29 / 99
第29話 また催眠──
しおりを挟む一回俺の部屋に戻るか。外で暴れられると周囲から変な噂が立ちそうだし。
そう考え玄関を開けると、お母さんがご機嫌そうな表情で立っていた。
「あらネフィリムちゃん。今日もデートだったの?」
「そんなところじゃ。楽しかったのじゃ!」
ああ、勝手に予定を作るな。確かに別の女性とデートしてたなんて言ったら親子の縁切られそうだし、そういうことにしておいた方が自然なんだけどさあ。
「ネフィリムちゃん、澄人とデートして不満なところなんかない? エスコートができてないとか。澄人、異性との交際経験がなかったから、色々不満なところがあるんじゃないかと思って」
「そんなことないのじゃ、澄人は確かに未熟なところや不器用なところもある。でも精一杯愛してるのが伝わってきて、見ていてとっても好感が持てるぞい。わらわは、そういう所が大好きなのじゃ」
満面の笑みでそう返すネフィリム。母親はもう、うっとりとしていてとても幸せそう。完全に、ネフィリムに取り込まれる形となってしまった。もう、何を言ってもネフィリムの味方なのだろう。
「まあ。本当にお母さん嬉しいわぁ。澄人??」
「なに?」
「ちゃんと大切にしなさい!」
「わかったよ」
「こんな優しい性格でスタイルもよくて、グレードの高い彼女、澄人にはもったいないくらいよ。最後のチャンスなの。大切にしなさいね!!」
「大切にするよ」
これから、大変そうな時間になりそうだ。それから、家の奥に進もうとすると、
リビングに家族3人くつろいでいるのが見えた。
家族が偶然集まっている所。ネフィリムは何か気づいたかのように「そうだ」とつぶやいてリビングへと足を進んでいく。何か嫌な予感がするな。
「皆の衆」
両親と妹がネフィリムの方を向いた瞬間、3人の目から光が消えて、うつろな表情になる。
呆けた表情。
家族全員に催眠をかけやがった──。
「よいか?」
「「「はい」」」
うつろな表情の中、ネフィリムの言葉を聞き始める。妹に至っては、口からよだれを垂らしていた。
「わらわと澄人はいつも幸せ。わらわはずっと澄人と一緒にいた。仲が良くていつも幸せそう」
「仲が良くていつも幸せ」
「家庭的で素敵な性格。たまに料理を作っている」
「「「家庭的で素敵な性格。たまに料理を作ってもらっている」」」
3人同時に暗示をかけられ、合わせるようにして感情を失ったような口調で復唱させられている。
「わらわとも何度も面識があり、わらわのことをとてもよく思っておる」
「「「ネフィリム様と何度も会って、親しく思っています」」」
「パンと手を叩くとそちたちは目が覚める。よいな」
「「「はい」」」
そして、ネフィリムが手を叩くと3人の目に光が灯り、意識が回復した。その瞬間、お母さんがにっこりと渡ってネフィリムに詰め寄る。
「いつもいつも、澄人の隣にいてくれて──時々料理まで作ってくれて、本当に済まないねぇ」
「まさか、こんなお兄ちゃんに尽くしてくれて──どれだけいい人なのよ」
「おまけに家庭的で素敵な人で。絶対にいい奥さんになるよ」
「ありがとうなのじゃ。それもこれも、澄人のおかげなのじゃ。澄人のためならば、わらわはどんどんみんなに尽くしていくぞい。こんなわらわじゃが、これからもよろしくお願いしますなのじゃ」
にっこりとした笑顔で頭を下げるネフィリム。それからはもう、3人がネフィリムを称賛する始末。
「絶対大切にしなさいよ」
「ネフィリムちゃんを傷つけたらお兄ちゃん、承知しないからね!!」
「お前にこんな美人、一生に一度のチャンスだぞ。わかったな」
「わ、わ、わかったよ。ネフィリム、いつもありがとうな」
3人の圧力に抗しきれず、一歩引いてうなづくしかなかった。
どんどん身の回りを固められているような気がする。
そして、俺の部屋へ。
思いっきりチョップをかます。
「痛いのじゃ、何をするのじゃ!!」
「当たり前だろ。当たり前のように家族を洗脳しやがって!」
「いいじゃろが。どうせそちはわらわと一緒にいるのじゃから。これでそちは他の女に浮気することができなくなった。観念して、わらわと共に過ごすのを受け入れるのじゃ」
「わかったよ」
不本意だが、今後のことを考えればそうせざるを得ない。そのうえで、璃緒ともよい関係を築いていかないといけないのか。今まで友人0だった俺にとっては胃が痛くなるような事実。
うまくいくのか、とても不安だ。
入れてくれた紅茶を嬉しそうに飲んでいるネフィリムを見て、強くそう思った。
「とりあえず、ファイナルソウルだ。ダンジョンを進めてセラフィールに会いに行かないと」
「あやつにも、話さなきゃならぬことが山ほどあるのう」
セラフィールとも戦ったことがあるのだが、あいつはアウトローな奴だったな。
魔王軍の中でもこの前のヒュドラとか育ちや素行の悪いやつに好かれやすかったな。
それで、そういうやつらに教育を施して戦えるようにしたり。
「会いに行って部下を含めた状況とか聞いてやらねば」
「ああ。俺も聞いてみたい。こっちの世界に来られて迷惑かけられても困るしな」
そして、明日にダンジョンに行くことを決めてそれを璃緒に伝えた。
璃緒からの大丈夫だという返事。明後日から大変な時間になりそうだ。
璃緒にネフィリム、2人とうまくやっていけるかなぁ。
22
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる