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第31話 デートに誘われました
しおりを挟む鏡に映るのは、ちょっといいところのご令嬢といった風情のデイドレスを着た私です。平民らしくなるようにと頑張ってもこの美貌だけはどうにもなりません。追放にならなくて良かったです。
着替えを手伝ってくれたマリナレッタさんが、鏡越しに笑顔を浮かべました。
「何をお召しになってもエメリナさまはエメリナさまですね」
「私もそう思う」
「デート、楽しんできてくださいね」
パレードから一週間が経過して、王都は落ち着きを取り戻しています。
今日はアーサー様に誘われて王都の様子を見に行く予定です。反王妃派の活動状況を知りたいからとおっしゃってましたけど、公園で飲んだ果実水がまた飲みたいような口ぶりでした。本音はそっちだと思います。
「マリナレッタさんも、気をつけてね」
「へへ……ありがとうございます」
頬を赤らめながらへにゃっと笑いました。可愛い。
彼女はなんと、レッフリードさんと婚約することになったのだとか。明日にはレッフリードさん、そして未来の義父である伯爵と共にスラットリー男爵領へ戻る予定と聞きました。本来なら男爵がこちらにいらして婚約にまつわるアレコレをする必要があるのでしょうけど、だいぶ回復したとはいえまだ本調子ではありませんから。
彼女を医務室へ連れて行ったのはカッザルさんのほうだったと、アーサー様から伺いました。だけどカッザルさんはマリナレッタさんに、「それはレッフリードだ」と伝えたそうです。
何かハチャメチャな恋模様が隠れている気がするのですけど、それはいずれゆっくり聞かせてもらおうと思います!
浮足立つマリナレッタさんと別れ、私は待ち合わせ場所である学院の門へと向かいました。花祭りの日を思い出しますが、あれからもう半年以上が経過しているのですよね。なんだかあっという間です。
「ああ、今日も綺麗だね」
アーサー様はそう言って手を差し出してくれました。今日の彼は怪我が隠れるように、右側で緩く髪を編んで前に垂らしています。かわ……。
「アーサー様も素敵ですわ」
「なんで笑ってるの」
「髪が、可愛くて。ふふ」
「そうやって笑ってもらえるなら、ずっとこうしていようか」
「他の素敵な髪型も堪能させてください」
「堪能」
アーサー様の手をお借りして馬車へ乗り込みました。やはりちょっといいところのお家が持っていそうな、シンプルな馬車です。
王都の街並みをゆっくり走りながら眺めます。もういつもの平穏を取り戻したように見えますね。
「公務が続いていたでしょう、お疲れではありませんか?」
「元気なところを見せないといけなかったからね。でも、大丈夫だよ。本当に掠り傷なんだから」
向かいに座るアーサー様が手を伸ばし、私の手を握ってくれました。その手が離れてしまうのがいやで、私は人差し指をもぞもぞっと動かして彼の指に絡めます。
「エメリナ?」
手はそのままに、アーサー様が私の隣に座り直してくれました。ふふ、優しい。
「公爵様は無事に出発されたようですね」
「年始は自国で迎える必要があるからね、老体に無理をさせてしまったよ」
「でも、私がお祖父さまとお喋りがしたいって言っていたのを叶えてくださった」
「ジジイも、孫の嫁と話ができたって大喜びだったよ」
「言い方」
私がヘリン公国の言葉を必死で学んだのは、アーサー様のお祖父さまやお祖母さまと、ちゃんとお喋りがしたいからでした。アーサー様は私の言葉を覚えていて、実現してくれたんです。さすが有言実行の男……不言実行に進化しつつある……。
お祖母さまはご体調やご公務の関係でこちらにいらっしゃるのは叶いませんでしたけど。でも今度は私がヘリン公国へ行くと公爵様とお約束しました。
アーサー様が窓の外に目を走らせ、空いたほうの手で私の手をぽんぽんと叩きます。
「さあ、そろそろ到着だ」
「どちらですか?」
彼の視線を追うようにして窓の外を覗きます。石造りの大きな建造物。細部までこだわりぬかれた意匠に、正面扉の前の柱には天からの使者の像が彫られていました。
ここは、私とアーサー様が婚約した場所です。王家に連なる者は結婚の約束さえ神の前で行うと決められているので。
「大聖堂……?」
「もう少ししたら、洗礼の儀が始まってしまう。さ、行こう」
「行こうって、何を」
毎月の第二土曜日は午前中に洗礼……その月に誕生日を迎える満十三歳の子どもたちが、新たな信仰の生活に入るというような儀式があります。
そのせいでしょうか、いつもならお祈りをする方が複数いらっしゃるはずの聖堂内がガランとしています。
アーサー様に手を引かれて身廊を真っ直ぐに進むと聖人を模した像があり、その手前に立つとドーム型の天井から差す明かりが私たちを照らすようでした。
「あの」
静かな聖堂内に私の声が響き、思わず口を噤みます。
彼が身体をこちらへ向けました。
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