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勇将らの最期(2)
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「なぜ、見逃した」
ぎくりと身を強張らせた。恐る恐る振り返ると、どの辺りを駆け巡っていたものやら、牛頭の姿があった。
「男であれば、後の災いの種となりかねぬ。お主は、あの者を斬るべきであったろう」
図書亮は、黙って首を振った。この言いようから察するに、牛頭もあの若者が誰であるか、見抜いたに違いない。
「……治部は」
言葉が喉の奥に絡みつく。
「治部大輔は死んだ。あの者は、一介の僧に過ぎぬ。ただの坊主が、治部の首を見参に行くまで」
辛うじて、小声でそれだけを述べた。その言葉の意味に、牛頭も黙り込む。
「……まだ、城内には屈強の者らが残っている。せいぜい、そのうちの一人でも討ち取ることだな、一色殿」
そう吐き捨てるように言うと、牛頭は西の方へ姿を消した。牛頭の言葉に、図書亮はぞっとした。
図書亮は、牛頭の前では名乗りを上げていない。いくら和田方の忍びとは言え、本名を知られていることが、恐ろしかった。
そろそろと息を吐き出して、図書亮は道場町への門を背にし、くるりと体の向きを変えた。その刹那、あの恐ろしい金壺眼武者の姿が視界に飛び込んできた。
「木っ端。まだ生きておったか」
既に須賀川方の敗北が見えているにも関わらず、武者は勝戦の将であるかのような振る舞いである。
「木っ端ではない。此方は一色図書亮」
思わずかっとなり、図書亮は名乗りを上げた。相手はひょいと眉を上げると、にやりと口元に笑みを浮かべた。
「一色殿が名乗られたからには、こちらも名を名乗ろう。我こそは、鎌倉権五郎景政の末孫、梶原左衛門景光。永享や結城の戦のために思いがけず牢人しておったが、長年治部大輔殿の恩義を被ってきた者である」
近くにいた和田の兵らがどよめいた。図書亮も、その名を聞いて震え上がった。この金壺眼武者は、あの梶原一族の者だったのか。
「治部大輔は死んだぞ」
図書亮は相手の気勢を挫こうと、先程見てきたばかりの事実を告げた。だが、梶原はそれを鼻で笑い飛ばした。
「およそ勇士の本意というのは一切心を変えることなく、義をなすことである。今一度命を捨ててでも治部大輔殿の恩義に報い、誉を後世に伝えるべし。それこそ我が本懐である」
そう言い放つと、頭上で大薙刀を振り回した。薙刀自体はかなりの長さがあり、あの薙刀が飛来してくる限り、梶原の懐に飛び込めない。
「あの薙刀を、切り落とせ」
図書亮は、側にいた雑兵に命令を下した。たちまち和田兵の槍が梶原に殺到したが、梶原の薙刀に力負けして、薙ぎ伏せられる。だがここへ来てどうしたわけか、梶原の勢いが徐々に失われていく。夜中からの激闘で、さしもの梶原の腕にも疲労が溜まり、限界を迎えていたのだろう。そのわずかな隙に、和田兵の一人が梶原の懐に飛び込み、梶原の右腕を斬った。梶原は一瞬顔を歪めたが、すぐにその兵を薙ぎ倒して首を取った。薙刀の切先に討ち取った兵の首を刺したまま、本丸との境の土壁の扉を蹴破り、まだ煙を上げている本丸方面へ戻ろうとしている。
逃がすものか。図書亮は、その背を追った。梶原もまた、傷ついていない左手で城壁の扉を軽々と外し、投げつけてきた。
慌てて、飛来した重そうな木戸を避ける。黒塗りの木戸は、後ろで大きな音を立てて地面に突き刺さった。背後で、ぎゃっという悲鳴が上がる。誰かに当たり、梶原の目論見通り打倒されたらしい。それに構わず、図書亮は本丸の郭内へ侵入した。眼の前には、治部大輔の首のない体や、血塗れの女人らの体が折り重なった櫓がある。梶原は右腕から鮮血が滴り落ちているのにも構わず、するすると櫓にかかる梯子を登った。
「者共。聞くが良い」
雷のような大音声に、和田兵らの足はその場に止められた。
「我が先祖は、天喜五年に栗屋川次郎、安倍貞任、鳥海三郎同兄弟謀叛の折り、頼光公の弟河内守頼信の嫡子、伊予守頼義の討手として、当地に下向して参った。鎌倉権五郎景正は栗屋川の合戦において、鳥海三郎に右の眼を射られたが、その矢を抜かずに柄を折るのみに留め、三日三晩そのままの姿で戦場を駆け回り、最後に眼を射抜いた矢を抜き敵に射返した」
櫓の上で話している梶原の姿は、さながら舞台上の役者のようであり、大音声は朗々と響いていた。
