エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

96:王道と覇道

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 伯爵を捕らえた後、城の制圧は驚くほど円滑に進んだ。

 錬の圧倒的強さを目の当たりにし、戦意が完全に失われたのだろう。敵は誰一人抵抗する事なく、観念した様子で地下牢へ入っていく。

「どうやら終わったようだな」

 やってきたのはカインツだ。後ろにはノーラの姿もある。彼女はなぜかワンドのガウンを羽織っていた。

「それってカインツのガウンか?」

「あ、はい。さっき山でカインツ様が――」

「山は寒かったのでな。魔石銃で狙撃するのに震えて手元が狂っては作戦に支障が出るだろう」

 慌てて被せるように言うカインツ。錬と目を合わせようとしないのは、これもまた照れ隠しなのだろう。

「まぁ、仲良しになったみたいで何よりだよ」

「や、やかましい! 貴様はいちいちおかしな解釈をするな!」

「あはは」

 そんな弛緩した空気の中、錬のもとにボロをまとう男達がぞろぞろとやってきた。

 スロウ爺さんら奴隷仲間達だ。

「ボウズ!」

「お久しぶりです、スロウ爺さん。皆も無事みたいですね」

「そりゃあこっちの言葉だ! 送り出しておいてなんだが、本当にここまでやるとは驚いたわい。長生きしてみるもんだな」

「まだ奴隷制度を廃止できてはいませんけどね」

 錬は苦笑した。

 やるべき事はまだまだある。本当に大変なのはこれからなのだ。

「いやぁ、しかしあのクサレ伯爵をとっちめてくれてスカッとしたぞ!」

「まったくだ! 前々からとんでもねぇガキだと思ってたが、まさか大賢者様だったとはなぁ!」

「さすがオレ達のレンだぜ!」

 背中をバシバシと叩かれて思わずよろめく。

 人間も獣人も、奴隷達は皆曇り一つない満面の笑みを浮かべていた。彼らの笑顔を取り戻せたのであれば、がんばった甲斐があるというものだ。

 話していると、ジエットが小走りで駆け寄ってきた。

「レン! お姉様から連絡がきたよ」

「テラミス王女から?」

「レンに伝えたい事があるんだって」

 ジエットはトランシーバーを手渡してくる。

 そのスピーカーが砂嵐のような音を立てて震えた。

「どうしました?」

『その声は、レン様?』

「そうですけど、俺に様は付けなくていいですよ」

『べ、別にいいでしょう? 王女であるわたくしに逆らうつもり!?』

「いえ……どうしても付けたいならいいですけども……」

『ちょっと! まるでわたくしが付けたくて仕方がないかのように仰らないでくださらない!?』

「えぇっ!?」

 テラミスはノイズ混じりの声でキャンキャンと吠える。相変わらずのツンデレお姫様である。

『そんな事より、あなたの言う通りでしたわ。変異種の黒竜を解体したら、体内から結晶貨が見つかりましたの』

「本当ですか!?」

 以前、カインツから聞いた話から推測した事だ。

 核石以外の属性石を食わせたら、その魔獣は複数属性を持つ変異種となる。

 逆に言うと変異種は体内に複数の属性石を持っているはずだから、解体すれば取り出せるのではないかと思ったのだ。

『それとわたくしの派閥の貴族達にも使者を送って、戦力と共に結晶貨も集めさせております。少しは足しになると思いますわ』

「結晶貨の数はこの戦いの勝敗を分けると言ってもいいですからね。ぜひお願いします」

「あ、だったら結晶貨の事はエスリ先生にも伝えた方が良さそうだね」

 ジエットの提案に錬もうなずく。

「結晶貨は非常に有用性が高いが、入手性に難があるからな。一つでも多く確保しておきたい」

 ともあれ戦力と装備はこれで整いそうだ。

 残るはハーヴィンただ一人。彼を倒せば勝利となる。

「レン、これからどうする?」

 ハーヴィンは王都の守りを固め、出ては来ないだろう。

 こちらから攻めようにも王都を火の海にするわけにもいかないし、何より相手はファラガの笛という世界最強の武器を持っている。いくら頭数をそろえたところで正面切って戦えば勝ち目はない。

 ならばどうするか?

 答えは簡単だ。相手が王都に引きこもっているならば、出て来ざるを得ない状況を作ればいい。

「王都への街道をすべて封鎖し、物流を遮る。外に出て行くのは自由だが、中へは決して入れないようにするんだ」

「……なるほど、兵糧攻めというわけか」

 カインツが納得したようにうなずいた。

 魔石鉱山を失った今、敵は手持ちの魔石と自前の魔力で戦うしかない。そんな中で物資まで不足すれば、ハーヴィンは余力があるうちに動くしかなくなる。

 狙うならそこだ。

(この戦いが決した時、社長か俺のどちらかは死ぬんだろうな……)

 表彰式で決別し、先王が暗殺された時点である程度覚悟はしていた事だ。

 決して嫌っていたわけではない。むしろハーヴィンには感謝の気持ちさえある。そんな彼と、これから命のやりとりをする。

 本意ではない。平和に解決できるならそれが一番だ。しかし事ここに至って和解はもはやあり得ない。

 だったら己の役目を全うしよう。投げ出すにはあまりにも多くのものを、今の錬は背負っているのだから。

「兵糧攻めと狙撃。この二本立てでいこう。ファラガの笛を使わせる前にハーヴィンを倒す!」

 奴隷制度をなくすため。そしてジエットとの誓いを果たすために。



 ***



 報告が来たのは、ハーヴィンが執務室で羽根ペンを走らせながら今後の方針に頭を巡らせていた時だった。

「失礼致します! 陛下はいらっしゃいますか!?」

「ああ、入室を許可する。入りたまえ」

 メイドに目配せをしてドアを開けさせると、そこには宰相の姿があった。

「どうした?」

「ご報告でございます! 先日、バエナルド伯爵領の魔石鉱山がジエッタニア王女派により制圧されたという情報が入りました!」

 宰相の顔は真っ青だ。

 それも仕方がない。魔石鉱山は戦力の要。前世でいう弾薬にも等しい資源なのだから。

「なるほど、戦略的には正しい。伊達に奴隷の頃からしぶとく生き抜いてきたわけではないらしい。だが王家の力を甘く見ているようだな」

 ヴァールハイト王家には有事の際の蓄えとして、二つの魔石鉱山の発見以来長きに渡って献上させてきた高純度の魔石が山ほどあるのだ。

 それらがなくならない限りハーヴィンの優位は変わらない。

 だが宰相とてそれくらいの事は知っているはずだ。その上で報告してきたからにはまだ何かあるのだろう。

「それで?」

「は……。このところ隊商からの物流が滞っていたため調査しましたところ、王都へ繋がる街道が敵により封鎖されている事が判明致しました。これを何とかしない限り、今後王都ではあらゆる物資が不足してゆくものと思われます」

「……そうか」

 ハーヴィンは羽根ペンをそっと置き、目を伏せる。そして小さなため息を漏らした。

(あくまでそれが君の答えなのだな……青木君)

 しばし黙していたが、ハーヴィンはおもむろに腰を上げた。肌身離さず持っているファラガの笛を確認し、宰相へ視線を向ける。

「兵を準備しろ。敵を殲滅する」

 もはや立ち止まるには手を汚しすぎた。ならば覇道を貫くまで。

 たとえ世界が荒野になろうとも――
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