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約束の日、そこには

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 血液のにおいにピラニアの群れは反応したようで一気に彼らは興奮状態になる。

 そして水面が盛り上がるほどの勢いで幸乃の周りにある餌を食いつくしていく。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ブタの皮で体を覆っているのを頭では理解していても幸乃の心は恐怖でいっぱいだった。

「よし、彼女を引き上げるぞ!!」

 レーマンスがそう叫ぶ、すると彼と周りの男たちが一斉に幸乃につないでいる縄を引く

「わああああああ怖い怖い怖い!!!!」

 叫びながらも何とか体勢を崩さない幸乃。

「ちょっちょっちょっ」

 何とか体勢を保ちながら幸乃は引き上げられる。 そして急いで縄を引いていたベルたちが幸乃の皮のスーツをはがす。

 さらに餌に食いついているピラニアをひきはがし、かごに入れていく
 ピラニアは50から60匹ほどだった。

 そして5分ほどで漁は終わる。

 幸乃、ショックのあまり仰向けにバタッと倒れて大の字になる。
「おい、そんな服装じゃまずいだろ、早く着替えてきなよ」
 レーマンスがそう声をかける。

「いやああああああ」

 すぐにリルカとベルが幸乃の身を隠す、下着姿だった幸乃慌てて両手で胸のあたりを隠し小屋に戻る。 小屋の中には備え付けのタオルがあり、古びた小屋とは対照的に意外と清潔的で洗ってあるようだった。そして備え付けのタオルで体をふき、服を着る。

 疲れたような表情で小屋から出る、すると肩をポンポンと叩きながら喜んだ表情でレーマンスが口を開き始める。

「素晴らしいよ、大成功だよ」

 話によるとこれだけピラニアが取れたのは今まででも珍しいらしい、そしてその収穫したピラニアをリルカとベルや村人たちが回収した。




 リルカとベルと合流し帰りの時間となった3人。

「今日はありがとう、またあなたたちとの交流は続けたいね、次に会う時まで元気でね」

「はい、こちらこそ貴重な体験ができてよかったです、また会えるといいですね」

 幸乃がいつもの営業スマイルを浮かべて言葉を返す、さらに任務を成功した証にを書くため彼は羽根のついたペンを出して幸乃達がギルドから受け取った書類にサインした。

「そうだ、これ持っていってくれよ」

 レーマンスは何かを包んでいるような葉っぱを3つ取り出す、それは細くて丈夫なつるで結ばれていた。

「ああ、それは君が収穫したものだよ」

 それは幸乃が餌となり収穫したピラニアをグリルにして焼いたものだった。

「そうですか……大切にいただきますね」

「み~~」

 そう囁きながらそれをいただく、シェルリが笑って鳴きながらカメラを回し続ける。さっきとは違うほんのりとした優しさと感謝を感じ取られるような笑顔を見せる、それはさっき見せた事務的な物とは違う彼女の心からの笑顔だった。



 ※


 そして3人はストレンセへ帰って行った。
 教会へ帰り、そのサインが入った書類を提出するとギルドの案内人フレンサから報奨金を受け取るとその額に幸乃は驚愕する。

「68000Eau?すごくないこれ?」


「まあ、1泊で3人の合計の報奨金という事を考えても結構いいと思います」

 ベルが幸乃の言葉に腕を組みながらいつものも表情で反応する。

 リルカは黙ってほほ笑んでいた、ほほ笑みながら思い出す、2人といた1週間を、そして明日にはもうお別れであると……
 そう考えながらどこかさみしい気分に浸っていた。


 ※


 そして翌日になる。

 夜 約束の日、日没前の教会。

 夕暮れ前、日はすっかり傾き沈みかけている、そばにある湖には沈みかけている夕陽の光が反射していてとてもきれいに映っていた、そこに彼は立っていた、10人ほどの部下を引き連れて。


 ブリトン教の戦闘部の団長フェリックス・カラブロ。
 190cmの長身にすらっとしていてそれでいて筋肉質な体型、オレンジを基調として白と黒シャツに長ズボン、一般人のような服装で巨大宗教の幹部とは思えないラフな服装をしていた。

 そのシンボルでもあるオレンジはこの教団の象徴、輪廻転生であるパワーの源、生命力の象徴を現していた。

 彼らが礼拝堂の中に突入する、そこでまずは不思議な事に気付く。

「鍵がかかっていない?」

 礼拝堂へのかぎが掛かっていない、なのでカギを壊す必要が無い。
 手間が省けるのは良いことであるが……

「リルカは他の冒険者と行動していてここに住んでいたと情報は入っていたはずなのだが……」


 エルリス教に忍び込ませておいたスパイからはリルカは1週間後の夜にバルディビアに引き取られる形で彼らと合流する手筈、それまでは他の冒険者、カーレンベリグ・ルフライヤー他1名とともに行動していると聞いていた。
 しかし現実としてここに誰もいない……


 彼は腕を組みながら考えを巡らせる、そして一つの仮説を立てる。

「気付かれていたようだな……」

「そのようですね」
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