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第29話 反論できないエンゲルスたち。しかし──
しおりを挟む現にエンゲルスたちは返す言葉が全くない。言葉を詰まらせ、あぜんとしたままだ。
「どうしたのぉ。違うんでしょう。だったら、ちょっとくらい反論してみなさいよぉ!!」
センドラーが、煽るようにことがを言い放ってもだ。
すると、ウィズリーは急にニヤリと笑みを浮かべ始める。
──ニヤッ。
「どうしたのぉ? 追い詰められてどこかおかしくなったのかしらぁ?」
「追い詰められた? それは、お前の事なんだよぉ!! 俺たちをコケにした報いを、受けさせてやるよぉぉ」
そう叫んでニヤリとしたウィズリーはピッと指をはじいた。すると──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!
屋敷の外からいきなり爆発音が聞こえた。それだけではない。次の瞬間──。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。
この場一帯に、耳をつんざくような大きな雄叫び音。
「センドラー様、何ですかこれ?」
戸惑うライナ。センドラーはギッとウィズリーをにらみつける。
「どういう悪ふざけなのぉ。説明しなさいよぉ」
「何って、見ればわかるだろ??」
その言葉にライナが窓の外に視線を送り、何があるかを確かめた。
「センドラー様。あれ魔獣です。しかも強い魔力を発してます!」
私もそれは理解できる。
魔物。それは魔王軍、もしくはそれから力を授かったものにしか召喚出来ない獣だ。
真黒な肉体。おまけにこの屋敷を飲み込むくらいの巨体。魔物の中でもかなり大きい部類だ。
こいつ、魔王軍とつながりがあるの?
魔王軍。この世界で大きな力を持っている魔王様を崇めている集団の象徴。
この世界でも一定数の勢力を持ち、一つの大陸をすでに支配。
それだけでなく、裏世界でも暗躍していて、私達の社会で破壊活動を行ったり、自分たちの息がかかった人たちに武器などを密売し、間接的に国を乗っ取ったり、あらゆる悪事を尽くしている集団だ。
いずれにせよ、街中でこんな行為。絶対に許せないわ。
「フフフ……、俺たちが何も対策をしていないと思っていたのかよ。お前達は、すでに袋のねずみなんだよぉぉぉぉ」
「まずいことになっちゃったわ。いくら証拠があっても、生きて帰ってこれなかったら何の意味もないもの」
(センドラー、わたしに変わって。ライナと一緒にこいつらを一掃するから!!)
(待って、そんなことをしていたらこいつらに逃げられるわぁ)
(ダメ。放っておいたら周囲の人たちに迷惑が掛かるでしょ!)
私は強気な言葉で反論。確かに、こいつらを捕まえたいけど、まずは街の人の安全が優先。
捕まえるのは、その後でいい。
(私たちが大切にするべきものは何。思い出して、センドラー)
その言葉にセンドラーはため息をして、怒りの矛を下ろす。
(そうねぇ。私が感情的になっていたわ。秋乃、後はよろしくね)
そう言って私達は人格を変える。わかってくれてとても嬉しい。
確かにハーゲンたちはとっても憎い。けれどそれにとらわれるあまり、一番大切なことを早生れてはいけない。
私達がここで戦っている理由。
その最大の理由は、ここに住んでいる人たちのためだ。だから、まずはそれを優先しなければならない。
「行くよ、ライナ。準備はいい?」
「大丈夫です!!」
そして私達はいっせいに魔物たちに立ち向かっている。
魔物たちはすでに住宅街で暴れ回っており、逃げ惑う人たちを襲い始めている。
逃げ遅れた小さい男の子の前、魔物が現れ、殴り掛かろうとした。その時──。
「させるかああああ!!」
間一髪で魔物との間に入ってピンチを防ぐ。
「大丈夫ですか? 下がってください!」
「あ、ありがとうございます。センドラー様」
街の人は頭を下げた後、走ってこの場から去っていく。危なかったけれど、助けって良かった。
