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第五章
94:反撃の鬨《とき》
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緊張感を孕んだ空気の中、錬達は山道を登っていく。
山道は竜車が二台が横並びになればいっぱいになる程度の細さで、右は岩肌、左は切り立った崖になっていた。落下防止のための柵などはなく、足を滑らせれば命はないだろう。
ハストン城の城門は石造りの立派なもので、落とし格子の上には火を象った紋章が彫り込まれていた。
「止まれ! 何者だ!」
大声が上がったのは城門に設置された見張り台だ。月明かりのおかげでお互い顔がよく見える。
「ノラン様の配下だ! お通し願おう!」
敵兵に扮した竜騎兵の男が応え、見張り達が顔を見合わせた。
「ノラン様だと? ならば砦攻めは成功したのか?」
「ああ! テラミス王女一派を攻撃した際、一緒にいた大賢者とジエッタニア王女殿下を捕縛したゆえ、ノラン様よりハストン城までお連れするよう命じられた! 開門を願う!」
「確認する! 少し待て!」
見張りの一人が奥へと走っていく。その間、他の見張り達がいつでも攻撃できるよう杖を構えていた。
「ノランって誰?」
「砦に攻めてきた部隊の隊長だよ。たしか伯爵の息子なんだとか」
「ああ。あいつそんな名前だったのか」
「テメーら何をくっちゃべってんだ! 静かにしろー!」
「いてっ」
「ひんっ!?」
錬とジエットの尻を引っ叩いたのはパムだ。
見張り達にひけらかすように、さも悪どい顔つきでニヤニヤ笑っている。
「パムのやつノリノリだな……」
「うぅ、お尻痛い……」
涙目で尻をさするジエット。よほど強く叩かれたのかもしれない。
しばらく待っていると、先ほどの見張りが戻ってきた。
「確認が取れた! 今城門を開ける!」
石のこすれるような音を立てながら落とし格子がゆっくりと上げられてゆく。
それを眺めていると、敵兵に扮した使徒の一人から背中を小突かれた。
「さっさと歩け!」
渋々といった体でジエットは歩き出したので、錬もそれに倣った。
(皆演技派だなぁ)
まるで本当に捕虜になったのかと錯覚するほどだ。
ともあれ城門をくぐる事はできた。後は人質の居場所を見つけ、救出するだけとなる。
「こっちだ」
城内に控えていた敵兵の手招きで、錬達はぞろぞろと付いて行く。
中はかなりの広さで、豪奢な建物が並び立つ居住区を取り囲むように、兵舎や厩舎に武器庫などの建物が立ち並び、更にその周囲を見張り台や塔、城壁で固めている。
案内されたのは兵舎の前で、広場のような開けた空間である。
そこには百人近い敵兵士に守られて立つ一人の男の姿があった。
意匠の施された黒い軽鎧を身に着け、腰に剣を帯びている。その顔は忘れようにも忘れられない、魔石鉱山で目にしたチョビヒゲ貴族。
ルード=バエナルド伯爵だ。
「よくぞお戻りになられましたな、ジエッタニア王女殿下」
「……お久しぶりです。伯爵様」
「王都での証明の儀、誠に神々しい立ち振舞で我輩、感服致しましたぞ」
「ありがとうございます」
ジエットが会釈する。
「それとレン――いや、大賢者と呼んだ方がよいか?」
「お好きにどうぞ」
「ふん、相変わらず生意気であるな。まぁよい。お前達の身柄を引き渡せばハーヴィン国王陛下もお喜びになられるだろう。それでは――」
伯爵が右手を挙げ、口元を歪めた。
「――大賢者レンとジエッタニア王女殿下以外を皆殺しにせよ」
「!」
ザッと音を立て、敵兵士が一斉に剣を構える。