「今某は右腕を斬られながらも、敵を討って参った。この姿を見るが良い。我が祖先と同じ地において同じ姿になろうとは、これも我が先祖の導きであろう。この場でそなたらを見下ろし、自らの手で我が首を刎ね投げ捨てられるならば、今は浮世に思い置くことはござらぬ」
梶原はそう言い終わると、晴れ舞台を踏めたのが嬉しいのだろう、からからと笑い声を上げた。それから腹を十文字に搔き切り、それだけでは死に切れないと思ったのか、さらに心の臓を二度突き刺すと、ようやくその巨大な体躯が倒れるのが見えた。
「梶原殿、天晴なり」
思わず、心からの称賛の声が漏れる。強敵ながら、見事な最期だった。先刻追い回された恐怖も忘れて櫓に登ると、図書亮は、血溜まりの中に横たわる梶原の首を取った。たちまち草履や足袋に須賀川の者ら血が染み込み、足元が濡れる。首が残されている屍の顔をつとめて見ないようにしながら、図書亮は梶原の首を腰に括り付けて、櫓から地上に下りた。
搦手門を潜って、栗毛の馬を進めてくる武者の姿があった。愛宕山で総指揮を取っていた美濃守である。愛宕山本陣からも須賀川城の燃える様子が見えたであろうし、さらに誰かが「治部大輔切腹」の伝令を伝えたのだろう。そして美濃守の背後には、白馬に跨った為氏の姿があった。緋縅の甲冑を身に着けており、久しぶりに穏やかな表情を浮かべている。
南から進んできた先鋒の箭部一族、夜討を担当した遠藤雅楽守とその配下、南東の大黒石口から攻め込んできた二階堂左衛門らの兵も、搦手門の前で片膝をつき、主を出迎えた。
既に、須賀川兵の姿は見当たらない。辛うじて生き残った者たちは、何処へか落ち延びていったのだろう。
「皆の者。誠に大義であった」
為氏が、一同に労いの言葉を掛けた。その言葉に、思わず目頭が熱くなる。鎌倉を出てから、四年余りの月日が経っていた。あの時頼りなかった為氏の声は、今では大人の男の声に変わり、須賀川二階堂氏の真の惣領としての威厳に満ちていた。
「戦と正月が重なった故、大層なもてなしは出来ませぬが……」
どこからやって来たものやら、須賀川の街の長らしき者が、大八車に菰被りの酒を載せて引いてきた。
「御屋形様。この度は見事な勝利、誠におめでとうございます」
本音なのか阿諛なのかは判別しかねるが、長は深々と頭を下げた。それに対して、為氏はひらりと馬から降りると、長の手を取った。
「こちらこそ、正月から須賀川の街を焼いてしまい、済まぬ」
長は目に見えて、狼狽した。
「い、いえ。勿体のうございます」
心優しい為氏のことだ。きっと本心から須賀川の民を案じているのだろうと、図書亮は微笑んだ。
「須賀川の街は、この二階堂為氏の名において、必ず立て直してみせる。それまでは、正月の祝いも控えようぞ」
為氏の言葉に、美濃守が満足そうに頷いた。新しい領主として、まずは及第点といったところだろう。このときの為氏の言葉を忠実に守ったものか、以後の須賀川では、たとえ正月でも注連縄を回す程度で、門松を立てるなどの風習は行わなくなったという。
まだ煙の匂いが立ち込めているものの、連日の火はほぼ収まりつつあった。戦の興奮も醒めやらぬまま、図書亮も樽から柄杓で酒を汲み、一気に飲み干した。勝利の美酒とは、このことである。
図書亮の討ち取った梶原の首は既に美濃守に献上して、愛宕山の本陣で首実検に回されているはずだ。
「婿殿。あの梶原の首を取られたそうですな」
また一杯酒を煽っていると、舅である下野守がやって来た。舅も、到って上機嫌である。
「運に恵まれました」
図書亮は下野守に笑顔を向けた。なぜか梶原とは、二回も対峙する羽目になった。実際、あれほどの剛の者であれば、図書亮が斬られていても不思議ではなかった。
「兄者が婿殿を忍びの者に紛れ込ませた時には、肝が冷えましたが」
そういえば、昨晩共に行動した牛頭の一味らはどうしたのだろう。忍びであるから、このような晴れがましい場所には、同席できないだけなのかもしれないが。
「あの者らは、どうしたのですか?」
「恐らく、美濃守殿から次の仕事を請け負い、この地を離れたのであろう」
「なるほど……」
だが、どうにも腑に落ちない点もあった。牛頭は何故か図書亮の本名を知っており、そもそも本来忍びの者だけで行うべき仕事に、図書亮が加えられた点も不審であった。
