エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

99:決戦の時

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 辺りが夕闇に染まった頃、錬達は自動車に乗りハストン城を後にした。

 百人ほどの部隊が乗る竜車や自動車が物資を運び、魔石鉱山を下りて街道を進む。

「この辺りにしよう」

 錬が自動車を停めたのは、魔石鉱山へつながる一本道である。

 両脇はまばらに木々が生えた平地で、少し離れたところには岩山があり、辺りを一望できた。

「まだハーヴィンお兄様は遠いけど、ここでいいの?」

 敵の位置情報は、トランシーバーを持たせた斥候からリアルタイムに伝えられている。

 順当に進めば会敵までおよそ三時間。準備時間を考えても少し余裕があるだろう。

 だが錬は首肯を返した。

「ここがいいんだ。森というには隙間が多く、それでいて低い位置からは視界が妨げられる。適度に障害物があって身を隠しやすいし、岩山の上から無人機を操縦できる」

「ならばさっさと仕掛けをするぞ」

 カインツは颯爽と自動車を降り、後続の竜車を睨み付けた。

「これより対ハーヴィン用トラップの設置を開始せよ! 我らの命運は貴様らの双肩にかかっている! キビキビ働くのだ!」

「はっ!」

 カインツはローズベル公爵軍兵士に指示を飛ばし、街道脇に魔光石センサーによるトラップを仕込んでいく。

 そして無人機の一台を街道のど真ん中へ配置し、魔石砲で狙いを付けた。

「よし! では獣人部隊! 通信兵と共に岩山へ行け!」

「アタイも?」

「当たり前だ! 猫獣人は夜目が利く。貴様は無人機の操縦を担当せよ!」

「なんでオマエが命令すんだ?」

「口答えするな! 貴様に許された言葉は『はい』だけだ! 返事は!?」

「にゃいっ!?」

 金の短杖を向けられ、パムの尻尾がボワッと膨らんだ。

「カインツの奴すっげー仕切ってるけど、なんかそういう経験あんの……?」

「もちろんです」

 錬の問いかけにノーラがうなずく。

「兵の指揮は当然経験しているはずです。シャルドレイテ侯爵家では軍略や政治に帝王学なども学ぶそうですから」

「うへぇ、マジモンのエリートなのかあいつ……」

「そこの貴様ら! 駄弁っていないで動かんか!」

「は、はい!」

 思わずノーラと一緒に背筋を伸ばして敬礼してしまう錬だった。





 仕込み・・・が済んだ頃には、辺りは完全に闇に沈んでいた。

 ジエットがアラマタールの杖で薄曇りの空を吹き飛ばし、月をあらわにする。

 それを見て、ふと錬はつぶやいた。

「……たしか薄明光線って言うんだったか」

「はくめい?」

「雲間から射す光だよ。月の光でもそう呼ぶのかはわからないけど」

 何度となく見慣れた光景だが、それでも夜空を貫く月光のカーテンを見ていると厳かな気分にもなる。

 ともあれ準備は整った。

「皆、協力感謝する。ハーヴィンが定位置に到達次第、作戦開始してくれ!」

 錬が叫ぶと、街道にいた兵士達が木々に身を潜めた。錬もジエットと共に自動車に乗って距離を取り、単眼鏡を覗き込む。

 虫達が涼やかな音色を奏で、冷たいそよ風が草木のざわめかせる。

『――来たぜ!』

 トランシーバーから聞こえるパムの声を耳にし、錬は敵影を探す。すると街道の先から百騎ほどの竜騎兵隊が進軍しているのが見えた。

 月光に照らされたその部隊には、ハーヴィンの姿もあった。兵達に守られながら、羽毛のようなものをまとう一風変わった騎竜にまたがっている。

(指定の位置まで三……二……一……)

「!」

 瞬間、夜闇がまばゆい光に染まった。

 街道に置いた無人機の一台が三属性の魔石砲を放ったのだ。

 敵部隊は突然の急襲にたたらを踏み、騎竜達がいななく。その直後、街道が爆炎に包まれた。

『魔石砲命中!』

 パムがノイズ混じりの声を上げる。

 だがこれで終わりではない。無人機の撃った魔法に誘発され、街道沿いに仕掛けられた魔光石センサーが反応、トラップを次々起動させた。十門もの魔石砲があらん限りの魔弾を放つ。

「すっごい……」

 ジエットが声を震わせる。地形が変わるほどの爆撃に恐怖しているのだろう。

 だがすさまじい爆炎と竜巻に包まれたその中心地から光がほとばしった。遠く離れた場所にいる錬の魔光石銃を限界まで光らせるほど、猛烈な魔力が場に満ちる。

「伏せろジエットっ!」

「ひゃあっ!?」

 とっさにジエットに覆い被さる。

 遅れて紫色の閃光が放たれた。魔力の塊とも言えるその輝きは街道沿いのトラップを呑み込み、無人機を一台消し炭に変える。

 やがて爆撃が止み、煙が晴れたその先に敵の一団はすでに影も形もなく。しかし溶解し赤熱した大地の中にただ一騎、何事もなく佇む竜騎兵の姿があった。

 ハーヴィンだ。

「よくもやってくれたな、ジエッタニア。そして青木君!」

 夜闇に澄んだ声が響き渡った。

 地声ではありえないほどの声量と、魔光石がかすかに明滅する様を見て、拡声器のような魔法具を使っているのだと錬は理解した。

「見ての通り私に魔法は効かない! ただちに降伏せよ、青木君。そうすれば君の命だけは助けてやってもいい! だが拒否するならば――」

 怒りに満ちた声で、ハーヴィンは宣告する。

「――たとえ世界を灰燼に帰してでも、私は君を滅ぼすだろうッ!!」
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