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勇将らの最期(1)
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治部大輔の守る須賀川城の守りは、見事としか言いようがない。須賀川の人数は、城の規模からしてもせいぜい五百か六百といったところだろう。中でも二の丸と三の丸を中心に兵を固めているのは、明らかだ。その二つの郭の間に、治部大輔や北の方の住む本丸がある。
「次の治部殿が手は、どのような奇策を用いるのか、想像もつかぬ」
昼の軍評定で、下野守が忌々しげに舌打ちをした。
兵力においては数倍の差があるにも関わらず、和田方の損害は増えるばかりである。守りの人数こそ少ないが人員をうまく配置していると、図書亮も感じざるを得ない。
「二の丸の守りを崩し、乾(北西)の三の丸との連携を断つ必要があるな」
安房守が城下の絵図を睨みながら呟いた。須賀川城の西方から乾の方向にかけては、切り立った崖になっている。その崖下の途中には雨呼口と言われる集落があり、雨呼口の北口は釈迦堂川の渡し口の一つなのだった。また、雨呼口から東に向かって急坂を登ると、三の丸の裏手に出る。時は既に、三日目の未の刻だった。
見慣れぬ者が本町の箭部陣営に姿を見せたのは、その軍評定の席だった。その時点で、須賀川方の陣営とは未だ膠着状態が続いていた。昨日や一昨日の須賀川方の火攻めにより、箭部の手勢は半数近くまで勢力が削がれていたため、大黒石口の八幡山にいた二階堂左衛門に使者を送り、左衛門の率いる兵らの合流を待っていたのである。
「須賀川方にも、死角がございます」
突如現れたその男は、当たり前のように評定に割って入った。安房守が相手を怪しむ様子もないところを見ると、美濃守に依頼していた忍びの一団が、こちらに回ってきたらしい。
「どこだ」
安房守が、鋭く尋ねた。男は、人差し指で一点を指した。指先は、二の丸のやや西側にある蔵場を指している。
蔵場であるから、いくつかの貯蔵蔵がある。その一角は須賀川の者らが雑物を捨てる場所として利用されており、身を隠すには絶好の場所だった。また、須賀川城下の者が米や作物を納めに来る場所でもあり、昼間から土民に化けて接近しても、怪しまれない。そこから城内に侵入しようというのだ。和田の兵は大手門を始めとする南側から東を通って北側に集中しているため、西側の方が警備が手薄だというのである。
さらに彼は、愛宕山にいる美濃守の指示を受けて、道場町にも手勢を待機させているとのことだった。そちら側には時宗系の寺があり、庫裏の裏手が林になっている。こちらも、身を潜めるには格好の場所だった。
「十字に二の丸に駆け入り、内側から門を破ります。ただし、できれば足が疾く腕の立つ方を二、三人お借りしたい。先導は我らの手の者が行いますが、門番を全て斬るにはいささか手勢が足りませぬ」
「ふむ……」
安房守は腕を組み、しばし黙考した。それからふと顔を上げ、図書亮と視線が合った。
「私が参ります」
今度こそ、間違いなく武功を立てる機会である。図書亮は、首を縦に振った。
和田の忍びの者らは、蔵場を守っていた須賀川兵らに対して「正月の寿ぎの供物を納めに来た」という口実を用意し、易々と城下に近づいた。一行は農民を買収して本物の酒を用意させ、見張りの兵に「大晦日の祝酒」として勧めていった。言われてみれば、今日は大晦日なのだったと、図書亮は思い出す。寒空の下、須賀川兵の体も温もりを欲していたのだろう。つい差し出された酒に手が出る兵も、少なくなかった。
埃臭いの臭いに顔をしかめながら、今が冬で助かったと図書亮は思った。身を隠しているこの場所は、夏場であったならば、短時間いるだけで臭いが体に染み付いたに違いない。
