エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

98:有限と無限

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 トランシーバーによるエスリからの報告は、その場にいた皆を戦慄させるものだった。

「ハーヴィンに三属性魔法が効かない……?」

『ええ。狙撃部隊が三属性の狙撃銃を何度か当てたにもかかわらず、魔法障壁にかき消されたそうよ』

 エスリは息を荒げながら答える。

 爆発音や風切り音、土を蹴る音に騎竜のいななきなどが聞こえるので、今まさに撤退戦の真っ只中なのだろう。

「エスリ先生、大丈夫なんですか!?」

『何とかね。追っ手はいるけれど、敵も王都近辺の街道を破壊すると困るだろうから、ファラガの笛で撃たれる事はないはずよ』

「そうですか……」

 錬はホッと安堵の息をつく。

 王都は現在、絶賛物資不足だ。ハーヴィンはそれを解決するために街道を封鎖する兵を追い払っているのに、街道そのものを破壊しては本末転倒。だからこそエスリは追っ手の追跡を受けてでも街道から逸れないのだろう。

「レンさん、どうして王太子殿下に三属性魔法が効かないんでしょう……?」

 ノーラが不安げにつぶやいた。

「可能性は二つある。四属性の魔法障壁を展開する未知の魔法具を持っているか、もしくはファラガの笛に攻撃と防御両方の機能があるかだ」

 ハーヴィンは密かに魔法具を集めていた。アラマタールの杖に仕込まれた錠前や、伯爵に持たせた三属性の魔剣などからそれは容易に推測できる。今後何が出てきてもおかしくはない。

(……でも水の属性石を持つ魔法具は、ファラガの笛以外には今のところ見つかっていないんだよな。もし未知の四属性魔法具があったとして、そんな希少価値の高い品が王家の秘宝に含まれないものだろうか?)

 そう考えれば、ファラガの笛が防御にも使えるという可能性の方が高いかもしれない。

「ジエット、ファラガの笛の詳細はわからないか?」

「わからないよ。私もアラマタールの杖以外の事はそんなに詳しく教えられてなかったし……」

「そうか……。まぁ理由はどうあれ三属性魔法が効かないなら同じ事か」

 話していると、再びトランシーバーが声を発した。

『……新たな報告よ。王太子殿下は現在もなお魔獣部隊を率いて進軍中。方角からしておそらく魔石鉱山――今あなた達がいるバエナルド伯爵領と思われるわ』

 その報告に皆が息を呑んだ。

 ジエットもパムも、カインツもノーラも、ローズベル公爵軍兵士や解放奴隷達までもが錬の方を見つめている。

 ファラガの笛による一撃は、三属性の魔法障壁を貫いてなお王立魔法学園の中庭を溶岩溜まりに変えてしまった。あんなものを撃ち込まれたら、いかに堅牢な城とてひとたまりもないだろう。

 ここに留まれば落城は必至。ならばどうするべきか?

「……打って出るしかない」

 錬はトランシーバーを握り締めた。

「打って出るって言ったって……どうするの?」

「そのための準備はしてきたんだ。カインツ、今の敵の位置からここへ到着するまでの時間はどれくらいだと思う?」

「王都近辺からか? 魔獣部隊に地竜がいるなら丸一日は必要だろうが、騎竜だけで飛ばせば半日もかからんぞ」

「なら最悪半日で到着すると考えよう。スロウ爺さん、今できてる無人機は何台ありますか?」

「そこにある一台だけだが……」

「六時間でどれくらい組めます?」

「そうじゃな……。できとる部品を組み立てるだけならもう三台はいけるかもしれん」

 つまり使える無人機は合計四台という事だ。

「なら今すぐ着手してください。それができ次第動きます」

「なんで六時間なの?」

 ジエットの問いかけに、錬は口角を上げて笑う。

「六時間後は夜――つまり俺達の時間だ。奇襲にはもってこいだろ?」

 月の光と暗闇。それらすべてがこちらの味方になるのだ。

「でも……三属性魔法が効かないんだよ? どうやって倒すつもり?」

「たしかにハーヴィンには俺達の最大火力である三属性魔法すら効かない。でも魔石の魔力は有限だ。使っていればいつかは枯渇する。対して俺達の魔力源はどうだ?」

「!」

 ジエットは目を瞠った。思いも寄らない勝ち筋だったのだろう。

 夜空に月が輝く間、錬の魔力は無限となる。ハーヴィンの防御を崩すなら、有限と無限の差を利用するしかない。

「この戦いは文字通り命懸けとなります。決して無理強いはしません。ですが……皆の協力が不可欠です。どうか俺に力を貸してくれませんか?」

 錬は頭を下げて真摯に言う。

 するとパムが牙を剥いて笑った。

「水くさいぜ、あんちゃん!」

「そうです。お願いなんてしないでください。これはあたし達皆の問題なんですから」

「ふん、今更殊勝になられても気味が悪い。いつものように不遜な態度の方が百倍マシだな」

「不遜なのはオマエだろ、貴族のボンボンめ」

「なっ……この僕に対して無礼だぞ、猫女が!」

「うるせー! 猫獣人ナメんじゃねーぞ!?」

 カインツとパムが口喧嘩を始めた。解放奴隷の男衆はどっちが勝つかで夕食を賭け、周りの兵士達が慌てて二人を止めに入る。

 これから戦争だというのに緊張感も何もない。あるいは緊張をほぐすためにあえてやっているのかもしれないが。

 そんな中、ジエットが錬に手を差し伸べた。

「私も同行していいんだよね?」

 これまで幾度となく見た強気の眼差し。その吸い込まれるような瞳と白銀の出で立ちに、一瞬錬は見惚れてしまった。

 天候を操るアラマタールの杖は、この作戦に必須の魔法具である。しかしそれ以上に、ジエットがそばにいてくれる事が何よりも心強い。

「もちろん。君がいなきゃ始まらないからな」

 錬は彼女の手を握り返した。

 おそらくこれが最後の戦いとなるだろう。ハーヴィンを討ち倒し、前世からの因縁を断ち切るのだ。
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