エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

61:ブルートフォースアタック

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 錬はまず、近くの椅子をハンマーで破壊する事から始めた。

「し、神聖な大聖堂で何をしとるか貴様ァッ!」

「悪いな爺さん、ちょっといただくぞ!」

 怒り狂う大司教に向けてサムズアップを決め、錬はへし折った椅子の破片を集めていく。

「レン、何やってるの……?」

「木材が欲しい。ちょうどいいところにいい感じの椅子があったからいただいた」

「た、高そうな椅子だけど……」

「王女殿下の命と比べたら安いもんさ」

 錬は魔石と核石と銅線を使い、今しがた手に入れた木片の上に付与魔法スイッチの回路を組み上げる。

 その構造に見覚えがあったのだろう。ジエットは口元に手を当てて目を見張った。

「それ――まさか自動織機で使ったやつ!?」

「そう、カウンタ回路だ。前回は三段だから八までしか数えられなかったが、三十段にすれば、十億七千三百七十四万千八百二十四まで数えられる」

「そ、それで……どうするの?」

「このカウンタ回路にこいつを繋ぐのさ」

 錬はジエットから預かっている魔石銃を取り出した。

「魔石銃を……?」

「より正確には、魔石銃に内蔵してある発振器を繋ぐんだ」

 発振器は、周期的にパルスを発生する装置である。そしてカウンタ回路は、パルスを一つ受け取るたび記憶している数に一を加算していく。

 魔法の錠前のパスコードは、〇から十億七千三百七十四万千八百二十三までのどれかの数字である。

 このカウンタ回路があれば、それを一つずつ全自動で試していく事ができるのだ。

「発振器の周波数が高ければ高いほど、カウンタ回路は高速に数を数える事が可能になる。計測器なんてないから実際の周波数はわからないけど、可能な限り高くなるよう再構成しよう」

「私は何をすれば?」

「杖に取り付けられた魔法具のカバーを何とか剥がしてくれ。内部に手を加えたい」

「わかった!」

 ジエットはすぐさま魔法具のカバーを剥がしにかかった。

 牙を向いて青筋を浮かべ、顔が真っ赤になるほど渾身の力を込める。命が懸かっているので必死である。

 やがて半獣人の力により強引にカバーが外され、内部構造があらわになった。

「はぁっ……はぁっ……開いたよ!」

「よし、見せてくれ」

 魔法の錠前の内部は、以前ノーラが見せてくれた魔法具研究書の写本に書かれていた通りのものだった。

 石板に金箔が網目状に貼られ、その各部に小さな核石と鉄片が埋め込まれている。

(付与魔法スイッチと同じ構成だな……。先人にもこれを作った人がいたのか)

 思わぬところで車輪の再発明をしていた事に錬は驚かされたが、今それはどうでもいい事だ。

(さて、これをどうやって接続するか。溶接できればいいんだが――いや、そうか!)

 錬は魔石銃をナイフに向け、ゆっくりトリガーを引く。すると刃の切っ先が赤熱し、炎を宿した。

(よし……! これで溶接できそうだ)