今図書亮が纏っているのは、濃紺の野良着だった。右肩には和田方の合印として、縹色の小さな布切れを結んでいる。腰に太刀を佩いているものの、武功目的で必要以上に人を斬るなとも言われた。目的は、外で待機している和田方の攻撃の緒を作ることにあり、須賀川兵に無闇に騒がれては困るのである。
「そこもとのことは、今宵に限り木瓜と呼ばせてもらう」
棟梁は、そう宣言した。その声に聞き覚えがある気もするのだが、顔が頭巾で覆われ声がくぐもっているため、はっきりとは思い出せない。図書亮は曖昧に頷き、問い返した。
「分かった。そなたのことは何と呼べばいい」
「牛頭とでも呼べば良い」
棟梁は、微かに笑いを含んだ声で図書亮の問い掛けに応じた。その言葉の組み合わせに、図書亮もにんまりとする。須賀川では夏になると、病魔退散を願って牛頭天王に胡瓜を捧げる。木瓜は胡瓜の別名であり、合言葉として使うには適した組み合わせだった。一色家の家紋にも使われている文様であり、悪い気はしない。
やがて子の刻になった頃だろうか。どこからともなく、梟の声が聞こえてきた。だが、その音色は一定であり、野生の梟の啼声とは異なるようである。
「行くぞ」
予め決められていた、侵入開始の合図だった。図書亮も一つ肯くと、東の荒町方面を目指して駆けていく。須賀川城に入るのは初めてだったが、一昨日に城壁の上から見下ろして概要を把握していたこともあり、何となく方角の見当はついた。
「誰だ」
突如、誰何の声がした。声の主の方向に顔を向けると、金壺眼を爛々と光らせ、黒糸縅の大鎧を着た大男が、仁王立ちになっている。本能が働き、相手は手練の者、それもかなりの使い手であると察せられた。手には、大薙刀が握られている。
「怪しい奴。名を名乗れ」
相手の挑発に乗って斬合いになれば、間違いなく死ぬ。図書亮は、方向を北に転じて追手から逃れようとした。
「待たんか!」
挑発に構わず、くるくると方角を変えながら、逃げ回る。途中、別の方角から縹色の合印を身につけた者が大手門方面へ駆け抜けていくのを見かけた気もしたが、追手から逃げるだけで精一杯だった。城壁の角の死角や、時折現れる納屋などに身を隠しながら、手近な門の木戸に近づいていく。
やがて艮の方向に、道場町の木戸と思しきものが見えてきた。瞬時、外聞の兵と視線が合う。今度は逃げ場がない。相手も何か叫ぼうとしてるが、恐怖のために声が出ないようだ。図書亮は腹を括り、すらりと太刀を抜いた。門扉に近づくと、門を守るように焚かれていた篝火で、相手の顔はまだ幼さを残していることに気付く。だが、それに構わず斬り下げ、返す刀で相手の首を刎ねた
「いたぞ!」
先程の金壺眼武者が追ってきた。思いの外しつこい。郭の外に逃れようと、図書亮が思い切って門柱脇の木戸を蹴り上げると、木戸は簡単に破れた。どうやら昨日や一昨日の火災で、焼け焦げていたようだ。そこに身をねじ込み、城壁を抜ける。だがそれ以上、金壺眼は追ってこようとしなかった。城外まで追ってこようとしないところを見ると、須賀川の人員に余力がないのだろう。その報告を安房守にするべく、図書亮は南に向かって駆け出した。
「木瓜。どうだ」
どこから湧いて出てきたものやら、牛頭が合流する。
「金壺眼の武者に追いかけられたが、外までは追ってこなかった。今ならば我々を追って、兵が分散しているに違いない」
図書亮は、ありのままに答えた。牛頭は一つ肯くと、懐から入子火らしきものを取り出した。手早く燧石を打ち合わせて入子火に点火すると、背後の壁越しに投げ入れる。たちまち、背後でぼうっと火の手が上がった。須賀川兵の右往左往している気配が、壁の外からも伺える。
「油を撒いてきた。しばらく須賀川の兵を足止めできるだろう」
二人は並走しながら、箭部陣営を目指した。荒町口に差し掛かったところで、気を揉んでいる様子の安房守と下野守の姿が見えた。その脇には、遠藤雅楽守もいる。箭部方の支援のために、愛宕山から駆けつけたものだろう。時刻は既に丑の刻になろうとしていた。