そこへやって来たのは、忍藤兵衛だった。今回藤兵衛は美濃守の馬廻りに加えられており、図書亮とは別行動だったのである。その藤兵衛は、なぜか僧侶の格好をしていた。
「お主。その格好はどうした」
図書亮は目を丸くした。
「お主も、人のことは言えないだろう」
図書亮の言葉に反論した藤兵衛は、野良着の上に具足を付けた格好の図書亮の出で立ちを見て、笑った。
斯々然々、忍びの真似事をしたというと、藤兵衛は腹を抱えて笑った。
「気の短いお前らしい。何としてでも武功を立てたかったのだろう」
ふん、と図書亮は鼻を鳴らした。だが、そのお陰で梶原との遭遇に恵まれたとも言える。
「りく殿に、いい土産話が出来たな」
藤兵衛の言葉で、改めてりくとの約束を思い出した。必ず生きて帰る。図書亮は、りくにそう約束したのだった。
その藤兵衛はというと、彼は搦手門からの総攻撃の一団に加わっていた。三の丸の東を目指していたが、須賀川兵の「向かってくる敵は絶対に漏らすな。討ち取れ」という言葉を聞き、咄嗟に声の主との距離を目測した。その距離はおよそ三〇間ほどであり、須賀川勢の方が人数が多かった。そこで方向を転じて、北へ戻りどこかに身を隠そうとして辺りを見渡したところ、あいにく身を隠せるような林や藪は見つからない。仕方なく、三の丸近くにあった池の中に建つ小さな観音堂へ走り込んだところ、不思議なことに、破れた帷子や巡礼用の笈、擦り切れた簑笠などが置かれたままになっていた。
そこで咄嗟に太刀を板敷きの下に隠し置き、打ち捨てられた板帷子と笈摺を纏い、懐にしまってあった長念珠を爪繰り、「若し復人有りて臨むに当たり害を被り観音菩薩の名を称する者非ば、被所刀杖執り、尋ねん。段々壌而得解脱」と大音声を上げて観音経を唱えていたという。高らかに声を上げているところへ押し寄せたのは、果たして須賀川兵だった。
その人数は五、六人ほどいたが、念仏を唱える藤兵衛を本物の巡礼僧と勘違いしたのか、敢えて怪しみ咎める者はいなかったのだという。
「和田に住んでから、毎月観音詣でを欠かさなかったからな。御仏の御利益があったものだろう」
そう述べた藤兵衛の言葉は、真面目なのか冗談なのか判別しかねた。
「後生の導きがあったのならば、髪を切って入道し、生涯観音を念じようと思う」
藤兵衛の妻であるはなをどうするつもりだと、図書亮は内心鼻白んだ。だが、いつの間にか部下に酒を振る舞っていた美濃守や為氏は、珍しく相好を崩して、大いに喜びながらこの話を聞いている。
「今回の和田方は、神仏の功徳に救われた者も多かった。藤兵衛の命が助かったのも、その一環であろう」
為氏が、藤兵衛の言葉に大きく頷いた。言われてみれば確かに為氏の言葉通りで、暮谷沢で図書亮や藤兵衛が逃げ込んだ先にも、妙見神社だった。
「御仏のご利益は、我らにあった。当面は仮の宿住まいとなろうが、この後城を新しく築くに当たり、城内に寺を置こうと思う」
既に為氏の頭の中では、新しい須賀川の絵図が描かれ始めているらしい。
上機嫌な様子の主を横目に見つつ、美濃守が図書亮を手招いた。
「今少ししたら、御屋形を峯ヶ城へ送っていってほしい」
美濃守を始めとする四天王は、治安維持も兼ねて、しばらく須賀川の街に留まるという。だが戦火で須賀川の街はあらかた焼けてしまったため、為氏の仮住まいができるまで、為氏は引き続き峯ヶ城に留まってもらうつもりだというのだ。
それに、と珍しく美濃守が言い淀んだ。
「御屋形は、大分無理をされてこの戦に臨まれた。避けては通れなかった戦だが、その御心は穏やかでなかろう。我々が須賀川の城に無事御屋形をお迎えするまで、御屋形のお側で支えてほしい」
図書亮の知る限り、弱音を吐く美濃守は初めて見た。いつぞやの佐渡守の兄に対する評価は、正しかったのではないか。
「畏まって、候」
図書亮は、美濃守に深々と頭を下げた。
祝いの酒宴から半刻ほどして、空気が冷えてくる前にと、為氏の一行は和田への帰路を辿った。安房守は美濃守と共に須賀川に残るが、図書亮は舅の下野守と共に、為氏を和田まで送ることになった。後に残る者らは、この後、焼け焦げた街の片付けを始め、散乱した死骸の片付けなどもある。身内を失い悲嘆に暮れる者の対応にも追われるであろうし、気が塞ぐ仕事も山積みに違いない。それを思うと、帰宅組に加えられるのは、有り難かった。
戦の緊張感から開放され、張り詰めていた図書亮の気も徐々に緩む。
和田への帰路はいくつかあるが、一行は愛宕山と妙見山の境の道を通ることにした。為氏たっての希望である。
