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ウェレン編
青葉の戦い、ここに決着
しおりを挟む(怖くない……。わけないでしょこんな敵。初めてよ──、手がこんなに震えているのは。でも幸君だって、イレーナだって、立ち向かって来た。こんな強い敵に)
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
「ギガース」が大きく雄たけびを上げる。声の強さに草木は揺れ動き付近にいた動物たちは我先にと逃げ出す。
青葉も体が震え出しここからしっぽを巻いて逃げだしたいと言う衝動にかられる。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
ギガースの鉄槌ともいうべき攻撃を見舞う。青葉はとっさに左に身を投げてかわす。
すさまじい音、鉄槌を下した場所は草木がつぶれ更地となっている。
(一撃でもくらったら……終わりね)
ぞっとする青葉。しかしすぐにギガースに視線を移す。
そして再びギガースが右手で殴りかかってくる。
(よし、チャンスはこの時しかない!!)
青葉は前を向いて決心する。
このスキを待っていた、右手は青葉の後方。
タッ──。
青葉はそのスキを突いて右足に魔力を込めて飛び上がりギガースに急接近、ギガースは左腕を払いのけ青葉を地面にたたき落とそうとする。
(ここさえしのげば──)
青葉は今度は左手を地面に向け魔力を放出、5メートルほど高度を上げギガースの攻撃をかわす。
グォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
そして苦しまぎれに口から炎を吐くが当らない。
タッ──。
そして青葉が一端ギガースの肩に着陸、すぐに飛びおり目的の場所にたどり着く。
そこはギガースの背後、自身の手をギガースの皮膚に密着、その間に氷を出現させ手と皮膚を接着剤のように密着。
彼の構造上長い腕で直接届かない場所にたどり着く。
(これで作戦は成功。あとは……)
ズバァァ──。
自身の剣でギガースの皮膚に切り傷を入れる、そして剣をしまい切り傷にスッと触れる。
「いくわよ、私の最大奥義!!」
青葉の必殺技。
これは絶対に人間には使えない。即死の術式。
また、消費魔力が多すぎてそれ以外に大技を使うと魔力が足りなくなり使った後は魔力を使い尽くしてしまい、一般兵ともまともに戦うことができなくなってしまう。
だから今まで青葉はギガースとの戦いでほとんど魔力を使っていなかった。幸一やイレーナと比べ単純な戦闘力の劣る自分が勝つとしたらこの技しかなかったからである。
禁断なる必殺の力、永久の戒めとして君臨し、その力、解放せよ!!
「アブソルートゼロ・オールライト・フリーズ」
ジュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ギガースの傷口に青葉は手を当てる。そして自身の全魔力をその手に集中する。
そしてその魔力を一気に放出し始める。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!グワァァァァァァァァァァァァァァ!!
断末魔の悲鳴を上げ苦しみ悶えながら激しくのたうちまわる。しかし青葉は決して振り落されることは無い。
皮膚を凍らせ自身の手とギガースの皮膚を密着させているためだ。
自身の手の届かない背中に傷を負わせたのはこのためだ。この術式を使われている間に身体をわし掴みにされれば肉体ごと潰されてしまうだろう。
ギガースは身体の中から凍りついていく。
苦痛のうめき声をあげるがどうすることもできない。
これが青葉の中でもっとも強力な術式である。
体中の体液や血液など、あらゆる水分を凍りつかせる文字通りの必殺技。
グワァ──、グワァァァァァァァァァァァ──────ッッッッ!!
身体の中から氷点下の温度で凍りつかされる感覚。ギガースは苦しみは止まらない。暴れまわりのけぞり、悪あがきが続く。
青葉は何とか背中のくぼみに隠れのた打ち回る肉体と肉体に潰されないようにする。
グォォォ──。グァァァァァァァ……。
やがて力尽きたのかギガースの動きがゆっくりになりぴくぴくと動くだけになる。
皮膚や眼球、口の中も凍りつきキガースは全く動かなくなる。
あとは動かなくなった肉体をバラバラにすれば勝負は終わり。青葉は最後の力を振り絞って立ち上がり腕や首、脚の部分を切断し決着はついた。
ズバッ!! ズバッ!!
フラッ──。
青葉の足から力が抜け、ふらつき始める。慌てて転ばないよう木にもたれかかる。
何とか脚を進めて街に戻ろうとする。しかし──。
ササササッ──。
誰かが向かってくるような物音。味方の兵士か、動物か、それとも魔王軍の兵士か──。 どちらにしても今の青葉ではどうすることもできない。
(敵だったら、終わりね)
サササササ、サササッ──。
物音はだんだん近づいてくる、逃げる体力のない青葉はその方向に釘付けになる。
そして──。
「青葉──、さん??」
「ああ……、サラちゃんか」
サラだった。青葉が一人で大型魔獣と戦っているということを耳にし心配になり、ここに来たとのことだった。もちろんギガースが倒れるのを確認するまでは他の冒険者に警備を頼んでいたのだが。
サラとの再開で安堵する青葉。サラの目の前まで歩こうとするがふらつき、うまく歩けない。
「だ、大丈夫?」
「サラ……。ちょっと肩貸してくれないかな? ……よっと」
サラが慌てて青葉の隣に着く。
肩を借りふらつきながらもさらに支えられ歩き始める。
「青葉さん、素晴らしいです。あんな強い魔獣を一人で──」
「まあね──。でもあんた達のは及ばないわ」
作り笑顔をしながら言葉を返す。心からの本音。いつも裏方での仕事ばかりで歯がゆい思いをしていたが今日は初めて二人と対等になれた気がした。
その自信にほんのりと微笑がこぼれる、そんな想いを胸に、サラに支えられながらこの場所を後にしていった。
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