エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

93:行進の中で

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 ゾルダート領を出て以降、特に問題らしい問題も起きなかった。

 二人の使徒は斥候として先行し、情報収集してもらっている。明日には目的地に着くので、それまでには戻るらしい。

 領地と領地の間には鬱蒼とした森や堤防のない河川などの自然が広がっており、改めてこの世界は開拓が進んでいないのだとわかる。

 自動車と数騎の竜騎兵達は順調に林道を抜け、川沿いの道を進んでいく。

「レンさん、そろそろ野営の準備をしませんか?」

「ああ、もうそんな時間か」

 アクセルレバーを戻して自動車を停め、錬は一息ついた。

 夕暮れの空は辺りをオレンジ色に染め、川のせせらぎが絶え間なく聞こえてくる。

 さすがに一日中の運転は疲労が溜まる。休んでいいと言われたので荷台で横になる事にした。

「便利ナ物ダナ、コノ自動車トイウ乗リ物ハ」

「まぁね。いずれは竜車を駆逐して人々の足になると思うよ」

 実際、前世では自動車が馬車を駆逐した。

 近い将来、この世界でも鉄道やバスなどの交通網が作られ、流通にも産業革命の波が押し寄せるだろう。魔石エンジンの技術が文字通り世界を激変させるのだ。

「それよりベルドさん。あれから何があったのか教えてもらえないかな?」

「オマエ達ガ鉱山ヲ出タ後カ……」

 ベルドの話は、想像していた状況よりも数段ひどいものだった。

 錬とジエットが王立魔法学園へ行った後、食事の質は低下し、ノルマ制は撤廃。作業時間を固定にし、日が昇ってから暗くなるまで労働させられていたそうだ。

 そしてローズベル公爵家の監査が入る前後だけ食事が豪勢になり、ノルマ制が復活し、労働は昼過ぎで終わる。そんなごまかしが日々横行していたらしい。

「うんうん、オマエらも苦労してたんだな。わかるぜ」

 竜騎兵達と一緒に火に薪を焚べながら、パムが訳知り顔でうなずく。

「伯爵は俺達との約束なんて端から守る気がなかったって事か……」

「ベルド、ごめんね……」

 ジエットも悲しそうにシュンと白い熊耳を伏せた。

「謝ルナ。オマエ達ノオカゲデ、オレ達ハ希望ガ持テタンダ。実際ニ、オマエ達ハ宣言通リ、奴隷制度ヲ廃止シヨウト戦ッテイル」

 ニッと獰猛な牙を剥き、ベルドは笑う。

「ソレニ、今カラソノ伯爵ヲ成敗シニ行クンダロウ?」

「……そうだな」

 バエナルド伯爵とは、錬がこの世界に転生して以来の腐れ縁だ。それを断ち切る良い機会でもある。

「思い切りぶちのめして存分に文句を言ってやろうぜ!」

「お――」

「ウォォォォォ――――ッ!!!!」

 ベルドの咆哮は川辺に轟き、鳥が一斉に羽ばたく。

 声をかき消されたジエットは苦笑いしていた。





 斥候に出ていた使徒の二人と合流したのは、翌日の昼過ぎだった。

 錬がハンドルを握る中、使徒が騎竜を寄せてくる。

「大賢者殿、ご報告致します。バエナルド伯爵は先日まで王都に滞在し、ハストン城に向けて竜車を走らせている模様です。我らが向かう頃には伯爵も城に到着しているかと」

「ハストン城?」

「魔石鉱山の西側にある城館だな」

 カインツが身を乗り出した。

「知ってるのか?」

「難攻不落と名高い城だぞ。魔石鉱山の中腹に位置し、切り立った崖に囲まれている。道幅が狭くうねっているため、大部隊で進軍するのが難しいそうだ」

「なるほど」

 魔法が攻城兵器の代わりともなるこの世界において、力ある魔法使いは攻撃力に直結する。

 だがいかに強力な大魔法使いであっても多勢に無勢では押し切られる。ゆえに守る者達が必要になるが、道幅が狭く移動しづらくなればそれだけ攻め手に不利となるのだろう。

「敵の数はどれくらいだ?」

「正確にはわかりかねますが、規模からいって城内の兵士は千を確実に超えるでしょう」

「千人以上の兵士がいる城をたった数名で攻め落とそうというのか……。正気の沙汰ではないな」

 カインツが顔を引きつらせる。

 けれど錬は小さく笑い、太陽の昇る薄曇りの空を仰いだ。

「まぁ一度経験済みだしな。大丈夫だろ」





 そうして山道を走り抜け、ハストン城付近にたどり着いた頃には夜になっていた。

「あの辺りで停まりましょう」

 木々の陰に自動車を停めて、錬は自動車を降りた。

 今回もっとも重要なのは使徒と竜騎兵達だ。彼らにはバエナルド軍の捕虜から奪った装備を身につけてもらい、錬とジエットは縄で拘束する。こうする事で捕虜になったように見せかけ、城門を開けさせるのだ。

「あたし達は何をすればいいんでしょう?」

「トランシーバーを渡しておくから、ノーラさんは高台から狙撃銃でサポートしてくれ。カインツはノーラさんの護衛だ」

「なぜ僕が護衛なのだ」

「だってカインツの方が強いだろ。何かあっても守ってやれよ」

「……ふん」

 つまらなさげにそっぽを向くカインツだが、もはや照れ隠しにしか見えない。

 一通り準備ができたら、最後の仕上げだ。

「ジエット、手はず通り頼む」

「任せて!」

 アラマタールの杖を掲げ、ジエットは目を伏せる。

 その途端、白銀の杖先に光が灯り、強い風が吹いた。衣服がはためき、空を覆う雲がかき分けられる。

 闇夜を切り裂くその光は神秘的で、天使が舞い降りたかのような美しさだった。

「おお……っ! これが王家の秘宝のお力!」

 使徒の二人が驚嘆の眼差しで月を仰ぐ。それを見た竜騎兵は得意げな顔をしていた。なんだかんだで競争意識のようなものがあるのかもしれない。

(さて、後は城内に入るだけだが……)

 今から向かうは敵地。援軍はなく、百倍もの人数を相手にする。

 だが月光下ならば錬が負ける事はもはやありえない。

「これより状況開始する! 人質を一人残らず救い出すぞッ!」
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