なぜ為氏がこの道を選んだのかは、図書亮にはおよその見当がついていた。
時刻は既に夕方である。切り立った崖が両側から迫り、道は薄暗く、暮谷沢はちょろちょろと微かに流れているのみであった。昼間は青空が見えていたが、空には再び雪雲がかかり、時々思い出したように風花が舞う。
「少し、止めてくれ」
為氏が、小さな橋のところで行列を止めさせた。あらかじめ、誰かに調べさせておいたのだろう。
「図書亮。ここで間違いないか」
言葉少なに尋ねる主に、図書亮は黙って頷いた。図書亮が姫の遺体を目の当たりにしたのは、為氏も知っている。図書亮が帰宅組に加えられたのは、為氏はこの場所を訪れたがるであろうことを、美濃守が予想したからだろう。
図書亮も改めて、手を合わせた。為氏が行列を止めさせた場所は、三千代姫が自害したあの泪橋である。目を閉じれば今でも、あの惨状がまざまざと脳裏に蘇ってきた。
「暮谷沢とは、皮肉なものだな」
ぽつりと為氏が呟く。三千代姫の最期の地は、暮谷沢、泪橋など悲劇の幕開けを予兆させる地名だった。
三千代姫も、同じように感じたのではないか。
為氏は亡き妻の面影を追うように、長い間その場所を動こうとしなかった。だが、日は刻々と落ちてきて、夜の帳が迫ってくる。
あの惨劇の前、なぜか姫はりくに会いたがっていた。図書亮はそのおまけのようなものだったが、最後に姫から掛けられた言葉は、忘れ難かった。
生まれてくる我が子を、大切にせよ。姫は二人にそう言い残して、死出の旅路についたのだった。
図書亮も人並みの信心は持ち合わせているが、今回ばかりは御仏の加護というよりも、亡き三千代姫が、可愛がっていたりくのために、図書亮を守ってくれたのかもしれなかった。
「図書亮。須賀川へ戻る前に、姫はお主の家に寄ったそうだな」
黙って長いこと手を合わせていた為氏が、図書亮に話しかけてきた。なぜ為氏がそれを知っているのだろう。不審そうな顔を見せた図書亮に、為氏は少し笑って見せた。
「私にも、目や耳はある」
この場合の目や耳とはどのような意味なのか。気になったが、深くは追求しないことにした。
「妻が、親しく御台のお言葉を頂戴致しました。女人同士の話ゆえ、何の話をしていたか男にはとんと分かりませぬが」
あの時、妻は姫から何か大事を打ち明けられていたような気がする。だが、姫が死んでしまった今となっては、追求しようとしても詮無いことでもあった。
そうか、と為氏がどこかほっとしたような顔を見せた。
「姫は、お主らに子が出来たと聞いて心から喜んでいた。お主を無事に和田に帰せるのならば、少しは御台への供養になろうか」
その言葉に、図書亮は胸が熱くなるのを感じた。
「勿体ないお言葉にござます……」
三千代姫によく似た物言いに、それ以上、つなぐ言葉は見つけられなかった。
背後で、他の家臣たちが気を揉んでいるのが感じられる。これ以上、皆を待たせるわけにはいかない。
「御屋形。そろそろ参りましょうか」
図書亮は、為氏に出立を促した。為氏は名残惜しそうに橋の辺りに一瞥をくれると、再度馬に跨がり、和田の方面へ駒の足を進めた。
峯ヶ城まで為氏を送り届け、留守居役として城を守っていた須田佐渡守に後事を託すと、図書亮はまっすぐに自宅へ向かった。
家を明けたのはわずか四日のみだったが、一昔も前に家を出たように感じる。箭部一族の男たちは皆須賀川との戦に駆り出され、りくはさぞ不安だったことだろう。遅い時間にも関わらず、家にはまだ明かりが灯されている。
正月だというのに、結局りくは木舟にも戻らず、一人で夫の帰りを待っていた。不安だっただろうに、ずいぶんと強くなったとも感じる。
妻や腹の子を驚かさぬように、木戸を叩いて合図を送った。中から慌てて立ち上がる気配がして引き戸が明けられ、目を大きく見開いたりくが駆け寄ってくる。
「走るな。転んだらどうする」
図書亮はりくの頭を引き寄せ、撫でてやった。大きく膨らんだ腹は、今にも子が生まれるのではないかとばかりに、はちきれそうである。
「勝ったのですね」
ようやく、りくが泣き笑いのような笑みを浮かべた。
「伯父上や舅殿、紀伊守殿。そなたの身内は皆無事だ」
図書亮の言葉に、りくの目から涙が零れた。
「次は、りくの戦だな」
そう言うと、りくは力強く頷いた。
「図書亮さまがご無事でお戻りになられたのですもの。私も、女の戦を乗り切ってみせます」