そして、この場から一般人を避難させる。一般人に魔物が危害を加えないように、良く魔物たちを警戒しながら。
「センドラー様。ありがとうございました」
「いいっていいって。あなた達が無事で何よりよ」
何とか一般人たちを怪我させることなく、避難完了。
後は、こいつらを倒すだけだ。
「ライナ、準備はいい?」
「バッチリです。センドラー様」
私達は互いにアイコンタクトをとる。そして一回深呼吸をして神経を研ぎ澄ますと、ほぼ同時に魔物へと突っ込んでいった。
一気に魔物たちへ突っ込んでいく。
私は襲い掛かってくる魔物達を交わしながら、魔物たちの肉体をその剣で引き裂いていく。
幸い魔物たちはそこまで強いわけではない。ほとんどは一撃、耐えられてももう一撃。その肉体を切り裂いていくと魔物たちは倒れこみ、息絶えていった。
時折ライナが心配になり、目を配るが、ライナも善戦している。これなら助けをよこす必要はなさそうだ。
そして残りの二、三匹が束になって襲い掛かってくる。
戦略も何もなく、イノシシみたいに一方向から突っ込んでくるだけ。
それなら、まとめて吹き飛ばせる。
私は魔物たちに向かって剣を向け、魔力を一気に込めた。
この一撃で勝負を決めるために──。
集いし光の輝きが、希望の光を照らし出す。
──サンライズ・ソニック──
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!
強大な魔力が伴った閃光が魔物達に襲い掛かる。
魔物たちは肉体を木っ端みじんに吹き飛ばされ、原形をとどめないほどになっていた。
これで、魔物たちはこの場から一掃された状態となる。
ふぅと一息ついたのもつかの間、ライナが無事か心配になり、辺りを見回す。
爆発の煙が次第に晴れていくと、ライナの姿があった。
「ライナ、そっちは大丈夫だった?」
「ハァ……、ハァ……大丈夫です。センドラー様」
ライナは息を切らしているが、何とか大丈夫そうだ。
「ありがとうライナ。手伝ってくれて」
「どういたまして、センドラー様のお役に立てて何よりです」
(しかし、これ衝撃の真実よねぇ、秋乃ぉ)
センドラーが話しかけてくる。私も同意見で、コクリとうなづく。
(確かにね。まさかウィズリーが魔物を引き寄せる力があるとはね)
「とりあえずウィズリー達は黒が確定ね。魔物たちを召喚したんだもん」
「はい。私びっくりしましたよ。まさか、街中にあんな魔物を召喚してくるなんて──」
大きくため息をつくライナ。
今のやり取りで理解した。こいつらは、絶対に許してはいけない存在なのだと。
確かにどんな世界にも争いというものはある。私の元の世界にだって、政局争いというものは存在した。
しかし、私達の争いに魔王軍や他国の力を介入させることは、絶対にあってはならない。
これは絶対にやってはいけないことだ。そんなことをしたら、政局争いの中で彼らに我が国を売り渡すことにつながってしまうからだ。
現に私達の国の法律にも、外患誘致罪という名前で、他国や魔王軍と通謀して我が国に対し武力を行使させ、または、わが国に対して外国から武力の行使があったときに加担するなど軍事上の利益を与えることは固く禁止されている。
こいつらは、決して踏み越えてはいけない一線を越えてしまったのだ。
(センドラー、アイツら。平気で民間人に危害を加えて、魔王軍と手を組んでいたわね)
(ええ。これであいつらの性根がよく理解したわぁ。絶対に、裁かせてやるのよぉ)
今日の一件で得ることができたものもあったが、まだまだ無罪を勝ち取るには不十分だ。
これから、アイツらが魔王軍とつながっている証拠を見つけて、それを見せつける。
私は「書記長」という内部に関する仕事をしているから、見つけ出せる自信はある。
それに今日は姿を見せなかったハイド。次こそは、絶対に尻尾を掴んでやる。
センドラーのためにも、この街のためにも、頑張ろう。
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