一触即発の事態を察し、錬は縄を解いた。
ジエットはアラマタールの杖を、パムとベルドは魔石銃をそれぞれ持ち、敵兵に扮していた竜騎兵や使徒達も杖剣を抜き放つ。
だが敵は目の前だけではない。塔や見張り台には魔石銃と思しき木製の砲門がいくつも設置されていた。それらすべてが錬達に向けられている。
「俺達の芝居に気付いてたのか」
「当然であろう。我が息子ノランは武功に貪欲なタチでな。王女と大賢者の身柄の確保という大戦果を挙げておきながら、自ら直接報告しに来ないなどあり得ぬ」
「なるほど、その辺は情報不足だった。反省しよう」
「反省などもはや不要ぞ。何しろ貴様が日なたを歩けるのは今日で最後となるのだからな!」
無数の砲門が火を噴いた。
指向性爆発による高熱の衝撃波が錬達を襲う。それは視界を覆い尽くすほどの弾幕となり、地面を焼き焦がす。
だが――
「なっ……なにぃ!?」
すべての炎は魔光石シールドに打ち消され、光の粉を散らした。
「連射機能もない単属性の炎……って事は初期型の魔石銃だな。こんな旧式で俺達を倒せると思ったのか?」
唖然として立ちすくむ伯爵。敵兵達も信じがたいものを見る目だ。
錬とジエットが魔法学園に向かった際、鉱山には魔石エンジンをたくさん残してきた。おそらく伯爵はそれを独自に研究、解析してこれらの砲門を作り上げたのだろう。
だが発展性がなければテクノロジーは置いていかれる。今や錬は、鉱山で交渉した時とは桁違いの強さとなっているのだ。
「俺は別に、こっそり潜入したかったわけじゃない。城門さえ開いたらそれでよかったんだよ、伯爵」
「ど、どういう事か……? なぜ魔法が効かぬ!?」
「さぁな。それよりさっきの言葉、そっくりそのまま返すよ」
驚愕に震える敵兵達の前に、錬は堂々と歩み出る。
そして両手に魔光石銃を構え、鬨の声を上げた。
「優雅な日々は今日で終いだ、くそったれ貴族様!」
山道は竜車が二台が横並びになればいっぱいになる程度の細さで、右は岩肌、左は切り立った崖になっていた。落下防止のための柵などはなく、足を滑らせれば命はないだろう。
ハストン城の城門は石造りの立派なもので、落とし格子の上には火を象った紋章が彫り込まれていた。
「止まれ! 何者だ!」
大声が上がったのは城門に設置された見張り台だ。月明かりのおかげでお互い顔がよく見える。
「ノラン様の配下だ! お通し願おう!」
敵兵に扮した竜騎兵の男が応え、見張り達が顔を見合わせた。
「ノラン様だと? ならば砦攻めは成功したのか?」
「ああ! テラミス王女一派を攻撃した際、一緒にいた大賢者とジエッタニア王女殿下を捕縛したゆえ、ノラン様よりハストン城までお連れするよう命じられた! 開門を願う!」
「確認する! 少し待て!」
見張りの一人が奥へと走っていく。その間、他の見張り達がいつでも攻撃できるよう杖を構えていた。
「ノランって誰?」
「砦に攻めてきた部隊の隊長だよ。たしか伯爵の息子なんだとか」
「ああ。あいつそんな名前だったのか」
「テメーら何をくっちゃべってんだ! 静かにしろー!」
「いてっ」
「ひんっ!?」
錬とジエットの尻を引っ叩いたのはパムだ。
見張り達にひけらかすように、さも悪どい顔つきでニヤニヤ笑っている。
「パムのやつノリノリだな……」
「うぅ、お尻痛い……」
涙目で尻をさするジエット。よほど強く叩かれたのかもしれない。
しばらく待っていると、先ほどの見張りが戻ってきた。
「確認が取れた! 今城門を開ける!」
石のこすれるような音を立てながら落とし格子がゆっくりと上げられてゆく。