外では、新年最初の天狼星が、二人を見守るように瞬いていた――。
ぎくりと身を強張らせた。恐る恐る振り返ると、どの辺りを駆け巡っていたものやら、牛頭の姿があった。
「男であれば、後の災いの種となりかねぬ。お主は、あの者を斬るべきであったろう」
図書亮は、黙って首を振った。この言いようから察するに、牛頭もあの若者が誰であるか、見抜いたに違いない。
「……治部は」
言葉が喉の奥に絡みつく。
「治部大輔は死んだ。あの者は、一介の僧に過ぎぬ。ただの坊主が、治部の首を見参に行くまで」
辛うじて、小声でそれだけを述べた。その言葉の意味に、牛頭も黙り込む。
「……まだ、城内には屈強の者らが残っている。せいぜい、そのうちの一人でも討ち取ることだな、一色殿」
そう吐き捨てるように言うと、牛頭は西の方へ姿を消した。牛頭の言葉に、図書亮はぞっとした。
図書亮は、牛頭の前では名乗りを上げていない。いくら和田方の忍びとは言え、本名を知られていることが、恐ろしかった。
そろそろと息を吐き出して、図書亮は道場町への門を背にし、くるりと体の向きを変えた。その刹那、あの恐ろしい金壺眼武者の姿が視界に飛び込んできた。
「木っ端。まだ生きておったか」
既に須賀川方の敗北が見えているにも関わらず、武者は勝戦の将であるかのような振る舞いである。
「木っ端ではない。此方は一色図書亮」
思わずかっとなり、図書亮は名乗りを上げた。相手はひょいと眉を上げると、にやりと口元に笑みを浮かべた。
「一色殿が名乗られたからには、こちらも名を名乗ろう。我こそは、鎌倉権五郎景政の末孫、梶原左衛門景光。永享や結城の戦のために思いがけず牢人しておったが、長年治部大輔殿の恩義を被ってきた者である」
近くにいた和田の兵らがどよめいた。図書亮も、その名を聞いて震え上がった。この金壺眼武者は、あの梶原一族の者だったのか。
「治部大輔は死んだぞ」
図書亮は相手の気勢を挫こうと、先程見てきたばかりの事実を告げた。だが、梶原はそれを鼻で笑い飛ばした。
「およそ勇士の本意というのは一切心を変えることなく、義をなすことである。今一度命を捨ててでも治部大輔殿の恩義に報い、誉を後世に伝えるべし。それこそ我が本懐である」
そう言い放つと、頭上で大薙刀を振り回した。薙刀自体はかなりの長さがあり、あの薙刀が飛来してくる限り、梶原の懐に飛び込めない。
「あの薙刀を、切り落とせ」
図書亮は、側にいた雑兵に命令を下した。たちまち和田兵の槍が梶原に殺到したが、梶原の薙刀に力負けして、薙ぎ伏せられる。だがここへ来てどうしたわけか、梶原の勢いが徐々に失われていく。夜中からの激闘で、さしもの梶原の腕にも疲労が溜まり、限界を迎えていたのだろう。そのわずかな隙に、和田兵の一人が梶原の懐に飛び込み、梶原の右腕を斬った。梶原は一瞬顔を歪めたが、すぐにその兵を薙ぎ倒して首を取った。薙刀の切先に討ち取った兵の首を刺したまま、本丸との境の土壁の扉を蹴破り、まだ煙を上げている本丸方面へ戻ろうとしている。
逃がすものか。図書亮は、その背を追った。梶原もまた、傷ついていない左手で城壁の扉を軽々と外し、投げつけてきた。
慌てて、飛来した重そうな木戸を避ける。黒塗りの木戸は、後ろで大きな音を立てて地面に突き刺さった。背後で、ぎゃっという悲鳴が上がる。誰かに当たり、梶原の目論見通り打倒されたらしい。それに構わず、図書亮は本丸の郭内へ侵入した。眼の前には、治部大輔の首のない体や、血塗れの女人らの体が折り重なった櫓がある。梶原は右腕から鮮血が滴り落ちているのにも構わず、するすると櫓にかかる梯子を登った。
「者共。聞くが良い」
雷のような大音声に、和田兵らの足はその場に止められた。
「我が先祖は、天喜五年に栗屋川次郎、安倍貞任、鳥海三郎同兄弟謀叛の折り、頼光公の弟河内守頼信の嫡子、伊予守頼義の討手として、当地に下向して参った。鎌倉権五郎景正は栗屋川の合戦において、鳥海三郎に右の眼を射られたが、その矢を抜かずに柄を折るのみに留め、三日三晩そのままの姿で戦場を駆け回り、最後に眼を射抜いた矢を抜き敵に射返した」
櫓の上で話している梶原の姿は、さながら舞台上の役者のようであり、大音声は朗々と響いていた。
「今某は右腕を斬られながらも、敵を討って参った。この姿を見るが良い。我が祖先と同じ地において同じ姿になろうとは、これも我が先祖の導きであろう。この場でそなたらを見下ろし、自らの手で我が首を刎ね投げ捨てられるならば、今は浮世に思い置くことはござらぬ」
