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第四章
78:月下無双の最強賢者(2)
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月下の戦場で、錬は敵と対峙する。
「大賢者殿! 我輩を倒さずしてここを出られると思うでないぞッ!」
「あんたか」
「聖堂騎士団団長ゼノン=ゾルダート――参るッ!」
魔法の杖剣を構えてゼノンが地を蹴った。
一息に間合いを詰められ、一閃。その切っ先は魔光石シールドの障壁とぶつかって激しく粒子を散らす。
「おっと」
とっさに避けると、先ほどまで錬がいた場所に燃え盛る風の刃が閃いた。
(さすがに二属性魔法なら突破されるか)
あれほど無敵を誇った魔光石シールドをやすやすと斬ったのだ。一撃もらえばアウトだろう。
だが障壁とぶつかれば剣閃が鈍るため、月光下ならばかわすのはそう難しくない。
「むぅ……! こしゃくな!」
対するゼノンは焦れているようだった。
彼にとって奥の手であろう二属性の魔法剣が簡単にかわされているのだ。無理もない。
かといって遠距離攻撃魔法では、二属性だろうと何だろうと無詠唱でばらまける魔光石銃に速度と手数で勝てない。それがわかっているからこそ杖剣での近接戦を挑んできたのだろう。
だが手数の差というなら、魔法剣であっても同じ事だ。
一瞬できた間合いを活かし、錬が魔光石銃をゼノンに向けて全力でぶっ放す。
恐るべき剣裁きでそれらを弾くが、数の暴力に押されて一部が左肩に被弾。
「ぐっ……おぉぉぉっ……!?」
一発当たれば動きが鈍り、後はなし崩しである。
裁ききれなくなった魔光石銃の魔弾を浴び、ゼノンは壁に叩き付けられた。
「なぜ……それほどの力……を……」
言いかけたゼノンの言葉が途切れる。どうやら気を失ってしまったようだ。
「だ、団長が負けた……!?」
「バカな! 聖堂騎士団最強の騎士だぞ!?」
「なんだよ……なんなんだよあの化け物はよォ!?」
衛兵達の怯える声に背を向け、錬は歩いて行く。
閉ざされた城門を魔光石銃でバラバラにし、ついには砦の外へと足を踏み出した。
「お待ちなさい!」
最後の最後に現れたのは、やはりというかテラミスだった。
「どうあってもわたくしのモノになる気はないわけね?」
「そうだな」
「いいでしょう……。大賢者の英知は惜しいけれど、ハーヴィンお兄様の手に渡るくらいならいなくなった方がマシよ!」
テラミスの持つ宝玉が虹色に輝く。
その途端、周囲に無数の岩石人形が生み出された。人間大と小型だが、ざっと見て五十体は下らないだろう。
「へぇ、いっぱい作って操ったりもできるんだな。土魔法か? 仕組みを見てみたいもんだ」
「余裕ぶっていられるのも今のうちよっ!」
「!」
向けられた木製の杖を見て嫌な予感がし、錬はとっさに地面を転がる。
次の瞬間、夜の闇に光が満ちた。
錬がさっきまで立っていた場所を燃え盛る溶岩弾がえぐり、岩石人形もろとも消し飛ばす。
「よく避けたわね。でも次は当てるわよ」
テラミスは使い終わった魔石を投げ捨て、新たな魔石をセットした。
「……なるほど、製法を知って早速二属性の魔石銃を作ったのか」
「ご明察よ。さすがは大賢者というべきかしら?」
二属性の魔石銃を向けられ、錬は全力で射線から飛び退く。
だが岩石人形の群れが退路を阻んで来る。魔法で動かしているせいか、殴られても魔光石シールドで自動防御できるが、数が多く身動きが取りづらい。
そんな中、テラミスの魔石銃が再び溶岩弾を吐いた。
魔光石銃で敵を蹴散らし強引に回避したが、倒した分だけ岩石人形が次々と大地から生えてくる。
