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第4話 撤退
しおりを挟む「まあ、ほとんどの配信者なんてそんなもんだ。
なんせ俺たちは各ダンジョンのSランククラスや踏破できないような強い魔物がいるダンジョンの最下層から取れた、強力だけど超レアな素材で作られた装備品で固めているんだから。厨パーティー、略して『厨パ』。
お前みたいな一般冒険者じゃ絶対無理だな。俺等みたいなランキングに乗る常連みたいな超人気配信者でスポンサーの大企業がいないと。
装備品だけで数百万はするからな!」
弓使いの男「竜二」はそう饒舌に語ると、自信たっぷりに自分の装備品を俺に見せびらかすかのように胸を張る。
俺は竜二が着ている鎧や弓矢の一式を改めて見てしばし言葉を失う。
というのもその装備の素材は明らかにオリハルコンをはじめとした様々なダンジョンの最下層でしか得られない素材だからだ。
「すげぇだろ! こんな装備品。俺以外用意できる奴いないぜ」
「確かにそうですね」
作り笑顔をして、コクリと頷いた。確かにすごいが金でものを言わせた感というか、ただ強いものをそろえただけで自分のプレイスタイルに合ったものとか、武器とのシナジーとかは考えているのかな。これだと、いざ強い敵と戦うことになった時困るんじゃないかな。
とはいえ、視聴者にすごさを見せつけるのだって仕事のうちだ。素の実力は問題ないんだしこれでいいのか。
多分、ここで争ってもいいことはないと思う。潔く引こう。
「まあ、そんな感じだ。ダンジョンでスライム狩りをしていたらいきなりここに転移しちゃってさ、困ってたんだよ」
頭を撫でて、苦笑いをしながら言葉を返す。
自分の未熟を恥じて正直に謝ったように演技した。竜二はフンと息をしてからにやりと笑った。
「ふん! やっぱりハッタリだったのかよ。俺たちは心優しいから見逃してやるけどよぉ、死にたくなかったら気をつけろよ。魔物たちは俺等みたいに心優しい奴らばっかじゃねえんだからよ」
「ちょっと……言い過ぎ」
「璃緒は心優しいな。こういうダンジョンを甘く見ている奴にはビシッと言ってやるくらいがちょうどいいんだよ! じゃないと後々悲惨な末路を遂げちまうぜ
そう言うと竜二は俺をジロリと睨んで、そのままダンジョンの方へと進んでいってしまった。
俺は竜二の後ろ姿をそう感心そうに見ていた。それから、幸洋がため息をついて話しかけてきた。
「まあ、俺達だって目の前で人が殺されるのは気味が悪いから助けるっちゃあ助けるがいつも隣に逸るわけじゃない。顔を知っている人が悲惨な死に方をするのは気分が悪い」
「あの、幸洋の言うとおりです。ここから最下層はまだ誰も立ち入ったことのないエリア──危険だから帰ることをお勧めします」
「あとさぁ、今回スポンサー企業から未踏破ダンジョンの攻略を期待されてるのよね。だからそれなりの資金をもらっているし。それなのに、この男のせいで台無しとかになったらたまらないもの。慈善事業でやってるわけじゃないのよ私達」
「残酷だが優愛の言うとおりだ。そうなんだよな。高校生のむごい死体なんて配信に映ったら、絶対スポンサーから苦情が来るしな。ただ活躍するだけじゃなくて、魅せることも考えなきゃいけないのが、最強実況者のつらいところだ」
「そうよ、一人なんて無謀だわ。帰りなさいよ」
3人に説得され、決意した。帰ろう、ここは俺のいるべき場所じゃない。
仕方がない──彼らだって生活がかかっているんだし、4人ならネフィリムと戦っても上手くやるだろう。
そして、優愛がこっちに近づいてきて何か渡してきた。
オレンジ色に光る、手のひらサイズの石。
「これは──転移術式の力がこもっているわ。これさえあればダンジョンの入り口まで帰れるわ。これで入り口まで帰れるわ、いいわね」
さっきまでツンツンしていた優愛の表情が、明るくなる。
そして、優愛の隣にコメントが流れてきた。ああ、高い金でダンジョンにいながら映像でコメントを確認できる装置を買ったのか。
何百ともいえるコメントが出現する中、一部のコメントを確認。
:おおっ! 優愛ちゃんマジ天使
:やさしいねぇ、こんな冴えなさそうなチー牛にも愛情を注いであげるなんてさすがは
:帰ってチーズ牛丼でも食ってるんだな
:ま、璃緒ちゃんたちと会話しただけでも十分記念になるし──これで帰んな
コメントからも大絶賛の言葉の数々。本当にコメントの数が多すぎて、コメントが流れるかのようだ。コメントが下に消えるのが早い。声を拾うのがとても大変そう。
「調べた情報によると、ここから先の最下層はめっちゃ強い魔物がゴロゴロいるって話だし早く帰った方がいい。なんか、戦闘のバランスもおかしいしな。ダメージの調整が足りてないんだ」
「あなたのような無名な配信者は、上層部で雑魚狩りでもしているのがお似合いだわ」
優愛は両手を腰に当て、自信たっぷりの表情で言った。
:でた優愛ちゃんのどS発言。聞けて良かった
:いいなぁ~~、俺もあんな表情で蔑まれながら言われてみたいぜ。
優愛ちゃんとかいう女、あれが芸風みたいなものなのか。他の仲間たちも、特に咎めることなくスルーしている。
まあ、俺を悪く扱ってるわけじゃない。心配してくれているんだ。帰るか。俺の出る幕はなさそうだ。
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