「御苦労。して、城内の様子は」
普段は笑顔を絶やさない安房守だが、今は厳しい顔つきで問い返すのみであった。
「二の丸を全て守りきるだけの人数はいないようです。外まで討って出る余力は、須賀川方にはございませぬ」
図書亮の答えに、雅楽守が決断を下した。
「このまま、夜討をかけようぞ。昨日一昨日と須賀川方のはかりごとに嵌って兵馬を失ったのは、我々に武略がなかったわけではない。須賀川の兵が皆知恵のあるのは確かでござるが、陣形が乱れている今、夜討を掛け火を放てば、城は我らの手に落ちよう」
「うむ」
安房守が雅楽守の言葉に肯く。雅楽守の言葉を聞いた牛頭は、すぐさま腰に下げていた貝を吹いた。その音を聞きつけたのか、西の方からも火の手が上がる。貝の音に呼応するかのように、坤に隠れていたであろう一派が、狼煙を上げた。闇夜ではあるが、闇夜に浮かぶ白い狼煙は、須賀川城の鬼門にある八幡山からも見えるだろう。そこには、二階堂一門衆の内西衆が、後詰として待機しているはずだった。
「門を破れ!総攻撃を掛ける」
安房守の怒号に、雑兵が衝木を何度も門扉に打ち付ける。大手門に架かる橋は昨日須賀川方によって焼き払われたため、二の丸東側の中町口から侵入するつもりなのだ。
図書亮も、下野守に預けていた当世具足を野良着の上から身に着けて、再度の戦いに備えた。和田方の須賀川方に気づかれたものか、南の大手門のところに設置された見張り櫓の物見兵が、右往左往しているのが見える。向こうからも火矢を射掛けてくるが、既に堀に突き立てられた竹槍は黒々と燃え尽きており、その効果は昨日までよりも薄れている。
和田兵がどっと堀を渡り、二の丸に押し寄せた。南東の方角、大黒石口の二階堂左衛門の兵らも蔵場の方向から押し寄せて、箭部勢と合流する。
「夜討放火の者らは、討ち漏らすな。見掛けたら直ちに殺せ」
須賀川兵の物頭の怒号が響き渡る。
さらに、北の釈迦堂口方面や艮の愛宕山方面からも、鬨の声が上がった。和田勢が頂く為氏の旗印である庵木瓜紋の旗が、そこかしこに目立ち始めた。今度こそ、和田勢が押している。
図書亮も時折斬り合いながら、二の丸城内を駆け進んでいく。その行く手を塞いだのは、一人の老武者だった。
「某は、生国は武蔵児玉の一党、児玉河内という者。我が若かりし時、兵法を好み鹿島神流を修めておる。基本太刀・裏太刀は申すまでもなく、合戦太刀、鍔競・打倒、抜刀まで修めた。我を誰と心得る」
大音声で滔々と述べ、その手には、三尺余りの剣が光っていた。老武者の目は爛々と光っており、その気配に気圧されて図書亮は一歩後退った。
「あれが、児玉河内か……」
図書亮の側で、後を追ってきた紀伊守が呟く。その名は、図書亮も鎌倉にいた時分に聞いたことがあった。関東でも指折りの剛の者として、かつては都まで名を轟かせた男である。聞くところによると、既に老衰の域に差し掛かっているはずだが、頭こそ白いものの、片膝を立てながら構えを微塵も崩さずにいるその姿は、とても老人には見えなかった。
「我が壮健なるときは国が静かであったため武功を立てられなかった。治部殿は我を惜しみ、戦いの選に含めようとはしなかったが、今正に最期のとき。我が秘伝の剣を披露して進ぜよう」
その挑発に苛立ったものか、紀伊守が首を振って怒声を上げた。
「構わぬ。討ち取れ!」
二・三人が声を上げながら児玉に打ち掛かっていく。だが、児玉は余程の大力と見え、たちまちそれらの者の刀を躱し、斬り伏せた。それに構わず、紀伊守の手勢がさらに児玉を囲んだ。いくら兵法に通じているらしいとはいえ、多勢に無勢である。上背のある兵が児玉の背後に回り込んで児玉の脇下から手を差し込み、腕を取ってそのまま共に倒れ込んで、児玉を組み伏せた。地面に倒れ込んだ児玉の右手には刀が握られたままだが、別の兵が自身の刀の柄を児玉の手の甲に叩きつけた。鈍い音がして、児玉の右手の骨が砕かれた。