「ほらほら、逃げてるだけじゃいつか当たるわよ!」
テラミスの持つ王家の秘宝『エムトハの魔術師』は汎用性に優れるが、攻撃方面では決定打になり得ない。だから錬の逃げ道を塞ぐ事に注力させ、攻撃は二属性の魔石銃で補う作戦なのだろう。
一見すると完璧に思えるが、しかしこれには大きな欠点がある。
そう――魔石のリロードだ。
「うぐっ!?」
リロード中に魔光石銃で反撃すると、テラミスの手から魔石が地面にこぼれ落ちた。
「二属性魔法は燃費が悪いんだ。一発撃つごとにリロードしてちゃ隙だらけだぞ」
「こ、この……ッ!」
歯噛みするテラミスの元へ衛兵が走ってきたのはそんな時だった。
「テラミス様! 大変です!」
「大変な事くらいわかってるわよ!」
「そ、そうではありません! ゾルダート領内の町が……魔獣の襲撃を受けているとの報告が入りました!」
「なんですって……!?」
周囲の岩石人形が動きを止めた。テラミスが操作を中断したようだ。
「何の魔獣が出たの?」
「報告によりますと、地竜のようです。数匹の群れで行動していると……!」
「地竜の群れですって!? なぜそんなものが……!?」
「わかりません! ですが、急ぎ救援に向かわねば被害は拡大する一方です!」
「うぐぐ……」
テラミスは悔しげに錬と衛兵を交互に見て、岩石人形を土塊に戻した。
「俺を消すんじゃなかったのか?」
「そうしたいのは山々だけれど、魔獣の襲撃を放置するわけにはいかないの。あなたはまた後で倒せるけれど、町の復興は大変なのよ。どこへでも好きなところへ行くがいいわ!」
そう言って踵を返し、テラミスは不機嫌さを隠す事なく走って行く。
大賢者打倒よりも人命を優先したその行動に少しの驚きを感じ、彼女の背を見つめる。
ジエットと誓った以上、錬にはテラミス王女派に移るつもりはない。だがそれはそれとして、一人の人間として彼女の選択には賛同できる。
(善人……ではあるのかもしれないな)
テラミスが捨てていった使用済み魔石を拾いながら、錬はそんな事を考えていた。
「大賢者殿! 我輩を倒さずしてここを出られると思うでないぞッ!」
「あんたか」
「聖堂騎士団団長ゼノン=ゾルダート――参るッ!」
魔法の杖剣を構えてゼノンが地を蹴った。
一息に間合いを詰められ、一閃。その切っ先は魔光石シールドの障壁とぶつかって激しく粒子を散らす。
「おっと」
とっさに避けると、先ほどまで錬がいた場所に燃え盛る風の刃が閃いた。
(さすがに二属性魔法なら突破されるか)
あれほど無敵を誇った魔光石シールドをやすやすと斬ったのだ。一撃もらえばアウトだろう。
だが障壁とぶつかれば剣閃が鈍るため、月光下ならばかわすのはそう難しくない。
「むぅ……! こしゃくな!」
対するゼノンは焦れているようだった。
彼にとって奥の手であろう二属性の魔法剣が簡単にかわされているのだ。無理もない。
かといって遠距離攻撃魔法では、二属性だろうと何だろうと無詠唱でばらまける魔光石銃に速度と手数で勝てない。それがわかっているからこそ杖剣での近接戦を挑んできたのだろう。
だが手数の差というなら、魔法剣であっても同じ事だ。
一瞬できた間合いを活かし、錬が魔光石銃をゼノンに向けて全力でぶっ放す。
恐るべき剣裁きでそれらを弾くが、数の暴力に押されて一部が左肩に被弾。
「ぐっ……おぉぉぉっ……!?」
一発当たれば動きが鈍り、後はなし崩しである。
裁ききれなくなった魔光石銃の魔弾を浴び、ゼノンは壁に叩き付けられた。
「なぜ……それほどの力……を……」
言いかけたゼノンの言葉が途切れる。どうやら気を失ってしまったようだ。
「だ、団長が負けた……!?」
「バカな! 聖堂騎士団最強の騎士だぞ!?」
「なんだよ……なんなんだよあの化け物はよォ!?」