梶原はそう言い終わると、晴れ舞台を踏めたのが嬉しいのだろう、からからと笑い声を上げた。それから腹を十文字に搔き切り、それだけでは死に切れないと思ったのか、さらに心の臓を二度突き刺すと、ようやくその巨大な体躯が倒れるのが見えた。
「梶原殿、天晴なり」
思わず、心からの称賛の声が漏れる。強敵ながら、見事な最期だった。先刻追い回された恐怖も忘れて櫓に登ると、図書亮は、血溜まりの中に横たわる梶原の首を取った。たちまち草履や足袋に須賀川の者ら血が染み込み、足元が濡れる。首が残されている屍の顔をつとめて見ないようにしながら、図書亮は梶原の首を腰に括り付けて、櫓から地上に下りた。
搦手門を潜って、栗毛の馬を進めてくる武者の姿があった。愛宕山で総指揮を取っていた美濃守である。愛宕山本陣からも須賀川城の燃える様子が見えたであろうし、さらに誰かが「治部大輔切腹」の伝令を伝えたのだろう。そして美濃守の背後には、白馬に跨った為氏の姿があった。緋縅の甲冑を身に着けており、久しぶりに穏やかな表情を浮かべている。
南から進んできた先鋒の箭部一族、夜討を担当した遠藤雅楽守とその配下、南東の大黒石口から攻め込んできた二階堂左衛門らの兵も、搦手門の前で片膝をつき、主を出迎えた。
既に、須賀川兵の姿は見当たらない。辛うじて生き残った者たちは、何処へか落ち延びていったのだろう。
「皆の者。誠に大義であった」
為氏が、一同に労いの言葉を掛けた。その言葉に、思わず目頭が熱くなる。鎌倉を出てから、四年余りの月日が経っていた。あの時頼りなかった為氏の声は、今では大人の男の声に変わり、須賀川二階堂氏の真の惣領としての威厳に満ちていた。
「戦と正月が重なった故、大層なもてなしは出来ませぬが……」
どこからやって来たものやら、須賀川の街の長らしき者が、大八車に菰被りの酒を載せて引いてきた。
「御屋形様。この度は見事な勝利、誠におめでとうございます」
本音なのか阿諛なのかは判別しかねるが、長は深々と頭を下げた。それに対して、為氏はひらりと馬から降りると、長の手を取った。
「こちらこそ、正月から須賀川の街を焼いてしまい、済まぬ」
長は目に見えて、狼狽した。
「い、いえ。勿体のうございます」
心優しい為氏のことだ。きっと本心から須賀川の民を案じているのだろうと、図書亮は微笑んだ。
「須賀川の街は、この二階堂為氏の名において、必ず立て直してみせる。それまでは、正月の祝いも控えようぞ」
為氏の言葉に、美濃守が満足そうに頷いた。新しい領主として、まずは及第点といったところだろう。このときの為氏の言葉を忠実に守ったものか、以後の須賀川では、たとえ正月でも注連縄を回す程度で、門松を立てるなどの風習は行わなくなったという。
まだ煙の匂いが立ち込めているものの、連日の火はほぼ収まりつつあった。戦の興奮も醒めやらぬまま、図書亮も樽から柄杓で酒を汲み、一気に飲み干した。勝利の美酒とは、このことである。
図書亮の討ち取った梶原の首は既に美濃守に献上して、愛宕山の本陣で首実検に回されているはずだ。
「婿殿。あの梶原の首を取られたそうですな」
また一杯酒を煽っていると、舅である下野守がやって来た。舅も、到って上機嫌である。
「運に恵まれました」
図書亮は下野守に笑顔を向けた。なぜか梶原とは、二回も対峙する羽目になった。実際、あれほどの剛の者であれば、図書亮が斬られていても不思議ではなかった。
「兄者が婿殿を忍びの者に紛れ込ませた時には、肝が冷えましたが」
そういえば、昨晩共に行動した牛頭の一味らはどうしたのだろう。忍びであるから、このような晴れがましい場所には、同席できないだけなのかもしれないが。
「あの者らは、どうしたのですか?」
「恐らく、美濃守殿から次の仕事を請け負い、この地を離れたのであろう」
「なるほど……」
だが、どうにも腑に落ちない点もあった。牛頭は何故か図書亮の本名を知っており、そもそも本来忍びの者だけで行うべき仕事に、図書亮が加えられた点も不審であった。
そこへやって来たのは、忍藤兵衛だった。今回藤兵衛は美濃守の馬廻りに加えられており、図書亮とは別行動だったのである。その藤兵衛は、なぜか僧侶の格好をしていた。
「お主。その格好はどうした」
図書亮は目を丸くした。
「お主も、人のことは言えないだろう」