もはやこれまでと悟ったのだろう。児玉は、上に覆い被さっていた兵を全力で払い除けると、砕けていない左手に刀を持ち直し、鎧の隙間から腹に突き立てた。それを見守っていた図書亮と紀伊守の視線が、瞬時、交錯する。
「構わぬな?」
紀伊守の問いに、図書亮は肯いた。児玉を斃したのは、紛れもなく紀伊守の配下である。紀伊守は太刀を抜くと素早く児玉の首を切り落とし、配下に持たせた。
さらに和田方の兵は、乾の方向にある本丸を目指した。その背後にある三の丸からも、既に火の手が上がっている。季節は真冬だというのに、炎の熱気は凄まじかった。
戦況を把握するために、図書亮と紀伊守は二の丸の櫓に登った。乾の方向を見ると、すぐ近くに本丸の櫓が見えた。そこには、美濃守と同じ年頃と見える武者が、女共を従えて佇んでいた。女たちの輪の中心には、中年の婦人がいる。その横顔は、三千代姫によく似ていた。恐らく、治部大輔の北の方だろう。
「治部大輔。お前は主である為氏公に背き、須賀川の民らを苦しめ、人の道を外れて多くの者を死に追いやった。今こそ、その報いを受けるが良い!」
背後から、怒声が聞こえた。声の持ち主は、幼い頃、治部大輔の腕に抱いてもらったこともあるという、須田源蔵だった。いつの間にこちらへ回ってきたのだろう。
(あれが治部大輔か……)
治部大輔は、ぱっと見はさほど目立つ風貌ではない。だがその目には、どこか異様な、狂人のごとき光を宿していた。
既に覚悟を決めていたものか、治部大輔の側にいる女たちは皆白装束を纏っており、数珠を手にしているのが見える。彼女らは手を合わせて、念仏を唱えていた。その声が風に乗り、こちらまで聴こえてくる。
「須田源蔵。須賀川の真の主は、この治部大輔だ。お主ら和田の者らが鎌倉でうつつを抜かし、意味もなく鎌倉府に諂っている間、須賀川の街を整え、伊東や蘆名、田村、石川の侵入を許さなかったのは、この儂ぞ。それをゆめゆめ忘れるな。真の武士がどのようなものであるか、その目で確かめるが良い」
治部大輔はそう言い放つと、側にいた女達を次々に刺殺していった。女達の呻く声が、炎の爆ぜる音と混ざり合う。最後に、自分の腹に刀を突き立てると、その体が倒れた。須賀川の首魁が斃れた瞬間だった。
刹那、こちらの二の丸側でも、奇妙な沈黙が流れた。気がつくと、夜明け前の淑気の中で、東の方向が徐々に明るくなろうとしている。まだあちこちで火の手が上がっているが、間違いなく須賀川は和田の者たちの手に渡ったのだった。
「源蔵殿。美濃守殿は、何と?」
ようやく、紀伊守が源蔵に尋ねた。
「兄者は、須賀川の者らを全て討ち取れとの命を下された。残党も、決して討ち漏らすなと」
その言葉に、図書亮は現実に引き戻された。治部大輔の死を知らない者は、まだ死力を尽くして戦おうとするだろう。
「一色殿。道場町の門の方を頼む」
源蔵はそう述べると、治部大輔のいた本丸を目指して駆けていった。残された図書亮と紀伊守は、顔を見合わせた。
「紀伊守殿は、いかがなされる」
「一旦、伯父上の指示を承りに本町へ戻る。源蔵殿の言葉を伝えねば」
「分かった」
再び紀伊守と別れ、図書亮は源蔵の言葉に従い、道場町口の木戸を目指した。先刻、忍び入ったときに金壺眼の武者に追い回された辺りを、再び巡邏する。
と、一人の若者が本丸の方から小走りにやってくるのが見えた。薄墨染の衣を纏っており、頭は丸い。腰はに荒縄が縛られており、先程二の丸から見た治部大輔の首が提げられていた。
「どこへ参る」
図書亮は、反射的に若者に刃を向けた。
「為氏公の陣へ。治部大輔の首を御見参に参ります」
若者は、爽やかに答えた。だが、微かに声が震えている。夜明けの寒さのためか、それとも恐れのためか。
そして図書亮は、その顔に視線が釘付けになった。
(似ている!)
