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第4話 誘拐?監禁?
しおりを挟むジルドが言うには魔術塔というのは階級で部屋の高さが違うのだそうです。そしてここはなんと上から二番目。それなら確かに雲と目線が一緒になるのも頷けるというもの。
「二番目というのはつまり、魔術師としても……?」
「そう。上階には魔術塔の『主』と呼ばれる変人がいるんだ。俺の義父なんだけどね」
「待って、本当に何から何まで頭が追い付かないわ」
わたくしがそう言ってこめかみを揉むと、ジルドはわたくしの手をとって歩き出しました。今度はどこへ連れて行こうと言うのかしら。
「わからないことはひとつずつ説明していこう。でもその前にピエリナの部屋を案内するね」
「わたくしの……部屋?」
どういうことでしょう?
まるでわたくしがここに来ることが決まっていたみたいな。ああもう本当に頭が破裂してしまいそうだわ!
彼の仕事場のお部屋を出ると細い廊下が円形に伸びていました。塔ですからリング状になっているのでしょうね。中心部が階段で……って、雲まで届く高さを階段で登る人なんていないか。
わたくしの部屋というのはリング状の廊下を歩いてふたつ隣のお部屋でした。ジルドの仕事部屋から時計回りにジルドの私室、わたくしの部屋、会議用のお部屋という間取りなのだそうです。つまり、このフロアすべてがジルドの占有ということ。
「わ、このお部屋とっても素敵ね!」
「でしょ? ピエリナの好きそうなものを集めたんだ」
家具はすべてマホガニーでよく磨かれた赤褐色の木目がとっても素敵。ソファーの革は希少と言われる牛型の魔物シータウラス。壁は淡いベージュの小花柄で、リネン類は北方の綿織物ですね、目が細かくて厚手なの。温かみのあるこのお部屋はいるだけで落ち着いてしまいます。
ジルドに促されるままにソファーに座ると、彼も対面へ。そしてテーブルを指でトントンと叩いたら、なんと突然カワウソが現れました! 二足歩行で器用に部屋の中を移動して棚を開けて。
「カワウソ……? え、お茶の準備を始めたわ、どういうことなの?」
「あれは俺の創造した魔法生物だよ。魔法って本当に便利だ――って、待ってよピエリナ。まだ気を失うには早いよ」
「ええ、大丈夫。きわどいところだったけれど踏みとどまれたわ。ね、思うにリントヴルムはジルドが差し向けたのね? わたくしを救い出そうと? あれも魔法生物?」
茶葉を蒸らす間やることがないのか、カワウソは床に転がってクネクネと動いています。普通のカワウソもこんな動きをするのか、魔法生物だからなのかは判断がつきませんが可愛いからいいです。
「あの竜は本物さ。俺が躾けた。言っておくけど救い出すだなんて崇高な考えはないよ」
「ではたまたま?」
「まさか! これはね、ピエリナ。誘拐だよ。拉致、そして監禁だ」
「ゆうか――」
ハッと気づいたときにはベッドに横になっていました。
あまりにも、あまりにも多くのことがありすぎてわたくしの小さい脳みそでは処理ができなかったようです。
窓の外はすっかり暗くなっていました。ふわふわした雲の切れ端から街の灯りが見えます。見上げれば星もはっきりと輝いていて、窓の外ぜんぶがキラキラの宝石箱のよう。
「きゅるる」
ドレスの裾が引っ張られる感触に足元を確認すれば、先ほどのカワウソがわたくしのドレスを咥えていました。
「どこかへ連れて行くの?」
「きゅー」
どうやら案内したいみたい。彼の後をついていきながら、まん丸のおしりに語りかけます。
「さっきはお茶をいただけなくてごめんなさいね。少し疲れていたようなの」
「きゅ」
彼が立ち止まったところの扉をあけると、それはクローゼットでした。大きなクローゼットにぎっしりとドレスが並んでいます。もしかして、これすべてわたくしのために用意されたものなの?
「もう夜だものね。ジルドの真意は明日聞くとして、夜着をお借りしようかしら」
肌触りの良い夜着に袖を通し、窓辺の椅子に座ってキラキラの外を眺めます。綺麗な景色を眺めながらも、わたくしの心は浮きません。知れず溜め息が漏れてしまいます。
「ジルドはわたくしを恨んでいるかしら?」
もう七年前になるでしょうか。わたくしはジルドの生家であるオルランド伯爵家が火薬の原料となる硝石を採掘し、秘密裏に他国へ輸出している事実を突き止めてしまったのです。火器、銃器は魔石を動力とする魔道具で製造することという国際的な条約があり、その影響で硝石は採掘や取引に厳密な規制がかけられています。
売却した相手方が帝国と対立する国であったこともいけませんでした。この問題が発覚すれば国家間の大きな問題となります。戦争に一歩近づいてしまいますから。
当時すでにベルトルド様と婚約していたわたくしは、両親および国王陛下へ進言することといたしました。宗主国である帝国にこの事態が漏れる前に、内々でどうにかすべきであると。
同時に、ジルドを逃がしもした。オルランド家はまず間違いなく没落します。場合によっては死刑だってあり得る。あの頃わたくしもジルドも成人前の子どもで、しかも彼は次男。オルランド家の悪事とは一切関りがありません。だから夜の闇の中、帝国へと逃がしたのでした。
一体どのような話や取引が持たれたのかわかりませんが、ふたを開けてみればオルランド家は王国の貴族として残りました。所領は国が接収し伯爵位は確かに褫爵されたものの、従属爵位が残って子爵となったのです。
結局わたくしがジルドを王国から追い出したという結果だけが残りました。家族から引き離し、身分を取り上げて。
一度だけ「リベッティ氏の養子となった」旨の手紙をいただきましたが、それから何度連絡をしても反応はなく……。
それがまさか、誘拐ですって!
「きゅるるっる」
「あら。お菓子をくれるのね? ありがとう」
カワウソの手にはケーキの乗ったお皿がありました。これはクロスタータという焼き菓子ですね。小麦粉の生地にフルーツジャムのようなフィリングを載せて焼くものです。
ナイフを入れた感触はサクっとしてしっとりした感じ。口に入れたらリンゴの甘酸っぱいのが広がって、次にバターの風味が鼻に抜けて……。
「ふふ。これ、わたくしもジルドも大好きだったわ。懐かしい」
ああ、あの頃に戻れるものなら。
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