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第28話 最強の駆け引き

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「下っ端のあんたじゃ話にならないわ。エンゲルスに変わりなさい」


 きっぱりとした、物言い。私もライナも驚いてしまう。
 まだエンゲルスがいるって決まったわけじゃない。なのにこの場全員にカマをかけにいった。

 自信がないようなそぶりは一つもない、毅然とした、ここにエンゲルスがいることがわかっているような、自信満々の態度。

 ウィズリーとディールスは互いにきょろきょろ目を合わせる。そしてディールスは一瞬だけ奥にある扉視線を向けた。

 その一瞬を、センドラーは見逃さなかった。

「その奥にいるのね、教えてくれてどうもありがとう」

「ま、まて──」

「奥にいるのはわかっているわぁ。私が力づくでここに来させるか、自らの足でここに来るか、選びなさい」

 さっきより、強い口調の言葉。私でさえどこかに恐怖を感じる。
 そして、スッと奥の扉が開く。

「エンゲルス。やっぱりあなたは最低な人物ねぇ──」

「暴力をちらつかせたあなたがそれを言うか」

「仲間の悲鳴が聞こえようが、自分は身を守るために奥から出てこない。心の底まで自分の保身しか頭にないのでしょう。あなたには──」

 エンゲルスが、そこにいた。
 ハイドはいないけれど──。

 エンゲルスの言葉など耳にも留めず、蔑んだ眼でセンドラーが睨みつける。

「ふん。あなたは悪党ですらないわぁ。ただ卑しいだけよぉ。ただ人並み外れて卑しい欲望に忠実なだけ。本当に、最低な人物ねぇ──。で、ハイドは?」

「残念だったな。あいつは気配を察するのがうまい。途中で逃げ帰ったよ」

 センドラーは再びエンゲルスの目をじっと見つめる。それだけで、彼女の言葉がウソか、本当か理解できるのだろう。

 数十秒ほどたつと、センドラーは見つめるのをやめる。腰に手を当てため息をついた。

「そうみたいね。まるでGみたい。あいつへの制裁はまた今度にして、今はあなた達への制裁の時間よぉ」

 その言葉に、ウィズリーがセンドラーに指をさせて反論。

「制裁? 俺たちが何をしたっていうんだよ」

「何をしたって。全部わかっているのよ 今日も、私をどうやってハメようか。罪を擦り付けてやろうか話していたんでしょう?」

 その言葉に三人とも、一瞬だけ体をピクリとさせた。

「ふん。あなた達、考えがそぶりに出てわかりやすいわぁ。じゃあ、何を話していたか今からお披露目よぉ」

 そしてセンドラーは部屋に掛けてある絵画に手を伸ばし、ガサゴソと何かをあさる。
 数秒ほどで絵画から手を放し、手を開いてここにいる是認に見せつけた。

「このダイヤルに、この場であったことをすべて記録してあるわ。あなた達の悪事もね──」

 そもそも私達はこの屋敷に来たのは初めてだ。そのようなやり取りがあったとしても、証明する手段なんてない。恐らく、あらかじめ手に持っておいて、絵画に触れた瞬間、あたかも最初っからそこにセットしていたかの様に見せつけたのだ。

 すごいハッタリ術。
 エンゲルスたちは目に見えて動揺し始め、互いにきょろきょろと視線を合わせ始めた。

 自信満々な態度に完全に雰囲気にのまれ、ダイヤルの中身を確認するのが頭から抜けている。

 これを見た時点で私は理解した。彼らが、この部屋でなにをしていたのかを──。
 ライナ、呆れたような目つきで私を見つめる。ライナも、こいつらの行動を理解したのだろう。

 するとウィズリー、観念したかのようにがっくりと肩を落とし始めた。

「仕方ない。金でもみ消そう。いくらだ?」

「待って下さいエンゲルス様、こいつをつけ上がらせるわけには……」

「しかしウィズリー、あの内容を記録されていたとなると──」

 ウィズリーとエンゲルスが明らかにうろたえていると、ディールスがセンドラーをにらみつけ始めた。

「待て、そのダイヤルを再生してみろ。ハッタリである可能性もある」


 しまった、ばれてしまった。いいハッタリだったと思ったのに……。これで、逆に追い詰められてしまった。

 しかしセンドラーの表情に焦りや落胆の表情はない。策が実ったとばかりの自信満々な表情。

「さすがね、良く気付いたわ、ディールス。けれど、これはどうかしらぁ?」

 そう言ってセンドラーはダイヤルのボタンを押す。
 すると──。


「仕方ない。金でもみ消そう。いくらだ?」

「待って下さいエンゲルス様、こいつをつけ上がらせるわけには……」

「しかしウィズリー、あの内容を記録されていたとなると──」


 そう、先ほどハーゲンとエンゲルスがしゃべっていたことが全部記録されていたのだ。

「ふふふ……。いくら最初は警戒していても、気が動転している上に全部事が終わった。そう思い込めば口も滑るものねぇ~~」

 センドラーはダイヤルをくるくると見せつけるようにして回転させる。唖然とするエンゲルスたち。するとハーゲンが。

「この野郎。コケにするのもいい加減にしろォォォォ!!」

 怒りを爆発させてとびかかってくる。センドラーは特に焦った様子もなくひらりとそれを交わした。

「あげるわけないじゃないのよぉ。これであなたたちが、私をハメようとしていたことは確定したわ。覚悟なさい!」

 意気揚々と言葉を返すセンドラー。全く証拠がつかめなかった状況から、ここまで挽回するとは……、流石だとしか言いようがない。

 逆に、敵に回ったとなったらここまで恐ろしい存在はない。どこでハッタリを仕組んでくるかわからない。ちょっとした表情の変化も見逃さず、そこから何を暴かれるかわからないのだから。

 現にエンゲルスたちは返す言葉が全くない。言葉を詰まらせ、あぜんとしたままだ。

「どうしたのぉ。違うんでしょう。だったら、ちょっとくらい反論してみなさいよぉ!!」
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