エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第五章

100:対話

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 ハーヴィンによる降伏勧告がなされ、皆が息を呑んだ。

 延焼した木々がパチパチと音を立てて倒れる。誰一人何も言わない。トランシーバーはホワイトノイズを鳴らしている。

「どうした、返事をしろ! それとも私と話す気はないという意思表示かね!?」

 ハーヴィンの声が月夜に響いた。

 こんな降伏勧告に意味などない。たとえこちらが両手を上げても、待っているのは死、あるいは良くて地下牢暮らしが関の山だろう。

(……頭ではわかってるんだけどな)

 錬はほんのわずかに迷ったが、手持ちのトランシーバーを一つ無人機に載せた。これでジエットのトランシーバーを使えば会話ができる。

「パム、こいつをハーヴィンのところへ向かわせてくれ」

『いいのか、あんちゃん?』

「ああ。相手を刺激しないようゆっくりな」

 決して相容れぬと理解してはいるが、同じ故郷を共有する者として話くらいはすべきだと思ったのだ。

 無人機は草木を分けながらゆっくりと移動する。ハーヴィンはそれをじっと見ていたが、誰も乗っていないのを見てため息をついた。

「やっと出てきたかと思ったら……何だこれは?」

「ラジコンみたいなものですよ、社長」

 トランシーバー越しに話しかけると、ハーヴィンは目を見張った。

「ほう……? 通話もできるのか」

 興味を示しはするものの、しかし警戒は決して緩めない。いつでも破壊できるようにか、今なおファラガの笛は無人機に向けられている。

「それで? こんな形で出てきたからには降伏するつもりはないのだろう。何をしに来た?」

「降伏勧告をしようと思いまして」

「……」

 ハーヴィンは訝しげに無人機を見つめた。

「私に降伏しろと?」

「俺は社長の事が嫌いではありません。奴隷みたいに使い潰されたとはいえ、正社員として採用してもらえた事自体は感謝しているんです」

「……何が言いたい?」

「降伏すれば俺だけは殺さないと社長が言うなら、俺もそのルールに従う。降伏してください。そうすればあなたは殺さない」

 ハーヴィンは鼻で笑った。

「君にそれができるとでも?」

「できなければここに来ていません」

 錬は堂々と主張する。

 事実、勝算があるから戦っている。ブラフでも何でもない。

「奴隷制度の廃止のため、俺とジエットは今まで戦ってきました。仲間達だってそうです。魔力なしだの亜人だのと言っても、同じ言葉を話し、感情を共有する知的存在である事に変わりはないはず。なら上も下もありはしない。俺達は人間だ! 認めてください、社長!」

 錬の説得を聞いて、ハーヴィンは不意にファラガの笛を下げた。

 目を細めて笑い、優しく告げる。

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず――福沢諭吉の学問のすゝめだったか。君の言いたい事は理解できる」

「じゃあ!」

「理解はできる。それが理想だとも。だが詭弁だ」

 底冷えのする目で応え、ハーヴィンはファラガの笛の狙いを付けた。

 その銃口の輝きを見て、無人機が回避行動を取る。けれどその周囲から地面が隆起し、無数の岩人形が退路を塞いだ。

 ハーヴィンの手にあるのは、テラミスが持っていた王家の秘宝――エムトハの魔術師だ。

「人は生まれながらに不平等であり、誰しも環境に応じた宿命を背負って生きる。私が王族、君が奴隷として生まれたように。勝者は食い、敗者は食われるのみ。それが嫌なら力尽くで変えろ! できなければ神を呪えッ!!」

 直後、魔弾が放たれた。岩人形もろとも無人機が塵も残さず消し飛ばされる。

 押し寄せる熱波と風圧を肌に受けながら、錬はわずかな時間瞑目した。

(やっぱり無理だったか……)

 残念な気持ちはあったが、これで心置きなく戦える。

 錬は魔石銃のストックを地面に突き刺した。

 工場で作った特製だ。発振器とカウンタ回路で構成されたタイマーを組み込んであり、起動して約三秒後に三属性魔法を連射するだけのデコイ兼簡易的な固定砲台である。

「ジエット、移動するぞ!」

「う、うん!」

「パム、支援頼む!」

 トランシーバーの返事を待たず固定砲台のスイッチを入れ、錬は自動車を走らせた。

 そのエンジン音にハーヴィンが反応したが、パムの操縦で別の無人機も走り出し、更に固定砲台も起動、魔弾の雨を受けて注意が逸れる。

「!」

 再び大気が震えた。

 先ほどまで錬のいた場所に紫の光線がほとばしり、無人機と固定砲台が大地ごと薙ぎ払われる。

「無駄な抵抗はやめたまえ! 君が出て来なければ一面焼け野原にするだけだ!」

 あくまで強気のハーヴィン。自らの勝利を疑っていないのだろう。

 だがその刹那、錬は見た。

 ハーヴィンがファラガの笛の魔石を交換したのだ!

「魔石の交換を確認した! それまでに撃った回数は三発。防御に使われた魔力を加味しても四発は撃てないはずだ!」

 具体的な数字が出てきた事で、勝利への道筋が見えてきたのは大きい。

 とはいえ今は手数が足りない。

 こちらの無人機は残り一台。設置した魔光石トラップは全部破壊されてしまっている。

 相手の魔石がいくつあるかはわからないが、次の交換まで三発持ちこたえなければならない。

『レン! 一旦退け!』

 カインツの声がトランシーバーを震わせた。

『無理に戦って死んでは意味がない! ここは態勢を整えるべきだ!』

 彼の言い分はわかる。しかしここで逃げれば、城にいる人達が皆殺しにされてしまう。

(どうする……?)

 自動車を走らせながら考えていると、ふと錬は天啓が降りた気がした。

「……いや、何とかなるかもしれない」

『どうするのだ?』

「援軍を呼ぶ」

 一瞬の間が空いた。錬が何を言っているのか理解できなかったのだろう。

『援軍だと……? そんなものどこにいるというのだ!?』

「いるんだよ、それが!」

 とても正気とは思えない作戦。普通に考えれば誰もやろうとはしないだろう。だがうまく利用すればファラガの笛にさえ対抗できるかもしれない。

「ジエット、俺を信じて付いて来てくれるか?」

 荒れ地を走らせながら、傍らに座るジエットへ尋ねる。

 彼女の答えに迷いは微塵もなく、いつもの強気の笑みを返してきた。

「そんなの決まってる。どこまでも付いて行くよ!」
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