まれている。その外観はまさに神の杖と呼ぶに足るものだ。

「この神杖の起動方法は、王位継承権を持つ王族にしか伝えられておりませぬ。ジエッタニア様にはこれより、大聖堂前の広場にてこのアラマタールの杖を使用していただきます。準備ができましたらバルコニーまでお越しくださいませ」

 そう言って大司教達は一礼し、壁際まで下がった。

「いよいよだな」

「うん」

 皆の前でアラマタールの杖を使用して見せれば、ジエットは正式にヴァールハイト王国第七王女ジエッタニア姫と認められる。

 公開する時期こそ想定よりもだいぶ早かったが、いずれ必ず通る道。避ける事も後戻りもできない以上、全力で突き進むだけだ。

「……あれ?」

 不意にジエットが声を上ずらせた。

「どうした?」

「あ、えっと……おかしいな?」

 ジエットは焦燥に満ちた顔で杖をためつすがめつ観察している。

 そして震える声でつぶやいた。

「この杖……起動できない……」



 ***



 大聖堂前の群衆に紛れ、ゴーン男爵はハンカチで額の汗を拭っていた。

 すぐそばには果実酒の入ったグラスを手にしたハーヴィン王太子殿下がいる。

「首尾はどうだったね? ゴーン男爵」

「は……何とか上手くやれたかと」

「それは良かった。失敗していたら大変な事になるところだったよ」

 ハーヴィンに寒々しい笑顔を向けられ、ゴーン男爵は身震いする。

「しかし……あのような事をして本当に大丈夫なのでしょうか? 王太子殿下のご指示とはいえ、王家の宝物庫に侵入するなど。もし露見すれば……」

「いずれにせよ、君は終わりだ。財を失い、ジエッタニアに杖を向けた今、君を待つのは良くて国外追放、悪くて死罪だろう。助かる道はただ一つ。ジエッタニアが偽物である可能性だけだ」

「お、仰る通りでございます……」

 ジエッタニアが本物の王女と証明されれば、問答無用で処刑しようとしたゴーン男爵の首は飛ぶ。助かるためには、杖を向けた相手が偽物でなければならない。

 だから王族の証明をするための秘宝に細工を施したのだ。

「君がアラマタールの杖に仕掛けた魔法具『ケラットラットの錠前』は、私が密かに入手していた魔法具でね。その機能は、魔法具の機能を封印するというもの。ひとたび取り付ければ何人なんぴとたりとも解除できん。鍵を知る我々以外にはな」
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