色白で、優しげな目元。この若者は、三千代姫の兄だという行若に違いなかった。だが、その目に敵意は浮かんでおらず、寸鉄も帯びていない。ただ父の首を持って、供養してもらうためだけに、須賀川から落ち延びようとしているらしかった。
束の間、素早く視線が交わされた。
「一刻も早う、愛宕山の御屋形の元に向かわれよ」
図書亮は辛うじてそれだけ言うと、若者のために門を開けた。若者は黙って頭を下げると、飛ぶ鳥のように東雲の方向へ姿を消した。
「次の治部殿が手は、どのような奇策を用いるのか、想像もつかぬ」
昼の軍評定で、下野守が忌々しげに舌打ちをした。
兵力においては数倍の差があるにも関わらず、和田方の損害は増えるばかりである。守りの人数こそ少ないが人員をうまく配置していると、図書亮も感じざるを得ない。
「二の丸の守りを崩し、乾(北西)の三の丸との連携を断つ必要があるな」
安房守が城下の絵図を睨みながら呟いた。須賀川城の西方から乾の方向にかけては、切り立った崖になっている。その崖下の途中には雨呼口と言われる集落があり、雨呼口の北口は釈迦堂川の渡し口の一つなのだった。また、雨呼口から東に向かって急坂を登ると、三の丸の裏手に出る。時は既に、三日目の未の刻だった。
見慣れぬ者が本町の箭部陣営に姿を見せたのは、その軍評定の席だった。その時点で、須賀川方の陣営とは未だ膠着状態が続いていた。昨日や一昨日の須賀川方の火攻めにより、箭部の手勢は半数近くまで勢力が削がれていたため、大黒石口の八幡山にいた二階堂左衛門に使者を送り、左衛門の率いる兵らの合流を待っていたのである。
「須賀川方にも、死角がございます」
突如現れたその男は、当たり前のように評定に割って入った。安房守が相手を怪しむ様子もないところを見ると、美濃守に依頼していた忍びの一団が、こちらに回ってきたらしい。
「どこだ」
安房守が、鋭く尋ねた。男は、人差し指で一点を指した。指先は、二の丸のやや西側にある蔵場を指している。
蔵場であるから、いくつかの貯蔵蔵がある。その一角は須賀川の者らが雑物を捨てる場所として利用されており、身を隠すには絶好の場所だった。また、須賀川城下の者が米や作物を納めに来る場所でもあり、昼間から土民に化けて接近しても、怪しまれない。そこから城内に侵入しようというのだ。和田の兵は大手門を始めとする南側から東を通って北側に集中しているため、西側の方が警備が手薄だというのである。
さらに彼は、愛宕山にいる美濃守の指示を受けて、道場町にも手勢を待機させているとのことだった。そちら側には時宗系の寺があり、庫裏の裏手が林になっている。こちらも、身を潜めるには格好の場所だった。
「十字に二の丸に駆け入り、内側から門を破ります。ただし、できれば足が疾く腕の立つ方を二、三人お借りしたい。先導は我らの手の者が行いますが、門番を全て斬るにはいささか手勢が足りませぬ」
「ふむ……」
安房守は腕を組み、しばし黙考した。それからふと顔を上げ、図書亮と視線が合った。
「私が参ります」
今度こそ、間違いなく武功を立てる機会である。図書亮は、首を縦に振った。
和田の忍びの者らは、蔵場を守っていた須賀川兵らに対して「正月の寿ぎの供物を納めに来た」という口実を用意し、易々と城下に近づいた。一行は農民を買収して本物の酒を用意させ、見張りの兵に「大晦日の祝酒」として勧めていった。言われてみれば、今日は大晦日なのだったと、図書亮は思い出す。寒空の下、須賀川兵の体も温もりを欲していたのだろう。つい差し出された酒に手が出る兵も、少なくなかった。
埃臭いの臭いに顔をしかめながら、今が冬で助かったと図書亮は思った。身を隠しているこの場所は、夏場であったならば、短時間いるだけで臭いが体に染み付いたに違いない。
今図書亮が纏っているのは、濃紺の野良着だった。右肩には和田方の合印として、縹色の小さな布切れを結んでいる。腰に太刀を佩いているものの、武功目的で必要以上に人を斬るなとも言われた。目的は、外で待機している和田方の攻撃の緒を作ることにあり、須賀川兵に無闇に騒がれては困るのである。
「そこもとのことは、今宵に限り木瓜と呼ばせてもらう」