衛兵達の怯える声に背を向け、錬は歩いて行く。
閉ざされた城門を魔光石銃でバラバラにし、ついには砦の外へと足を踏み出した。
「お待ちなさい!」
最後の最後に現れたのは、やはりというかテラミスだった。
「どうあってもわたくしのモノになる気はないわけね?」
「そうだな」
「いいでしょう……。大賢者の英知は惜しいけれど、ハーヴィンお兄様の手に渡るくらいならいなくなった方がマシよ!」
テラミスの持つ宝玉が虹色に輝く。
その途端、周囲に無数の岩石人形が生み出された。人間大と小型だが、ざっと見て五十体は下らないだろう。
「へぇ、いっぱい作って操ったりもできるんだな。土魔法か? 仕組みを見てみたいもんだ」
「余裕ぶっていられるのも今のうちよっ!」
「!」
向けられた木製の杖を見て嫌な予感がし、錬はとっさに地面を転がる。
次の瞬間、夜の闇に光が満ちた。
錬がさっきまで立っていた場所を燃え盛る溶岩弾がえぐり、岩石人形もろとも消し飛ばす。
「よく避けたわね。でも次は当てるわよ」
テラミスは使い終わった魔石を投げ捨て、新たな魔石をセットした。
「……なるほど、製法を知って早速二属性の魔石銃を作ったのか」
「ご明察よ。さすがは大賢者というべきかしら?」
二属性の魔石銃を向けられ、錬は全力で射線から飛び退く。
だが岩石人形の群れが退路を阻んで来る。魔法で動かしているせいか、殴られても魔光石シールドで自動防御できるが、数が多く身動きが取りづらい。
そんな中、テラミスの魔石銃が再び溶岩弾を吐いた。
魔光石銃で敵を蹴散らし強引に回避したが、倒した分だけ岩石人形が次々と大地から生えてくる。
「ほらほら、逃げてるだけじゃいつか当たるわよ!」
テラミスの持つ王家の秘宝『エムトハの魔術師』は汎用性に優れるが、攻撃方面では決定打になり得ない。だから錬の逃げ道を塞ぐ事に注力させ、攻撃は二属性の魔石銃で補う作戦なのだろう。
一見すると完璧に思えるが、しかしこれには大きな欠点がある。
そう――魔石のリロードだ。
「うぐっ!?」
リロード中に魔光石銃で反撃すると、テラミスの手から魔石が地面にこぼれ落ちた。
「二属性魔法は燃費が悪いんだ。一発撃つごとにリロードしてちゃ隙だらけだぞ」
「こ、この……ッ!」
歯噛みするテラミスの元へ衛兵が走ってきたのはそんな時だった。
「テラミス様! 大変です!」
「大変な事くらいわかってるわよ!」
「そ、そうではありません! ゾルダート領内の町が……魔獣の襲撃を受けているとの報告が入りました!」
「なんですって……!?」
周囲の岩石人形が動きを止めた。テラミスが操作を中断したようだ。
「何の魔獣が出たの?」
「報告によりますと、地竜のようです。数匹の群れで行動していると……!」
「地竜の群れですって!? なぜそんなものが……!?」
「わかりません! ですが、急ぎ救援に向かわねば被害は拡大する一方です!」
「うぐぐ……」
テラミスは悔しげに錬と衛兵を交互に見て、岩石人形を土塊に戻した。
「俺を消すんじゃなかったのか?」
「そうしたいのは山々だけれど、魔獣の襲撃を放置するわけにはいかないの。あなたはまた後で倒せるけれど、町の復興は大変なのよ。どこへでも好きなところへ行くがいいわ!」
そう言って踵を返し、テラミスは不機嫌さを隠す事なく走って行く。
大賢者打倒よりも人命を優先したその行動に少しの驚きを感じ、彼女の背を見つめる。
ジエットと誓った以上、錬にはテラミス王女派に移るつもりはない。だがそれはそれとして、一人の人間として彼女の選択には賛同できる。
(善人……ではあるのかもしれないな)
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