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そして猟の日

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 夜になりストール・スレットに戻った一行。 大きいレンガを白く塗った建物に到着するとすでに夕食の準備は出来ていた。 ジャガイモとトウモロコシを粉状にして練った食べ物「ウガリ」、それと野菜や塩のスープを夕食としてごちそうになった。

 建物の外、きれいな空気のせいか星空がきれいに見える、それを座って眺めていた幸乃の隣にリルカがちょこんと体育座りをする、そして話しかける。

「幸乃さん、なんか踏んだり蹴ったりですね、貧乏くじというか、そんなことばっかで」

「んん、まあね……でも私いっつもこうだしそんな悪い事だって思ってないよ」

「だってわくわくするじゃん、なんか楽しいし、それに、それでみんなが楽しんでくれたら、役に立つんならそれでいいかって」

 すると、リルカはうつむいてさらに口を開く。

「幸乃さんのそういうところ、うらやましいです、私なんかいつも引っ込み思案でこうしたらこうなっちゃうんじゃないかなってマイナス思考になっちゃうんです」

「ま、私もそういう時だってあるよ、頑張って意識し続けていればリルカも引っ込み思案だって治るよ──」

 幸乃はにっこりと笑って言葉を返す、そして3人は就寝し翌日を迎えた。


 翌日。

 朝食を終え、準備をすると3人は外に出る。

「よし、次は釣りだ、ちょっと餌を持ってくるから来なよ」

 幸乃はその言葉に少し安堵した。


 今日釣りを行う川を紹介するからついてこいとレーマンスがその川を案内する、途中でレーマンスくらいの年齢や、初老くらいの男の人が8人ほど、それとリルカとベルが合流し出す。






 ジャングルに中を幸乃達は歩いていく途中見たこともない亜熱帯の植物や花、動物に時折出会いながら幸乃はシェルリのカメラに向かって解説していく。
 そして15分ほど歩くとその川にたどり着く。

「これがルシミッピ川だよ」

 彼が目の前を指差す。
 川は反対側の陸地が見えないほど広く流れは人が早足で歩いているのと同じくらいの広さだった。

(アマゾン川みたい……)

 幸乃の世界で見たアマゾン川を思い出す、そして到着するとすぐにレーマンスが説明を始める。

 説明はこうだ……
 まずおとり役の幸乃の体と首の周りを丈夫なブタの皮のコートで包ませ、目の部分にはゴーグルを防御のためにつけさせる、ブタの皮には針を引っ掛ける場所が大量にいたるところについていて、次に食料のために釣った魚の内食事に適さない内臓の部分を針に引っ掛けた。

 そして川に幸乃を入らせ、首につかる深さになるところまで入らせる。
 幸乃が川に入ると内臓に付着していた血を彼らがかぎつけて興奮状態になり、いつも群れで行動しているピラニア達は一斉に内臓の肉を食べようとする。

 そして餌にピラニアの大軍が食いついたと同時に村人たちが急いで鉄板に包まれた幸乃を引き上げるということだった。

「……」
 気まずい雰囲気になり沈黙がこの場を包む。

「普通に釣竿を使って釣りなさいよ」
 不満たらたらに幸乃はボヤくように話す。

「そんなちまちまやっていたんじゃいつまでたっても必要な食糧が取れないよ」

「じゃあ網は?網に餌を複数仕掛けて一気に取るには?」

「ああ、ダメだ、彼らは獲物を見つけるやすぐに食料を食いつくしちまう、川のギャングって言われるほどなんだ、だからここのピラニアは餌が食いついたらすぐに引くようにしないといけない」

 鋭利な歯と強靭な顎、幸乃は知っていた、噛まれればただでは済まないという事を…… いくら丈夫な豚の皮をまとっているとはいえそれを突破されないとは限らない。
 その事を彼に相談するのだが……

「大丈夫、これは何百年とやってきたけどそんなことはない、だから今度も大丈夫だ……多分」
 レーマンスは笑いながら答える。

「ちょっと、多分って何よ!!不安にさせないでよ!!」

「ああ~もう、なんであんなことやるって言っちゃったんだろ」

 どれだけ反論しても幸乃が餌役になる事は覆らずがっくりと肩を落とす。

 するとレーマンスさんの仲間の一人が近くにあった小屋からその道具を取り出す、そして体のどこかから出血している部分が無いか確認し着替えを行うため小屋の中に入る。

 年季が入っていて埃がかぶり古臭そうな小屋に幸乃は入り着替えを始める。

 ブタの皮は全身を包むコートになっていてこれを着ると首から下がすっぽりと収まるようになっていてまるでウェットスーツのようになっていた。 また、手袋もあり、これも両手に装備する。
 また、思ったより分厚くこれならピラニアが噛んできても耐えられるんじゃないかと幸乃は考えた。

 そしてあきらめたような表情で幸乃は部屋から出てくる。
 出てきた幸乃が来ているブタの皮についている針に周りの男達やリルカ、ベルが餌となる死んだ動物の内臓の皮を装着し始める、背中の所にはフックを引っ掛ける場所があり、そこにもう1つのフックがついた引き上げ用の縄をセットする。

「幸乃さん、パニックにならないように、落ち着いてください」

 フックをセットしながらベルがそう耳打ちする。

「わかってるわよ、けど……」
 幸乃はその言葉に不安げな表情をする。


「こういう危険な時でもパニックにならずに最適な判断をする、これは実際の戦闘でも大切なことです」

「まあ、わかったわよ」
 幸乃はどこか納得しない表情でうなづく。

 装備が終わると幸乃は川の中に入っていく、10メートルほど進むと肩の位置までつかるくらいの深さになる──

 そして……
「来るぞ、気をつけろ!!」

 ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャ
 ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャ

 血液のにおいにピラニアの群れは反応したようで一気に彼らは興奮状態になる。
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