棟梁は、そう宣言した。その声に聞き覚えがある気もするのだが、顔が頭巾で覆われ声がくぐもっているため、はっきりとは思い出せない。図書亮は曖昧に頷き、問い返した。
「分かった。そなたのことは何と呼べばいい」
「牛頭とでも呼べば良い」
棟梁は、微かに笑いを含んだ声で図書亮の問い掛けに応じた。その言葉の組み合わせに、図書亮もにんまりとする。須賀川では夏になると、病魔退散を願って牛頭天王に胡瓜を捧げる。木瓜は胡瓜の別名であり、合言葉として使うには適した組み合わせだった。一色家の家紋にも使われている文様であり、悪い気はしない。
やがて子の刻になった頃だろうか。どこからともなく、梟の声が聞こえてきた。だが、その音色は一定であり、野生の梟の啼声とは異なるようである。
「行くぞ」
予め決められていた、侵入開始の合図だった。図書亮も一つ肯くと、東の荒町方面を目指して駆けていく。須賀川城に入るのは初めてだったが、一昨日に城壁の上から見下ろして概要を把握していたこともあり、何となく方角の見当はついた。
「誰だ」
突如、誰何の声がした。声の主の方向に顔を向けると、金壺眼を爛々と光らせ、黒糸縅の大鎧を着た大男が、仁王立ちになっている。本能が働き、相手は手練の者、それもかなりの使い手であると察せられた。手には、大薙刀が握られている。
「怪しい奴。名を名乗れ」
相手の挑発に乗って斬合いになれば、間違いなく死ぬ。図書亮は、方向を北に転じて追手から逃れようとした。
「待たんか!」
挑発に構わず、くるくると方角を変えながら、逃げ回る。途中、別の方角から縹色の合印を身につけた者が大手門方面へ駆け抜けていくのを見かけた気もしたが、追手から逃げるだけで精一杯だった。城壁の角の死角や、時折現れる納屋などに身を隠しながら、手近な門の木戸に近づいていく。
やがて艮の方向に、道場町の木戸と思しきものが見えてきた。瞬時、外聞の兵と視線が合う。今度は逃げ場がない。相手も何か叫ぼうとしてるが、恐怖のために声が出ないようだ。図書亮は腹を括り、すらりと太刀を抜いた。門扉に近づくと、門を守るように焚かれていた篝火で、相手の顔はまだ幼さを残していることに気付く。だが、それに構わず斬り下げ、返す刀で相手の首を刎ねた
「いたぞ!」
先程の金壺眼武者が追ってきた。思いの外しつこい。郭の外に逃れようと、図書亮が思い切って門柱脇の木戸を蹴り上げると、木戸は簡単に破れた。どうやら昨日や一昨日の火災で、焼け焦げていたようだ。そこに身をねじ込み、城壁を抜ける。だがそれ以上、金壺眼は追ってこようとしなかった。城外まで追ってこようとしないところを見ると、須賀川の人員に余力がないのだろう。その報告を安房守にするべく、図書亮は南に向かって駆け出した。
「木瓜。どうだ」
どこから湧いて出てきたものやら、牛頭が合流する。
「金壺眼の武者に追いかけられたが、外までは追ってこなかった。今ならば我々を追って、兵が分散しているに違いない」
図書亮は、ありのままに答えた。牛頭は一つ肯くと、懐から入子火らしきものを取り出した。手早く燧石を打ち合わせて入子火に点火すると、背後の壁越しに投げ入れる。たちまち、背後でぼうっと火の手が上がった。須賀川兵の右往左往している気配が、壁の外からも伺える。
「油を撒いてきた。しばらく須賀川の兵を足止めできるだろう」
二人は並走しながら、箭部陣営を目指した。荒町口に差し掛かったところで、気を揉んでいる様子の安房守と下野守の姿が見えた。その脇には、遠藤雅楽守もいる。箭部方の支援のために、愛宕山から駆けつけたものだろう。時刻は既に丑の刻になろうとしていた。
「御苦労。して、城内の様子は」
普段は笑顔を絶やさない安房守だが、今は厳しい顔つきで問い返すのみであった。
「二の丸を全て守りきるだけの人数はいないようです。外まで討って出る余力は、須賀川方にはございませぬ」
図書亮の答えに、雅楽守が決断を下した。
「このまま、夜討をかけようぞ。昨日一昨日と須賀川方のはかりごとに嵌って兵馬を失ったのは、我々に武略がなかったわけではない。須賀川の兵が皆知恵のあるのは確かでござるが、陣形が乱れている今、夜討を掛け火を放てば、城は我らの手に落ちよう」