 錬は三十本あるカウンタ回路の出力を、魔法の錠前のスイッチ部分と溶接する。

 緊張から手が震えるが、深呼吸で頭を冷やす。パムが大司教を牽制してくれているおかげで邪魔が入らず、何とか作業を終える事ができた。

「ひとまず完成だ! 動かすぞ!」

「うん!」

 荒ぶる心臓をなだめるように一呼吸置き、錬は魔石銃の発振器を稼働させる。

 だが一見すると無反応な装置に、ジエットが泣きそうな顔になった。

「……な、何も起こらないよっ!?」

「落ち着け! 十億通り以上あるんだ。解読までには時間がかかる!」

 仮に一秒間に百万回パスコードの入力ができるとした場合、最長でおよそ十八分かかる。一秒間に十万回なら約三時間、一万回なら丸一日以上だ。

 実際にはパスコードの数字が若いほど早くなるが、発振器の周波数がわからないので解読にかかる時間など見当もつかない。

 その時、錬のすぐそばの地面が弾けた。

 宮廷魔法使い達が到着したのだ。その中にはリックの姿もあった。

「お前達、王女殿下の名を騙る罪人を捕らえよ!」

「はいっ!」

 宮廷魔法使い達が一斉に銀の短杖を構えて叫ぶ。

「エルト・ラ・シュタル・ダーテス・フロギス!」

「パム! 解読装置を守れ!」

 錬はジエットを守るように立ち、パムと共に襲い来る炎の矢を魔石銃でことごとく撃ち落としていく。

「おい! 時間をくれって言ってるだろ!?」

「時間があればできるなど、起動できない事の言い訳にはならぬ! 宮廷魔法使い達よ、構わず魔法を放てい!」

「ジエットは本物の王女だ! お前らは自分の勘違いのせいで王族を殺そうとしてるんだぞ!?」

「……っ!」

 宮廷魔法使い達の間に動揺が走る。

 証明ができない以上は偽物と大司教は判断したようだが、王女である可能性が完全に潰えたわけではないのだ。

 そんな中、宮廷魔法使いの中から一人の男が前に出た。

 新米宮廷魔法使い、リックだ。その顔から笑みは消え失せ、敵意に満ちた目で錬を睨んでいる。

「……レン君。本当に彼女は王女様なんですか?」

「本当だ」

「その言葉、命を懸けられます?」

「当然!」

「なるほど……では実際に命を懸けてもらいましょう」

 リックは杖をジエットに向け、詠唱を開始する。

 襲い来るであろう魔法を警戒し、錬も魔石銃でリックを狙う。

 だが――

「エルト・ル・パステ・シエルテス・ウィンダーレ!」

「!?」

 リックが風の障壁魔法を多重展開したのだ。

 錬やジエットだけでなく、神杖と解読装置までをも防御範囲に入れてくれる。

 そして――今度は仲間であるはずの宮廷魔法使い達へ短杖を向けた。

「お、おいリック!?」

「なぜ我らに杖を向ける!?」

「まさかお前、裏切るつもりか!?」

 非難するように叫ぶ宮廷魔法使い達。

「すみません先輩方。僕には彼らが嘘をついているようには思えないんですよ」

「きっさまぁ……ッ!」

 申し訳無さそうに笑いながら、リックは錬達の側へ後ずさってくる。

「リックさん……」

「はは、僕も焼きが回ったかな。でもどちらが信じるに足るかはこの目で判断したつもりです。これで間違いなら諦めますが、もしも本物の王女様だと証明できた暁には……そうですね。僕を王宮の筆頭魔法使いに推薦していただけませんかねぇ?」

 苦笑いを浮かべてリックは言う。彼の口元は恐怖に引きつっているが、しかし目だけは強い意志が込められていた。

「リック様……本当に、いいんですね?」

「ええ。なんたって僕は平民出身者ですからね。必死に勉強して宮廷魔法使いにはなれましたが、それ止まりです。こんな博打でも打たないと昇格なんて夢のまた夢、一生ヒラで過ごすしかないのですよ」

 そんな彼を見て、ジエットも立ち上がる。

 そこにいるのはもはや絶望に震える半獣少女ではない。彼女は今、王女としての風格をもってこの事態に立ち向かっていた。

「わかりました。リック様、パムちゃん、そして――レン! 私を守ってください!」

「了解!」

「放てぇーっ!」

「エルト・ラ・バルセタ・オーラ・ウィンダーレ!」

 一斉に放たれた風の衝撃波に、多重展開された障壁魔法が次々と砕け散る。

 だが一瞬の隙を錬とパムの魔石銃で防ぎ、リックが再び障壁魔法を展開した。

 無数の魔法の応酬は、けれどそう長くは続かない。数度繰り返した後、リックが脂汗を浮かべて膝をついた。

「くっ……さすがに先輩方は強いですね。魔力がもちません」

「リックさん、魔石ならあるぞ!」

「こ、これ以上働けと言うのですか……? これはもう筆頭魔法使いどころか、大臣にでもしていただかなくては割に合いませんねぇ……!」

「だったらアタイは大金持ちになりたいぜ!」

「大臣でも大金持ちでも何でもなれるさ! 今ここを耐え抜けばな!」

 好き勝手のたまう錬達に、大司教は青筋を浮かべて叫ぶ。

「ええいお前達、何をやっておるのです!? 反逆者ごと押し潰してしまいなさい!」

 そんな中、不意に錬は神杖の装置が音を立てて剥がれ堕ちるのを視界の隅に捉えた。

 パスコードの解除が終わったのだ。

「ジエット! 杖を拾え!」

 錬の指示で気付いたのだろう。ジエットは急いで神杖を拾い上げる。

「それは王家の者だけが手にできる秘宝! 薄汚い罪人が触れれば天罰がくだりますぞ!?」

「その言葉、後悔するなよ爺さん!」

 直後、大聖堂に風が吹いた。

「な、なんだ……!?」

「これは一体!?」

 狼狽する大司教と宮廷魔法使い達。

 最初はそよ風かと思われたそれは、ものの数秒で視認できるほどの荒ぶる竜巻へと変貌してゆく。

 椅子や家具が宙を舞い、石壁が剥がれ飛ぶ。錬達のいる場所を残し、その周囲だけが暴風に包まれた。

「控えなさい、大司教!」

 ジエットが一歩前に足を踏み出す。

 その手には光り輝く神杖、アラマタールの杖が握られていた。

「私の名はジエッタニア――第七王女ジエッタニア=リィン=ヴァールハイトです!」
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