図書亮の言葉に反論した藤兵衛は、野良着の上に具足を付けた格好の図書亮の出で立ちを見て、笑った。
斯々然々、忍びの真似事をしたというと、藤兵衛は腹を抱えて笑った。
「気の短いお前らしい。何としてでも武功を立てたかったのだろう」
ふん、と図書亮は鼻を鳴らした。だが、そのお陰で梶原との遭遇に恵まれたとも言える。
「りく殿に、いい土産話が出来たな」
藤兵衛の言葉で、改めてりくとの約束を思い出した。必ず生きて帰る。図書亮は、りくにそう約束したのだった。
その藤兵衛はというと、彼は搦手門からの総攻撃の一団に加わっていた。三の丸の東を目指していたが、須賀川兵の「向かってくる敵は絶対に漏らすな。討ち取れ」という言葉を聞き、咄嗟に声の主との距離を目測した。その距離はおよそ三〇間ほどであり、須賀川勢の方が人数が多かった。そこで方向を転じて、北へ戻りどこかに身を隠そうとして辺りを見渡したところ、あいにく身を隠せるような林や藪は見つからない。仕方なく、三の丸近くにあった池の中に建つ小さな観音堂へ走り込んだところ、不思議なことに、破れた帷子や巡礼用の笈、擦り切れた簑笠などが置かれたままになっていた。
そこで咄嗟に太刀を板敷きの下に隠し置き、打ち捨てられた板帷子と笈摺を纏い、懐にしまってあった長念珠を爪繰り、「若し復人有りて臨むに当たり害を被り観音菩薩の名を称する者非ば、被所刀杖執り、尋ねん。段々壌而得解脱」と大音声を上げて観音経を唱えていたという。高らかに声を上げているところへ押し寄せたのは、果たして須賀川兵だった。
その人数は五、六人ほどいたが、念仏を唱える藤兵衛を本物の巡礼僧と勘違いしたのか、敢えて怪しみ咎める者はいなかったのだという。
「和田に住んでから、毎月観音詣でを欠かさなかったからな。御仏の御利益があったものだろう」
そう述べた藤兵衛の言葉は、真面目なのか冗談なのか判別しかねた。
「後生の導きがあったのならば、髪を切って入道し、生涯観音を念じようと思う」
藤兵衛の妻であるはなをどうするつもりだと、図書亮は内心鼻白んだ。だが、いつの間にか部下に酒を振る舞っていた美濃守や為氏は、珍しく相好を崩して、大いに喜びながらこの話を聞いている。
「今回の和田方は、神仏の功徳に救われた者も多かった。藤兵衛の命が助かったのも、その一環であろう」
為氏が、藤兵衛の言葉に大きく頷いた。言われてみれば確かに為氏の言葉通りで、暮谷沢で図書亮や藤兵衛が逃げ込んだ先にも、妙見神社だった。
「御仏のご利益は、我らにあった。当面は仮の宿住まいとなろうが、この後城を新しく築くに当たり、城内に寺を置こうと思う」
既に為氏の頭の中では、新しい須賀川の絵図が描かれ始めているらしい。
上機嫌な様子の主を横目に見つつ、美濃守が図書亮を手招いた。
「今少ししたら、御屋形を峯ヶ城へ送っていってほしい」
美濃守を始めとする四天王は、治安維持も兼ねて、しばらく須賀川の街に留まるという。だが戦火で須賀川の街はあらかた焼けてしまったため、為氏の仮住まいができるまで、為氏は引き続き峯ヶ城に留まってもらうつもりだというのだ。
それに、と珍しく美濃守が言い淀んだ。
「御屋形は、大分無理をされてこの戦に臨まれた。避けては通れなかった戦だが、その御心は穏やかでなかろう。我々が須賀川の城に無事御屋形をお迎えするまで、御屋形のお側で支えてほしい」
図書亮の知る限り、弱音を吐く美濃守は初めて見た。いつぞやの佐渡守の兄に対する評価は、正しかったのではないか。
「畏まって、候」
図書亮は、美濃守に深々と頭を下げた。
祝いの酒宴から半刻ほどして、空気が冷えてくる前にと、為氏の一行は和田への帰路を辿った。安房守は美濃守と共に須賀川に残るが、図書亮は舅の下野守と共に、為氏を和田まで送ることになった。後に残る者らは、この後、焼け焦げた街の片付けを始め、散乱した死骸の片付けなどもある。身内を失い悲嘆に暮れる者の対応にも追われるであろうし、気が塞ぐ仕事も山積みに違いない。それを思うと、帰宅組に加えられるのは、有り難かった。
戦の緊張感から開放され、張り詰めていた図書亮の気も徐々に緩む。
和田への帰路はいくつかあるが、一行は愛宕山と妙見山の境の道を通ることにした。為氏たっての希望である。
なぜ為氏がこの道を選んだのかは、図書亮にはおよその見当がついていた。