「うむ」
安房守が雅楽守の言葉に肯く。雅楽守の言葉を聞いた牛頭は、すぐさま腰に下げていた貝を吹いた。その音を聞きつけたのか、西の方からも火の手が上がる。貝の音に呼応するかのように、坤に隠れていたであろう一派が、狼煙を上げた。闇夜ではあるが、闇夜に浮かぶ白い狼煙は、須賀川城の鬼門にある八幡山からも見えるだろう。そこには、二階堂一門衆の内西衆が、後詰として待機しているはずだった。
「門を破れ!総攻撃を掛ける」
安房守の怒号に、雑兵が衝木を何度も門扉に打ち付ける。大手門に架かる橋は昨日須賀川方によって焼き払われたため、二の丸東側の中町口から侵入するつもりなのだ。
図書亮も、下野守に預けていた当世具足を野良着の上から身に着けて、再度の戦いに備えた。和田方の須賀川方に気づかれたものか、南の大手門のところに設置された見張り櫓の物見兵が、右往左往しているのが見える。向こうからも火矢を射掛けてくるが、既に堀に突き立てられた竹槍は黒々と燃え尽きており、その効果は昨日までよりも薄れている。
和田兵がどっと堀を渡り、二の丸に押し寄せた。南東の方角、大黒石口の二階堂左衛門の兵らも蔵場の方向から押し寄せて、箭部勢と合流する。
「夜討放火の者らは、討ち漏らすな。見掛けたら直ちに殺せ」
須賀川兵の物頭の怒号が響き渡る。
さらに、北の釈迦堂口方面や艮の愛宕山方面からも、鬨の声が上がった。和田勢が頂く為氏の旗印である庵木瓜紋の旗が、そこかしこに目立ち始めた。今度こそ、和田勢が押している。
図書亮も時折斬り合いながら、二の丸城内を駆け進んでいく。その行く手を塞いだのは、一人の老武者だった。
「某は、生国は武蔵児玉の一党、児玉河内という者。我が若かりし時、兵法を好み鹿島神流を修めておる。基本太刀・裏太刀は申すまでもなく、合戦太刀、鍔競・打倒、抜刀まで修めた。我を誰と心得る」
大音声で滔々と述べ、その手には、三尺余りの剣が光っていた。老武者の目は爛々と光っており、その気配に気圧されて図書亮は一歩後退った。
「あれが、児玉河内か……」
図書亮の側で、後を追ってきた紀伊守が呟く。その名は、図書亮も鎌倉にいた時分に聞いたことがあった。関東でも指折りの剛の者として、かつては都まで名を轟かせた男である。聞くところによると、既に老衰の域に差し掛かっているはずだが、頭こそ白いものの、片膝を立てながら構えを微塵も崩さずにいるその姿は、とても老人には見えなかった。
「我が壮健なるときは国が静かであったため武功を立てられなかった。治部殿は我を惜しみ、戦いの選に含めようとはしなかったが、今正に最期のとき。我が秘伝の剣を披露して進ぜよう」
その挑発に苛立ったものか、紀伊守が首を振って怒声を上げた。
「構わぬ。討ち取れ!」
二・三人が声を上げながら児玉に打ち掛かっていく。だが、児玉は余程の大力と見え、たちまちそれらの者の刀を躱し、斬り伏せた。それに構わず、紀伊守の手勢がさらに児玉を囲んだ。いくら兵法に通じているらしいとはいえ、多勢に無勢である。上背のある兵が児玉の背後に回り込んで児玉の脇下から手を差し込み、腕を取ってそのまま共に倒れ込んで、児玉を組み伏せた。地面に倒れ込んだ児玉の右手には刀が握られたままだが、別の兵が自身の刀の柄を児玉の手の甲に叩きつけた。鈍い音がして、児玉の右手の骨が砕かれた。
もはやこれまでと悟ったのだろう。児玉は、上に覆い被さっていた兵を全力で払い除けると、砕けていない左手に刀を持ち直し、鎧の隙間から腹に突き立てた。それを見守っていた図書亮と紀伊守の視線が、瞬時、交錯する。
「構わぬな?」
紀伊守の問いに、図書亮は肯いた。児玉を斃したのは、紛れもなく紀伊守の配下である。紀伊守は太刀を抜くと素早く児玉の首を切り落とし、配下に持たせた。
さらに和田方の兵は、乾の方向にある本丸を目指した。その背後にある三の丸からも、既に火の手が上がっている。季節は真冬だというのに、炎の熱気は凄まじかった。
戦況を把握するために、図書亮と紀伊守は二の丸の櫓に登った。乾の方向を見ると、すぐ近くに本丸の櫓が見えた。そこには、美濃守と同じ年頃と見える武者が、女共を従えて佇んでいた。女たちの輪の中心には、中年の婦人がいる。その横顔は、三千代姫によく似ていた。恐らく、治部大輔の北の方だろう。