それを眺めていると、敵兵に扮した使徒の一人から背中を小突かれた。
「さっさと歩け!」
渋々といった体でジエットは歩き出したので、錬もそれに倣った。
(皆演技派だなぁ)
まるで本当に捕虜になったのかと錯覚するほどだ。
ともあれ城門をくぐる事はできた。後は人質の居場所を見つけ、救出するだけとなる。
「こっちだ」
城内に控えていた敵兵の手招きで、錬達はぞろぞろと付いて行く。
中はかなりの広さで、豪奢な建物が並び立つ居住区を取り囲むように、兵舎や厩舎に武器庫などの建物が立ち並び、更にその周囲を見張り台や塔、城壁で固めている。
案内されたのは兵舎の前で、広場のような開けた空間である。
そこには百人近い敵兵士に守られて立つ一人の男の姿があった。
意匠の施された黒い軽鎧を身に着け、腰に剣を帯びている。その顔は忘れようにも忘れられない、魔石鉱山で目にしたチョビヒゲ貴族。
ルード=バエナルド伯爵だ。
「よくぞお戻りになられましたな、ジエッタニア王女殿下」
「……お久しぶりです。伯爵様」
「王都での証明の儀、誠に神々しい立ち振舞で我輩、感服致しましたぞ」
「ありがとうございます」
ジエットが会釈する。
「それとレン――いや、大賢者と呼んだ方がよいか?」
「お好きにどうぞ」
「ふん、相変わらず生意気であるな。まぁよい。お前達の身柄を引き渡せばハーヴィン国王陛下もお喜びになられるだろう。それでは――」
伯爵が右手を挙げ、口元を歪めた。
「――大賢者レンとジエッタニア王女殿下以外を皆殺しにせよ」
「!」
ザッと音を立て、敵兵士が一斉に剣を構える。
一触即発の事態を察し、錬は縄を解いた。
ジエットはアラマタールの杖を、パムとベルドは魔石銃をそれぞれ持ち、敵兵に扮していた竜騎兵や使徒達も杖剣を抜き放つ。
だが敵は目の前だけではない。塔や見張り台には魔石銃と思しき木製の砲門がいくつも設置されていた。それらすべてが錬達に向けられている。
「俺達の芝居に気付いてたのか」
「当然であろう。我が息子ノランは武功に貪欲なタチでな。王女と大賢者の身柄の確保という大戦果を挙げておきながら、自ら直接報告しに来ないなどあり得ぬ」
「なるほど、その辺は情報不足だった。反省しよう」
「反省などもはや不要ぞ。何しろ貴様が日なたを歩けるのは今日で最後となるのだからな!」
無数の砲門が火を噴いた。
指向性爆発による高熱の衝撃波が錬達を襲う。それは視界を覆い尽くすほどの弾幕となり、地面を焼き焦がす。
だが――
「なっ……なにぃ!?」
すべての炎は魔光石シールドに打ち消され、光の粉を散らした。
「連射機能もない単属性の炎……って事は初期型の魔石銃だな。こんな旧式で俺達を倒せると思ったのか?」
唖然として立ちすくむ伯爵。敵兵達も信じがたいものを見る目だ。
錬とジエットが魔法学園に向かった際、鉱山には魔石エンジンをたくさん残してきた。おそらく伯爵はそれを独自に研究、解析してこれらの砲門を作り上げたのだろう。
だが発展性がなければテクノロジーは置いていかれる。今や錬は、鉱山で交渉した時とは桁違いの強さとなっているのだ。
「俺は別に、こっそり潜入したかったわけじゃない。城門さえ開いたらそれでよかったんだよ、伯爵」
「ど、どういう事か……? なぜ魔法が効かぬ!?」
「さぁな。それよりさっきの言葉、そっくりそのまま返すよ」
驚愕に震える敵兵達の前に、錬は堂々と歩み出る。
そして両手に魔光石銃を構え、鬨の声を上げた。
「優雅な日々は今日で終いだ、くそったれ貴族様!」
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