エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第四章

63:動乱の兆し

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「お父様が……暗殺された?」

 兵士の報告で、大聖堂内は騒然とした。

 錬もジエットもパムも、大司教や司祭に宮廷魔法使い達までもが突然の事態に動揺する。

「陛下が暗殺とは、一体どういう事だ!?」

「それが、ドルエスト=ゴーン男爵の凶行によるものと報告でございます! 何でも果実水に毒が盛られていたとか」

「バカな……すぐに行く! ジエッタニア様、しばし失礼致しますぞ……!」

 大司教は慌ただしく大聖堂を出て行った。宮廷魔法使いも同じくジエットに一礼し、部屋を後にする。

「王様が死んだって、本当なのか?」

 そんなパムの疑問に、バルコニーから外を見ていたリックが応えた。

「……どうやら本当のようです。下は大騒ぎですよ」

「リックさんは行かなくていいんですか?」

「ええ。僕はジエッタニア様の護衛に付くよう隊長に指示されたので。仲間を裏切ってでも王女殿下を守った実績を評価されたんでしょうかねぇ?」

 肩をすくめるリック。

 対するジエットはその表情が強張っているように錬には感じられた。

(それもそうか。なんたって自分の父親が暗殺されたんだから)

 親子の愛情はなかったかもしれないが、それでも血の繋がった肉親なのだ。これから少しずつ会話ができるというタイミングでその機会が永遠に失われた。ショックを受けても仕方がないだろう。

 だが、今は感傷に浸っている場合ではない。

 この状況でゴーン男爵が国王を暗殺するのはいくら何でも不自然だ。なのに実行犯として名が挙がったところを見るに、男爵はハーヴィンに切り捨てられたのかもしれない。

「ジエット、パム。今すぐここを出よう」

「……どうして?」

「国王が崩御した以上、ここはもはや敵地だ。混乱が収まる前に逃げた方がいい」

 国王がいなくなれば、王位は次代に継承される。ならば現在もっとも王位に近い人間は誰か?

 王太子であるハーヴィンだ。

「リックさん、竜車を一台用意してもらえませんか?」

「それは構いませんが、どちらへ?」

「王立魔法学園です」

「今からですか? 王宮にいれば宮廷魔法使いと王国魔法騎士団が護衛致しますよ?」

 だが錬は頭を振って答える。

「国王陛下を失った今、ハーヴィン王太子殿下が王宮の権限を掌握するはず。その王太子殿下は魔力至上主義者です。一刻も早くジエットを逃がさないといけません」

 錬の話を聞いて、リックは未だ騒然としている広場へ目を向けた。

 どうやら事態の深刻さを理解したようだ。

「……わかりました。では急ぎましょう!」





 リックに連れられて向かったのは、王宮の端にある厩舎きゅうしゃだった。

 動物臭の香る小屋の中、縄で繋がれた騎竜達の前を通って四人乗りの小さな竜車へ案内される。

「ジエッタニア様、こちらへ」

「行きで使った竜車とは違うんですね」

「あれは王女殿下をお連れするための装飾品だらけですから。こちらの竜車は見栄えこそしませんが軽く、騎竜も軍用なので速いですよ」

 その言葉を理解しているのか何なのか、騎竜は嬉しそうにリックに頭をすり寄せた。

「オマエに懐いてるみたいだな」

「この子は人懐っこい性格ですから。パムさんもすぐ仲良くなれると思いますよ」

「そうなのか?」

 恐る恐るパムが手を伸ばすと、騎竜はされるがままに頭を撫でられている。人懐っこいのは本当のようだ。

「リックさん、どうもありがとうございます」

「とんでもございません、ジエッタニア様。さぁお乗りくださ――」

「皆伏せろ!」

「!?」

 錬が叫んだ直後、厩舎の壁が爆散した。

 いななく騎竜達の間を抜け、黒無地のローブを着た連中が錬達を取り囲んで来る。

 その数は見える範囲だけでも十人以上。

「な、なんだコイツら!?」

「少なくとも王女殿下のお見送りじゃなさそうだ!」

 錬とパムはジエットを庇うようにして魔石銃を構える。リックも銀の杖を抜き、口を開く。

「エルト・ル・グローア・ウォーレス・ウィンダーレ!」

 厩舎の中に風の障壁が生まれる。それは外まで続く一本道を作るように配置されていた。

 だが刺客達もまた杖を抜き、詠唱文を口ずさむ。

「皆さん! 僕に構わず行ってください!」

「リックさんは!?」

「ご安心を。これでも宮廷魔法使いに選抜される程度には強いつもりですから」

 にこやかに笑うリックに背を押され、錬はジエットやパムと共に竜車へ乗り込む。

「リックさん!」

「お二人とも、どうかジエッタニア様をお助けください!」

「わかった! リックさんも死なないでくださいよ!」

 錬が御者台で手綱を持つと、騎竜は外へ向かって地を蹴った。
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