「治部大輔。お前は主である為氏公に背き、須賀川の民らを苦しめ、人の道を外れて多くの者を死に追いやった。今こそ、その報いを受けるが良い!」
背後から、怒声が聞こえた。声の持ち主は、幼い頃、治部大輔の腕に抱いてもらったこともあるという、須田源蔵だった。いつの間にこちらへ回ってきたのだろう。
(あれが治部大輔か……)
治部大輔は、ぱっと見はさほど目立つ風貌ではない。だがその目には、どこか異様な、狂人のごとき光を宿していた。
既に覚悟を決めていたものか、治部大輔の側にいる女たちは皆白装束を纏っており、数珠を手にしているのが見える。彼女らは手を合わせて、念仏を唱えていた。その声が風に乗り、こちらまで聴こえてくる。
「須田源蔵。須賀川の真の主は、この治部大輔だ。お主ら和田の者らが鎌倉でうつつを抜かし、意味もなく鎌倉府に諂っている間、須賀川の街を整え、伊東や蘆名、田村、石川の侵入を許さなかったのは、この儂ぞ。それをゆめゆめ忘れるな。真の武士がどのようなものであるか、その目で確かめるが良い」
治部大輔はそう言い放つと、側にいた女達を次々に刺殺していった。女達の呻く声が、炎の爆ぜる音と混ざり合う。最後に、自分の腹に刀を突き立てると、その体が倒れた。須賀川の首魁が斃れた瞬間だった。
刹那、こちらの二の丸側でも、奇妙な沈黙が流れた。気がつくと、夜明け前の淑気の中で、東の方向が徐々に明るくなろうとしている。まだあちこちで火の手が上がっているが、間違いなく須賀川は和田の者たちの手に渡ったのだった。
「源蔵殿。美濃守殿は、何と?」
ようやく、紀伊守が源蔵に尋ねた。
「兄者は、須賀川の者らを全て討ち取れとの命を下された。残党も、決して討ち漏らすなと」
その言葉に、図書亮は現実に引き戻された。治部大輔の死を知らない者は、まだ死力を尽くして戦おうとするだろう。
「一色殿。道場町の門の方を頼む」
源蔵はそう述べると、治部大輔のいた本丸を目指して駆けていった。残された図書亮と紀伊守は、顔を見合わせた。
「紀伊守殿は、いかがなされる」
「一旦、伯父上の指示を承りに本町へ戻る。源蔵殿の言葉を伝えねば」
「分かった」
再び紀伊守と別れ、図書亮は源蔵の言葉に従い、道場町口の木戸を目指した。先刻、忍び入ったときに金壺眼の武者に追い回された辺りを、再び巡邏する。
と、一人の若者が本丸の方から小走りにやってくるのが見えた。薄墨染の衣を纏っており、頭は丸い。腰はに荒縄が縛られており、先程二の丸から見た治部大輔の首が提げられていた。
「どこへ参る」
図書亮は、反射的に若者に刃を向けた。
「為氏公の陣へ。治部大輔の首を御見参に参ります」
若者は、爽やかに答えた。だが、微かに声が震えている。夜明けの寒さのためか、それとも恐れのためか。
そして図書亮は、その顔に視線が釘付けになった。
(似ている!)
色白で、優しげな目元。この若者は、三千代姫の兄だという行若に違いなかった。だが、その目に敵意は浮かんでおらず、寸鉄も帯びていない。ただ父の首を持って、供養してもらうためだけに、須賀川から落ち延びようとしているらしかった。
束の間、素早く視線が交わされた。
「一刻も早う、愛宕山の御屋形の元に向かわれよ」
図書亮は辛うじてそれだけ言うと、若者のために門を開けた。若者は黙って頭を下げると、飛ぶ鳥のように東雲の方向へ姿を消した。
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「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
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「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
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