時刻は既に夕方である。切り立った崖が両側から迫り、道は薄暗く、暮谷沢はちょろちょろと微かに流れているのみであった。昼間は青空が見えていたが、空には再び雪雲がかかり、時々思い出したように風花が舞う。
「少し、止めてくれ」
為氏が、小さな橋のところで行列を止めさせた。あらかじめ、誰かに調べさせておいたのだろう。
「図書亮。ここで間違いないか」
言葉少なに尋ねる主に、図書亮は黙って頷いた。図書亮が姫の遺体を目の当たりにしたのは、為氏も知っている。図書亮が帰宅組に加えられたのは、為氏はこの場所を訪れたがるであろうことを、美濃守が予想したからだろう。
図書亮も改めて、手を合わせた。為氏が行列を止めさせた場所は、三千代姫が自害したあの泪橋である。目を閉じれば今でも、あの惨状がまざまざと脳裏に蘇ってきた。
「暮谷沢とは、皮肉なものだな」
ぽつりと為氏が呟く。三千代姫の最期の地は、暮谷沢、泪橋など悲劇の幕開けを予兆させる地名だった。
三千代姫も、同じように感じたのではないか。
為氏は亡き妻の面影を追うように、長い間その場所を動こうとしなかった。だが、日は刻々と落ちてきて、夜の帳が迫ってくる。
あの惨劇の前、なぜか姫はりくに会いたがっていた。図書亮はそのおまけのようなものだったが、最後に姫から掛けられた言葉は、忘れ難かった。
生まれてくる我が子を、大切にせよ。姫は二人にそう言い残して、死出の旅路についたのだった。
図書亮も人並みの信心は持ち合わせているが、今回ばかりは御仏の加護というよりも、亡き三千代姫が、可愛がっていたりくのために、図書亮を守ってくれたのかもしれなかった。
「図書亮。須賀川へ戻る前に、姫はお主の家に寄ったそうだな」
黙って長いこと手を合わせていた為氏が、図書亮に話しかけてきた。なぜ為氏がそれを知っているのだろう。不審そうな顔を見せた図書亮に、為氏は少し笑って見せた。
「私にも、目や耳はある」
この場合の目や耳とはどのような意味なのか。気になったが、深くは追求しないことにした。
「妻が、親しく御台のお言葉を頂戴致しました。女人同士の話ゆえ、何の話をしていたか男にはとんと分かりませぬが」
あの時、妻は姫から何か大事を打ち明けられていたような気がする。だが、姫が死んでしまった今となっては、追求しようとしても詮無いことでもあった。
そうか、と為氏がどこかほっとしたような顔を見せた。
「姫は、お主らに子が出来たと聞いて心から喜んでいた。お主を無事に和田に帰せるのならば、少しは御台への供養になろうか」
その言葉に、図書亮は胸が熱くなるのを感じた。
「勿体ないお言葉にござます……」
三千代姫によく似た物言いに、それ以上、つなぐ言葉は見つけられなかった。
背後で、他の家臣たちが気を揉んでいるのが感じられる。これ以上、皆を待たせるわけにはいかない。
「御屋形。そろそろ参りましょうか」
図書亮は、為氏に出立を促した。為氏は名残惜しそうに橋の辺りに一瞥をくれると、再度馬に跨がり、和田の方面へ駒の足を進めた。
峯ヶ城まで為氏を送り届け、留守居役として城を守っていた須田佐渡守に後事を託すと、図書亮はまっすぐに自宅へ向かった。
家を明けたのはわずか四日のみだったが、一昔も前に家を出たように感じる。箭部一族の男たちは皆須賀川との戦に駆り出され、りくはさぞ不安だったことだろう。遅い時間にも関わらず、家にはまだ明かりが灯されている。
正月だというのに、結局りくは木舟にも戻らず、一人で夫の帰りを待っていた。不安だっただろうに、ずいぶんと強くなったとも感じる。
妻や腹の子を驚かさぬように、木戸を叩いて合図を送った。中から慌てて立ち上がる気配がして引き戸が明けられ、目を大きく見開いたりくが駆け寄ってくる。
「走るな。転んだらどうする」
図書亮はりくの頭を引き寄せ、撫でてやった。大きく膨らんだ腹は、今にも子が生まれるのではないかとばかりに、はちきれそうである。
「勝ったのですね」
ようやく、りくが泣き笑いのような笑みを浮かべた。
「伯父上や舅殿、紀伊守殿。そなたの身内は皆無事だ」
図書亮の言葉に、りくの目から涙が零れた。
「次は、りくの戦だな」
そう言うと、りくは力強く頷いた。
「図書亮さまがご無事でお戻りになられたのですもの。私も、女の戦を乗り切ってみせます」
外では、新年最初の天狼星が、二人を見守るように瞬いていた――。
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